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神奈川県大和市

公開日:2023-09-07

【特集】刻一刻と変化する被災地の状況を 「防災IoT」で迅速に把握・共有する。

防災・危機管理
読了まで:7分
【特集】刻一刻と変化する被災地の状況を 「防災IoT」で迅速に把握・共有する。

上空からの映像を消火・救命活動に活かすため、各地の消防本部がドローンを導入する動きが広がっている。ただ、各消防本部が入手した画像は、それぞれの本部が管理しているため、複数本部の情報の一元管理や共有は、現状では難しいのが実情だ。そうした中、平成30年からドローンの本格活用を開始している大和市消防本部では、複数台のドローンで撮影した情報をデジタルマップ上に同時投影・共有ができるシステムを導入。「防災IoT」活用による災害対応の高度化に向け、先ごろ内閣府と協働で実証実験を行った。

 Chapter01 - 関東大震災を振り返る。“100年前”に学ぶ教訓とは? ≫
 Chapter02 - 国や自治体等の災害情報共有はどう変化する? ≫
 Chapter03 - 進化するDXサービス、これからの情報入手法とは? ≫
 Chapter04 - 災害対応を高度化する防災IoTの活用例とは?  ≫
 Chapter05 - 3D都市モデルは住民の防災意識をどう高める? ≫
 Chapter06 - 地域や立場を越えたつながりで防災力を高める。 ≫

 

Interview
大和市消防本部 警防課
課長 大内 一範(おおうち かずのり)さん

正確さに欠ける言葉での情報伝達がドローン活用で大きく変化。

有事の際、被災地の状況は刻々と変化する。特に大きな火災の場合、風向きや建物の密集状況によって、思いもよらぬ方向に火の手が広がるケースも珍しくはないという。

もちろん、火災に限らずあらゆる災害現場で、正確な情報を迅速に把握することが可能になれば、より効果的な災害対応が可能になるだろう。

「平成28年の熊本地震発生時、当本部からも複数の署員が現地の支援に向かいました。その際、ドローンによる情報収集が行われており、活用の有効性を強く感じたのです」と、導入のきっかけについて説明する大内さん。

「当市では平成26年から「青山学院大学」と包括連携協定を締結しています。同学教授が理事長を務める『NPOクライシスマッパーズ・ジャパン(以下、CMJ)』が取り組む、ドローン画像を活用して被災地地図をつくるプロジェクトに感銘を受け、平成28年には、全国の自治体で初めてCMJと「大和市での災害等における調査研究・支援活動に関する協定」を締結しました」。

また、更なる迅速性を求め、平成29年に市内の全消防署および出張所にドローンを配置する方針を決定。平成30年に「消防ドローン隊」も発足し、災害時の情報収集体制の構築に努めるとともに、ドローン操縦者の養成を進めている。

▲消防本部および市内5か所にある消防署に全13機のドローンと、操縦できる隊員を配置している。(提供:大和市消防本部)

 

「被災現場の情報を、どれだけ正確に把握できるかで、その後の判断と行動が大きく異なってきます。導入前までは、地上から見える状況や119番通報の内容を無線で連絡し合っていましたから、どうしても正確性や客観性に欠ける部分がありました」。

言葉による情報伝達では災害の規模や状況が正確に判断しにくく、消防車両を現場から別の現場に移動させねばならないような場面で“トリアージ”※1がうまくいかなかったこともあるという。「ドローン活用によって、被災現場の最新情報が常に把握できるようになり、それらの課題が改善されました」。

※1 災害発生時などに多数の傷病者が発生した場合に、傷病の緊急度や重症度に応じて、病院搬送や治療 優先度を決めること

“現代版の火の見やぐら”としての機能を各方面の情報共有で高度化。

同本部がCMJと連携して取り組むプロジェクトは、ドローンで撮影した画像をWEB上の著作権フリー地図に反映させ、広域な被災状況を可視化するというもの。

幸いにも同市では、ドローン導入から現在までの間に、広域災害というほどの自然災害や大規模火災は発生していない。「それでも、以前は平面でしか見えなかった被災状況を、鳥のような視線で俯瞰できるようになったことで、一般的な建物火災でも災害の拡大を抑えるための判断がやりやすくなりました」。

また、数多く寄せられる119番通報の中には、実際の状況が判断しにくいものも混じっているという。「そういう場合でも、通報があった場所をドローンで確認すると、火の手が上がろうとしていることがあるのです。そのため本部内では、ドローンによる現場確認を“現代版の火の見やぐら”と呼ぶ署員もいます」。

各地の消防本部は自治体単位で活動しているため、横方向の情報連携がそれほど密に図られていない実情があるという。

「しかし、発災時は自治体の境界線など関係なく、どこで起きても1つの災害に変わりありません。大規模災害の場合、警察や自衛隊、そのほか多くの機関と情報共有を図り、連携して行動しなければ効果的な災害対応が行えません」。

大内さんがいうように、本部の複数機のドローンが撮影した画像と、CMJが撮影した画像、さらに地上からスマートフォンで撮影した画像などを、リアルタイムで共有・一元管理できるようにすれば、さらに広範囲な災害対応に活用できるようになるだろう。

そこで令和4年度には、前述の機能を備えた「遠隔情報共有システム」を導入。防災IoTの体制を高度化させている。

各地の消防本部は自治体単位で活動しているため、横方向の情報連携がそれほど密に図られていない実情があるという。

「しかし、発災時は自治体の境界線など関係なく、どこで起きても1つの災害に変わりありません。大規模災害の場合、警察や自衛隊、そのほか多くの機関と情報共有を図り、連携して行動しなければ効果的な災害対応が行えません」。

大内さんがいうように、本部の複数機のドローンが撮影した画像と、CMJが撮影した画像、さらに地上からスマートフォンで撮影した画像などを、リアルタイムで共有・一元管理できるようにすれば、さらに広範囲な災害対応に活用できるようになるだろう。

そこで令和4年度には、前述の機能を備えた「遠隔情報共有システム」を導入。防災IoTの体制を高度化させている。

▲遠隔情報共有システムを使った様子(参照:「YAMATO発見・ライブラリー」)

ネットがつながらない環境でも衛星通信網で安定的にデータを転送。

各種防災情報の共有・一元管理ができる「防災デジタルプラットフォーム」の構築は、内閣府が手がける重点事業の一つ。

その一環として、各地の消防関係機関等が取得したドローンの空撮画像を、令和6年度から稼働開始予定の「次期総合防災情報システム」上に防災IoTインタフェース経由でアップロードしたり、官民で横展開を図ったりする仕組みづくりを進めている。

同本部が導入したシステムは、まさにその仕組みに連動できるものだったため、令和5年7月、内閣府側から声かけする形で、大和市の管理施設敷地を使ってフィールド実証実験を行うことになった。

実験時のシナリオは、前日から続く雨により市の施設および周辺に大規模な土砂災害が発生し、複数の建物が巻き込まれて行方不明者がいる……という内容。

実験は、まず同本部がドローンを飛ばし動画を撮影、全体的な災害状況を確認。次に、現地指揮本部でCMJと協議し、それぞれのオルソ化※2元画像の撮影範囲を決定。飛行ルートをプログラミングしたドローンをCMJ、消防本部の順に飛ばすというもの。

その後撮影した、オルソ化元画像を内閣府の防災IoTにアップロードしオルソ化処理をする、という流れだった。(下図参照)

※2 空撮画像を正射投影画像にバーチャル補正する技術

 防災IoTのオルソ化処理 
被害状況の把握、被災者の把握に十分な解像度のオルソ画像を防災IoTシステムで作成可能であることを確認。一方、発災直後には迅速な状況把握のためオルソ化処理の高速化が必要。

(提供:内閣府 政策統括官(防災担当)付)

 

アップロードには携帯電話回線を用いたので、やや遅延する場面もあったものの、データ転送は問題なく完了したという。

「実は、それよりももっとすごい発見がありまして、CMJが使っている衛星通信網を使うと、アップロードが非常にスムーズなだけではなく、携帯電話回線が不通になっていても、衛星通信網でデータ転送できることが明らかになったのです」。

大規模災害時、キャリア各社の基地局や光ケーブルなども損傷し、ネットも携帯電話も使えなくなるケースは決して珍しくない。

「そういった現場でもCMJのノウハウを使えば、安定して情報の収集・把握・共有が可能だと分かったことは、今後の防災対応において非常に有効だったと感じています」。今回の実証実験を機に、同本部でも衛星通信網の導入を検討課題にするという。

「防災DXは、私たちの想像を超えるスピードで進歩すると思われます。一方で、被災地における現場対応は、紙などアナログな手法でなければ行えないものが数多くあります。災害が起きること自体は、どうしても止められません。だからこそ、起きてしまった際に被害をどれだけ軽減できるのかの“減災”と、日頃から備える“防災”には、デジタルとアナログをいかに上手に併用するかが課題になると考えています」と、大内さん。

「デジタルに頼りすぎると、マイナスの影響が出てくる場面もあるでしょう。防災IoTと防災DXとを推進する上で、どこにどういうシステムを使えばムダのない動き、ムダのない活動判断ができるのかを、様々な選択肢の中から考えていく必要があると思います」と締めくくった。

 

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