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公開日:2022-04-12

【インタビュー】防災家・危機管理アドバイザー 野村 功次郎さん

防災・危機管理
読了まで:6分
【インタビュー】防災家・危機管理アドバイザー 野村 功次郎さん

※下記はジチタイワークス災害対策特別号 March2022(2022年3月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]NTTビジネスソリューションズ株式会社

のむら こうじろう/広島県呉市消防局に22年間勤務。現在は防災家・危機管理アドバイザーとして、元消防士という視点から、災害現場での体験をもとにしたワークショップや講演活動を全国で展開。防災分野での人材育成に努める。日本テレビ「世界一受けたい授業」に防災スペシャリストの先生として出演。著書に「パッと見!防災ブック」(大泉書店)がある。


地域防災力の強化に必要なものはICT活用と防災教育

地域の防災力強化は、自治体の力だけで実現するのは難しい。住民を巻き込み、災害対策を“自分事”として捉えてもらうにはどうすればいいのだろうか。かつて消防局に22年間勤務し、災害対応の最前線で経験を重ねた防災家・野村さんが、避難所の課題解決に関するアイデアを中心に、地域住民と連携した災害対策の未来を語る。

職員が動いて見せることやアイデアの試行錯誤が重要。

ー 近年の避難所に関する課題について、どのように感じていますか。

日本の避難所は、体育館や公民館などで代替しているため、本当に安全なのか、避難生活を送るための状況が整っているのか、という問題があります。特に近年は、避難所に行くより家にいたい、と考える住民が増えています。電化住宅の蓄電システムや電気自動車からの給電などで、停電時に電力が自給できる家庭が増えているという背景もあるようです。

また、日本の場合、避難所については国としての明確な規定がありません。日本赤十字社が取り組んではいますが、難民を基準としているので、現実とは乖離があります。つまり、実情として避難所はただのハコでしかないのです。これからは地域でも災害対応型施設や、住民が生活する避難所としてふさわしい場所を増やしていかなければならない。もっと災害や避難者の生活、コロナ禍のような社会的状況に即して、価値観も変えていく必要があります。

災害対応の知識や経験のある人材が不足しているのも課題です。緊急時とはいえ災害を経験したことのない人がたくさん応援に来ても、現場としては困りますよね。組織的な人材育成や教育も重要だと思います。

ー 避難所運営のガイドラインは国から出ており、各自治体でもマニュアルの整備が進んでいると思いますが、現状はうまく運営できているのでしょうか。

ガイドラインやマニュアルがあるのはいいことです。ただし、それらはあくまでも基本を示したものなので、大都市や過疎地など環境や規模によって応用は必要です。マニュアルに当てはまらなかったときに立ち止まらないように、色々な知識を身につけてほしいです。

そして、何より必要なのは住民の理解と協力です。それを得るためには自治体職員が“見せる仕事”をしていく必要があります。「指示されたから」「義務だから」ではなく、自分たちがまず動いて見せますというスタンスが大事です。

あとは、様々なアイデアを出す発想力ですね。まずは難しく考えず、試行錯誤してほしい。私はある地域で、避難所に避難をしたら商店街で使えるポイントがもらえる取り組みを実験的に行ったことがあります。ほかにも、ハンカチや手ぬぐいにハザードマップを印刷して配布したこともありました。

人を動かすのは、なかなか難しいことです。大切なのは、アナログでもデジタルでも、使える手段はどんどん使って、アイデアを出し合っていくこと。そうした手段を増やし、可能性を広げる意味でも、ICTの活用推進は不可避だといえます。

教育で防災意識の種を植え住民参画の基盤をつくる!

ー 避難所でのICT活用について、具体的にはどのような方法がありますか。

避難者が最も困るのが待たされることや煩雑な手続きです。しかし自治体のマンパワーには限界があります。そこで活用したいのがICTツールです。ただ、高齢者などへの配慮も必要ですので、“分かりやすい”ことが絶対条件です。

ほかにも、例えば避難所などの現場で使うICTツールを考えた場合、選ぶ際のポイントには以下の4つがあります。

❶ 小さい
❷ 電力消費が少ない
❸ 持ち運びができる
❹ コストに見合う

今では、個人認識に使える非接触型のタグも廉価で入手できます。これを避難所の受付が済んだ人に配布すれば入退室管理も容易になりますし、カメラと連動させれば不審な動きをしている人がいないかの監視も可能です。備蓄品や救援物資の在庫管理にも使えます。このように、まずは活用のアイデアを出していくことが大切です。

ただし、全てをICTで代替することはできません。人間でないとできないこともあるからです。そうした部分のマンパワー不足を補うには、職員だけではなく住民も避難所運営に参加できた方がいい。そのためには、誰でも扱えるようなシステムを考えなくてはなりません。そこで求められるのもやはり“分かりやすい”ICTツールなのです。

ー 住民が参画できる土壌づくりのために、何をすべきでしょうか。

住民にとって災害対策は、公的機関が担うものというイメージになりがちです。だからこそ、教育が大切になります。昔は、神社やお寺が地域の中心でした。平時には教育や福祉の役割を担い、災害が起きたら人々が集まり、助け合っていました。そして祭りでも、地域の人が力を合わせて結束力を高めていた。まちの行事が訓練だったわけです。大事なのは訓練を日常化することですね。

防災教育は、これから社会に出ていく子どもたちに“生きる術(すべ)を教える”大切な伝承です。小学生の頃から社会の仕組みと同時に防災のこと、そしてI CTについても教えなくてはいけません。小学校高学年、あるいは中学校から社会貢献部や防災部をつくり、その中でICTを学ぶ方法もあると思います。若者は発想も柔軟なので様々なアイデアが出てくる。そこに大人も入って輪を広げ、誰もが防災を自分事として考えるようになるのが理想です。

実際に防災部を設けている高校もあります。地域住民と一緒に心肺蘇生訓練をしたり、防災イベントに参加したり、これこそ社会に出て役立つ教育ではないでしょうか。活動を通して人に感謝される経験から、自尊心が育まれ、大きく成長するきっかけにもなるはずです。

ー 全国の自治体職員の皆さんに期待することは何かありますか。

住民の声を受け止めながら、日々葛藤しつつ頑張っていらっしゃると思います。自治体職員さんには責任感が強い方が多いため、防災の分野でも任命されて嫌だと感じる人は少ないのではないでしょうか。だからこそ、任されたからには全力でやっていただきたい。

「言われたから」ではなく、何を相手に、何のために仕事しているのか。住民のニーズとマッチしているのか。それが命を助けられるのか。リアルタイムで評価されなくても、その仕事が3年後、5年後につながっているかどうかです。

そんな人には“変える力”があるものです。最終的に、人は人に動かされます。避難所でもICT活用は必須ですが、人が人を支えるのが理想だと思います。

備えのポイント

■まずは自分たちが動いて“見せる”意識を
■ICT活用には“分かりやすさ”が絶対条件
■生きる力としての防災教育に地域で取り組む

 

 

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