ジチタイワークス

宮城県

官民連携でインバウンドに成功 経済効果8億円増の戦略とは

複数の自治体が協働でインバウンド事業に取り組み、経済効果約46億円(前年比8億円増)、入込総数3.8万人(前年比160%)を達成した地域がある。宮城県の南、13の市町からなる「南宮城」と呼ばれているエリアだ。

仙台空港からの公共交通機関でのアクセスが多少不便ではあるものの、外国人が好む雪景色や桜など四季折々の景色、郷土料理といった資源がある。それらを効果的にPRする複数のプロジェクトを戦略的に進め、誘客に導いたのは官民連携で設立された「一般社団法人 宮城インバウンドDMO」だ。

民間団体として自治体、観光協会、商工会、関連団体と連携しながらそれぞれの強みを生かし、どのような手法をとったのか。

※下記はジチタイワークス観光・インバウンド号Vol.2(2019年9月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 [提供] 一般社団法人 宮城インバウンドDMO

地域が生き残るには外国人観光客の誘客しかない

「このままでは消滅可能性都市となってしまう危機感がありました」と話すのは、元・丸森町役場の職員で同DMOの常務理事・伊藤淳さんだ。南宮城は外国人が訪れることはほとんどなかった地域。頼みの日本人観光客も、東日本大震災以降は伸び悩んでいた。人口が減少していくなか、国内だけでの誘客には限界がある。そう考えた伊藤さんはインバウンドに目を向けた。「ちょうどその頃、同じ考えを持った地方創生関連企業の代表・齊藤良太さんと偶然出会いました」。まだ伸びしろのある外国人観光客誘致に向けて2人は早速動き出す。

伊藤さんは周囲の市町に「一緒にインバウンド対策を打たないか」と声をかけた。複数の自治体が団結すれば、外国人にPRできる地域の魅力は倍以上に増える。丸森町で音頭をとったところ、白石市、亘理町、岩沼市、角田市、名取市、大河原町、川崎町、蔵王町、七ヶ宿町、柴田町、村田町、山元町の4市9町の首長が賛同してくれた。

同時に東北復興支援関連の交付金取得にも奔走する。2人が出会って約1年後の平成29(2017)年3月にDMOを設立。その後たった2年で経済効果8億円増を達成する。「2年で取り組んだ事業のすべてが、観光客数に反映されたと考えています」と伊藤さんは語る。

観光客のニーズを細分化し情報や動画を発信

これまでの取り組みの中で、ひときわ目を引くのがメディア戦略だ。ターゲット国を中国、台湾、タイに絞り、SNSを活用した情報発信、各国のインフルエンサーを招いたツアーの実施などを手がけてきた。FacebookやYouTube、InstagramといったSNSを活用するPRのポイントは、利用者のニーズを細分化するところにある。Facebookの「日本に旅行したいと考えているグループ」には南宮城の美しい景色や食の情報を提供し、「東北に行くことが決まっているグループ」には現地で体験できるコンテンツを掲載する、といった具合だ。

また、それらのグループの管理者や有名ブロガー、YouTubeのインフルエンサーを呼んだツアーも開催し、グループのメンバーやフォロワーに向けた情報を発信している。年間で5組のインフルエンサーを招聘した、と聞くと少なく感じるが、彼らの背後には数万人、数十万人ものフォロワーがいる。実に効率的なPR方法なのだ。その他、数万人の会員を持つ旅行の口コミサイトの広告も活用している。


SNSから人気に火がついた宮城蔵王キツネ村。

一般客と触れ合う旅行博と旅行会社向けB to B営業

また、「どこかに旅行をしたい」と考える一般人に向けた旅行博に出展し、観光PRも推進。3日間の開催で約3〜10万人を集客するイベントで、同DMOも台湾(台北、高雄、台中、台南)とタイ(バンコク)で出展している。はじめは多言語対応の販促ツールが少なく、翻訳済のパンフレットを配るだけだったという。

「その後も甲冑体験やゆるキャラで目立とうとしましたが、それだけで誘客につながるわけではありません。対面コミュニケーションを深める必要がありました」と伊藤さん。今年からは「外国人が知りたいこと」について、ブースを担当する各自治体職員の誰でも答えられる仕組みを構築している。

さらにBtoB営業にも力を入れている。DMOは旅行商品をつくって売ることができないため、同DMOの中国人・台湾人の職員がターゲット国の旅行代理店に、年間で100社以上アプローチしているという。「最近はよく知られた観光ルートでなく、地元の生活が感じられるスポットが人気を集めています。『みんなは行っていないけど私は行った』と思えることが価値なのです」。まずは南宮城を旅行代理店の担当者に知ってもらうことが肝心なのだ。

もとからあるコンテンツに付加価値をつける

インバウンド対策で新しい施設やコンテンツをつくる必要はない、と言い切る伊藤さん。和室で正座をする、伝統工芸を体験するなどの体験は、どれも外国人にとって珍しい。はじめから地域にあるものが十分にコンテンツになりえる。「それを多言語化したり、通訳をしたりといった付加価値をつけるのが私たちの役目です」。

同DMOには今後、サイクリングや教育旅行、フードツーリズムの事業を拡大する構想がある。南宮城は道路が広くて交通量が少ない。公共交通機関でめぐるには不便でも自転車での周遊が楽しめるのだ。教育旅行は、南宮城と海外の学校が協定を結んで互いに学生を送り合うというもの。一度提携すれば毎年一定数が地域を訪れる継続性がある。食の面では地元の日本酒を打ち出し、つくる・味わう体験のほか、生産者とのコミュニケーションといった価値を加える予定だ。

「官民連携で事業のスピードがアップしました。企画やマーケティング、戦略立案に連携している強みを生かし、役割分担をして地域とのむすびつきを深めていきたい」。

Projects 誘客プロジェクト例

Project 1 メディア戦略

SNSやブログのインフルエンサーを呼んだツアーを実施。また、「南宮城でのふれあい」「親子で行く蔵王」といった、ターゲットを設定した動画も作成。訪れた外国人の視点でCMのようにスタイリッシュな動画に仕上げた。

Project 2 旅行博への出展

現地の人と対面で触れ合える旅行博に参加。説明を担当する自治体職員は、他の市町について答えられないこともあったため、よくあるQ&AをWebに蓄積。誰でも13市町の魅力をアピールし、周遊を促すことができる。

Project 3 B to B営業

年間で約10組の旅行代理店担当者を招いたファムトリップを実施。「宿泊施設の各部屋にバス・トイレが必要」「果物狩りは人気」といった受け入れ施設や体験コンテンツの整備に関わるフィードバックをもらっている。

How To

01 調査を綿密に

メディア戦略のために、Webアンケートや対面アンケートを実施。また、観光客がどこを訪れ情報を発信しているか、SNSの利用履歴にまつわるビッグデータも活用し、DMOメンバーで戦略を立てた。

02 受け入れ環境の整備

13市町への交通アクセスが課題だったため、外国人の持つスマホにもともと入っているアプリを活用したタクシー配車サービスを開始。各国のユーザーが多く使っているSNSでPRの動画を配信して動線を引いた。

03 地域のコンテンツを活用

グループ会社を設立し、スタッフの特技を生かした体験メニューを造成している。また、ランチを含めたパックツアーとして旅行代理店で販売。滞在時間の増加に寄与している。

04 オンライントラベルエージェンシーの活用

オンラインで宿泊や体験イベント
を予約・決済できるWebサイトに情報を掲出。観光客の利便性が増している。最寄りの駅からタクシーで30分かかる場所でも魅力が伝われば観光客が訪れているという。

05 ブランディング

地域の見せ方をブランディングすることが大事。「おいしい」「楽しい」「景色がきれい」は日本全国どこでも言えること。キラーコンテンツがなく、移動コストがかかる場合、なぜこの地域に来るのか、理由とストーリーをつくる必要がある。

06 民間・地域と連携する

民間に行政から声をかけて、互いに何を目指すのかを共有し、信頼関係を構築。また、ファムトリップのフィードバックで地域との連携も強めている。

Results

南宮城4市9町の…

経済効果 46.1億円(前年比8億円増)
訪日客の入込総数 3.8万人(前年比160%)
DMO直接誘客インバウンド宿泊数 3,815人
外国人宿泊者数 前年比121%増
(平成30年1月1日〜12月31日)

インバウンドでの地域活性化に必要なのは「覚悟」。なぜこの事業を進めるのか、信念がないと、壁を乗り越えられません(写真左:伊藤 淳さん)。観光関連の自治体職員の皆さんには海外旅行をしてほしい。感動や発見が国内のインバウンド事業に生きます(写真右:同DMOの佐藤 好さん)。
 

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