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【相談】異動が多い公務員。専門性を高めるためにはどうしたらよいですか?

異動や昇進、副業、転職…公務員を悩ませるキャリアの問題。

この連載では、キャリアコンサルタントの国家資格を持ち、公務員の仕事やキャリアに関する著作も多い小金井市の堤直規さんに、公務員のキャリアに関するお悩みに答えていただく。

第1回は、「専門性の高め方」に関するお悩みについて、執筆いただいた。

 

今回の相談者

「異動が頻繁にある中で、強みを磨き、専門性を高めるためにはどうしたらよいですか?」(20代女性)


こんにちは。本日はキャリアに関するご相談、ありがとうございます。

公務員には頻繁な異動、それも幅広い分野への異動が付き物。そんな中で自分の強みを見つけて磨き、専門性を高めることなんて難しい…そういうお悩みですね。

本来、キャリアコンサルティングでは、丁寧にお話を伺う中でご本人が「答え」を見つけるお手伝いをさせていただくのですが、限られたスペースなので、ここではポイントを絞ってアドバイスしていきたいと思います。

「強み」は自分の中にある

答えから言ってしまうと、「強み」は自分の中にあります。自分の中にある「強み」の素を見つけて磨くことで、それを「強み」に育てていく訳です。

多くの場合、それはあなたにとって「当たり前」のこと。例えば、「隣のAさんは何でミスが多いのだろう」とよく思っているとしたら、正確性があなたの「強み」の素かもしれないのです。このように、「強み」を見つけるためには、まず、自分の日々の仕事や考え方に目を向けます。職場の同僚や同期などと比較してみると、自分が持つ知識・経験、考え方や行動の特性などの「強み」が見えてきます。

「強み」を見つけるためには、各種のツールも役立ちます。機会があれば、トム・ラス著『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう ストレングス・ファインダー2.0』(日本経済新聞出版)をやってみてください。34の資質のうちの自分のTOP5が診断されます。

私のTOP5は「最上志向」「戦略性」「学習欲」「達成欲」「ポジティブ」だったのですが、たとえば、自分が高い成果を目指そうとするのに対して、なぜ多くの同僚は「ふつう」でよいと考えるのかとよく感じていました。でも、それが私の「強み」の「素」なのですね。 

「強み」は人それぞれ。それを認めつつ、自分にとって「当たり前」の「強み」の素を見つけて磨く。それを意識して日々の仕事を進め、関連する研修なども受けていきましょう。

「専門性」は卓越性×希少性

「専門性」というと、法務・財政・人事・広報などの行政技術、それから福祉・税務・環境・都市計画などの行政分野だと考えられています。そして、そうした部署でその業務に長年従事することで専門性が高められると思われがちです。

間違いではありませんが、長年にわたって1つの業務に携わる人はごく一握りです。特定の分野を「専門」としたつもりでも、ほかの分野に異動することは多いですし、下手に決め打ってしまうと「つぶし」「応用」が効かず、働きづらくなってしまいます。

なので、もっと緩く広く捉えて「専門性」は「卓越性×希少性」と考えていきましょう。その上で、「専門性」の中身を具体的なものにしていきます。

例えば、私は国民健康保険税・市税の徴収業務を合計6年間務めました。業務経験は庁内で少し長い方となりますが、それだけで税務の「専門性」が高いとは言えません。実際、税務の知識は基本的なレベルです。ただ、国保税時代から収納状況の改善に努め、納税課長としてその経験を踏まえて、メンバーにも恵まれて市税収納率のV字回復/業務水準の大幅な向上を実現できました。なので、私の「専門」は新規取組・業績向上に向けたマネジメントなのです。続く行政経営の仕事、現在の新型コロナ対策担当の仕事も、それからつながっていると感じています(至らぬことばかりですが)。

あなたにとっても、「強み」を活かして出してきた成果があるはずです。仮に、まだ十分な成果を出せていなくても、取り組んできた中に次につながるよい反省材料(ヒント)があるでしょう。それを活かして取り組むことで、自分らしい自分ならではの実績を積むことができます。それが職場・組織・近隣や全国の自治体の中で認められるようになってくることで、自分の「専門性」が段々と築かれてきます。

「強み」「専門性」を「掛け算」する

自分の「強み」に気づいて磨き、比較的に卓越して希少な「専門性」を高められるようになってきたとして、実際にはそこからがスタートです。見つけた「強み」「専門性」を意識して次の部署でもそれらを磨く。新たな業務の中で気づいた「強み」「専門性」を加える。そして、「強み」と「強み」、「専門性」と「専門性」を掛け合わせることで、際立った、あなただけの本当の「強み」「専門性」が育ってきます

例えば、私の場合では、長年にわたって地域活動を続けていること、企画政策課での協働事業の経験などと、先ほどの新規取組・業績回復のマネジメントを掛け算して、いま新型コロナウイルス感染症対策に取り組んでいます。そして、ここで得た貴重な知識・経験と関係者の方々とのつながりが、新たなキャリアにつながる予感があります。

荒木博行さん著『藁を手に旅に出よう』(文藝春秋)というベストセラーがあります。自分らしい価値あるキャリアを手にする道筋が童話「わらしべ長者」にたとえられます。それぞれの業務・職場で求められる自分が持っているものを差し出す中で、より価値あるものを手にする。異動の中でそれを重ねることで自分らしい豊かな「専門性」、そしてキャリア(仕事と人生の道筋)がきっと手に入ると私は思っています

そのためには「2カ月で覚えろ、3年先を見据えろ」の気構えで、それぞれの職場での持ち時間の中で自分なりに最大限の実績を積み、成長を重ねていくことが大事です。思うようにいかないときも多いですが、その試行錯誤の経験が様々な状況下でも自分らしく前に進むための財産…本当の自分の「強み」につながります。

ご参考になりましたでしょうか?

こう考えてみると、幅広い分野への頻繁な異動は、新たな自分の可能性に気づく機会であり、様々な角度から「強み」を磨き、「専門性」を高め活かしていくチャンスなのだと思えてきませんか? ぜひ自分らしく自分なりのキャリアを。応援しています!

今回の処方箋

・自分にとって「当たり前」の「強み」の素を見つけて磨く

・「専門性」は「卓越性×希少性」と広く緩く捉える

・「強み」「専門性」を意識して次の部署でもそれらを磨く


この連載で取り上げてほしいお悩みを募集しています!コチラよりお待ちしております。

 


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堤 直規(つつみ なおただ)さん

小金井市福祉保健部新型コロナウイルス感染症対策担当課長、キャリアコンサルタント(国家資格)。

1971年生まれ。東京学芸大学教育学部卒業、同大学院社会教育専攻修了。2001年小金井市入所。前職はIT関係。情報システム係、国保税徴収担当、企画政策係長、納税課長、行政経営担当課長を経て、2021年10月から現職。2018年にキャリアコンサルタントとして登録。
著書に『公務員1年目の教科書』(学陽書房 2016年)、『公務員ホンネの仕事術』(時事通信出版局)等4冊。2020年度は月刊『ガバナンス』に「未来志向で考える!自治体職員キャリアデザイン」を連載。趣味は旅行と日本酒・ワイン。特にキャンピングカーでの気まま旅。

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