区民の意見を活かすため、毎年実施している「杉並区区民意向調査」。過去5年の結果を見ても、回答者の約95%が“住みよい”“まあまあ住みよい”と答えるなど、愛着心が強い同区。しかし、平成27年度の調査において、区からの情報が伝わっているかという設問に対し、“伝わっている”と回答したのは36.9%だったという。
この結果に危機感を抱き、平成29年に策定したのが、全庁統一で取り組む新たな広報戦略だった。
※下記はジチタイワークスVol.17(2021年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
広報は広報課がするもの、から“各課の職員が考えるもの”へ。
前述の意向調査の結果を踏まえ、区民に伝わる広報活動の手法について検討を進めるために、まず広報や宣伝活動などに精通した“杉並区広報専門監”を公募した。そこで着任したのが、グラフィックデザインなどを手掛ける傍ら、NPO法人の広報活動支援や広報講座などをしていた谷さんだ。当時は“広報は広報課がするもの”という雰囲気があったため、「その認識を変えようと、全庁的な視点で広報活動に取り組むことを戦略に盛り込みました」と、谷さんは振り返る。
その手段として導入したのが、各課で広報活動が必要となった際に、この事業は何のために取り組んでいるものか、今回は誰に対して、何を、どのような手段で伝えるのかを明記する2種類のシート。「職員の立場からすると、期日が迫って慌ててチラシやリーフレットを作成するといったことが多く、広報は後まわしになりがちです。あくまで事業開始や運営が優先で、事業の目的を改めて考えることがなかったので、これらのシートは目からうろこでしたね」と、広報推進担当の奥山さんは話す。
部署や役職問わず、全職員が伝わる広報を意識できる機会を。
広報課では、各課の広報活動をサポートする上でシートを活用した2つの取り組みを行っている。1つ目は、“重点広報活動”。これは各課の様々な取り組みの中から、広報活動を特に強化する事業を毎年選定。その担当課と早期に連携しながら広報を進めるといったもの。「双方でスケジュールや情報を共有することで、広報物の制作時期や情報発信の機会を逃すことがなくなりました。進行も最大限のサポートができます」と奥山さん。ここでは、“区民に伝わる広報シート”(以下、広報シート)を活用しながら、いつ、どのようなメディア(広報紙、SNSなど)を使って広報するかの計画を、1年間のロードマップに集約。事業準備と情報発信を同時に管理しているという。
2つ目は、“広報相談”。重点広報以外の相談に幅広く対応するためのもので、広報シートを簡略化した“情報発信整理シート”を活用する。「シートを書くことで、担当者自身が、そもそもの事業の目的や、何のために情報発信をして、区民にどんな行動をしてほしいのか、といったことが整理できます」。
このような職員の広報活動において必要不可欠なのが、各課の理解や協力だ。その風土をつくるために、広報研修には、管理職昇任前の職員を対象としたプログラムを実施。また、若手職員に対しては、区内の個人的なお気に入りスポットを自ら写真撮影し、区公式SNSで紹介する連載企画、「My favoriteすぎなみ」シリーズへの投稿を任せている。企画した奥山さんは、「課に関係なくリレー形式でつないでいますが、同じ課の職員が登場することで、庁内でも興味を持って見てもらえます。こういう広報媒体があるんだと考えるきっかけになれば……」と、職員の誰もが、広報を自分事として捉えるきっかけをつくっている。
■職員の広報マインド向上を促進する2つの柱
シートの活用が少しずつ浸透し、職員の行動にSNSでの反響も。
谷さんは庁内の優れた広報活動を表彰するPRアワードを立ち上げ、その結果を職員報で伝えている。令和2年度のSNS部門で受賞したのは、杉並清掃事務所の作業係が行った広報事例。緊急事態宣言下でごみ収集をする際、区民から感謝の手紙がごみ袋に貼られていたことに対し、“お礼の気持ちを伝えたいがどうしたらいいか”と、広報課に相談。感謝の言葉を書いた手紙を職員が持ち、自分たちで撮影した写真をSNSで配信したところ、多くの反響があったそう。「実際に私たちの情報が区民に伝わっていることを、庁内の職員も実感できたと思います」と、谷さんは今後も職員の積極的な広報活動に期待を寄せている。
意向調査において、40%を切っていた情報伝達度は、令和2年度には62.1%に上昇。職員一人ひとりがシートを活用し、事業の目的や区民の行動を具体的に考えたことが、着実に伝わる情報発信につながったようだ。
杉並区 広報課
左:戦略的広報推進担当 係長 奥山 佳子(おくやま よしこ)さん
右:広報専門監 谷 浩明(たに ひろあき)さん
今後、選ばれる自治体となるためには、区の情報を分かりやすく魅力的に発信することが不可欠。区への愛着心や参画意欲の向上へつながる広報を目指しています。
課題解決のヒント&アイデア
1.重点広報として選定した強化事業や日々の相談について広報課が伴走支援
選定された事業については、担当課と広報課とで連携を強化し、進捗管理やタイムリーなPRを一緒に行う。伴走支援で担当職員の広報意識も強まる。
2.日々の広報活動での疑問や職員の思いをすくい上げ、より効果的な広報手段を提案
職員に任せる部分は任せ、広報課は効果的に告知できるようアドバイス。“広報を一生懸命やると成果が出る”と実感する職員も増えてきた。
3.業務にすぐ活用できるスキルが詰まった全庁向けの広報マインドアップ研修
外部講師を招き、文章術やチラシデザインなどの講座を開催。チラシをつくる機会が多い職員や児童館の保育士などから、分かりやすいと好評を得ている。