ジチタイワークス

奈良県生駒市

取材や記事制作の経験を通じて地域との関係性と愛着を育む。

日々の暮らしから地域の魅力を発掘して市民が発信

平成27年に市民PRチーム「いこまち宣伝部」を発足させた生駒市。自治体の情報発信を市民が担うことで注目されている。人とのつながりやまちづくりの担い手を生むなど、同市への好循環をもたらしている。

※下記はジチタイワークスVol.38(2025年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

生駒市
経営企画部 広報広聴課
左:課長補佐
村田 充弘(むらた みつひろ)さん
中央:田中 亜耶(たなか あや)さん
右:永井 彩音(ながい あやね)さん

市民が見つけた地域の魅力を独自の広報活動につなげる。

平成25年からシティプロモーションを開始した同市。当初は都市部へのアクセスのよさや自然豊かな環境などを強みとして、子育て世帯に向けて移住を促す施策を行っていた。「シティプロモーションという言葉が知られていない時期にスタートして、何もかも手探りでした」と村田さん。市内の事業者から“利便性の高さや住みやすさなどは独自の強みとはいえないのではないか”と指摘を受けたそうだ。これをきっかけに、同市ならではの魅力を発掘する方向へと転換した。

また、同時期にSNSの運用開始を決定。SNS上で市政情報だけを発信するには限界があるのではと懸念していたという。広報紙には、市内の店や習い事に関する情報を求める声が多く寄せられていたが、公平性の観点から取り上げにくかった。民間の情報の発信方法を模索する中、“行政が拾えない情報は市民に主体的に発信してもらおう”と考え、いこまち宣伝部を発足。いこまち宣伝部とは、人や店、地域の行事などを取材し、執筆した記事をSNSで発信する市民PRチームだ。「行政では気づかないような、暮らしの中の小さな魅力を拾い上げ、広めてほしいというねらいがありました。そして、そのよさを自分の言葉で語れる人を増やしたい。そんな希望を込めての発足でした」。

令和6~7年度に活動する10期生は16人。デジタル一眼カメラは市から希望者に貸し出される。

寄り添う姿勢を大切にしながら部員との間に信頼関係を構築。

初の試みとなるため、1期生の募集は手探りだったという。これまでの広報活動を通じて知り合った、興味をもってくれそうな市民に声をかけるなどしていたが、実際には定員に対し3倍以上の応募があった。“まちが好き”というだけでなく、“友だちをつくりたい”“撮影や取材、記事の執筆を経験したい”などの理由から志望する人もいたという。活動を始める前に記事制作のノウハウをプロの編集者やカメラマンから学ぶ講座を5回実施。全く経験のない人でも不安なく活動できるように手厚くサポートしている。デビュー後は、取材先の選定から取材、撮影、執筆まで一連の流れを担当。完成した記事は、市の公式SNSアカウント「グッドサイクルいこま」に投稿される。

「進捗や校正に関するやりとりは、チャットツールで行っています。主に部員と広報広聴課職員のグループチャットを活用しますが、部員がつまずいている場合は個人チャットで声かけを行うなど、相手に寄り添ってケアすることを大切にしています」と田中さん。永井さんも「校正の際には、部員が記事で伝えたい思いを尊重しながら修正します。ラリーが何度も続くこともありますが、誠実に向き合いながら対応しています」と話す。「部員の皆さんに活動を楽しんでもらうことが大事です。そこから、さらに地域を好きになってもらうことを第一に考えながら、職員も部員と同じ熱量でこの活動に伴走しています」。両者の良好な関係づくりが活動を継続させる肝だと、村田さんは語る。昨年度からは対面での交流も重視し、職員と部員が集まって話をする機会を設けている。

活動を経て育まれた愛着が、まちづくりへの参画に波及する。

発足から10年間で、150人以上の市民が宣伝部員としてこの取り組みに参加。これまで部員たちが積み上げてきた記事は1,500本以上にも及ぶ。最近では、まちのあちこちで“グッドサイクルいこまに載っていたね”という声を耳にするようになってきたと田中さんは笑顔を見せる。「部員の中には“以前は地域を好きになれなかったが、活動を終えた今なら好きだと思える”と話す人もいました。自分で発信することでまちへの愛着が育まれたと感じています」。

任期終了後は、商工観光部門と協力して観光プランの開発に携わったり、市民活動として自治会長を担ったり、自らまちづくりに参画する人が増えている。「いこまち宣伝部は若い世代が地域に興味をもつきっかけになっています。部員同士や取材先との関係性が構築されて、地域に友だちが増えたという人も。色々な面でこの活動が地域への好循環をもたらしていると実感しています」。

いこまち宣伝部をモデルケースに、他自治体にも広がりつつあるこの取り組み。令和7年11月には、同様の活動を行う全国の自治体が集まるサミットの開催が予定されているという。同市も部員と参加する予定で、県をまたいだ交流が生まれることを期待しているそうだ。地域内外で様々なつながりを生むこの取り組みは、シティプロモーションの新しい形の一つとして、今後も注目されるだろう。

 

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