【セミナーレポート】災害対策で効果を発揮! いざという時につながる行政DXの底力とは。
地域を問わず優先順位の高い行政課題である“災害対策”。本セミナーでは、「LINE」と「LINE WORKS」の機能を駆使し、いざという時に備える愛媛県の事例を紹介してもらいつつ、両社の担当者の話を通して行政DXに関する様々なアイデアを共有しました。その内容をダイジェスト版でお伝えします。
概要
□タイトル:災害時における自治体間の連携強化と住民サービス向上を実現~明日からできるLINEとLINE WORKSを利用した行政DX~
□実施日:2021年3月19日(金)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□登録者数:118人
□プログラム:
第1部:「LINE WORKSを活用した災害対応ホットラインの開設について」
第2部:「LINEでDX推進する行政コミュニティ」
第3部:「LINE WORKS と仕事革命~行政での事例」「LINE と LINE WORKS は最強タッグ」
第1部:「LINE WORKSを活用した災害対応ホットラインの開設について」
愛媛県は、令和3年1月にLINE株式会社、およびワークスモバイルジャパン株式会社と包括連携協定(以下、協定)を締結した。DX推進で地域サービスの向上を図ろうとするこの取り組みについて、同県の大西さんに解説していただいた。
<講師>
愛媛県 市町振興課 大西 和男さん
プロフィール
平成6年4月 愛媛県庁入庁
平成28年4月 保健福祉部生きがい推進局 長寿介護課
平成31年4月~現職
■コロナ禍に立ち向かうためのデジタルシフト
以前より愛媛県では、LINEを活用した接触確認システム「えひめコロナお知らせネット」を運用しています。また、LINE WORKSについては、宿泊療養施設に入所している方の健康状態確認に、同システムのビデオ通話機能を使うという面で協力を得ています(※導入事例)。
こうした経緯に加え、コロナ禍で社会が大きく変容していることに対し、愛媛県ではデジタルシフトをより強力に進めることで、県民サービスの向上と地域の活性化を図ることを目指しています。この目標達成のために、今回の協定を締結しました。具体的な連携内容は以下の5項目です。
①県税の事務手続き
令和3年度から、自動車税の還付に電子決済サービスを導入。その申請手続きもLINEでできるようにする。
②防災
本項については詳細を後述。
③SNS相談
自殺対策強化月間に合わせ「こころといのちのライン相談」をスタート。無料の電話相談と並行で運用中。※「こころといのちのライン相談」は、令和3年3月29日現在、運用を一時停止中
④行政事務の効率化および生産性向上
愛媛県は、県と市町が業務量調査をベースとしたBPRに取り組んでおり、ここにICTツールを活用・検証するために両社と連携していく。
⑤相互交流促進
民間のノウハウを活用し、同時に人脈を広げる目的で様々な人事交流を行っているが、LINE社についても今回の協定を機に交流を深めていく予定。
以下、協定の中でも重要度の高い②の防災について詳しく紹介します。まずはLINE WORKSを活用した部分についてです。
■被災経験から生まれた連絡体制
災害対策にLINE WORKSを導入するきっかけになったのは、平成30年7月豪雨です。この災害では、県の西南地域で特に甚大な被害があり、迅速な応援が必要ということで、県東部の市を中心に複数の市町がパートナーとなり、支援を担当する割り当て(カウンターパート)を行いました。
このスキームにより、支援の流れが整理でき、受援側の負担も大幅に軽減。支援が中長期のスキームに移った後も、継続的・積極的な支援ができています。
その後、各市町から「平時からの取り組みが必要」という声があがったので、平成31年2月に、3つのグループからなるカウンターパートを設定しました。これにより、どこかの地域が災害で応援を必要としている場合は、一次支援市に連絡し、一次支援市は二次支援市町と連絡調整の上、グループで支援するという体制が確立されました。
この体制が有効に機能するために、平時におけるグループ市町間の連携強化対策を行いました。例えば、互いに防災訓練に参加する、受援計画にはカウンターパートに関する項目を入れる、といったものです。同時に、迅速な支援には連絡体制の強化も必要だということになり、それを実現するツールとして「チーム愛媛 市町職員災害対応ホットライン(以下、ホットライン)」と銘打った、LINE WORKS上での連絡体制を整備したのです。
■迅速に職員をつなぐ“地域の命綱”
ホットラインは、県がアカウントを管理しています。メンバーの中心は副市町長で、補佐役として防災・人事の担当部課長や実務担当を加え、1団体あたり4~5名を登録しています。
このホットラインの特徴は、関係者が同時に情報共有できるという点です。発災時に、被災市町がトークルームに第一報を載せると、一次支援市だけでなく、一緒に応援に駆け付ける二次支援市町にも情報共有できます。さらに県の災害対策本部にも同時に情報が届くため、スムーズな連絡調整、迅速な支援につなげることができるのです。実際の画面は上図の右欄の通りです。
トークルームでは、カウンターパートごとにグループを作っており、グループ内のやりとりや、いざという時の応援要請もこの画面内で行います。24時間つながり、記録も残る便利なツールです。
重要なのは、いざという時に効果を発揮できるよう、平時から使いこなしておくこと。LINE WORKSの幅広い利便性を考えると、まだ十分に活用できているとはいえません。今後はアイデアも出し合いながら運用を進めていきたいと思います。
ここからは、災害時の分散避難におけるLINEの活用について、防災危機管理課の上田がお伝えします。
「LINEによる分散避難の把握・支援する仕組み構築」
LINE WORKSで職員の防災体制を構築した愛媛県は、同時に地域住民に向けた災害対策のデジタル化も進めている。LINEを活用したこの「愛媛モデル」について、防災危機管理課の上田さんに共有していただいた。
<講師>
愛媛県 防災危機管理課 上田 陽一郎さん
プロフィール
平成12年4月 愛媛県庁入庁
平成27年4月 総務部総務管理局市町振興課
平成31年4月~現職
■コロナ禍で生じた「新たな避難行動」
愛媛県では、コロナ禍においても容赦なく襲ってくる豪雨災害や地震に備えて、県民を守るために市町と連携し、感染症を前提とした防災減災対策を推進しています。
中でも懸念されるのが、三密を避けて行われる“避難所以外への避難”です。親戚・友人宅、車中泊、自宅避難など、避難所への一斉避難から分散避難へと災害対応のあり方も変容しています。これを本県では「新たな避難行動」と位置付け、県民に適切な避難行動を呼び掛けてきました。このような中で、令和2年7月豪雨が発生しました。
本県でも、平成30年7月豪雨の恩返しを行うべく、被災地に保健師を派遣するなどの支援を行いましたが、その中で、今まで経験のなかったコロナ禍での大規模災害は、防災上の観点からも新たな課題があることが明らかになったのです。
課題1:分散避難状況などの把握が困難
課題2:分散避難者へ必要な支援情報が行き渡らない
現地の災害担当者からも、「食料や支援物資の供給が進まず、重要な情報も伝わりにくい」「連絡が途絶えると復興の足かせになりかねない」という声が聞かれました。
この経験のもと、国民の約6割が利用しているLINEを活用することで避難状況を把握できるのでは、と考えたのです。狙いは、支援情報を提供したい市町と、避難状況を発信し支援情報を受け取りたい分散避難者を結びつけること。このアイデアをLINE社に相談し、全国初の取り組みを進めることになりました。
■分散避難者を孤立させない「愛媛モデル」を作る!
まず考えなくてはならないのが、避難形態が多様化することへの対応です。そこを整理する目的で、分散避難者をグループ化することにしました。住民の事前登録や、発災時に避難所でQRコードを読み取っていただくなどして、それらのデータを避難所や地区単位でグループ化するイメージです。
その後は、各分散避難者からLINEで安否情報などを市町に報告し、市町側ではその内容を把握した上で、各避難所の食事提供時間や、物資の提供時間などの支援情報を届ける仕組みを構築したいと考えています。
現在はシステム構築に関する協議を進めている段階ですが、課題も残されています。
①分散避難者の状況把握はどう定義づけていくか?
②事前登録者はどのように増やしていくか?
これらの課題の解決に向けて、平成30年7月豪雨で甚大な被害を受けた愛媛県の南予地域2地区の住民に協力をいただき、モデル地区として実証訓練を行う予定です。この結果をもとに、実災害に対応できる「愛媛モデル」を構築し、県内の市町へ横展開していこうと考えています。
また、事前登録者の増加も重要なポイントです。分散避難以外の利用なども検討し、登録者にメリットを感じていただけるような仕組みにすることが鍵なのではと考えています。
この取り組みは、今までにない挑戦です。引き続き、行政事務の効率化を図りつつDXを推進し、災害時における自治体間の連携強化や、住民サービス向上の実現に向けて取り組んで参ります。
第2部:「LINEでDX推進する行政コミュニティ」
愛媛県の事例でも分かる通り、行政におけるLINE活用の可能性は大きい。現在同社では、様々な行政課題をDXで解決すべく、自治体を横軸でつなぐプロジェクトを進めているという。その具体的な内容を、LINE株式会社の高野さんが語る。
<講師>
LINE株式会社 高野 洋介さん
プロフィール
平成26年に大学を卒業後、造園会社に入社。エネルギー系の新規事業開発を担当。その後、インフラ系ITベンチャー企業複数社を経てLINE株式会社に入社し、セールスエンジニアとして行政DXを支援する業務を担当。
■「持ち運べる役所」が実現するもの
私からは「LINEスマートシティ推進パートナープログラム(以下、LINEスマートシティPP)」についてお話しします。
LINEのコーポレートミッションは「CLOSING THE DISTANCE」。これは人と人との距離だけでなく、人と企業、人とサービスなど、様々な距離を縮めることを意味しています。
行政においてもこのミッションのもと、住民票の申請、粗大ごみの受付など様々な手続きやキャッシュレス決済、災害や生活情報の配信、問い合わせ受付などを、LINEを通じて実現してきました。これが「持ち運べる役所」という構想です。
この持ち運べる役所を中心に、さらなる行政DX推進を目指し、ワンストップ窓口の推進や、住民への防災情報配信などの効率化を進めていく必要があると考えています。それを実現するために立ち上げたのが、LINEスマートシティPPです。
■8つのプロジェクトを軸にスマートシティ化を目指す
現在、LINEスマートシティPPで進行中のプロジェクトは8つあります。それぞれの概要を紹介します。
1・分科会
月に1~2回、Zoomで開催されるコミュニティ。「防災」「キャッシュレス」など、先進事例を行った自治体の職員が登壇し、取り組み内容を説明。詳細を知るだけでなく、相談の場として活用でき、先進自治体とのリレーションも作ることができる。
2・LINEとつながるFRIDAY
毎週金曜日の13~15時、LINEの社員がZoomを常時接続状態にしているので、その場で様々な質問ができる。傍聴のみの参加もでき、気軽に情報を得られる。
3・公募型モデル創出事業
LINEやパートナー企業が新しいサービスを生み出した際に、そのサービスが行政の課題解決につなげられる可能性がある場合、導入希望自治体を公募して、LINEまたはパートナー企業が導入費用の全部または一部を負担し、モデル事業として進めていくもの。
4・メールマガジン「LINE for Gov NEWS」
LINEを活用した自治体の取り組みや、行政DX推進に関する事例などを届けるメールマガジン。月2回配信される。
5・LINE for Gov OpenChat
自治体職員限定のコミュニティチャット。LINEで友だちになっていない人ともLINE上でトークができる、職員同士の意見交換の場。
6・Green Square
LINEのパートナー企業に、一斉に情報発信できるコンテンツ。「複数社の見積もりが欲しい」「過去の事例を知りたい」といった時に一括でのやりとりができる。2021年前半にスタート予定。
7・LINEからの情報発信(HP・LINE・YouTube・note)
「これまでのセミナー動画を見たい」「資料をダウンロードしたい」「他自治体の事例を知りたい」といった時に各チャネルで発信中の情報を受け取ることができる。
8・持ち運べる役所加速化プロジェクト
住民の利便性向上と行政の業務効率化を図るため、JPKIなどを活用した本人認証を伴う行政手続きを、自治体のLINEアカウントに実装する。2021年中にスタート予定。
LINEではこれらのプロジェクトを通して、全国のスマートシティ推進をバックアップしていきます。
スマートシティ実現のためには、どこか1つの自治体が発展すればいいというわけではなく、これまで以上に自治体同士がつながって、住民向けのサービスを検討し、充実させていく必要があります。このプログラムには令和3年3月時点で397自治体が参加しており、現在も募集継続中です。お気軽にお問い合わせください。
第3部:「LINE WORKS と仕事革命~行政での事例」
前述のLINEスマートシティPPには、令和3年4月からLINE WORKSも協働で参加する予定になっている。そもそもLINE WORKSとは何なのか、そして両社のタッグでどのような価値が生み出されるのか、LINE WORKSの廣瀬さんに詳細を語っていただいた。
<講師>
LINE WORKS 廣瀬 信行さん
プロフィール
アクセンチュア、マイクロソフトと技術・経営コンサルティング畑を歩む。同時に育児専門サービス企業の起業経験もあり、多角的に経営・事業運営を経験。現在LINE WORKS エバンジェリスト・地方創生 アーキテクトマネージャとして活動中。
■法人・自治体のニーズに応えた独自サービス
LINEは、ご存知の通り広いユーザーに向けてサービスを提供していますが、LINE WORKSは「法人としてクローズドな環境で管理をしたい」、「独自のセキュリティを構築したい」といった要望に対応するため、グループの兄弟企業として立ち上げた会社です。従って、プログラムもアプリの使い方も、全く異なります。
導入時は、まず契約を交わして、こちらから環境を提供し、組織内で管理者を決めていただきます。管理者は利用するメンバーを決め、それ以外の方は利用できない環境が構築されます。許可を受ければLINEと接続してチャットをすることも可能です。また、プランによって異なりますが、カレンダーや掲示板、自動集計アンケートなどの機能も提供することが可能です。
実際に、行政でLINE WORKSを活用している事例は多々ありますが、主に以下4つのカテゴリーに分けられます。
この中で、今回は愛媛県の取り組みに近い(1)の災害対応をピックアップしてお伝えします。
■大阪市、浜松市での取り組み
愛媛県での取り組みは、災害対応でのICT活用という面で非常に重要なトピックです。大阪市においても類似の事例があります。
大阪市では、災害時の情報共有に備えて、市長・副市長、区長、局長のホットラインとしてのLINE WORKS連絡網を築いており、そこで交わされたやりとりを、第三セクターの会社を通して内容精査の上、ツイッターで公開するという有機的な連携を行っています。
この体制により、いざという時に多人数で同時コミュニケーションができ、情報の錯綜、時系列の乱れなどといったことも抑止できると思われます。さらに同市では、アイコンの視認性を高めるなど独自のカスタマイズを加える、平時においてもこの連絡網を活用する、といった工夫も行っており、職員のリテラシー向上、習熟度アップに努めています。
また、浜松市では「災害医療ネットワーク」という活用も行われています。平成30年の台風24号により起きた大規模停電の際、一部医療機関では電話も通じないという状況になりましたが、LINE WORKS上で市と各医療機関、有識者などがつながり、全体の状況を把握して、緊急度の高い医療機関の早期通電復旧を実現しました。
■LINE とLINE WORKSは最強タッグ!
以上、LINE WORKSの行政における活用事例を一部紹介しました。こうした事例は全国で増え続けていますが、LINE WORKSに加え、LINEも活用することで、災害対策の範囲は大きく広げられます。
一例として、スマホ充電サービスの管理運用があります。災害時にスマホの充電先を求めて被災者が長蛇の列をつくる風景は度々報道されていますが、こうした事態を避けるための仕組みです。
具体的には、スマホを超高速で充電できるバッテリーを自治体で導入し、地域内でどの充電拠点に空きがあるか、保守などの対応が必要なところはあるか、といった情報をLine Worksで共有。住民にはLINEを通して情報を発信し、空きのある拠点に指定された時間に行くと充電サービスが受けられる、というものです。
上記はあくまでも一例ですが、このLINE WORKS×LINEのタッグに加え、kintoneのようなデータベースを組み込むことで、より高度なプロセス処理とデータ蓄積が可能になり、行政サービスの幅も広がります。何より大きなメリットは、システムをゼロから構築するのに比べて大幅なコスト削減が見込まれるという点です。
今後も、各自治体からの声を参考に様々なアイデアを生み出していきたいと考えているので、こうした廉価なIoTをぜひ活用いただければと思います。
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