ジチタイワークス

三重県

VRで発達障害の子どもたちが学ぶソーシャルスキルトレーニング。

特別支援学校でVRトレーニングの効果検証にチャレンジ。

三重県では、発達障害の小・中学生を対象に、VR(バーチャル・リアリティ)を活用したトレーニング支援プログラムを実施している。トレーニング効果の検証や新しいコンテンツの提案などを目的として、VRコンテンツの開発企業と共同で取り組むものだ。導入先は三重県立かがやき特別支援学校あすなろ分校。公立の特別支援学校でのこうした取り組みは、全国の自治体で今回が初めてだという。三重県教育委員会に取材し、特徴や効果、今後の可能性などについて語ってもらった。

※下記はジチタイワークスVol.13(2021年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]三重県

学校生活をVRでリアルに再現、ソーシャルスキル向上を図る。

かがやき特別支援学校あすなろ分校は、県立子ども心身発達医療センターに併設されている。在籍するのは同センターの児童精神科に入院している小・中学生であり、その多くが、地域の学校での適応が困難な状況にある。ここでは、医療や福祉機関と連携した教育環境の中で、発達障害の子どもたちに多角的な支援を提供している。

「あすなろ分校の児童の多くは学校や家庭での対人関係に課題があり、その改善にはSST(ソーシャルスキルトレーニング)※が効果的だと考えています。『ジョリーグッド』さんが開発したVRによるSST『発達障害支援プログラムemou(以下、エモウ)』の紹介を受けたとき、教育活動に有効に活用できると考えました」とあすなろ分校の石倉さんは話す。エモウは、ソーシャルスキルを必要とする様々な場面を、専用ゴーグルを通してVRで再現できる。

「それまでのSSTはイラストや教員とのロールプレイによるものでした。しかし“○○先生が演技している”ことが気になって、子どもたちが状況を現実社会に置き換えづらかったり、相手の表情の読み取りまで十分に指導できなかったりする課題がありました。VRであれば状況に入り込むことができ、繰り返し再現することで場に適した対応ができるようになるのではと考えました」と石倉さん。

※対人関係はじめ社会生活における技能を高める方法のことで、社会生活訓練とも呼ばれる

受け答えや積極性に変化があり、トレーニング効果に期待。

当初は子どもたちが混乱しないか不安もあった。しかし実際に使用してみると、様々な反応が見られ、普段は難しかった受け答えや自己紹介がエモウを利用することでできるようになったり、積極的にロールプレイを楽しめるようになったりする子もいた。一方、いわゆる“VR酔い”を起こすなど、VRになじみにくい子もいたという。

こうしたトレーニングのほか、教育活動や専門の治療を通して子どもたちは徐々に変化していく。子どもたちの成長に応じて、地域の学校をトライアル的に体験するなど、退院に向けて少しずつステップアップ。退院後に地域の学校でうまく人と関係性を築けるか、そのトレーニング効果に期待が高まっている。三重県教育委員会の遠藤さんは「エモウの豊富な状況設定はとても助かる、と先生方から聞いています。1~3分の短いスキットで、100以上のコンテンツがあります」と話す。

VRの活用は地域の学校でも一定レベルの特別支援を可能にする。

今回の取り組みは効果検証を目的としているため、現在三重県内の公立学校では同校だけに導入されている。遠藤さんは「今後、地域の小・中学校にもエモウを広げたい」と話し、その展望を次のように続ける。「小・中学校に在籍する発達障害のある子どもたちも、適切な指導が受けられるようにとの考えからです。特別支援学校と同様のプログラムを子どもたちに提供できることは、発達障害の専門知識をそれほど多く持たない教員にとって心強いことです。あすなろ分校での取り組みを知ってもらい、拡大することで、小・中学校の教員や子どもたちにも障害に対する理解が進み、お互いを尊重し合える共生社会に歩みを進めることができるでしょう」。VRが、多様化する教育現場を助けるツールとして幅広く利用される未来が近づいてきている。

左:三重県教育委員会事務局特別支援教育課     遠藤 純子(えんどう じゅんこ)さん
右:三重県立かがやき特別支援学校あすなろ分校 教頭 石倉 裕晃(いしくら ひろあき)さん

「特別な支援を必要とする子どもは増えており、医療・福祉・教育の強固な連携が欠かせません。多様な学びの1つとしてVRの導入を推進していきたい。」

課題解決のヒント&アイデア

1.連携する医療機関と情報共有し協力体制をしっかりと敷く

あすなろ分校は、子ども心身発達医療センターと連携しながら日々の教育活動を進めている。そこでまず、センターの職員に新しい取り組みへの理解を求めるため、開発企業によるVRプログラムのデモンストレーションを実施した。

2.特別支援学校がモデルとなってVRを活用したSSTの普及を促進

特別支援学校で一定の有効性を検証したVRプログラムが地域の小・中学校で広く利用できるようになることで、発達障害のある子どもたちの、対人関係スキル向上の一助になることを期待し、運用を進めた。

※画像提供:ジョリーグッド

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