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【相談室】職場のマニュアルに載っていない事態には、どう対処すればよいでしょうか?

「何でこうなってるの?」「もっとこうならいいのに」毎日仕事をする中で、頭をよぎる疑問や悩み…そんな「モヤモヤ」を、一歩先ゆく公務員の皆さんに解決して頂く企画。

第14回は、多くの公務員を悩ます「法律の条文」を読み解くコツについて、佐倉市役所の塩浜克也さんに寄稿いただいた。

【今回のモヤモヤ】

国の通知や職場のマニュアルに載っていない事態には、どのような対処をすればよいでしょうか?

日々、業務にあたっていると、マニュアルに載っていない事態に遭遇することがあります。どこから手を付けていいのか迷うこともしばしばです…。


どこから手を付けてよいかわからなくても、手だてを見つけることはできます。以下を心がけてみましょう。

・事態を法的な視点から整理する。
・法的な課題解決の手段を探る。
・課題解決の際は、ロジカルな視点を忘れない。

公務員の仕事と法律

「法律による行政の原理」という言葉があります。住民や事業者の権利義務に影響を与えるような特別の権力を持つ行政は、民主的なルールに基づいて作成された法律によらなければいけない、という考え方です。

しかしながら、様々な状況の対応しなければいけない行政の第一線では、国の通知や職場のマニュアルにも載っていないような事態が生じることも少なくありません。

事態を法的な視点から整理する

解決の手だてを探す前に、法的な視点から事態を整理する必要があります。

①法律の問題であるのかそうでないのかを確認する

行政の仕事が法律に基づくとはいっても、仕事上で問題が生じた場合、それが法律の問題であるかは注意する必要があります。

例えば、小学校で開催される運動会に対し、近隣住民からうるさいと苦情があったとしても、検討すべき事項は、騒音の受忍限度や賠償額、過去の判例などではなく、一時的なイベントに際して地域の理解を求める行政の姿勢であるはずです。

窓口での苦情も、法律の内容よりは、説明不足による認識の齟齬等に起因とすることが少なくありません。そのような場合は、まず丁寧な説明を行うことが必要です。

②「何がわからないか」を明らかにする

「何がわからないか」が明らかになれば、その内容について参考書を調べたり、詳しい人に聞いたりすることができます。逆にいえば、知識がないこと自体は、それほどに大事なことではありません。

例えば、役所への申請について問題が生じた場合、①今回は通常の場合と何が違うのか。②違うことによって何が生じたのか。③生じた問題の原因は何か。④問題を解決する手段はあるかなど、事案を分解して、一つずつ「わかる」「わからない」を確認していくことになります。

法的な課題解決の手段を探る

まず調べてみるのは、業務に関する参考書です。「逐条(ちくじょう)解説」や「質疑応答集」と呼ばれる参考書には、実務でよく生じる疑問に対する説明が掲載されています。

法律は、暗記科目ではありません。もちろん最低限の知識は必要ですが、「何に書いてあるか」「どこに資料があるか」を知っておくことは、それ以上に重要です。

発生している事態にそのまま当てはまる記述がなくても、「何がわからないか」を把握していれば、参考になる資料を探せることがあります。

なお、課題解決の手だてを探っても、現行の法律や予算上の制限によりご自身が所属する役所では行えないものもあるでしょう。

しかしながら、「できないこと」を確認することは、「できること」を見つけることと同等に重要です。そのような場合は、次善の策を検討する契機になるからです。

法規担当への相談のポイント

集めた資料や情報だけで判断がつかない場合は、役所の法規担当に相談することもあると思います。その際に気を付けるポイントは、以下のとおりです。

①「どうしたらいいでしょうか」と聞かない

行政が解決すべき課題を認識しているのは、その業務を担当している部署の職員であり、その意思決定のラインは、長等の執行機関のトップから担当部署に垂直に存在するからです。 

②相談内容を整理する

相談を行う際は、①経過を端的に説明し、②課題となっている事項を整理の上、③解決したい方向性を示す必要があります。

可能であれば、④想定される解決のための手段が加わると法規担当は助かります。法規担当も全ての法律に詳しいわけではないからです。

なお、説明に当たって、明確な事実関係と事態からの推測は、しっかり分けて行いましょう。

③相談内容は正直に

事務上のミスや、ミスに至らないまでも不十分な対応が問題の端緒となったような事例では、口が重たくなることもあるかもしれません。

でも、事実を不正確に伝えてしまうと、結果的に助言が無意味なものになるばかりか、問題がさらにこじれる場合があります。相談は、正直に行いましょう。

課題解決の際は、ロジカルな視点を忘れない

課題の解決に際しては、ほかの自治体の事例がそのまま効果を発揮するとは限りません。事案ごとの課題について、ロジカルな視点から事態を分析し、対処を検討することが必要です

図でバルーン状の表現をしている現在の事象(①「困った!」)には、必ず原因があるはずです。発生している事象はほかの自治体と同様に見えても、その背景となる要因はそれぞれですから、改めて原因を探らなければいけません(②「なんで? なんで? なんで?」)。

判明した原因を解決すべき方向性(③「どうなれば」)が見えた時点で、ようやく現在とるべき手段(④「こうしよう!」)が見えてきます。効果を考慮しない手法の選択は、役に立たないばかりか害にもなりかねません。

法的な解決手段の検討は、私たちにロジカルな視点を与えてくれます。

本稿の内容が読者の皆さんの、日頃のお仕事の参考にいささかでもなれば幸いです。


塩浜 克也(しおはま かつや)

1968年生まれ。1997年佐倉市入庁。資産税課、財政課等を経て、2016年から現職。
著書は、『自治体の法規担当になったら読む本』(学陽書房、2014年、共著)、『法実務から見た行政法 エッセイで解説する国法・自治体法』(日本評論社、2014年、共著)ほか多数。

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