2017年4月、福岡県小郡市のトップに就任した加地良光市長。テレビ局時代の経験を生かし、
「つながるまち小郡」をテーマとして、市民との対話や官民連携に力を入れてきました。1期4年間の任期満了を前に、これまでの市政を振り返り、その成果や大切にしてきたこと、今後の展望までじっくり伺いました。前編と後編に分けてお届けします。
(前編はコチラ)
市民との対話からニーズをつかみ、市政に生かす
―日頃からビジネスの芽を探す一方で、小郡市の中でマッチングするためには、市の現状や課題をしっかり把握しておく必要がありそうです。
はい、普段からアンテナを張っていて、例えば新しい店ができたら見に行くようにしています。お店の方に「なぜここで店を始めたのか」といった話を聞くと、市場性やまちの魅力など、何に可能性を感じて出てきてくれたかが分かります。どのような環境を整えれば、さらに新しい動きが生まれてくるのかというヒントになりますね。
―市民の皆さんとの対話では、どんな話がありますか?
幅広い年代の方々から、本当にいろいろなお話を伺いますよ。うちの前の溝を何とかしてほしいという要望から、小郡の農業をどうにかしたいという大きな話まであって、勉強になります。良いことも辛いことも全てお聞きして、その場でお返事しますし、もし私が分からなければ職員に聞いて必ず回答を伝えます。
いわば御用聞きで、どこにどんなニーズがあるかしっかり捉えておけば、向かうべきところが見えてきて、次の政策をつくるときにも大いに役に立ちます。
市民との対話の様子
―小郡市民は加地市長を身近に感じていることでしょう。
「気軽に話せる」と言ってもらえるのは、とてもありがたいなと思います。私が皆さんの意見を聞いているので、職員も聞くようになったと感じています。
私たち自治体は、誰に向かって仕事をしているのか。当然ながら市民の皆さんであって、政策を考えるときは市民を起点にして、市民が便利になるためにはどうしたらいいのか、市民がビジネスチャンスを得るにはどうしたらいいのかなど、全て一つの基準で考えていけば、そんなに難しいことはないと考えています。
いつでもウェルカムな雰囲気の市役所にしたい
―就任時から、市民との対話を大切にされてきました。
市民との対話がマニフェストの1番ですから。こんなに難しい時代に、対話なしでいろいろな問題を解決するのは難しいと思っています。昔のように自治体に豊富な財源があり、何でも解決するという時代ではなくなりました。
様々な課題を解決するために、民間組織と共に、市民の皆さんにも参加してもらわなければなりません。そのときに対話をしていなければ、「お願いします」とは言えないですよね。自治体に要望を出すだけでなく、皆さんに自分事として考えていただき、「じゃあ、私たちはここまでやりますから、〇〇さんも一緒にやってください」と一緒に解決していけるパートナーを増やさなければいけません。
そのためには対話が最も重要で、企業や市民との連携は対話から始まると思っています。私たちには課題があり、相手が何を持ち何を求めているかが分かれば、これとこれを合わせましょうとなりますから。
市民と市長の対話集会
―そのためにオープンにされていると。
私自身はオープンに話すようにしていて、小郡市は話してくれるし聞いてくれるし、取り組みが前向きだという雰囲気を作っておこうと意識しています。
実は私、前職で一時期営業部に所属して、自治体に対してテレビを使ったプロモーションの提案をして回ったことがあります。そのとき、自治体の対応は真っ二つに分かれました。いくら話をしても全く受け入れられない自治体やトップがいれば、とても気さくにこちらの提案に突っ込んだ話をしてくれて、一緒にさらに魅力的な提案に仕上げてくれるような自治体やトップもいました。その経験から、自治体の雰囲気はとても大事で、いつでもウェルカムという雰囲気を醸し出すような市役所にしたいと強く思ったんです。
自治会バスや移動販売車など、地域主体の取り組みが好評
―これまでの官民連携の中で、ほかの自治体にも参考にしてもらえそうな事例があれば、ぜひ教えてください。
最近の例としては「移動販売車」があります。ある地域でスーパーがなくなり、高齢者が買い物するのに困るという状況になりました。いわゆる買い物難民という課題です。すると、野菜なら売るほどあるという農家の方や、協力しますという方が出てきて、地域のコミュニティセンターで毎週水曜の午前中に市場を始めました。とれたて野菜が集まり、ほかの地域からも買いに来られるほど好評だったんです。
また、コミュニティセンターまで行くのも遠いという方もいることから、地域の皆さんは移動販売も考えていました。野菜だけでなく調味料なども必要だからと、スーパーの「西鉄ストア」さんに相談して、販売させてもらうことに。行政が買った移動販売車に、西鉄ストアさんのものや、農家さんの野菜を積んで、運転や販売は地元の皆さんが担当されています。
これはまさに地域の課題を解決するための理想的な形だと思っています。地域の皆さんが主体となり、行政が関わり、民間にも参加いただく。この取り組みは大変好評で、他の自治体からも視察に来られました。
移動販売車
―確か小郡市には自治会が運行するバスもありましたね。
そうなんです、自治会バスは2011年に始めた取り組みで、当時は会社員だった私も立ち上げに関わりました。
私が地域デビューをしたのは、妻がクジで自治会の夏祭りの実行委員長を引いてきたのがきっかけでした。それで地域の方々と仲良くなり、「民間の路線バスが廃止されて、すごく困っている」という話を受けて、みんなで仕組みを考えました。そして、駅と駅を結ぶ自治会バスを運行することになり、途中のショッピングセンターが車を提供してくださって、地域の方々が運転を担当されています。こちらもたくさん視察に来られたんですよ。
皆さんとのつながりを活力に、まちづくりを進める
―「今やらないと遅れてしまう」という危機感を持ち、市長に就任されてからもうすぐ4年が経ちます。変わってきたという手応えはありますか?
職員の皆さんにとって、今までの仕事の仕方や考え方を変えてもらうのは大変だったと思います。でも、この4年間で体質改善ができて、雰囲気も変わり、これからいよいよ本当にいろんなことが動いていくと感じています。
―最後に、今後の展望を聞かせてください。
私のテーマは、これからも「つながるまち小郡」です。市民と市民、行政、民間がつながることで活力が生まれ、様々な課題を解決する力の源泉になります。皆さんと一緒にまちづくりを進めていくために、自治体には人と人をつなげ、民間の力を呼び込むプロデューサー的な役割が求められていると考えています。
人口減少や自然災害、コロナなど難しい課題を乗り越えていくために、さらに皆さんの力を活かし、積極的に動ける自治体となり、次の世代へとつなげていきたいと思います。
加地 良光(かじ りょうこう)
1964年11月13日生まれ、東京都出身。埼玉大学経済学部卒業後、NBC長崎放送入社。その後、TVQ九州放送にてアナウンサーなどを経験し、2017年から小郡市長に就任(1期目)。
「つながるまち小郡」をテーマに、市民との対話を中心に市民起点で考え、まちづくりを進めるという市政運営に取り組む。
マニフェストに掲げる施策の中から、重点的に取り組む事業をピックアップし、47施策にまとめた「つながるまち小郡アクションプラン」の実現に向けて邁進中。
2020年11月には、地方創生時代における優れた政策提言の向上に資する取組を表彰するマニフェスト大賞(マニフェスト大賞実行委員会主催)において、第15回マニフェスト大賞エリア選抜<九州・沖縄エリア>に認定された。