「何でこうなってるの?」「もっとこうならいいのに」毎日仕事をする中で、頭をよぎる疑問や悩み…そんな「モヤモヤ」を、一歩先ゆく公務員の皆さんに解決して頂く企画。
第13回は、「議会が近づくたびに豹変する上司」の謎について、所沢市役所の林誠さんに寄稿いただいた。
【今回のモヤモヤ】
「どうして議会となると、管理職の面々はあんなにピリピリするのでしょう?」
普段は温和な上司が、議会となると急にピリピリし始めます。そっとしておけばいいのか、それとも、何かできることはあるのでしょうか…。
普段のんびりしているように見える上司が、議会になると急にピリピリし始めることがあります。あまり議会に関わっていない若手職員からすると、違和感を覚えるかもしれません。
しかし、議会対応には管理職たちが気を張りつめて臨まなければならない理由があるのです。裏方として、しっかり支えてあげましょう。
議場での言葉の意味
「議場での言葉は重い」という表現を聞いたことがあると思います。これはどういう意味でしょうか?
二元代表制のもと、同じく市民の代表である議員と首長が議論を交わす場ですので、その言葉が重いものであることは想像がつきます。首長の言葉は、政治家としての言葉であるだけではなく、その自治体を代表しての言葉であると受け取られます。
さらに、部長等の管理職も執行部側の代表として発言しますから、組織の総意としての言葉と見なされます。つまり、答弁者の言葉が、その自治体を背負う形になるのです。重みがあって当然です。
そう考えると、管理職の面々に「間違ったことを言うわけにはいかない」というプレッシャーがかかっていることも想像できるのではないでしょうか?個人的な見解としてならいろいろなことが言えますが、少なくとも執行部にとっては、議場はそうしたことを発言する場ではないのです。
議場の発言は、議事録として永久に残されます。その場限りの言葉というのはありえないのです。
発言がそのまま、自治体の方針を示すことになる
例えば、条例の解釈について、
「第3条にいう『事業者』には、税を滞納している事業者も含まれるのか?」
といった質問を受けたとします。
そこでどう答えるかによって、その条例の今後の運用が規定されます。含まれると答えれば、その後ずっと含まれることになりますし、逆もまたしかりです。
予算においても、
「この補助金の対象には、在住だけではなく在勤の人も含まれるのか?」
といった質問にどう答えるかによって、対象者が明確化されます。
「議場では、ああ答えたけれど、実際の運用は別」
というわけにはいきません。議場で答えた内容が、正式な解釈として固定されるのです。
また、一般質問において、
「どこそこに橋を架けるべき」
と問われて、
「前向きに検討いたします」
と答えたとしたら、実際にその方向で仕事を進める必要が出てきます。
かつては、「役所が『前向きに検討する』と言ったら、それは実際にはやらないということだ」といったことがまことしやかに語られたものですが、今はそうではないでしょう。
議場での言葉には責任を持つ、というのが基本であり、当たり前の姿だと思いますが、執行部にとってはより難しい時代になったと言えるかもしれません。
議場は議員の土俵
若い人の中には、執行部側の議会での答弁に不満を持っている人もいるかもしれません。
「なぜ、もっと言い返さないのか?」
「言われっぱなしに見えるのは残念」
といった感じでしょうか。
しかし、議場は議員の土俵なのです。執行部側が思うように発言をするのはとても難しいことであると言わざるを得ません。
基本的に執行部側は、質問に答える立場です。首長には、所信表明演説などの場で自身の政策や考え方を訴える場面が用意されますが、一般の職員は、聞かれたことに答えるのが役割です。
反論したくなることがあっても、そもそも「反問権」が認められていなかったり、認められていてもかなり限定されたりしている場合がほとんどですから、おかしいと思っても言い返すことは基本的にはできません。
つまり、執行部側は、いわば「専守防衛」という立場にならざるを得ないのです。
事務方で答弁者を支えましょう
議場や委員会室に入ると、部長や課長といった答弁者は、質問者側の土俵で質問に答え続けることになります。やり直しの利かない一発勝負ですし、準備不足は言い訳になりません。
一般に、質問される項目などは事前に知らされているはずなので、あらかじめ用意しておいた内容を読み上げればいいだけではないか、と思われるかもしれません。しかし、議会は水物です。展開次第で、どんなところに話が及ぶか予測がつきません。そんな中で、言葉を選びつつ、瞬時に答えていかなければならないのです。答弁者は大変です。
事務方の皆さんは、答弁者を支えて上げてください。答弁者たる上司の面々は平気そうな顔をしているかもしれませんが、本当は結構不安な思いをしているはずです。
さらに、しっかりした準備のもと、意味のある議論をすることができれば、住民サービスの向上につなげていくことも期待できます。
答弁者を支え、議論の質を高めていくことが、事務方の皆さんの重要な使命なのです。
林 誠(はやし まこと)
所沢市財務部長 中小企業診断士、通訳案内士。
1965年滋賀県生まれ。民間企業に就職後、所沢市役所に転職。一時埼玉県庁に出向。市では、総務部門、財政部門、政策企画部門、商業振興部門に所属。
役所内で経済を面白おかしく勉強するサークル「経済どうゆう会」をかれこれ200回以上開催。
著書に、「イチからわかる! “議会答弁書"作成のコツ」「9割の公務員が知らない お金の貯め方・増やし方」「どんな部署でも必ず役立つ 公務員の読み書きそろばん」など。