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【セミナーレポート】変わりゆく災害リスクに備える ~過去の災害経験からこれからの防災を考える~【Day1】

令和6年、能登半島を襲った地震と豪雨。自然災害が激甚化する中、今後は南海トラフ地震や首都直下地震などの発生も警告されており、自治体にも様々な対策が求められています。今回のセミナーでは、能登半島地震の応援に入った職員、豪雨で被災した球磨村の職員をはじめ、災害対策ソリューションを提供する企業の担当者が登壇。今後の備えについて知見を共有しました。

概要

■タイトル:変わりゆく災害リスクに備える ~過去の災害経験からこれからの防災を考える~【Day1】
■実施日:2025年2月19日(水)
■参加対象:自治体職員
■開催形式:オンライン(Zoom)
■申込者数:161人
■プログラム:
第1部:災害経験を踏まえた各種計画の見直しのポイント
第2部:災害時に飛び交う膨大な情報を効率よく整理!MAXHUBで意思決定の迅速化と防災DXを実現
第3部:AIで進化する水防対応~職員の負担軽減と効率化~
第4部:令和2年7月豪雨災害を振り返り今伝えたいこと。
第5部:防災・減災ソリューション「SpeeCAN RAIDEN」のご紹介

災害経験を踏まえた各種計画の見直しのポイント ~これまでの被災地から学ぶ庁舎レイアウトの変更~

本セミナーの第1部は、被災地での活動経験が豊富な、いなべ市の防災担当職員が登壇。能登半島地震での災害対応現場で見た“リアル”と、そこで感じた課題、教訓などを共有してくれた。

【講師】大月 浩靖 氏
三重県いなべ市
総務部 防災課 課長補佐

地域防災計画の考え方と、能登半島地震での事例。

私からは、地域防災計画の中で、災害予防や災害応急対策、復旧に関する事項別の計画をどのように作り上げていくのか、またそれに付随した受援計画など、様々な業務計画をどうつなげていくのかについてお伝えします。

まず地域防災計画ですが、この計画と他各種計画の位置付けについては、全体のマスタープランが地域防災計画にある。その中で上図①の「業務継続計画(BCP)」は、大規模災害に備えて内部資源をいかに活用するか、いかに円滑にまわして災害対応業務をするのかという計画です。あとは各課それぞれの業務があり、②の「業務マニュアル」は本当に必要なこと、自分たちがどう行動し、どのような活動をしていくかという詳細なマニュアルです。

そして③の「受援計画」。これは内部資源と外部資源を活用して、円滑に災害対応をする仕組みです。この3つをいかに運用していくかを考え、大規模災害に対して事前に備えていく必要があります。また、地域防災計画では、今までの被災地で課題になった部分をしっかり追加し、修正していくことが大切です。この地域防災計画を体系図で示すと、以下のようなイメージとなります。

ここで、避難行動要支援者名簿や、個別避難計画の対象者をどうするのか、という問題について。各自治体では、防災でやるのか福祉でやるのか、総合的にやるのかといった話をしていると思いますが、実は災害対策基本法の中に、避難行動要支援者名簿の作成にあたっては「地域防災計画に定めるところにより」とある。要は、避難行動要支援者名簿、個別避難計画は、国が定めるものもありますが、地域防災計画の中へ自由に反映することができるのです。したがって、地域防災計画をしっかり読み解くということも重要になります。

また、地域防災計画の所掌事務は細かく記載するべきなのか、という問題もあります。所掌事務の記載内容が大雑把だと災害業務が意識できなくなり、逆に細かくすると未記載の業務が出た場合に「その業務はうちではない」とか「そちらの管轄では」といった押し付け合いが発生しがちです。

では、能登半島地震においてはどうだったのかというと、実は発災直後から初動の部分はあまり所掌事務にとらわれず、参集した人が順番に部局関係なく対応していました。所掌事務として自分たちの部局単位で行動しはじめたのは、約1週間後です。やはりこれまでの地震対応の経験があるので、ある程度災害業務が頭の中に整理されていて、「この業務はうちの管轄だろう」といったイメージがついていたので、前述のような押し付け合いはなかったという印象です。

いずれにしても、積極的に被災地派遣をすることで、被災地でどのような業務がどの部局で行われているのかを目にしてくることも必要だと思います。

経験して分かる、庁舎のスペースと流動的レイアウトについて。

次は受援計画について。この計画の中で意外と目立つのが、自治体において「スペースの確保」が整備されていないということです。今回の輪島市の現場を例に、整理してみます。

輪島市には新庁舎と旧庁舎があるのですが、その中でオペレーションルームなどは赤い色の新庁舎にあり、青の部分は全て旧庁舎です。これらを総合すると、災害時にはかなりのスペースが必要になります。さらに、発災後は時間の経過と共に、執務室も変化していくのです。

例えば同市の場合では、庁舎に緊急避難してきた住民がいて、対口支援のリエゾンが入り、DMATが入る。同時に被災者再建支援窓口ができて、罹災証明の受付窓口ができるが、この場所は寒いとか、プライバシーが確保できないといった理由でレイアウトを変えたり場所を移したりしました。

このように、庁舎内で十分なスペースの確保が必要であるのと同時に、時間の経過や状況にあわせて配置が変化していくことも知っておく必要があります。私も、能登半島地震での経験をもとに、いなべ市の広域受援計画を再整理しました。

こうしたことから、やはり他の被災地域の事例をしっかり学んでおくことが大切だといえます。そして地域防災計画のアップデートをしていく。地域防災計画は本当に大変な業務ですが、それでもやはり毎年見直しをしていくことは重要です。

あとは、地元企業といかに協力し合うか。民間企業には資源があり、個々の強みもある。それらをあらかじめ確認しておき、リスト化していくといいと思います。事前に協定を結んでおくのも1つの方法です。

最後に、災害時には窓口業務が増大します。まず始まるのが死亡届、火葬許可。次に罹災証明や相談窓口。仮設住宅や住宅の応急修理、公費解体と進んでいき、人手も必要です。こうした窓口業務を基本に災害業務が進んでいくということを念頭に置いて、地域防災計画や受援計画に反映いただければと思います。

災害時に飛び交う膨大な情報を効率よく整理!MAXHUBで意思決定の迅速化と防災DXを実現

第2部では、会議用製品を取り扱う企業の担当者が、災害対策ソリューションを紹介。災害発生時に飛び交う情報をスマートにまとめ、共有や発信を行うインタラクティブホワイトボード(電子黒板)の有用性を伝える。

【講師】橋本 正好 氏
ナイスモバイル株式会社
東京支店 営業部 マネージャー

カメラ、マイク、PCなどの多様な機能を1つのボードに集約。

当社はタッチパネルの輸入販売、関連製品の企画開発、製造サービスを行っている会社です。様々な会議用製品を取りそろえるブランド「MAXHUB」を日本で初めて取り扱った正規販売輸入元でもあります。今回は防災DXに貢献するオールインワンのインタラクティブホワイトボード(電子黒板)を紹介します。

災害発生時には、被害状況や避難所の情報、ライフラインの復旧情報など、膨大な情報が飛び交います。こうした情報を効率よく整理して、迅速に対策を講じることが極めて重要です。

この情報を集約する災害対策本部で見られる風景としては、モニターがあって、WEBカメラがついて、投影のためのPCにケーブルをつなぎ、ホワイトボードを大量に用意して……といったものがありますが、これらの環境を1つにまとめたのがMAXHUB「All in One Meeting Board」(以下、ミーティングボード)です。情報共有や意思決定のスピードを向上し、被害を最小限に抑え、効率的な支援活動を実現し、防災DX推進に寄与できると考えています。

ミーティングボードにはWindowsOSが入っており、遠隔地との連携、WEB会議なども可能です。ホワイトボードや模造紙代わりに使えますし、過去のノウハウのデータ化などもこれ1台で解決できます。

一見すると普通のモニターに見えるのですが、タッチ式のディスプレイになっています。このディスプレイの中にWindowsOSが入っているので、PCと同じように使うことができるというのが特徴。そのメイン機能は大きく3つに分けられます。

災対本部の活動をサポートする3つのメイン機能。

1つ目が「WEB会議」です。普段皆さまが使っているようなWEB会議ツールである、Zoom、Teams、Google MeetによるWEB会議に参加できます。WEB会議に必要なカメラ、マイク、スピーカーが本体に搭載されているため、すぐにWEB会議への参加が可能です。

2つ目が「プレゼン機能」。通常、PCの資料を大型モニターに投影する際はHDMIケーブルで接続することが多いと思いますが、ミーティングボードではワイヤレスドングルがHDMIケーブルの代わりになります。PCに挿して1タップで投影が完了するので、使い方も非常に簡単です。また、PCからもミーティングボード側からも画面操作が可能で、投影した資料の上から文字を書くこともできます。災害対策のシーンでは、例えばGoogleマップを開いて、火災の発生、道路の陥没といった場所の共有を可能にする機能です。

3つ目が「ホワイトボード機能」です。電子黒板として使うことができ、文字を書いて、色を変え、消したものを戻す・進むということも簡単にできます。書いたものを自由に動かしたり、コピーしたりすることも可能です。さらにスマホのように拡大・縮小でき、上下左右どこまでも書ける無限黒板として使うことができます。

画面上の情報は、保存した上で二次元コード化し、スマホなどの端末で読み取ってPDF形式で保存することも可能。書き込んだ災害情報をデータ化し、簡単に共有することができる機能です。

他にも便利な機能が搭載されており、その1つが画面分割です。ミーティングボード上で立ち上がっているアプリケーションを、最大4つまで分割して表示できます。マルチプルシェアという機能を使用すれば、ミーティングボードや他のMAXHUB製品に同じ画面を無線で複製することも可能。災害対策本部におけるより効率的な情報共有に貢献します。

これらの機能は、平時の会議・打ち合わせなどでも活用できるため、緊急時でもスムーズに使えるというところが強みです。1台で防災DXが実現できると考えています。

3つの自治体・団体における導入事例を紹介

ここからは、自治体の導入事例を紹介します。

まずは静岡市上下水道局です。同市では、令和4年9月の台風15号で被災した際、情報があふれる中で職員もパンク状態になってしまったそうです。その経験から、遠隔地と連動して、情報を1台で集約できる機能を評価、日常での活用もできるという点も含めてミーティングボードを導入されました。

直近では令和6年9月能登半島豪雨が発生した時、防災用のシステムをミーティングボードと連携させ、被災地域とのやりとりなどで後方支援に役立てたそうです。

次に北見市役所。こちらは総務課と災害対策課で、計3台導入済みです。画面分割機能を活用して、気象庁のデータを出しながらホワイトボードで情報を共有するなど、1台で情報を集約・共有していくという使い方をされています。

最後に大阪市港区役所です。災害対策訓練で情報を模造紙に書き出していたそうですが、刻々と状況が変わる中では効率的な情報集約ができないという課題があり、素早い意思決定やノウハウの蓄積をするためにミーティングボードを導入しています。

ミーティングボードはフェーズフリーに活用できるという点がメリット。2024年10月31日時点で自治体より300件以上の自治体にご導入いただいており、その他の自治体にも数多く問い合わせをいただいている状況です。ぜひ災害対策のDX化において、選択肢の1つとして検討いただければと思います。

AIで進化する水防対応 ~職員の負担軽減と効率化~

集中豪雨、ゲリラ豪雨、線状降水帯と、年々激甚化する水害。そのリスクに備えるにはより的確な予測と対策が必要だ。リアルタイム洪水予測システムを手がける事業者から、最新の水防対応と自治体での導入事例を解説してもらった。

【講師】山口 裕美子氏
株式会社構造計画研究所
エンジニアリング営業2部 インフラコンサルティング室 室長(防災DX担当)

過去・現在・未来のデータを駆使したサービスで水害リスクを予測。

水防対応での判断は、大雨警報や観測水位などを見ながら行っているかと思います。そうした状況の中、例えば「急な豪雨で水位が上がり、観測水位ベースでの判断だと時間的な猶予が確保できない」、「今後の水位変動を、他の業務にあたりながら判断するのは難しい場合がある」といった声も聞きます。

こうした課題に対し、洪水予測システムがあれば、現在の川の水位、観測値はもちろん、今後降る予報の雨量や周辺の情報をシステム上に集約し、川の予測水位を確認することができます。従来だと、現在の水位や、雨などの周辺情報を担当者が収集し、今後の状況を想定した上で判断しなければならなかったのに対し、システム上で現在の水位から今後どのように変わっていくか、直接的に見ることが可能になります。これによって、どれくらいの時間的猶予があるのか、準備に割ける時間がどれくらい残っているのか、といったリードタイムが可視化できるのです。

こうしたリアルタイム洪水予測システムとして、当社が提供しているのが「RiverCast」。完全クラウド型の洪水予測システムで、過去の雨量や水位をはじめ、上流の地点ならダムの放流量、河口付近なら潮汐の影響といったものをベースに予測モデルを構築します。その予測モデルに対し、現在の観測値と将来の予報雨量をインプットすることで、15時間先までの予測値をグラフ表示するシステムです。

自治体をはじめ、河川近くで工事を行う建設事業者や、民間企業にも多く利用いただいています。

このRiverCastの、機能的な特徴を紹介します。

過去データを使って予測モデルを構築するという点では、「学習範囲を超えた場合の予測精度に不安がある」という声をいただくことがあります。これに対しては、未経験規模の洪水も高精度に予測できるようなアルゴリズムを採用しており、過去データや学習範囲を超える事例でも的確な予測ができるものになっています。

また、「天気予報が外れた場合は水位の予測結果も外れてしまうのか」といった心配もあるかと思いますが、この問題については過去の天気予報のブレを予測モデルで考慮し、予測自体も幅を持たせた形で表示する標準機能があります。

これによって、例えば水防対応であれば水防団待機水位とか、氾濫危険水位といった基準水位、複数段階の基準水位それぞれに対して、超える確率がどれくらいあるのかという超過確率を提供することができるのです。

2つの自治体における事例と、避難所のスマートロックについて。

自治体の導入事例として、鶴岡市の事例を紹介します。同市では、令和2年7月豪雨で活用いただいており、氾濫危険水位の超過を8時間前に予測できました。その結果を受けて、地域防災計画における情報収集手段の1つとして採用されています。

同市には複数の庁舎があるので、庁舎間の担当者同士で同じ情報を見て、情報共有と判断をするという点でも活用いただいています。

また、藤枝市では市内の準用河川に水位計を設置し、普段からの河川監視に利用されています。水位計を設置する自治体は増えていますが、計測するだけでなく、蓄積されたデータを予測に活用していこうという取り組みとしてRiverCastを活用いただいています。

蓄積データが多ければ多いほど予測精度も上がり、次の一手に活かすことができるようになる。これまでは態勢確保のために長時間待機しなければならず、体力的・心理的な負担が大きかった部分も、DXで負担を減らせる。少ない職員でも高効率の対応が期待できるという事例です。

ここまでは洪水予測について紹介してきましたが、防災における“避難所開設”という観点で、当社ではスマートロックのサービスも提供しています。高岡市での導入事例を紹介します。

同市では、体育施設の鍵管理でWiFiを活用したスマートロックを利用いただいており、これを災害時には避難所開設に利用。担当職員に開錠用の暗証番号を伝えるだけで避難所開設が迅速に行えた、という事例です。

最新の取り組みとしては、地域住民への一斉配信を行う連絡システムとの連携も進行中です。例えば、「避難所が開設されました」という案内と一緒に、スマートロックでの開錠も連携させる、という仕組みも提供できます。

洪水予測、水位予測といった新しい技術を使うことで、少ない人員でも水防対応ができ、職員の負担も軽減できるソリューションを紹介しました。全国どこへでもご説明に伺いますので、ぜひご相談いただければと思います。

令和2年7月豪雨災害を振り返り今伝えたいこと。

令和2年の豪雨災害により、甚大な被害を受けた熊本県球磨村。当日、地域では何が起きていたのか。住民や役場職員の行動は。同村の防災管理官が、当時の記憶をたどりつつ、未経験の災害の恐ろしさについて伝えていく。

【講師】中渡 徹 氏
熊本県球磨村
総務課 防災管理官

わずかな時間で水があふれる…線状降水帯の恐怖。

球磨村役場の防災管理官です。令和2年7月豪雨災害から4年7カ月。あの日、村で何がおきたのか、役場はどのように対応し、住民はどのように命をつないだのか、全国で多発する自然災害に対して、防災・減災につなげることを目的として当時を振り返ります。

7月4日、それぞれの観測所では、観測開始以来最大の雨量を記録しました。雨は川を形成して低地部へ流れ込み、球磨川に集約。球磨川沿いには26の集落がありますが、そのほとんどが氾濫流にのみ込まれました。

気象庁は3日午後の段階で、24時間降水量を多いところで200ミリと予想し、注意喚起は行いませんでした。役場としても、危険性は認識していましたが、ここまでの大雨になるとは夢にも考えていませんでした。初動対応は下記の通りです。

3日23時25分、1回目の災害対策本部会議を実施。日をまたぐ頃から想定外の事態が起きはじめました。球磨・人吉地方の全域で時間雨量30ミリを超える激しい雨が降り続いたのです。

球磨川の水位は未明に水防団待機水位を突破。その後、1時間30分で3メートル18センチ上昇し、氾濫危険水位も突破しました。極めて危険な状態であり、万難を排すために住民に緊急安全確保を発令、あらゆる手段を尽くして身の安全を確保してもらうこととしました。

上図は令和4年9月の台風19号における増水の様子です。この時の最高水位は赤線の高さでした。計画高水位は点線の高さです。令和2年7月豪雨では、太い赤線の高さまで増水しました。

半日で村の様相が変わり、自然の爪痕だけが残された。

役場からの防災無線による呼びかけは、原稿が残っているもので8回、緊急安全確保以降は即興で放送し続けました。5時には緊急サイレン、5時30分には村長が自ら避難の呼びかけを行っています。

夜中の避難は、かえって危険を増大させる可能性があります。当時の夜明けは5時12分でした。「明るくなればまわりの状況が確認できるはずです。それまでどうか持ちこたえてください」など、言葉を選びながら放送し続けました。

当時の防災無線の状況は、村内に77基ある野外防災無線装置のうち、25基は緊急安全確保を発令したころから、土石流、水没、倒壊などにより使用できない状態に陥ったものと推測されます。

被害の状況について説明します。

上図は球磨村役場から見た球磨川の様子です。12時間で村の様相が一変しました。様々な漂流物が球磨川の上流域から流れてきて、橋にぶつかる音が今も耳から離れません。

人的被害では、25名が犠牲になりました。自宅で氾濫流にのみ込まれた溺死です。急激な増水のため、安全な場所への避難ができなかったものと思われます。

土石流被害も甚大で、球磨川の支流に大量の土石流が流れ込み、水路を変化させました。村内の道路は大量の土石流で埋め尽くされ、集落外への移動ができない状態。住民は集落内の安全な場所への避難を余儀なくされました。

また、孤立集落は解消するまで9日間を要しました。道路網の寸断、悪天候のためヘリによる避難に制限を受けたことなどが要因です。村外避難については、最大600名が長期避難を余儀なくされました。球磨村には大人数を安全に収容できる施設が乏しく、多くは村外の施設へ避難しました。

“想定外”の災害を経験した職員が伝えたい4つのこと。

豪雨災害を振り返り今伝えたいことです。

1つ目はコロナ禍の災害対応です。令和2年7月豪雨では、救助活動の進展に伴い避難者も増加しました。保健所などの支援を受けてミーティングを繰り返しながら、各避難所の感染症対策を段階的に充実させました。一部避難者には我慢を強いることになりましたが、1人の感染症患者も出さなかったことが最大の成果だったと考えています。

2つ目は、住民避難と公助による救助の実態です。

球磨村は災害常襲地帯であるため、ハード事業により住民の安全を確保してきました。このことは、皮肉にも正常性バイアスを上昇させる要因となり、住民の逃げ遅れにつながってしまいました。さらに、球磨村に通じる道路は国道が1本しかありません。このルートが寸断されたことで、自衛隊の災害派遣の到着にも時間を要しました。

3つ目は豪雨災害時に、防災無線は聞こえないということ。これは防災無線を開発した当時からずっと言われ続けていることであり、全国の被災現場でも毎回指摘され続けています。言い換えれば、解決策はない。「防災無線が聞こえているうちに避難する」と、発想を転換することが極めて重要です。明るいうちに、動けるうちに、防災無線が聞こえるうちに避難すべきなのです。

4つ目は、自分たちの命を自分たちで守ったという事例です。球磨村は災害常襲地帯であり、過去の経験上、高い防災意識を堅持しており、タイムラインの導入、村民防災ブロック会議による情報共有など、様々な取り組みを実施していました。避難に際しても、住民相互に声をかけあい、助け合いながら命をつなぎました。そして、安全な場所に集まった住民は、食料を持参し、助け合いながら救助を待ちました。

発災当時、多くの職員は道路網の寸断で登庁できませんでした。連絡手段もままならない状況の中、72名の職員のうち、53名が4日の朝から自らの判断で指定緊急避難場所などへ駆けつけて被災者対応を開始しました。

また、鳴りやまない電話対応に1日中追われました。朝礼・終礼は組織内に横串を通すこと、あるいは惨事ストレスへの対応に極めて有効でした。結果として職務離脱をする職員を最小限に抑えることができました。

このように、誰も想像していなかったことが起きる。それが災害です。国や県が実施するハード事業も万全ではありません。ソフト対策との併用が不可欠です。毎年のように全国で起きる災害の現場で必ず耳にするのは「想定外」という言葉。緊急事態に陥る前に、自分の意志で行動を起こせるかどうかで生死が分かれます。令和2年7月豪雨は、この現実を我々に突き付けました。

防災・減災ソリューション「SpeeCAN RAIDEN」のご紹介

災害発生時は、情報の迅速で確実な伝達が住民の命綱になる。しかしリソース不足に悩む自治体にとって、これを実現するのは簡単ではない。防災ソリューションを手がける企業の担当者が、マルチチャネル・ワンオペレーションで情報を発信するシステムの機能と導入事例を紹介してくれた。

【講師】山本 幸二 氏
株式会社アルカディア
常務取締役 事業本部長

危機管理分野における情報発信の現状について。

当社・アルカディアの防災・減災ソリューション「SpeeCAN RAIDEN(以下、ライデン)」は、700以上の自治体で採用されている、クラウド型マルチメディア一斉情報配信サービスです。ここではそのサービスと活用事例に加え、当社の新しい取り組みであるクラウド型防災行政無線についてお伝えします。

まず、防災・減災分野の現状について。災害の激甚化・頻発化によって、今も各地で大きな被害がもたらされていますが、そうした中、防災危機管理部門をとりまくあらゆる外部情報への対応、そしてそれらの情報をSNSなども含めた新しい多種多様なメディアに配信しなければならないという時代の変化があります。

一方、それらに対応できる自治体の人的な資源は限られています。現場の切実なニーズとして、ワンオペレーション、そして自動化に対する要望がますます高まっています。そうした中、あるアプリサービスの担当者から聞いた話ですが、能登半島地震の被災地で、情報配信のスピードと復旧期における配信の頻度が、近隣と比べて突出して多い自治体があった。そこが当社のライデンと連携して情報配信をされていた、という話をいただきました。導入サービスによって、被災地でも情報配信に大きな差が出るという一例です。

このライデンについて、概要を説明します。

ライデンはクラウド型のサービスで、国内3拠点にデータセンターがあります。基本機能はメール、電話、FAX、SNSへの配信。また、Jアラートや気象情報、水位センサーなど様々な外部情報を自動配信する機能も搭載しています。さらに、緊急速報メールや防災アプリなどと連携配信することも可能です。

中でも評価いただいているのが、電話サービスです。地域には、メールやSNSがつながらない、登録もしづらいという方がいます。あるいは、夜中でも連絡したい参集連絡で、職員や自治会、自主防災組織の方々に対する電話発信は、非常に重宝されています。

また、最近のニーズとして多い多言語配信も、14言語に対応しています。

このライデンには、「SpeeCAN Timline(スピーキャンタイムライン)」という姉妹サービスもあります。自治体の災害対策本部をWEB上で提供するもので、災害地点の情報や対応状況、避難所の開設・受付状況を、庁舎内で共有可能。そして、それらの情報を必要に応じて防災アプリに情報展開する、というフォーメーションで提供しています。クラウドサービスなので廉価です。

さらに、消防向けのソリューションとして、消防特有のニーズに応じた機能もクラウドサービスとして提供中です。能登半島地震においても、当社の車両動態管理「UGOKUMON(ウゴクモン)」という仕組みを無償で提供しました。

自治体における導入事例と、その他災害関連サービスについて。

本ソリューションの、自治体での導入事例や、メディア掲載事例を紹介します。

まず北九州市です。同市の事例は、被災状況や避難所開設の、職員間での情報共有。および住民向けのプッシュ通知としての防災アプリの取り組みです。

また、和歌山市の事例は防災メールなどの配信と同時に、防災行政無線も自動起動して放送する仕組み。ともにかなり前の導入ですが、今もバージョンアップしつつ継続利用いただいています。

宮崎市では、当社の「Hazardon(ハザードン)」を導入いただいています。こちらはGPSを利用した防災アプリです。

ここで、新しいサービスについてお伝えします。

ライデンを通じてメールなどの配信をしながら、既設の防災行政無線でも放送ができる、というのがこれまでの取り組みでしたが、既設の防災無線が旧式だといったケースもあります。防災行政無線の未整備団体からは、「いまさら60メガの自営網の整備も難しい。もっと手軽に導入できるものを作れないか」という相談を多くいただいていました。

そうした中で能登半島地震が発生。自営網で電源喪失以外に大きな影響があったのが、中継伝送路や基地局の伝送路の回線切断でした。

当社も以前からこの課題への対応策を温めていたのですが、令和6年夏以降、各地で実証実験を行い、その有用性について高い評価をいただきました。これは、キャリアを使った一斉放送で、ニーズが顕在化した中で誕生したサービスです。

例えば、防災行政無線の設備は屋外に設置されているので、学校の校舎では聞こえにくい。そこで行内放送にも防災行政無線を割り込ませる実証実験を各地で行ったところ非常に好評で、防災行政無線に限らず様々な施設の放送で、ライデンの放送機能を使っていきたいという話をいただいています。

詳しくは当社までお問い合わせください。自治体の皆さまからの様々な意見もお待ちしています。

お問い合わせ

ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works

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