
全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。
今回はその中から、東京都江戸川区の「“究極のバリアフリー”の実現に向けた『メタバース区役所』」を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
取り組み期間
江戸川区では、令和5年9月に全国で初めて「メタバース区役所」構想を発表。その後、障害者福祉分野で実証実験を開始。令和6年6月から5つの分野で運用を開始した。
【実証実験】
令和5年8月に試験環境を構築し、9月20日から実証実験開始。
※江戸川区障害者団体連絡会(身体障害者団体、ろう者団体)の協力で障害者福祉の分野で実証実験。
※障害者分野については、実証実験を継続予定。現時点では、区内の特別支援学校と連携し、授業の題材としての活用や生徒・保護者のモニター利用などによる実証実験(意見・提案の聴取)を計画中。
【運用開始】
・令和6年4月26日に東京情報デザイン専門職大学と「メタバース区役所」プロジェクトチームを発足。
・令和6年6月26日からサービス運用開始。教育、子育て、健康、福祉、生活の分野で、相談及び電子申請のサポートサービスを開始。当面は週1回(1日間)の開催とするが、運用上の課題などを解決しながら、平日週5回(5日間)の開催に拡大予定。
・令和6年7月4日には職員採用説明会をメタバースで開催。今後は、採用内定式や入区前研修会などでもメタバースを活用予定。
取り組み概要
“来庁不要の区役所”の実現の一環として、現庁舎を模した「メタバース区役所」をメタバース空間内に開設し、現実の区役所の窓口と同じサービスをメタバース上で実現する。
メタバース空間に構築した区役所に来庁した区民(アバター)に対して、担当者(区職員)がアバターとなって、相談と必要手続の申請(電子申請)をメタバース上で、一気通貫で完結させる寄り添い型のサポートを実施。令和6年6月26日から、教育、子育て、健康、福祉、生活の分野で運用開始した。
担当者へのインタビュー記事はコチラ:
▶ 来庁せずに相談・申請。メタバース区役所で一気に。
背景・目的
【導入経緯】
江戸川区では、令和3年度から行政分野におけるメタバースの活用について検討を開始し、令和5年度には、ひきこもり対策でメタバースを導入した。さらに、江戸川区では、区民サービスの利便性向上のため、令和2年度から「来庁不要の区役所」を目指して、行政手続きの電子申請化及び相談業務のオンライン化を重点取り組み項目の2本柱に据えて推進してきた。
そして、令和5年には、区民サービスのさらなる利便性向上による、“究極のバリアフリー”の実現を図るため、新たにメタバースを活用した寄り添い型サービスの選択肢を増やすことを決定。同年9月に「メタバース区役所」構想を発表し、実証実験を開始した。江戸川区が提案する「メタバース区役所」は、近未来の役所のあり方のひとつであり、先回り的なサービスかもしれないが、“役所は常に未来志向であるべき”と考え、積極的に推進している。
【導入目的】
1. 身体的な障害など様々な事情で来庁したくてもできない方のために、来庁しなくても相談や行政手続きができるようにすることで、区役所サービスの利便性を高めたい。
2. 身体的な障害など様々な事情で来庁したくてもできない方のために、すべての区民に等しく来庁する体験を提供したい。
3. 身体的な障害など様々な事情で来庁したくてもできない方のために、区民の多様性を尊重し、新たな発想に基づいて、区民サービスの選択肢も多様でありたい。
取り組みの具体的内容
メタバース空間に構築した区役所に来庁した区民(アバター)に対して、担当者(区職員)がアバターとなって、相談と必要手続の申請(電子申請)をメタバース上で、一気通貫で完結させる寄り添い型のサポートを実施。
令和6年6月26日からサービス運用開始。教育、子育て、健康、福祉、生活の分野で相談及び電子申請のサポートサービスを開始。当面は週1回(1日間)の開催とするが、運用上の課題などを解決しながら、平日週5回(5日間)の開催に拡大予定。
令和6年7月4日には職員採用説明会をメタバースで開催。今後は、採用内定式や入区前研修会などでもメタバースを活用予定。
<相談・手続きサポートサービス>
【相談方法】事前に日時と相談内容を指定する予約制
【実施時間】9時から17時・1回25分程度
上記画像は、個別相談ブースのイメージ。ブース内では指定されたアバター同士のみの会話が可能であり、ブース外の第三者には会話内容は聞こえず、チャットや資料説明モニター(画像中央)の内容も見えないなどのセキュリティ対策が施されている。職員と相談者は資料説明モニターを活用し、資料を使った説明や電子申請の入力画面などを見ながら申請のサポートが可能である。
特徴(独自性・新規性・工夫した点)
【独自性・新規性】
メタバースをイベントや観光目的で活用する自治体は多いと思うが、実際の区役所を模したメタバース空間をつくり、実際の窓口と同じように、相談サービスと電子申請のサポートを一気通貫で行う自治体は、実証実験も含めて、江戸川区が全国初の取り組み。サービスを外部委託するのではなく、実際の窓口と同じように、区職員がアバターとなって、責任をもって直接対応する。
【工夫した点】
実際の区役所に来庁した場合と同様の「体験」を提供するため、“臨場感とライブ感を重視”し、実際の区役所を模して、区役所と同じ空間の構築を目指している。
取り組みの効果・費用
<実証実験協力団体の主な意見>
1 実証実験協力団体(身体障害者団体)
・キーボードとマウスを使った操作は難しい。
・ボタンが小さい。
・視点の操作性が悪い。
・毎回、マイクボタンをオンにしなければならないのが面倒。
・車椅子に乗ったアバターがあると嬉しい。
・天候不良時に直接区役所に行かずに手続きができることはよい。
2 実証実験協力団体(ろう者団体)
・キーボードとマウスを使った操作は難しい。
・高齢者はスマホやタブレットの方が操作しやすいかもしれない。
・人にもよるが、チャット(文字打ち)が苦手な人もいる。
・アバターが手話できるとよい。
・わざわざ区役所に行かずとも手続きができることはよい。
<今後見込まれる効果>
・区民サービスの向上に伴うメタバース区役所の利用者の増加。
・メタバースを活用した行政サービスの領域の拡大。
・メタバースを活用した行政サービスを開始する自治体の増加。
・職員の働き方改革の加速(自宅でのテレワークによるメタバース区役所の運営)。
・メタバースのサービスデザインが進み、障害者の方が使いやすいシステムの開発につながる。
・メタバースが障害者の就労環境の向上や就労促進にも活かせる技術として普及する。
<費用>
【2023年度】試験環境の構築・実証実験:3,300千円
【2024年度】一部部署で運用開始:0千円 ※東京情報デザイン専門職大学による無償協力
【2025年度】全庁実施:未定 ※見積もり中
取り組みを進めていく中での課題・問題点(苦労した点)
イベントなどではなく、行政の窓口サービスを提供するために適切な機能を有するメタバースプラットフォームの選定が課題だと感じた。江戸川区では、区内にある東京情報デザイン専門職大学と「プロジェクトチーム」を発足させ、大学から実証実験の課題等の解決につながるメタバースプラットフォームの無償提供を受けるなど、実証実験(職員によるロールプレイ検証も含む)において顕在化した課題などを解決し、サービス提供のあり方や運営方法、必要な機能等の整理を進めた。
特に、プライバシー保護機能と相談サービスにおける区職員の説明補助機能の強化を図った。メタバース空間での障害者対応は、新たな技術開発や運用上の工夫も求められるため、継続的な実証実験が必要であると感じた。
今後の予定・構想
【令和7年度】全庁(すべての部署)で、メタバースを活用した相談・電子申請のサポートサービスを実施予定。
【令和12年度】実際の新庁舎移転に合わせて、新庁舎を模した「新庁舎メタバース」に移転し、AIの技術も駆使しながら、24時間365日対応できるメタバース区役所を目指す。
他団体へのアドバイス
メタバース空間で実際の窓口と同じサービスを実現するためには、まだまだ技術的に難しいことも多いが、メタバースはホームページと同じで、「これをもって完成」というものではなく、常に進化するものであると考えている。そのため、「まずは始めてみる」ことが大切。
メタバース空間で実際の窓口と同じサービスを実現するための検討は、窓口対応の基礎的な取り組みを忠実に再現する必要があるため、現実の窓口でのサービスのあり方を見直すきっかけにもなると思う。メタバースは行政と区民をつなぐ新たな接点。行政と区民との接点は数が多く、多様な方が望ましいと考える。
メタバースという選択肢を増やすことで、区役所と区民との接点が増えることは大きな利点。江戸川区では、ひきこもり対策でもメタバースを活用しており、メタバースだからこそ参加できる人も数多く存在する。そのような方のためにも、メタバースは非常に重要なツールだと考えている。
【江戸区公式ホームページ:メタバース区役所】
https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e003/kuseijoho/keikaku/kuseiunei/dx/metaverse.html?utm_source=qr
【江戸区公式ホームページ:ひきこもりメタバース居場所】
https://www.city.edogawa.tokyo.jp/e091/kenko/fukushikaigo/hikikomori/onlineibasyo.html