
全国の市区町村の創意工夫あふれる取り組みを表彰する、愛媛県主催の「行革甲子園」。7回目の開催となった令和6年の「行革甲子園2024」には、35都道府県の78市区町村から97事例もの応募があったという。今回はその中から、愛媛県四国中央市の「ともに歩む-官民連携による四国中央市の空き家対策-」を紹介する。
※本記事は愛媛県主催の「行革甲子園2024」の応募事例から作成しており、内容はすべて「行革甲子園」応募時のもので、現在とは異なる場合があります。
取り組み概要
社会情勢の変化等に伴い、管理放棄された空き家が増加の一途を辿っていることが全国的な課題となっています。空き家がもたらす問題は多岐にわたり、そこに見出される課題も複雑で、従来の取り組みの中で解決させることは容易ではありません。また、空き家対策は、権利関係の整理の難しさなどの技術的な課題に加えて、行政が安易に介入すれば「放っておけば行政が解決してくれる」といったモラルハザードを招くことが懸念されるなど、行政がどのように関わり、どこまで踏み込むべきかという立ち位置の難しさを併せ持っています。
こうしたことから、当市においては、空き家対策は、空家等対策に関する特別措置法(以下「空家法」という)に基づく権力的な手法と所有者主体の自主的な解決を促すための非権力的な手法を兼ね合わせて推進すべきと考え、空家法に規定される空家等対策協議会における協議・検討に加えて、地元士業界などとの連携を通じて、所有者が第一義的な責任を全うするための仕組みづくりに向けた官民連携の取り組みを進めています。
背景・目的
近年の空き家・空き地の増加については、人口減少等に伴い土地需要が縮小していることが一つの要因と考えられますが、それを裏付けるように、当市においても人口の減少と反比例して空き家が増加しています。総務省の住宅・土地統計調査によると、当市の「空き家(その他の住宅)」は、2003年には2230戸だったものが、2018年には4290戸となっており、同様のペースで増加を続けた場合、2032年には6200戸程度に上るものと見込まれることから、空き家の発生抑制に向けた対策強化が急務となっています。
取り組みの具体的内容
空家等対策協議会
平成28年4月、建設部建築住宅課空家等対策室が設置され、空家等対策協議会条例が9月議会で成立、10月には空家等対策協議会を設置しました。
空家等対策協議会は、市内の士業や関係行政機関の代表者などで構成され、会長は市長が務めます。これまで17回の公式会議と数回の勉強会が開催され、空家等対策計画の策定以外に、空家法の執行に必要な基準の決定、施策の方向性に関する協議、個別事案に関する協議などが議題とされています。
空き家の3R
平成30年春には、「空家の3R」即ち「空家のリユース、リメイク、リサイクル」を基本理念とした空家等対策啓発冊子「空家のこと考えてみませんか/空家の3R」を作成しました。
空家取得・リフォーム支援事業
令和3年から、空き家の活用による住宅ストックの循環を目的とした「空家取得・リフォーム支援事業」をスタートさせました。
「居住するために市内の空き家を購入する場合」、「居住するために市内の空き家をリフォームする場合」または「市内外問わず二地域居住するために市内の空き家をリフォームする場合」に、15万円を限度に補助するものです。また、空き家を購入する場合には、住宅金融支援機構の【フラット35】地域連携型利用対象事業とすることができます(ただし、住宅金融支援機構の基準をクリアしたうえで、取扱金融機関を経由した手続が必要)。
金融支援に係る連携協力協定
平成30年12月、住宅金融支援機構四国支店、愛媛銀行及び当市の三者で、住宅金融支援機構の【リ・バース60】を軸とした「四国中央市の空家等対策のための金融支援に係る連携協力協定」(以下「金融支援連携協定」という。)を締結しました。
空き家問題体験すごろく
(1)開発経緯
「空き家問題体験すごろく」は、金融支援連携協定による活動の一つとして、市町村の啓発活動のみならず、銀行、不動産業者等の営業活動のなかで、「空き家を放置するとこういうことになる」ということを広く理解していただくためのツールを作ろうという思いから取り組んだものです。当初、人生ゲームの空き家問題版の制作を検討しましたが、ゲーム時間が長くなること、無料頒布が困難であることなどから、落ち着いた先がすごろくでした。
すごろくのなかで遭遇する出来事は、三者でアイデアを出し合い、調整を進めましたが、みんなで出し合った出来事の中には一つとして良いことはなく、頭を抱えるようなことばかりで、ゲームとして成立するのかという危惧もありました。しかし、現実を感じてもらうためのゲームという趣旨から、気遣いは織り込まないことにしました。このため、プレイヤーの多くが赤字でゲームを終えることになり、すごろくなのに、「ババ抜き」と同じく「ビリ争い」で盛り上がります。
(2)初版リリース
企画を練り上げていく中で、人間すごろくにすれば面白いという案が出され、みんなで盛り上がり、10m×10m程度の大型シートに盤面を描き、そのシートの上でプレイヤーが大きなサイコロを振る姿を思い描き、具体化に向けた検討を進めました。令和2年2月17日、当市消防防災センター大会議室のフロアに、養生テープや三角コーンなどあり合わせの資材で盤面(12m×10m)の描き、プロジェクターで画像を順次投影して、人間すごろく版の「空き家問題体験すごろく」を実現させました。折悪く、前月に新型コロナウイルス感染症の国内初感染例が確認されたことから、関係者限定のお披露目に留まりましたが、市長はじめ6人のプレイヤー自身が駒となり、こどものようにゲームを楽しんでくれました。
幸いにも、この催しは、メディアから予想以上の評価を得ることができ、「空き家問題体験すごろく」だけでなく、空き家問題に対する市民の関心を高めるうえで高い効果を発揮したと考えています。また、住宅金融支援機構の支店網を通じて、各地で「空き家問題体験すごろく」が紹介され、活用されているとのことであり、想定外の喜びです。
(3)改定版リリース
令和3年9月、当市では、先述のとおり、住宅金融支援機構の【フラット35】と連携した「空家取得・リフォーム支援事業費補助金」をスタートさせました。これに伴い、すごろくの内容を一部改め、令和3年11月19日に「空き家問題体験すごろく(改訂版)」としてリリースしました。
この改訂については、当市の空き家の利・活用メニュー、住宅金融支援機構のメニュー、「被相続人居住用家屋の譲渡所得の特例」などの記載を増やしたもので、空き家の利活用に重心を移した構成としました。
(4)活用形態
標準的には、すごろくとして楽しんでいただいた後に、職員がすごろく裏面を用いて解説を加えるという形態を想定しています。
改訂版では、「あがり」までにサイコロを振る回数は最短で4回、平均的には7回程度です。仮に5人で楽しむのであれば、サイコロを35回程度振ることになり、ゲームに要する時間は25分から30分程度で、これに、ゲーム終了後の解説を15分程度行うとすれば、45分程度の時間を要すると見込まれます。
また、持ち時間が30分未満の啓発講座などでは、すごろくの盤面にそって空き家問題を語るということも可能です。
(5)提供方法
当市ホームページでPDF版を公開しており、家庭、職場、地域活動などで自由にご活用いただけることを願っています。A3判で設定していますが、駒の大きさや人数次第でA4判でも利用可能です。
なお、市町村名を書き換える等、手を加えて活用したいというご意向があれば、Word版を提供いたしますので、当市までお気軽にお申し付けください。
四国中央市HP:https://www.city.shikokuchuo.ehime.jp/site/akiyataisaku-matome/1597.html
空き家・空き地対策連携協力推進会議
空き家問題の解消に向けては、様々な知識を持つ専門家のサポートが必要であり、そのような機能を有する官民連携体制を構築することが、市民にとっても行政にとっても重要であると考えています。
空き家の所有者も隣接者等も、必ずしも十分な知識を持ち合わせていないことを踏まえ、各分野の専門家を交えた官民連携によって、空き家問題に悩む市民をサポートすることを目的に、令和4年2月、地元士業5団体(建築士会、宅建協会、土地家屋調査士会、行政書士会及び司法書士会 以上5団体支部組織)と当市との間で、「空き家・空き地対策連携協力基本協定」を締結、官民連携のプラットフォームとなる「空き家・空き地対策連携協力推進会議」(以下「推進会議」という)を設立しました。
空き家・空き地問題無料相談会
推進会議がまず取り組んだのが「空き家・空き地問題無料相談会」の定期開催です。空き家の発生原因やそこから生じる課題は多岐にわたります。それゆえに、あらゆるジャンルの相談に対応可能なワンストップ相談窓口が求められていました。
相談会では、相談を「売却」、「解体」、「管理」、「相続」、「活用」のジャンルに分類し、それに応じた士業のメンバーと市職員が一緒になって相談に応じます。例えば、空き家の管理方針に悩む市民からの相談では、建築士、宅地建物取引士、土地家屋調査士が相談のテーブルにつき、解体費の概算を示しつつ同時に物件の市場価値について検討を行いました。その結果、接道や建物の状況から売却や利活用につながる見込みがあると判断し、宅建協会を通じて空き家バンクに登録、後日売却することができました。
すぐに解決に至らないことも多いですが、メンバーの知識と経験を総動員し、相談者の悩みのポイントを整理してあげることで、適切な管理・活用に向けた第一歩を確実に後押しできていると実感しています。
空家等対策協力事業者登録制度
空き家対策においては、解体工事や庭木の伐採など、事業者の力を得なければ解決できないケースが多々ありますが、相談者の多くは事業者に発注するための知識を持っていません。そのため、事業者の紹介を依頼されることがありますが、市が特定の事業者を斡旋するわけにはいかず、具体的なアドバイスができていませんでした。
そこで、空き家対策に関する業務等の提供ができる市内の事業者に「空き家対策協力事業者」として登録していただく「空き家対策協力事業者登録制度」を創設しました。本市に登録申し込みを行った空き家管理事業者を「空き家対策協力事業者登録名簿」に登録し、市ホームページに掲載するほか、相談があった空き家所有者等へ登録名簿を提供します。
事業者登録の際は、空き家の解体、空き家の管理、修繕、売買等の相談、庭木の伐採や動物への対応等のジャンル分けを行い、各事業者ごとに提供可能な業務分野を明確に表示します。また、業務等の提供の内容、料金その他必要な事項については、登録事業者と空き家等所有者等との双方で協議し決定していただくこととし、市は一切関与しません。
この制度を創設することにより、空き家の管理等に関する情報提供を充実させることで所有者の自律的な対応を促進するとともに、市の中立性・公平性の確保を図りました。また、事業者は、所有者から空き家の管理等を受託することで管理料等を得ることができるため、新たなビジネスモデルの創出ともなりうると考えています。
特徴
独自性・新規性
1. 官民連携による空き家問題の解消に向けては、地元士業をはじめ民間事業者等との連携を重視している
2. 「すごろく」というなじみ深いゲームを啓発ツールとして用いた
3. あらゆるジャンルの相談に対応可能なワンストップ無料相談会を定期開催している
4. 所有者の自律的な対応を促進するため「空家等対策協力事業者登録制度」を創設した
工夫した点
金融面からの空き家問題に対する支援、助言に向け、金融機関との連携関係を築いています。
「空き家問題体験すごろく」の作成においても大いに助言いただき、結果として実態に即した良いものができたと考えています。それを無料頒布することで、当市のみならず、県下、ひいては全国において空き家問題の解消に向けた機運が高まることを目指しました。
また、官民連携の深化に向けて、「空き家・空き地対策連携協力基本協定」を経て、連携協力を円滑に推進するための「空き家・空き地対策連携協力推進会議」を設立し、様々な業界の経験と知識を総動員し、相談者の悩み解消に寄り添う対応を心がけています。
四国中央市空き家・空き地対策連携協力基本協定書
四国中央宅建協会、愛媛県建築士会四国中央支部、愛媛県行政書士会四国中央支部、愛媛県土地家屋調査士会四国中央支部及び愛媛県司法書士会四国中央支部並びに四国中央市(以下「連携団体」という。)は、四国中央市における空き家及び空き地に関する施策を推進するため、次のとおり協定を締結する。
(目的)
第1条 本協定は、連携団体が連携協力して、空き家及び空き地に関する施策を推進することで、地域社会の持続的な発展を実現することを目的とする。
(連携協力する事項)
第2条 連携団体は、前条の目的を達成するため、次に掲げる事項について連携協力するものとする。
(1) 四国中央市空家等対策計画に基づく事項
(2) 前号のほか空き家及び空き地に関する事項
(会議)
第3条 本協定に基づく連携協力を円滑に推進するため、連携団体の代表者により構成する四国中央市空き家・空き地対策連携協力推進会議を設置する。
(その他)
第4条 本協定に定めのない事項について必要がある場合は、連携団体が協議して定めるものとする。
2 本協定については、締結の日から5年毎に、その実施状況等を勘案し、必要があるときは検討を加え、所要の措置を講ずるものとする。
取り組みの効果・費用
効果
「空き家問題体験すごろく」については、メディアに取り上げていただいたこともあり、多くの方の目に留まったと考えられます。このことは従来、空き家問題に関心がなかった層に対しても一定の訴求を及ぼしたと考えられます。また、研修啓発ツールとしても利用できるため、今後も活用が期待されます。
官民連携については、「空き家・空き地対策連携協力推進会議」を設立したことで、地域における専門家集団と連携して活動を進めていくことができ、参加団体やそこに所属する個人が有するノウハウなど、様々な地域の資源をつないで有効に活用していくことが可能になりました。「空き家・空き地問題無料相談会」は過去5回開催しましたが、すべての回で定員を超える申し込みがあり、相談者から好評を博しています。
また、相談会の開催を通じて行政と民間事業者との関係が深まったことで、地域の課題や目標を官民で共有し、課題の解決に向けた地道な活動を積み重ねていくための土台が固まったものと考えています。
費用
● 「空き家の3R」印刷製本費 28万円
● すごろくは自前制作につき予算執行なし
● 空き家・空き地問題無料相談会は無報酬のため予算執行なし
取組を進めていく中での課題・問題点
課題
「空家等対策協力事業者登録制度」は性質上、広く事業者の登録が望まれますが、十分に制度の周知が進んでおらず、登録件数が伸び悩んでいます。今後、市ホームページや広報紙などの媒体を活用し、一層の周知啓発に努める必要があります。
今後の予定・構想
令和5年12月13日施行の改正空家法においては、自治体の責務として、空き家の「活用拡大」「管理の確保」「特定空家の除却等」の3本柱による対応の強化が求められています。
そのようななか、「管理の確保」及び「特定空家の除却等」については、空き家・空き地問題無料相談会の定期開催、老朽危険空家除却支援事業の拡充及び管理不全な空き家に対する助言・指導の強化等によって、一定の効果が発現しているものと考えています。
一方で、空き家の「活用拡大」については、個人の財産である不動産の売却や改修の提案などを行政が主導することが馴染まず、十分な対応に至っていないのが現状です。
そこで、今後は「空き家・空き地対策連携協力推進会議」など民間事業者との連携により、空き家の「活用拡大」にも注力し、空き家活用を通じた地域活性化を図っていきたいと考えています。
他団体へのアドバイス
空き家対策に取り組んでいると、急流を遡って歩いているような気分になることがあります。息を切らして懸命に歩けど傍目に歩みは遅く、足を止めれば流れに押し戻されるといった具合です。
官民連携においては、双方がそれぞれのリソースを最適に活用する姿勢が求められます。行政が担うべき実査や分析等を下敷きにして、民間が持つ専門知識や技術を取り入れることで、質の高い対策が実現すると考えられます。特に当市のようなマンパワーや専門知識が不足しがちな地方のまちにおいては、官民連携による空き家対策は不可欠です。
互いに手を取る同志がいてこそ、急流に足を踏み入れることができるのです。
四国中央市建設部建築住宅課HP https://www.city.shikokuchuo.ehime.jp/soshiki/31/