企業誘致は企業を地方都市に呼び寄せることだ。都市部にある企業の事務所や工場などを地方に誘い込むことで、その地域での雇用創出や若者の定着に即効性があり、地域経済への波及効果も大きい。
首都圏への一極集中は災害リスクや家賃上昇などの課題があり、地方自治体への企業誘致はそうした課題を解決できることから、企業側にもメリットがある。
本記事では企業誘致のメリットとデメリット、企業誘致に有効な施策、誘致に成功した自治体の事例を紹介する。企業誘致について理解を深め、地域に合う企業とのマッチングを目指したい。
【目次】
• 企業誘致とは?
• 企業誘致のメリットとは
• 企業誘致のデメリットとは
• 企業誘致に有効な施策をご紹介
• 企業誘致の成功例を見ていこう
• 地域の人材や資源を活かし、企業誘致に役立てよう
※掲載情報は公開日時点のものです。
企業誘致とは?
企業誘致とは、民間企業の事務所や工場などを地方に誘い込む取り組みのことだ。
新たな雇用や税収の向上など、地方経済活性化を目的として、地方自治体や国などが様々な手段を講じている。地方での雇用創出や若者の地域への定着に即効性があり、地域経済への波及効果も大きいことから、全国の自治体が企業誘致に取り組む。
企業側にとっても首都圏への一極集中は災害リスクや家賃の上昇などの課題があり、リモートワークも普及してきたことから、近年では様々な企業が本社機能の一部を地方に移転させる動きがある。
企業誘致のメリットとは
企業誘致による自治体側のメリットを詳しく解説する。
地域の経済活性化
地域の経済活性化が実現できることが最大のメリットだろう。これまでその地域になかった事業者が新たにやって来ることで地域産業が多様化し、そこで働く住民が増えることで地域経済そのものの規模拡大も期待できる。
雇用の拡大
雇用の拡大も企業誘致の大きなメリットだ。地域で新たな雇用が生まれることで周辺産業の発展にもつながり、それが波及することで地域ブランドのイメージ向上も見込める。
税収の確保
自治体側としては新たな企業が地域に進出することで、税収が確保できることも重要なメリットとなる。企業誘致によってやって来た企業からの税収に加えて、地域経済が刺激されることでその地域内での消費や投資が増加し、地域全体の税収アップも期待できる。
企業を受け入れる側だけではなく、企業誘致による地方進出には事業者側にも複数のメリットがある。具体的には国や自治体から補助金が支給されることや、事業所や工場にかかる不動産コストを減らせること、さらに大都市圏で災害が発生した場合のリスクを軽減できることなどが挙げられる。
企業誘致のデメリットとは
企業誘致には様々なメリットがある一方で、以下のようなデメリットも存在する。
企業が撤退し失業者が出るリスク
誘致した企業が撤退する場合に、地域で多数の失業者が出るリスクがある。また、近年増えている「人手不足倒産」のように、人材不足による企業の倒産や撤退もリスクとして考えておきたい。企業誘致に成功しても、その地域で適切な人材を確保できない場合は、同じ場所に企業を留めておくことは難しい。
地域における不利益や損失の発生リスク
企業の進出により地域住民が不利益や損失を被るリスクもある。地元の競合企業が経営上の不利益を被る以外にも、工場や事業所の建設により住環境が変化する、新たな住民が増えることでトラブルが発生するといったリスクがある。
企業誘致に有効な施策をご紹介
企業誘致を成功させるためには、誘致する企業や移住者にとって快適な環境を整えることが大切だ。自治体側としても必要に応じて交通網や情報インフラを整備するなど、企業とその移住者に対して積極的にバックアップをしていきたい。企業誘致を行う際に自治体ができる有効な施策を以下より詳しく見ていこう。
税制優遇や資金援助
誘致する企業に対する税制の優遇や資金援助といった、経済的な支援策は企業誘致に有効な施策だ。企業誘致に自治体が活用できる制度には様々なものがあり、例えば「デジタル田園都市国家構想交付金」(※1)では、地方創生のための取り組みや環境整備に関して交付金による支援が受けられる。
税制に関しては「地方拠点強化税制」(※2)という制度があり、事務所や研究所、研修所を地方に移転・拡充する際に、課税の特例措置を受けることが可能だ。
※1出典:内閣官房・内閣府総合サイト「デジタル田園都市国家構想交付金」
※2出典:内閣官房・内閣府総合サイト「地方拠点強化税制」
企業を受け入れる自治体側のマンパワー不足には「地方創生人材支援制度」(※3)も活用したい。地方公共団体への人材派遣を支援する制度で、地方創生に取り組む市町村に意欲と能力のある国家公務員、大学研究者、民間専門人材が市町村長の補佐役として派遣されるシステムだ。
※3出典:内閣官房・内閣府総合サイト「地方創生人材支援制度」
地域の強みを活かしてアプローチする
首都圏にはない地域独自の魅力や地域資源をアプローチして、企業誘致に結び付けていきたい。
観光資源を活かす
地域の観光資源を活かすことも有効なアプローチだ。海や山、川などの豊かな自然は首都圏にはない強みであり、その環境を活かしたアウトドアスポーツやレジャーなどのアクティビティも人気がある。地域の歴史スポットなどの観光資源も移住を考える人たちや企業に向けて積極的にアピールしよう。
地元企業を活かす
地域に根差した地元企業にも注目したい。地域に根差したニッチな産業や、高度な技術を持つ中小企業、ほかにないものづくり企業など、首都圏の企業にとって魅力がありコラボしたくなるような産業や地元企業をアピールしよう。
遊休施設を活かす
地域の中で使われていない遊休施設を活かすことも考えよう。空き家になっている古民家や、空き店舗の多いシャッター商店街をリノベーションして、さらに高速通信網を整備することで、IT企業のサテライト拠点集積地として地域が活気を取り戻した事例もある。
人材を活かしてアプローチする
働く場を地元で求める地域住民も、企業や自治体にとって大切な財産だ。働きたいが仕事がない、仕事があったら地元に帰りたいといったニーズをくみ取り、企業とマッチングすることで人材不足に悩む事業者の課題解決にもつながる。
地域人材を働き手として活かす
地域に住んでいる子育て中の主婦やアクティブシニア層などは、地方活性化にとって重要な人材だ。希望の仕事に就けることでそれぞれの満足度を上げ、地域の外への流出を抑えられる可能性も上がる。
地域出身者の人脈を活かす
地域出身者の人脈も積極的に活かしたい。各都道府県の県人会や、中学や高校の同窓会などでの人脈を活用することで、首都圏に本拠地を持つ企業とのパイプを構築できることもある。人と人とのつながりにも注目してみよう。
企業誘致の成功例を見ていこう
ここからは企業誘致に成功した自治体の事例を見ていこう。
【兵庫県淡路市】人材サービス大手「パソナグループ」の誘致に成功!
兵庫県淡路市は平成20年から助成金や税制優遇措置などによる積極的な企業誘致に取り組み、人材サービス大手「パソナグループ」の誘致に成功した。就農を目指す農業ベンチャーの支援事業からスタートし、その後もパソナは淡路島で多くの事業を展開。令和2年にはパソナグループの本社機能を淡路市に一部移転する計画が発表され、大きな注目を集めた。
淡路市の北部には、関西国際空港用地の埋め立てによって発生した広大な「採土跡地」があり、平成12年「淡路花博ジャパンフローラ」の会場として整備された。その後、淡路市が一部の土地を取得し、幹線道路などのインフラを整備。ここを「夢舞台サスティナブル・パーク」と名付けて働く場所をつくり、企業誘致を行ってきた。併せて、この地域で働く人が安心して暮らせる住環境も整備することで、職と住が一体化したコンパクトシティの実現を目指す取り組みを推進している。
【三重県亀山市】液晶関連企業「シャープ」の誘致成功後、関連企業が多数操業
三重県亀山市は平成14年に世界的液晶関連企業「シャープ」の誘致に成功した。三重県と亀山市が交付した補助金によりシャープ亀山工場が新設され、三重県内にはフラットパネルディスプレイ製造関連企業約80社が操業。
亀山市ではシャープ亀山工場のある民間産業団地「亀山・関テクノヒルズ」を中心に関連企業が立地している。この工場で製造された液晶テレビには工業製品としては異例の原産地が表示され、出荷された製品を通じて「亀山ブランド」として自治体の知名度も飛躍的に向上した。
【岩手県北上市】工業団地を造成し188社を誘致成功!
岩手県北上市は企業誘致を核にしたまちづくりを進める自治体だ。昭和初期から工業振興に取り組み始め、岩手県内でいち早く工業団地を造成。昭和30年代から企業誘致に積極的に取り組み、平成28年時点で246社の企業が立地している。そのうち188社は誘致企業だ。
市長自ら率先して企業を訪問するトップセールスを積極的に行い、企業の従業員の住宅や生活環境などのあらゆる要望に対する「御用聞き」を行うフォローアップも実施。訪問した企業から出された要望を整理した上でランキング化して対応策を公表し、市の施策に反映させるといった柔軟な自治体運営を行う。また、企業誘致の専門スタッフの配置や、手続きや届け出、各種認可など企業立地に関わるワンストップサービスも推進している。
地域の人材や資源を活かし、企業誘致に役立てよう
企業誘致は地域での雇用創出や若者の定着、税収アップに即効性がある取り組みだ。人材不足や災害リスク、地価や家賃の上昇に悩む企業にとってもメリットがあり、自治体や従業員、地域住民など多くの人に恩恵をもたらす可能性を秘めている。
地域の人材や資源を活かし、積極的にアピールしていくことで企業誘致を成功させ、地域の活性化につなげていきたい。