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異動時期で不安を抱えている人もそうでない人も、視野を広げて未来のことを想像してみるのはいかが?10年後や20年後の自治体はどんな役割を担っているのか、未来に光る“可能性”に、ぜひワクワクしてほしい。そこで、3人の自治体職員に、それぞれが携わってきた分野の未来について話してもらいました!
※下記はジチタイワークスVol.36(2025年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
eスポーツ分野
左:群馬県邑楽町
建設環境課
水野 潤一(みずの じゅんいち)さん
邑楽町をPRするため、2021年にまち公認のeスポーツチームを発足。eスポーツの大会運営などを通じて、まちの新たな魅力を発信する。
交通分野
中央:福岡県
企画・地域振興部
交通政策課 課長
窪西 駿介(くぼにし しゅんすけ)さん
総務省より福岡県へ出向中。公共交通対策の企画・調査および調整を主に行う。最近は、バスの運行確保対策やMaaSの推進にも力を入れる。
宇宙分野
右:宇宙公務員
(佐賀県 政策部)
円城寺 雄介(えんじょうじ ゆうすけ)さん
佐賀県で救急車のタブレット導入やドローンなど技術活用を推進。2021年からJAXAへ出向中。“宇宙×地域創生”の視点で全国の自治体を支援。
未来予想
※この内容は下記出典を参考に、あくまで“予想”として編集室が作成したものです
2030 3Dフードプリントで人工食材をオーダーメード※1
2033 都市部で空飛ぶ車・ドローンが人を運ぶ※1
2033 身体共有技術で遠隔地の人やロボットを自在に操れる※1
2033 体験伝達メディアで個人の心理状態や感覚・味覚などを記録・共有※1
2034 システム自立による完全自動運転(レベル5)の車が走る※1
2040 完全自動運転により飲食店や医院などの移動型店舗サービスが実現※2
2050 複数の月面基地で100人規模の技術者・研究者が生活※3
2050 「宇宙エレベーター」が地球と宇宙をつなぐ※4
2050 脳に埋め込まれたチップで無線通信※4
2060 DNA情報を用いたモバイル決済が行われる※4
2100 日本の人口が現在の半分以下に!※5
2115 世界の言語の数が600種類程度に減る※4(2015年は6,000種類程度)
時期不明 新たな交通システムで真空チューブの中を磁力で超高速移動※6
時期不明 「持続可能な航空燃料(SAF)」で飛行機もクリーンな乗り物に※7
※1 文部科学省「令和2年版科学技術白書 第2章 2040年の未来予測-科学技術が広げる未来社会-(Society 5.0)」
※2 国土交通省「2040年、道路の景色が変わる~人々の幸せにつながる道路~」
※3 一般社団法人日本航空宇宙学会「JSASS宇宙ビジョン2050(令和元年度増補版):日本航空宇宙学会からの提言」
※4 総務省 ICT分野における技術戦略検討会(第2回)資料より(大林組「季刊大林」2012年2月20日/Inc.「 7 Predictions for Your Brain in 2050」Christine Lagorio Chafkin 2014年5月31日/Hotels.comとジェームズ・カントン「Hotels.com ホテル未来予測レポート」2016年12月9日/The Wall Street Journal「What the World Will Speak in 2115」2015年1月2日)
※5 厚生労働省 第4回社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提に関する専門委員会資料より(日本の将来推計人口(令和5年推計)の概要)
※6 消費者庁「The Future of Consumer Lifestyles 消費生活の未来に関する調査報告書」令和6年4月
※7 経済産業省資源エネルギー庁「飛行機もクリーンな乗り物に!持続可能なジェット燃料「SAF」とは?」
【eスポーツ】まちおこしや未来の仕事につながる人材を育成するきっかけに。
水野 eスポーツは世界的に注目されており、令和7年には、「オリンピックeスポーツゲームズ」が開催される予定です。地域内外の人をつなぐ魅力があり、若者を中心に広がっています。経済効果も高く、まちおこしになると実感しているため、今後、自治体としてどのように関わっていけるかを考える必要があると思います。しかし、初めての取り組みのため、議会や町民の理解を得るのもすんなりとはいきません。eスポーツを推進する全国の自治体と力を合わせて動いていこうと思っています。
eスポーツの専門学校は増えていて、プロの選手もいるんですが、多くは25歳頃に現役生活を終えてしまいます。引退後の進路選択の難しさが課題なので、自治体が就職先を紹介するなど次の道につなげるサポートが必要。20年後には、こうした支援はできているはずだと思っています。また、自治体が全国大会を開催するなど、eスポーツの認知や理解を広めていくことも大事です。そうしてますます盛り上がっていけば、選手のブランド力は上がっていくはずです。
窪西 メジャースポーツでは、地域とつながる活動をするほか、地元の産業に従事しているチームもあります。eスポーツチームと地域の関わりは今後どうなっていくでしょうか。
水野 メジャースポーツと同様、地域密着型チームが増えていくかと。eスポーツは場所を選ばずできますが、それではスポンサーが付きにくいんです。地域に根差すことでスポンサーを得やすくなり、チームにも自治体にもメリットがあります。
円城寺 先駆けて始めるからこそ、まねできない価値が育ちますよね。これからはオンラインでドローンやロボットを遠隔操作して、様々な仕事をする時代が来ると思います。eスポーツをしている人はその未来の仕事との親和性が高いと思うんです。今は苦しくとも続けていれば、邑楽町の人材が引く手あまたになるかもしれませんね!
【交通】自動運転車の普及で、地方から交通網や人流に変化が起こる。
窪西 交通分野では、自動運転に注目しています。一定の条件下で運転手がいなくても車が自動で走る“レベル4”の公道走行は、すでに解禁されているんですよね。しかし、市場や通信環境、ルールも含めて整備を進める必要があると感じます。完全な自動運転はまだ先だとしても、全国100カ所で実証実験が行われる見込みなので、中長期的には実現していくのではないでしょうか。この分野に詳しい人から、“自動運転が広がっていけば、自動車が最も接触時間の長いデジタルデバイスになる”という話を聞きました。行先を決めて運転を任せれば移動中に作業ができるし、車内を全部画面にすることもできますよね。そうなると通勤時間が苦ではなくなり、都市圏が広がっていくという予想は面白かったです。
水野 移動時間を自由に使えるようになれば、地方に人が戻ってくる可能性もありますね。私たちのまちでも若者の都市部への流出が課題としてあるので、自動運転が整備されると解決につながるんじゃないかなと思いました。
窪西 地方でいえば、運転手が足りないことで、バス路線を廃止する会社も増えているんですよ。今は、民間バスの代わりに自治体がコミュニティバスの運行を交通事業者に委託していますが、運転手が不要なら、自治体が自動運転車を所有して運営することもできます。主要な道を行き来して、乗りたいときに呼んだら来てくれる。横に動くエレベーターみたいなイメージです。
円城寺 無人化の最大の障壁は、“今、困っていない”ことです。運転手が多く移動手段も多様な都市部では変革が起こりづらいため、地域から新しい動きが広がってほしいですね。
窪西 すでに、運転手が運転席に乗って、ほぼハンドルを触らない“レベル2”の実証実験は各地で行われています。完全な自動運転での運行が待ち遠しいです。
【宇宙】1,000人単位の月移住が始まり、ゼロからまちをつくるチャンスが。
円城寺 宇宙分野では、人類が月に行くことを目標にした「アルテミス計画」がアメリカを中心に進行しています。日本でもJAXAの小型月着陸実証機が、令和6年1月に月面着陸に成功するなど、月を目指す動きは世界的にどんどん活発になっています。月面は過酷な環境ですが、テクノロジーは進歩していくので、2050年には100人、いや1,000人単位の移住が始まってもおかしくないな、と私は考えています。住むためには、月である程度の自給自足をしていかないといけない。水も必要ですよね。そうなると、究極のリサイクルが発明されると思うんです。
窪西 月で持続可能な生活をしていくために、限られた資源をリサイクルする技術が発達するという発想は面白いですね!自治体としては、どんなふうに関わっていくのでしょうか?
円城寺 しばらくの間は自治体や国家の垣根もなく、ゼロベースのまちづくりになっていくでしょう。真っ白なキャンバスに絵を描いていくイメージ。水道や下水処理、移動方法など、私たちの生活を“再発明”する貴重なチャンスですよね。また、スポーツのあり方も変わるんじゃないかと思います。月の重力は地球の約6分の1しかなく、体のハンディがなくなります。体の使い方も違って、もっと3次元的な動きになるんじゃないかな。
水野 まるでゲームのような世界観で、想像するとワクワクします!そんな現実が意外と近くにあることを知って、とても驚きました。
円城寺 人間には好奇心や探求心があって、あえて安全な場所から飛び出して、新しい世界を見たいという願望がありますよね。今は解決できない課題でも、新しいテクノロジーと好奇心でクリアできるということは、歴史が証明しています。月に人類の新しい世界をつくるのが楽しみですね!自治体の仕事は“未来をつくる仕事”。そう思うと私はワクワクして、くじけても前へ進めます。