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SAFとは?使用済み食用油が航空燃料のカーボンニュートラルの切り札となるか

てんぷらやフライの後に残る廃食油。この廃食油が次世代の航空燃料として注目を集めている。
SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)とは、廃食油や木くず、古紙などを原料とする航空機用の燃料だ。従来の航空燃料に比べて二酸化炭素(CO2)排出量を大幅に削減できるため、カーボンニュートラル実現の切り札として期待されている。

すでに多くの自治体がSAFの原料となる廃食油の回収に取り組んでいる。この記事ではSAFの基礎知識から自治体での具体的な取り組み事例まで解説する。SAFの可能性について理解を深め、自治体での取り組みの参考にしてほしい。

【目次】
 • カーボンニュートラル実現の切り札といわれるSAFって何?

 • 飛行機のCO2排出量ってそんなに多いの? 
 • SAFの原料と製造方法とは
 • SAFの課題と今後
 • 企業や自治体が行っている実際の取り組みとは
 • 脱炭素社会を実現するため、SAFの重要性を広めよう

※掲載情報は公開日時点のものです。

カーボンニュートラル実現の切り札といわれるSAFって何?

カーボンニュートラル実現の切り札といわれるSAFって何?

SAFは「Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」の略称で、従来の航空燃料に代わる次世代燃料として注目されている。

従来の航空燃料は原油を精製して作られるが、これを燃やすと大量の二酸化炭素(CO2)が出てしまう。一方、SAFは廃食油や木くず、古紙などから作られており、炭素循環によって燃焼時のCO2排出量を大幅に削減できる可能性をもつ。詳しく見ていこう。

従来の航空燃料の特徴

従来の航空燃料は原油由来のケロシンが主に使われている。ケロシンは純度が高く、気温の低い上空でも安定してエネルギーを生み出せることから航空機の燃料として長年使用されてきた。

しかしこの航空燃料には炭素が多く含まれており、燃焼時に大量のCO2を排出する。航空機のCO2の排出は地球温暖化の要因の一つとされており、航空各社はCO2削減に向けた様々な取り組みを進めている。

従来の航空燃料とSAFの違いとは

従来の航空燃料とSAFの違いとは
SAFの原料はバイオマス由来の資源や廃食油などの廃棄物であり、持続可能な航空燃料である。SAFを燃料として利用する際にはCO2を排出するが、バイオマスは生産過程で光合成によりCO2を吸収する。つまり実質的にCO2排出量を抑えることができる。従来のジェット燃料と比べてCO2排出量を約60~80%も削減できるとされている。

技術面では、SAFは従来のジェット燃料と同じように使用できる。つまり現在使用している航空機のエンジンや給油設備などの設備をそのまま使い続けることができる。

このようにSAFは環境に優しく、なおかつ既存の設備を活用できる次世代燃料として期待されている。ただし現時点では供給量が少なく、価格も従来の燃料より高いという課題もある。

飛行機のCO2排出量ってそんなに多いの? 

飛行機のCO2排出量ってそんなに多いの? 
 
出典:温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ」および国土交通省「自動車輸送統計」「航空輸送統計」「鉄道輸送統計」より、国土交通省作成

航空機はその重量により非常に多くのエネルギーを消費する。人1人を1km運ぶ際のCO2排出量を見てみると、航空機は約101gものCO2を排出する。これは鉄道の約20gと比べると約5倍もの量だ。

この大量のCO2排出の背景には、現在使われているジェット燃料の特徴がある。航空機用のジェット燃料(ケロシン)は、高いエネルギーを生み出せる反面、大量の化石燃料を消費する。そして、この燃料に代わるものが今のところ存在していない。

しかも世界的な脱炭素化の流れの中で、航空業界にもCO2削減が強く求められている。その解決策として期待されているのがSAFなのである。

SAFの原料と製造方法とは

令和4年時点における世界のSAF供給量は約30万キロリットル。これは世界のジェット燃料供給量のわずか0.1%程度に留まっている。 SAFの製造量が少ない理由はコストの高さや原料確保の難しさにある。

SAFの原料と製造方法はどのようなものか、以下に紹介する。

原料1. 廃食油

原料1. 廃食油

廃食油とは、てんぷらや揚げ物などの調理後に残る使用済みの食用油のことだ。そのままでは航空燃料として使用できないため、化学的に分子を分解して燃料を製造する。家庭や飲食店から出る廃食油を有効活用できる。

原料2. 第1世代バイオエタノール

原料2. 第1世代バイオエタノール

サトウキビやトウモロコシや廃材、間伐材などのバイオマスを発酵させてエタノールや合成ガスなどを生成する。

原料3. 非可食原料

食料と競合しない非可食バイオマス(古紙、木質バイオマスなど)からエタノールや合成ガスを生成する。また、微細藻類を大量に培養し、油脂を抽出する。

原料4. ごみ(廃棄物)

ごみを高温で加熱し、水蒸気や酸素と反応させて合成ガスを生成する。廃プラスチックも原料として生成できるが、プラスチックは化石燃料由来であるため、CO2排出削減効果は限定的となる。

原料5. 二酸化炭素、水素

最先端の技術として、CO2と水素と反応させて合成燃料を製造する方法の開発も進められている。この方法が実用化されれば、より効果的なCO2削減が期待できる。

これらのSAF製造技術はいずれもまだ発展途上の段階にある。大規模生産に向けては、製造効率の向上やコスト削減など、多くの技術的課題が残されている。

SAFの課題と今後

航空業界では脱炭素化が急務となっており、その切り札として期待されているのがSAFだ。しかしその普及には克服すべき課題が多い。ここでは製造費用や生産量の課題、日本国内での取り組みについて解説する。

【課題その1】製造費用が高い

【課題その1】製造費用が高い

SAFの製造コストは、従来の航空燃料が100円(/リットル)に対し、200円〜1,600円(/リットル)とかなり割高である。 この高コストの背景には、原料の収集や精製プロセスが複雑であること、そして生産スケールがまだ十分に確立されていないことがある。今後は、技術革新を通じてコスト削減を図り、効率的な生産体制を構築することが重要な課題となっている。

【課題その2】生産量が不足

現時点でのSAFの供給量は、世界のジェット燃料需要の0.1%程度に過ぎない。この低い供給量の背景には、原料の調達や精製技術の制約、生産コストの高さがある。また、製造に必要な設備やインフラの整備が不十分であることも要因だ。より効率的な生産技術の開発や、原料供給チェーンの最適化を進めることで、需要に応じた生産体制を整えることが求められている。

日本における取り組み

日本では2030年までに、国内航空会社が使用する航空機燃料のうち10%をSAFに置き換える目標を掲げている 。この目標達成に向け、すでに具体的な動きが始まっている。

全日本空輸(ANA)ではSAFを使用した定期便の運航が行われており、日本航空(JAL)でも一部のフライトでSAFが採用されている。国内におけるSAFの製造や導入に向けた取り組みは、着実に前進している。

企業や自治体が行っている実際の取り組みとは

航空業界の脱炭素化に向けて、企業や自治体が手を取り合い、積極的な取り組みを進めている。ここでは、地域資源の有効利用と環境負荷の低減を同時に実現している事例を紹介する。

「Fry to Fly Project」全国各地の自治体が参加

「Fry to Fly Project」全国各地の自治体が参加

画像出典:日揮ホールディングス株式会社「Fry to Fly Project」

「Fry to Fly Project」とは、国内の資源循環を促進し、脱炭素社会の実現に貢献することを目的に、企業、自治体、団体から発生する廃食油を回収してSAFを製造するプロジェクトのこと。

具体的な取り組みとして、家庭や飲食店からの廃食油回収システムを構築し、参加企業の社員食堂や施設からも廃食油の提供を受ける。また、イベントの開催や教育活動を通じて、SAFの普及啓発活動も積極的に行うとしている。

このプロジェクトの意義は大きい。これまで海外へ輸出されていた廃食油を国内で資源循環させることができる。また、航空業界のカーボンニュートラル実現に向けた重要な一歩となるだけでなく、個人や企業が具体的に脱炭素化に参加できる機会を創出している点でも注目を集めている。

一例として、神戸市の例を紹介しよう。

【神戸市】SAF製造のための廃食油回収の促進に向けて連携を開始

神戸市では、株式会社レボインターナショナル、日揮ホールディングス株式会社、NPO法人Blue Earth Project、関西エアポート神戸株式会社との連携により、SAFの原料となる廃食油の収集促進に取り組んでいる。

具体的には、市内4カ所(東灘区役所、兵庫区役所、須磨区役所、神戸空港)で廃食油の回収実証を開始。各家庭や飲食店から回収した廃食油は、専門の製造施設で加工・精製され、地域資源を活用した持続可能なエネルギーとして生まれ変わる。

この取り組みでは、普及啓発イベントに地元の高校生が参加するなど、市民の関心も高まりつつある。行政、企業、NPO、そして市民が一体となって進める廃食油の回収の仕組みづくりは、地域資源を活用した環境保全活動の好例となっている。

脱炭素社会を実現するため、SAFの重要性を広めよう

SAFは、航空業界の脱炭素化を実現するための切り札である。確かに、現時点では製造コストが従来の航空燃料より高く、供給量も限られているが、環境負荷を大幅に軽減できる可能性を秘めている。

すでに多くの自治体が、地域の未利用資源を活用したSAFの製造に向けて動き出している。廃食油の回収から始まるこれらの取り組みは、地域の資源循環を促進し、環境意識の向上にもつながっていくだろう。

脱炭素社会の実現には、技術開発や設備投資だけでなく、地域全体での理解と協力が不可欠だ。各自治体には、地域の特性を活かしたSAFの普及促進が期待される。この記事で紹介した先進事例を参考に、地域資源の循環利用や新たな産業創出の一助としてほしい。

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