ジチタイワークス

埼玉県深谷市

【齋藤 理栄さん】デジタル化に乗り出す前にまずは“アナログ”で改革を。

業務改善のプロに聞く

窓口BPRアドバイザーとして、全国19の自治体をサポートしてきた齋藤さん。多くの現場を見てきた経験から、成功する自治体には共通点があるという。改革をうまく進めるポイントはどこにあるのか、その秘けつを聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.35(2024年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

profile

2004年、深谷市役所入庁。保険年金課、農業振興課、情報システム課などを経て、2019年からICT推進室で窓口BPRに携わり、翌年には“書かない窓口”をスタートさせた。現在はデジタル庁から窓口BPRアドバイザーの委嘱を受けて活動している。

 

窓口BPRアドバイザーとは

自治体の課題や取り組み内容、プロジェクトの進め方に関して助言する。また、支援を受ける自治体が主体的に動けるようなサポートも行う。

“不安”や“不満”の中に改善ポイントが隠れている。

-窓口BPRについて教えてください。

窓口BPRとは自治体窓口の利用体験調査を実施し、フロントヤードとバックヤード双方の課題を抽出。窓口サービスを改革する取り組みです。成功する自治体は推進体制が整い、職員が楽しんで改善に携わっています。反対に現状の把握を行わず、課題解決をシステム導入だけに頼る自治体はつまずく傾向です。

※BPR=Business Process Re-engineering(既存の業務フローを根本的に見直し、再構築すること)

-窓口BPRアドバイザーとして、どのような支援やアドバイスを行っていますか。

研修やワークショップを通して“デジタル改革の前に業務見直し、業務見直しの前にユーザー体験”が大切だと伝えています。先日のワークショップでは、全国から集まった職員の皆さんでペアをつくり、相手の自治体に引っ越す想定で自治体のHPから情報を集めてもらいました。住民の目線になると見える景色が変わります。その後、各自治体に改善点をもち帰り、HPを修正してもらいました。

また、現地で支援を行う場合は、実際のバックヤード業務の手順を確認します。どこで業務が滞っているか、手作業が発生するかに注目するのです。

このように小さな気づきを一つずつ改善していくことで“住民として受けられるサービスの利便性が向上する”というのが私の実感です。そのための業務改善ですから、手段としてデジタルが最適かどうかの判断は後の話になります。

-自治体がつまずく理由の一つ“システムありきで進める”とはどういうことですか。

よくあるのが、“近隣自治体が使っていてよさそうだから”という理由でシステム部門が導入しているパターンです。せっかく導入しても、原課の課題が見えていなければミスマッチが起こり、システムが使われないという事態を招きます。

また、規模の大きな自治体もつまずきやすい傾向です。業務が細分化されているため、調整が必要な担当課が多くなります。そのため、改革が失速してしまうのです。また、市町村合併があった自治体では、同じ業務なのに支所によってやり方が異なることも。現場が不便を感じていなければ、改革の必要性を理解してもらえないこともあります。
 

失敗を経験と捉えて前進し、改善までやり抜けば成功に。

-自治体に多い“異動”も改革を阻む要因になるのでしょうか。

システムを導入する際、仕事のやり方をガラリと変えて上手に使いこなすまでに一般的に2、3年かかります。その間にキーパーソンが異動になると、残された職員が困ってしまい、結果的にシステムが使われないということにもなりかねません。異動で改革を止めないためには、スタートからまわりの職員を巻き込むことが重要。いつまでに何をやるのかを明示した計画をつくっておくことも大切です。それを住民に向けて発表していれば、やらざるを得なくなりますよね。

-失敗が許されないという意識がデジタル化の妨げになるともいわれます。

確かに、失敗できないと思っている職員は多いですね。ただ、失敗しても成功するまで続ければ、失敗は通過点になります。要は、成功するまでやり抜く覚悟があるかどうか。何を失敗と捉えるかは人それぞれだと思いますが、そこから得た様々な気づきや経験を活かして、次に進めることが大切だと感じます。

思いを共有できる仲間をつくり小さな改革からスタートする。

-楽しんで改革する自治体は成功しやすいとのことですが、詳しく教えてください。

改革を進めると一時的に業務量が増えるのですが、それでもとても楽しそうです。成果が見えてくると多くの職員が“自分たちで改革したい”というマインドに変わります。もちろん、最初から全員が同じ温度感でいることは難しいと思いますが、このマインドこそが成功のカギです。

普段から情報を集め、規模や課題が同じような自治体の成功事例があれば、どうしてうまくいったかを教えてもらうことも重要です。他団体のまねから始めれば、取り組みへのハードルも下がります。

また、一気に進めるのではなく、一貫して続けることを意識してほしいですね。ある自治体では窓口改革の取り組みを10年以上継続していて、システム活用ができる手続きを今も増やしつづけているそうです。

-職場の雰囲気も大事ですね。

庁内のコミュニケーションがうまくいっているところは進めやすいと思います。“仕事のムダをなくしてラクにしたい”と思っている仲間を見つけることもポイントです。これは私の経験談ですが、ICT推進室から収税課に異動した当時、窓口では納付書のバーコードの数字を手入力していました。“改善できる”と思いましたが、業務を知らない人間の言葉には説得力がない。だからまずは仕事を覚え、半年ほど経ってからExcelが得意な職員と一緒に、バーコードをExcelに読み込むシステムをつくって手入力を不要に。これが好評で自分の居場所ができ、提案しやすい環境になりました。最初はお金をかけずに小さな改革から始めて理解者を増やし、成功体験を共有することも効果的だと思います。

-ともに頑張っている全国の自治体職員にメッセージをお願いします。

今までのやり方では、業務負担が増えるばかりです。だからこそまわりの人を巻き込んで、できることから改革してほしいと思います。仲間は組織の外にもたくさんいますし、私のようなアドバイザーに頼るのも一つの手です。職員が余裕をもって働くことで、行政サービスの維持と向上の両立が図れると、私は信じています。よりよい未来のために、使えるサポートをどんどん使いながら一緒にチャレンジしていきましょう。

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