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埼玉県寄居町

構想50年の市街地活性化。官民連携とソフト事業を通じて実現。【ふるさとづくり大賞】

全国各地で、それぞれのこころをよせる地域「ふるさと」をより良くしようと頑張る団体、個人を表彰する総務省の「ふるさとづくり大賞」の令和6年度受賞者がまもなく発表される。これに先立ち、令和5年度に自治体として受賞した事例をまとめて紹介する。

このうち埼玉県寄居町(よりいまち)は、半世紀にわたって課題となってきたJR寄居駅南口の市街地活性化を、官民一体の努力で成功させた取り組みが評価され、地方自治体表彰(総務大臣表彰)に選ばれた。その歩みを聞いた。

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。

 

 

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埼玉県寄居町
左:町長 峯岸 克明 (みねぎし かつあき) さん
右:プロモーション戦略課 課長 浅沼 博幸 (あさぬま ひろゆき) さん

 

狭い道路と市街地衰退、2つの課題と取り組む。

寄居町の市街地活性化への取り組みは昭和30年代に始まった。当時、まちのにぎわいの中心となるJR寄居駅南口へ至る「中央通り線」の拡幅が課題となっていた。

「市街地から駅への進入路ですが、道幅が非常に狭く、かつ一方通行でした。この延長200m強の区間を相互通行にしようという動きがあったんです」と浅沼さんは説明する。狭いところでは幅4.5メートルしかなく、道の形状も曲がっていたため、車両の通行を阻害していたという。

しかし計画はいずれも途中で頓挫した。「民地が絡むので、買収や移転への合意を得るのが難しい。町としても踏み切れない時期が続きました」と浅沼さん。

昭和40年代に入ると町の人口減少が加速し始めた。「後継者不足の問題が浮上して、商店街も次第に活力を失い、道路と市街地の両面で問題が浮き彫りになってきました」。町は2つの課題を解決しようと検討を重ねたが、計画を立てては消える状態が平成20年代まで続いたという。

昭和42年当時の「中央通り線」。道幅が狭く車の通行を阻害していたため、拡幅が長年の課題となってきたという。

官民一体「まちづくり会社」で活性化計画を策定。

構想が具体的に動き出したのは平成28年のことだ。町、商工会、地元事業者が出資して「株式会社まちづくり寄居」を設立。市街地活性化の計画策定に着手した。

当時、中心市街地活性化法の改正を受けて、全国の自治体で再開発の計画策定が盛んに進められていたが、「中心市街地活性化基本計画」として国の認定を受けていたのは、各地域の中心都市など人口規模の大きい市が大半だった。

その中で寄居町は平成30年、町村としては初めての認定を獲得した。「すでに駅前が栄えている場所が再開発されるケースが多い中で、寄居町のように一度も開発されたことがないまちが採択されたのは珍しいこと。早い段階で手を挙げられたのが要因の一つだと思います」と浅沼さん。

「町としても、この機会を逃すと南口整備は難しくなるという覚悟を持って臨みました。町が積極的に動き、商工会の協力をいただきながら地元企業にも丁寧に説明し、住民への説明会も重ねて理解をいただいた上で進めていきました」と振り返る。

余剰地と空き店舗を活用し、賑わいにつなげる。

賑わい創出交流広場「YORIBA」でのイベントの様子。再開発工事の進行中は余剰地を利用してマルシェなどが開かれた。

活性化の取り組みは、まずソフト事業から動き出した。

「まちづくり寄居」にタウンマネージャーという役職を設け、外部からまちづくりの専門家を招聘。プロの視点からのアドバイスを受けた。この中で「空き地を使ったマルシェや、空き店舗をリノベーションして再生する取り組みについて、ワークショップなどを通じて議論を深めていきました」。

マルシェは再開発工事の途中で生じる余剰地などを活用。市民が集える簡易的な公園をつくり、ヨガ教室やコーヒーの出店が並ぶイベント会場として提供した。不定期ながら、コロナ禍以前には月1〜2回の頻度で催しが開かれたという。

後継者不足などで増加していた空き店舗は、壊すのではなく再活用する方向を探り、若い世代の出店を導き入れることに成功した。5年間で20店舗の開業という目標をクリアし、令和5年度までに24店舗が新たに開業したそうだ。

令和2年には、半世紀にわたる懸案だった中央通り線の街路整備事業が始動。幅4.5~6メートルの曲がった道が、幅16メートルの直線道路に生まれ変わった。併せて駅前ロータリーの整備や電線の地中化も実現。並行する路地も整備され、市街地の景観や交通の利便性が劇的に向上したという。

上空から見た寄居駅南口の再開発エリア。駅前のロータリーから延びる「中央通り線」は幅16メートルの直線道路に生まれ変わった。

駅前に拠点施設と広場。まちの新たなシンボルに

そして令和5年、寄居駅南口にランドマークとなる拠点施設「Yotteco」と、賑わい創出交流広場「YORIBA」が誕生した。

「かつての駅前が寂しい状況だったので、まずみなさんが集まれる場所、立ち寄ることのできる場所、というイメージで施設と広場を作りました。“集う×憩う×交わる”という3つのワードがコンセプトです」と浅沼さんは説明する。

「Yotteco」は木造2階建てで、1階には観光案内所、カフェ、染め物などの特産品の販売コーナーを開設。2階には町内外の人々が自由に利用できる多目的スペースを設けた。屋上も開放され、寄居の市街地を見渡すことができる。「駅を出てすぐの場所なので、まちの新たなシンボルとしての意味をこめて建設しました」と浅沼さん。

すぐ近くに整備された「YORIBA」は広さ約1,000平方メートル。住民や観光客が街歩きの途中に休憩するスペースとして、また地域のイベントやお祭りの開催場所として利用される。災害時に備えてマンホールトイレ6基を設置。炊き出しをできる機能も備え、災害時の避難場所として、また防災訓練の会場としての役割も担っているという。

「Yotteco」は令和5年のグッドデザイン賞を受賞。同年度の利用者は約6万3,000人に達し、「予想を上回って多くの方々に利用していただいています」と浅沼さんは手ごたえを語る。

拠点施設「Yotteco」の夜間の様子。屋上から市街地が望める設計で、令和5年のグッドデザイン賞を受賞した。

賑わい創出は「まだスタートライン」。

「ふるさとづくり大賞」では、駅前周辺整備に向けた長期にわたる努力と、官民連携による空き店舗の再利用、駅前の拠点施設と交流広場の集約拠点としての活用などが高く評価された。

今回の受賞について町長の峯岸 克明さんは「平成30年に着手した『中心市街地活性化事業』では、半世紀以上にわたる町の懸案事項であった市街地の整備や賑わい創出を目指して様々な事業を展開してきました。そして、多くの町民の方、関係団体のご理解とご協力をいただきながら、5年がかりの事業の集大成とも言える、寄居駅南口駅前拠点『Yotteco』『YORIBA』の完成をもって、寄居駅開業以来120年ぶりのリニューアルを果たしました」とこれまでの取り組みを総括する。

ただ、目標とする“賑わいの創出”は「まだスタートラインに立ったばかり」だそうだ。今後は、寄居町観光アプリ「風雲YotteGO!謎解き寄居町~鉢形城攻防戦~」のリリースや、民間主導のイベントが開催しやすい環境づくり、空き店舗を活用したさらなる起業支援などを通じて“新しい挑戦”を支援していくという。

「町内外の人が『寄居町を訪れるといつも何かやっている』『寄居町ならば、自分のやりたいことを実現できる』と希望を持てるまちづくりを行ってまいりますので、寄居町の今後にぜひご期待ください」。

拡幅された「中央通り線」で開かれた寄居秋祭り(宗像神社例大祭)の賑わい。今後もさらなる空き店舗活用などを進めていくという。

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