まちづくりは住民の生活環境を改善し、地域の魅力を高めるための活動のことである。
全国の地方都市で人口減少や高齢化が進んでいることに加えて、地域経済の縮小や中心市街地の衰退などの問題に直面している。まちづくりに取り組むことで人やお金の流出を食い止め、持続可能な地域社会を構築していくことが求められている。
地域のニーズや実情に合ったまちづくりとはどのようなものか、自治体側も真剣に考えていきたい。
本記事ではまちづくりの定義や目的、課題のほか、全国で取り組んでいるまちづくりの事例について詳しく紹介する。
【目次】
• まちづくりの定義とは?
• まちづくりの目的とは
• まちづくりの課題とは
• 全国のまちづくりの事例10選
• 地域の隠れた財産や文化を見極め、住民や地元NPO、企業などと連携しよう
※掲載情報は公開日時点のものです。
まちづくりの定義とは?
まちづくりとは法令上の明確な定義はないものの、一般的には「地域住民の生活環境を改善し、地域の魅力や活力を高めるための活動」のことである。
国や自治体主導でこれまで進められてきた都市計画は、建物やインフラを新たに整備してまちそのものをつくることを意味する場合が多い。それに対してまちづくりは地域住民と自治体が協力しながら、現在あるものを活用して都市機能を再生・改善していく取り組みが主流となっている。
地方都市では人口減少や少子高齢化に加えて、地域経済の縮小、中心市街地の衰退といった問題に直面しており、そうした地域課題に対処するためにもまちづくりが必要とされている。
まちなかにすでにある文化や施設を活用
まちづくりに取り組む上で、地域の中にすでに存在している施設や建物などの地域資源をできる限り活用することが大切だ。
官民や地域住民の連携
まちづくりを進める上で欠かせないのは、自治体と地域住民の連携だ。地域のNPOや地元企業など、様々な団体と協力関係を築くことも意識して行いたい。
住民や地元企業が主体
まちづくりの主体は自治体ではなく、地域住民や地元企業など「まちで暮らす人たち」にあることを認識しておきたい。国や自治体が主導して行う都市計画はトップダウン型の意思決定で進められるが、一方でまちづくりに関しては住民から自治体に向けたボトムアップ型の意思決定となる 。
まちづくりの目的とは
まちづくりの今後の方向性について国土交通省が平成元年に提言を行っている(※1)。その中からまちづくりの目的とは何か、改めて重要なポイントを整理してみよう。
※1出典 国土交通省「居心地が良く歩きたくなるまちなか」からはじまる都市の再生
住民同士のつながりやコミュニティが生まれる
施設や建物などインフラ整備を中心に進められてきたこれまでの都市計画から、人中心のまちづくりへ転換することが大きなテーマになっている。
“人”にフォーカスした取り組みを進めることで地域の住民同士のつながりやコミュニティを生み出し、学生や高齢者、幼児などの世代間交流を促すこともまちづくりの目的だ。
地域の魅力が高まり、観光客が見込める
その地域に根付いている生活や文化、歴史などを住民が再発見し、外部の人とも共有することでほかの地域との差別化を行うことも大切だ。その土地にしかない価値を高めることで、そこを目当てに訪れる観光客も見込める。
定住者が増える
若者を中心に仕事と生活の両面を重視して、居住地や就業地を決める傾向が高まっている。まちの魅力や価値を高めるまちづくりに取り組むことで、若い世代の定住者を増やすこともまちづくりの目的のひとつだ。
まちづくりの課題とは
まちづくりを進める上でハードルとなる課題について解説する。
少子高齢化の中での持続可能なまちづくりが求められる
総務省が平成24年に全国の自治体を対象に行った調査によると、まちづくりを検討する上で課題に感じていることは少子高齢化が最も多く、61.7%の自治体がこの問題に直面していることが分かった(※2)。
今後も全国的に人口減が続くことから、持続可能なまちづくりやまちの機能とは何かを考える必要があるだろう。
ビジネス・雇用創出の難しさ
同じ調査で次点に挙がった課題は産業・雇用創出の難しさで、約54%の自治体がビジネスや雇用を生み出すことが難しいと考えている(※3)ことも分かっている。 ヒトだけではなく、モノやカネが地域外へ流出していることも自治体が抱える深刻な課題だ。
※2・3出典 総務省「情報通信白書平成24年版」
道路や公共下水道などのインフラ施設の老朽化や耐震性への懸念
道路や公共下水道など社会インフラの老朽化も多くの自治体が抱える課題だ。
平成26年に都市再生特別措置法が改正され、居住機能や医療・福祉・商業、公共交通などの様々な都市機能を誘導し、コンパクトなまちづくりを進めるための政策が進められている(※4)。
※4出典 国土交通省「安全なまちづくり」・「魅力的なまちづくり」の推進のための都市再生特別措置法等の改正について
都市の縮小をどのように進めていくか、現実的な落としどころを見つけることも自治体の大きな課題となっている。
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全国のまちづくりの事例10選
ここからは全国の自治体で取り組んでいるまちづくりの事例を見ていこう。
1.【愛知県長久手町】多様な世代が集まって住む‘ほどほど横丁’
愛知県長久手市ではまちづくりの一環として、高齢者から子どもまで多様な世代の人たちが一つの地区に集まって住む「集住」の取り組みが行われている。
昔の活気ある大家族を目指して、社会福祉法人たいようの社が運営を担う。「ぼちぼち長屋」と名付けられた木造2階建てのアパートの1階に、介護が必要なお年寄りが13人、2階には4人家族と女性が4人暮らしており、向かいにあるデイサービスセンターを含めてこの区画は「ほどほど横丁」と呼ばれている。
2.【佐賀県唐津市】地域住民のパワーを活かした地域体験・感動プログラムの開発
佐賀県唐津市では地元の伝統的な祭り「唐津くんち」をテーマにした観光ツアーを地域住民と共同で開発するプロジェクトを通じて、にぎわいと活力あるまちづくりを目指している。
女性や高齢者など地域住民に協力してもらい唐津くんちの「うんちく」を探し出し、その情報をもとに地元民にも知られていなかったコアなガイドコースとして造成した。今後、ブラッシュアップを重ねて唐津観光を代表するガイドコースとして販売する予定だ。
3.【愛知県高浜市】元気な高齢者が運営するまちなかの居場所「喫茶カウンター付き宅老所『じい&ばぁ』」
愛知県高浜市では平成11年より「託老所」を開設している。託老所とはボランティアが高齢者を一時的に預かり、一緒に話や食事をする介護予防のための取り組みだ。市内5カ所の託老所のうちのひとつは、市街地の空き店舗を活用して開設された。
『じい&ばぁ』と名付けられた託老所は喫茶カウンター付きの施設になっており、ボランティアスタッフによる手作りの昼食や、コーヒー、抹茶、紅茶などの喫茶を各200円で提供している。
昼食づくりや喫茶コーナーの運営を行うボランティアも中高年が中心で、「自身が元気なうちはほかの高齢者の助けになりたい」という思いがボランティア活動の動機だ。地域の人たちの交流を生み、この場所を運営する人たちの生きがい・やりがいにもつながっている。
4.【愛知県名古屋市】空き店舗を活用した0・1・2・3歳と大人の広場「遊モア」
愛知県名古屋市北区の柳原商店街には空き店舗を活用した常設広場「遊モア」がある。
「遊モア」の運営を担うのはNPO法人子育て支援のNPOまめっこ。0~3歳までの乳幼児とその保護者や妊婦を対象にした広場事業と、一時保育の2つの事業を柱として、親子が気軽に遊ぶ機会を提供する子育て支援を行う。
商店街の関係者や買い物客らとの交流の場にもなっており、商店街の活性化や地域の子どもと大人たちが触れ合うきっかけづくりにも役立っている。
5.【愛知県瀬戸市】学生パワーでまちの活性化「名古屋学院大学まちづくりNPO人コミュ倶楽部」と「マイルポスト」
愛知県瀬戸市の銀座通商店街では、空き店舗対策事業に取り組む行政や商工会議所、商店街の人たち、名古屋学院大学の学生たちが協力して商店街の活性化を目的としたまちづくりに取り組んでいる。
学生と教員が協働する「名古屋学院大学まちづくりNPO人コミュ倶楽部」の事務所を商店街の一角に構え、物販やイベントを商店街の人たちとも協力しながら展開。平成14年には学生有志の経営によるカフェ&雑貨店「マイルポスト」もオープンした。商工会議所が認定する「瀬戸みやげ奨励品」のネット販売など、学生のアイデアやチャレンジ精神を活かした多様なビジネスに取り組んでいる。
6.【山梨県大月市】まちのコンシェルジュ事業
山梨県大月市では来訪者や地域住民に大月を案内する「まちのコンシェルジュ」事業に取り組んでいる。
JR大月駅前広場にコンシェルジュを配置して、地域住民や来訪者に大月の魅力を伝えるとともに、まちや周辺観光地などの案内、商店街の紹介、公共施設の案内を行う。大月への来訪者に対して地域の魅力を発信すると同時に、利用者を通じてニーズを探る狙いがある。
7.【静岡県富士宮市】ユニークなネーミングでまちおこしに挑む「富士宮やきそば学会」
静岡県富士宮市では市民有志による「富士宮やきそば学会」の活動を通して、中心街の活性化につながるまちおこしを行っている。市が行った中心街活性化を目的としたワークショップがきっかけとなり、13人のメンバーで平成12年に「富士宮やきそば学会」がスタート。市内のやきそば店を調査し、データベースを作成した。ネーミングのユニークさからたびたびマスコミに取り上げられたことで富士宮やきそばの知名度も高まり、やきそばを目当てに大勢の観光客が訪れるようになった。
8.【新潟県村上市】地域資源を活用した景観まちづくり方策検討調査
新潟県村上市では城下町である地域の歴史文化財を活用して、景観のいいまちづくりに取り組んでいる。
平成14年より市民を中心に「黒塀プロジェクト」を開始。城下町の風情を感じさせる安善小路と周辺地区を対象に、昔ながらの黒塀のある景観を再生するための取り組みだ。黒塀1枚1,000円で寄附を募り、その資金をもとに住民の手でブロック塀に一枚一枚板を張り付けリノベーションを行う。これまで1,000人以上の市民の寄附により460mの黒塀が再生され、現在も市民による景観整備が続けられている。
9.【長野県小諸市】「詩情」をテーマにした風景づくりと「スケッチの旅」観光おこしプロジェクト
長野県小諸市では地域の自然豊かな景観を活かした、新しい観光スタイルの開発に取り組んでいる。
スケッチ、写真、俳句などの創作を目的とした旅行のニーズはあるものの、受け入れ体制をもつ自治体がないことが業者へのヒアリングで判明した。
そこで小諸市は島村藤村などの文化人が作品にしてきた市の景観や文化的背景に着目し、市民から地域の景観ポイントの情報を募った。「詩情」をテーマとした景観スポット案内や「スケッチの旅」と題した創作旅行の提案など、芸術作品の創作の場として地域のブランディングを行っている。
10.【宮崎県 都城市】子どもの川体験から発想するウェルネスシティ支援システム検討
宮崎県都城市では川を中心としたまちづくり計画に取り組んでいる。子どもを対象にした川の体験学習「リバースクール」と、川遊び体験やカヌー体験などのアクティビティを目玉にした「リバーツーリズム」を開催。
子どもをメインターゲットにすることで、その保護者も併せて河川空間に触れ合う機会を提供している。河川への日常的な関心が希薄になった親の世代の地域住民にも環境保全について考えてもらい、地域住民が自ら考え行動して河川を活かしたまちづくりを進めるための取り組みだ。
地域の隠れた財産や文化を見極め、住民や地元NPO、企業などと連携しよう
まちづくりは地域に蓄積されてきた文化や歴史などの資産を活用して、住民の生活環境を改善し、地域独自の魅力や価値を高めるための取り組みだ。
少子高齢化や人口減少が続く中で持続可能な地方自治体でいるためには、住民が今後も住み続けたいまちを実現させる必要がある。地域の隠れた財産や文化を見極め、住民や地元のNPO、企業などと連携しながらまちづくりを進めていきたい。