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コンパクトシティとは?基本概念とメリット・デメリットを押さえる

「コンパクトシティ」とは、生活利便性の維持・向上を目的とし、居住や生活サービス機能を集積するというものである。高齢化が進み、将来の人口減少が社会問題になっている今、買い物、医療・福祉などの生活サービスの維持が将来困難になることが予想されている。そこで、コンパクトシティ化で住民の生活を守っていこうというものだ。

健康で快適な生活の実現、財政・環境面での都市の持続可能性の向上のためにも、コンパクトシティの基本概念、およびメリットやデメリットを理解しておこう。

【目次】
 • コンパクトシティの定義と基本概念

 • コンパクトシティのメリット・デメリット
 • コンパクトシティの事例紹介(富山市・広島県廿日市市)
 • コンパクトシティ化を、自治体に合った施策で進める。

コンパクトシティの定義と基本概念

コンパクトシティは、居住や都市機能を集め生活の利便性を維持するものだが、国土交通省によると、以下の目的の実現を目指しているとされている。

◆生活サービス機能維持や住民の健康増進など、生活利便性の維持・向上
低密度な市街地が広がったまま今後さらに人口減少が進むと、生活サービスの維持が難しくなる。コンパクトシティ化で人口密度の維持と生活サービス施設の距離を近くすることで、生活利便性の維持、生活サービス施設の経営維持が期待できる。 

◆サービス産業の生産性向上による地域経済の活性化
移動に時間や費用がかかるサービス(訪問介護など)は生産性や収益率の低さが問題となっている。コンパクトシティ化により人口の集積が進むことで、サービス提供件数の増加と移動コストの削減が期待できる。 

◆行政サービスの効率化等による行政コストの削減
コンパクトシティ化することで、公共施設・インフラの維持、ごみ収集などの行政サービスも効率的に行える。また、都市部の土地利用が増えると、地価の維持や固定資産税の税収維持も可能になる。


 現在、日本全体が抱える課題に「少子高齢化」がある。さらに、人口が都市部などに集まり、地方から人口が減っている状況も懸念されるようになった。このような状況の中で医療・福祉や公共交通機関、そして商業施設など、生活するためのサービス維持が懸念されている。

そこで、地域をコンパクトシティ化することで、住民の快適な生活の実現、環境や財政の持続、経済の活性化という効果が期待されている。

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コンパクトシティの定義

コンパクトシティの定義は論者によって異なるが、一般的には以下のような都市構造だとされている。

・高密度で近接した開発形態
・公共交通機関でつながった市街地
・地域のサービスや職場までの移動のたやすさ

コンパクトシティにはいくつかの類型があるので、こちらも理解しておこう。 

【多極ネットワーク型】
生活サービスを提供するエリアと居住者を誘導し人口密度を保ったエリアを設定し、エリア間を公共交通機関で結ぶタイプのコンパクトシティ

【串と団子型】
鉄道など公共交通機関を発展させ、その沿線に居住エリア、商業エリア、行政エリア、文化施設エリアなどの機能を集めるタイプのコンパクトシティ

【あじさい型】
エリアごとに、歩いて移動できる範囲に生活に必要な都市機能を収集させ、他エリアとも連携して共生するタイプのコンパクトシティ

コンパクトシティのメリット・デメリット

コンパクトシティのメリット

コンパクトシティのメリットとして以下のようなものが挙げられる。

●    自家用車を持たない人でも公共交通機関や徒歩で商業施設や公共公益施設を利用できる
●    道路・下水道など社会インフラの維持管理費用の削減につながる
●    公共交通機関を使うので、環境負荷を軽減できる
●    エリア内に様々な施設・機能を集めるため、経済交流、コミュニティの活性化につながる
●    農地や緑地の市街化が防止できる

コンパクトシティの大きなメリットは、公共交通機関や徒歩で商業施設や公共公益施設を利用できるようになるという点だ。高齢者の自動車運転による事故が大きな社会問題になっていることもあり、高齢者の移動手段の確保という観点からも見逃せないメリットといえるだろう。

また、都市部に人口が集まることで産業の活性化を図ることができる。それに伴い、自治体の経済発展、雇用の増加なども期待されている。

コンパクトシティのデメリット

コンパクトシティには懸念されるデメリットもある。こちらも見ておこう。

●    居住地域が限られてくる
●    コンパクトシティ化を希望しない住民もいる
●    隣人トラブルなどの増加
●    物価高の懸念

「物価が高い」「住居を変えるほどの経済的余裕がない」「生活スタイルを変えたくない」という理由から都市部に住むのを希望しない人が発生することも予想される。コンパクトシティ化を進めるためには、このような住民の説得、そして魅力ある都市づくりも必要になる。

また、人口密度が高くなることで、騒音、ゴミ処理の方法などで住民同士のトラブルが増加することも考えられるため、事前の対策も求められる。

そして、人口が限られたエリアに集まることで、そのエリアの物価が高騰することも懸念される。経済的余裕がない人が暮らしにくい状態に陥らないための工夫も必要になる。

コンパクトシティの事例紹介(富山市・広島県廿日市市)

case.1 富山市

富山市では「串と団子型」コンパクトシティを目指している。具体的には「公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」だ。拠点集中を行うことで税収増も期待されている。

主な施策は以下のとおりである。

【誘導的手法を取る】
規制強化ではなく、都心部の魅力を高め、居住を誘導する手法を取る。

【住民が居住地を選択できるようにする】
現時点では、都心部に魅力的な商業施設や集合住宅などが不在のため、都心部への居住が選ばれない状況がある。都心部を選ぶ住民が増えるよう、長期的な視点で誘導していく。

【公共交通の活性化】
Light Rail Transit(LRT)ネットワークの形成、市内電車環状化事業など、鉄軌道網、バスなど公共交通の活性化を行い、駅や停留所の500m程度の範囲(徒歩圏内)に居住エリアと住民に必要な機能を集約させ、「歩いて暮らせるまち」を実現させる。

【全市的にコンパクトなまちづくりを行う】
旧富山市都心部だけでなく、鉄軌道など公共交通幹線の沿線に地域拠点を整備し、全市的にコンパクトシティ化を推進する。

以上の施策の結果、路面電車(市内電車+富山港線)の利用は平成26年から令和元年の間の約15%増加した。また、高山線の西富山駅~越中八尾駅間の利用も平成27年と令和元年を比較すると約31%も増加している。

また、市全体の人口の増減については次の表のような結果が出ている。(平成29年1月1日~平成29年12月31日の1年間)

全国的にも、富山県でも人口減となっているが、富山市の人口減少率は富山県の他の自治体よりも鈍化しているという結果が出た。さらに、総人口こそ減ってはいるが、近年は転出よりも転入の方が超過している。

地価の動きでも、コンパクトシティ化の効果が出ている。県全体の地価平均は平成5年以降下落しているが、富山市は5年連続で上昇している。なお、富山市全体では平均+0.6%(前年比)上昇、商業地は13地点、住宅地でも市内21地点で上昇 している。

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case.2 広島県廿日市市

広島県廿日市市の人口は増減を繰り返しているが、中長期的には減少が予測されている。その中でも市の中心部から離れた地域の人口減少が進むと考えられている。また、人口減少や少子高齢化だけでなく、高齢者の単身世帯や夫婦のみ世帯の増加も見込まれることから、生活サービスの維持も大きな課題である。

そこで、同市では将来の人口減少を見据え、「高密度で都市機能や居住機能が集約された土地」と「低密度でゆったりとした土地」を適正に配置するという地域再編を打ち出した。あわせて、高齢化対策として、歩いて暮らせる範囲の生活サービス機能維持も進めていく予定だ。

なお、具体的には以下のような計画が打ち出されている。

【シビックコア地区整備計画】
市役所、文化センター、総合健康福祉センター、商工保健会館などの公共施設周辺を「シビックコア地区」と位置づけ、平成16年に「シビックコア地区整備計画」を策定した。基本方針は次のとおりである。

●    官公庁施設の集約による都市拠点の形成
●    新しい文化・交流拠点の形成
●    事業者・居住者・公共が連携・協力した公民連携のまちづくり
●    広島都市圏西部の広域拠点にふさわしい、シンボリックな都市空間の創出
●    廿日市の産業を活かした賑わいの場の創出

「国道2号北ゾーン」「国道2号南ゾーン」などのゾーンごとに、「商業・サービス施設」「公共施設等」などのテーマを決め、空間構成、景観形成そして緑化修景を行うことが計画され、現在進められている。

また、今後の検討課題としては、以下のような事項が挙げられる。

【まちなか居住の推進】 
分譲マンションの誘導、商業施設や宿泊施設などの誘導を行い、市街地の整備、居住エリアの利便性の向上を図る。

また、「居心地がよく歩きたくなるまち」つまり「ウォーカブルなまち」を目指し、歩行空間やオープンスペースの確保にも努める。

【道路整備】
歩道設置や道路法線の修正などを行い、利便性の向上、歩行空間の確保など回遊性の向上を目指す。

【公園の利活用】
既存の敷地を活用し、新たな施設の整備を行う。にぎわい創出や公園機能の増進につなげる。

【公共施設の集約・再編】
施設の機能・規模などから最適なものを組み合わせ、にぎわいの創出や利便性の向上につなげる。

コンパクトシティ化を、自治体に合った施策で進める。

少子高齢化と人口減少を大きな課題と考える自治体は多いだろう。その中で、自治体が生き残っていくためには、居住エリアや公共・商業エリアを集約化させ、生活利便性の維持を目指すコンパクトシティ化が重要になってくる。

さらに、コンパクトシティ化は、人が集まるエリアでの経済活動の活発化も見込める。そして、経済活動が活発化することで、雇用の創出、税収増、地価の維持や上昇も期待できるだろう。

ただし、集約された居住エリアへの転居を希望しない住民の存在、そして居住エリアの高密度化で住民同士のトラブル発生も予想される。コンパクトシティ化を目指すのであれば、自治体の住民や土地の事情も考慮しながら施策を進めていくことが望ましいだろう。

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