メリハリのある再整備で街区公園の機能重複を解消
少子高齢化による地域ニーズの変化と、インフラ施設の老朽化に直面する中、札幌市は住民の利用状況に応じた公園の機能分担を進めている。住民の合意を得ながら、組織全体で足並みを揃えて取り組む方法とは。
※下記はジチタイワークスVol.34(2024年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
左から
北海道札幌市
建設局みどりの推進部
みどりの推進課
係長 東谷 壮一郎(ひがしや そういちろう)さん
吉野 聖(よしの たかし)さん
似たような狭小公園が多い状況に、現場の職員も課題を感じていた。
近年まで人口の社会増を続けてきた同市も令和2年を境に減少局面に入り、少子高齢化が進む未来を見据えたインフラ整備の重要性が高まっている。住民に憩いと交流の場を提供する公園もその一つだ。令和5年度末時点で同市が所管する公園は、政令指定都市で最も多い2,740にものぼるという。「背景には、昭和47年開催の札幌オリンピックがあります。これを機に人口が増え、都心から郊外に向けて小規模な宅地開発が続々と行われていったこと、その要件に“開発規模に応じた一定程度の公園の造成”が含まれていたことが大きな要因です」と東谷さん。同じような公園が近接していくつもあり、遊具やベンチなども多い。こうした公園の約8割は造成から30年以上が経過しており、老朽化への対応が必要だという。
公園には、維持管理や更新などの負担があるだけでなく、少子高齢化を背景に利用者の減少がみられるものもあった。従来通りの維持管理では、地域ニーズに即さない公園に多くの財源と人手を割くことになってしまう。これまでの取り組みを振り返りながら、吉野さんはこう語る。「同じような狭小公園がいくつも近接している状況を、現場は以前から課題に感じていました。そこで、平成20年代の半ば頃から“機能が重複し、かつ利用が少ない1,000㎡未満の公園”については、簡易的な改修にとどめるという取り組みを現場レベルで試験的に進めていました」。
近隣住民への調査と丁寧な説明で、利用実態に即した再整備を進める。
現場のアイデアから始まった新たな公園整備の考え方は、令和元年度に正式に採用されることとなった。同年度末に「札幌市公園整備方針」を策定し、翌年度からは“選択と集中”による再整備を加速させている。同方針では、遊具などがあり地域利用の中心となる“地域の核となる公園”、そこから250m以内の距離にあり遊具などを置かない小規模な“機能特化公園”、いずれにも属さない“その他の街区公園”の3つに分類。それぞれに役割を分担させ、同じ分類の公園が近接しないように検討することが定められている。数多くの公園から整備対象を特定するためには、都市計画GISデータなどを用いて公園の機能分担マップを作成することで、分類にかかる時間の削減を図ったという。
一方で、再整備を進める上では手間を省けない業務も存在している。「郊外の住宅地は高齢者の割合が高く、子どもの姿が見えない公園も少なくありません。利用実態に応じた再整備となるよう、住民アンケートや保育園・小学校へのヒアリングの実施、ニュースレターや説明会による周知など、ニーズの把握と調整を丁寧に行いつつ、合意形成を地道に進めています」と東谷さん。整備後にもアンケートと利用状況の調査を行い、住民の評価を把握して次回に反映しているという。とはいえ、なじみ深い公園の形を変えることに異を唱える声も少なからず存在している。「町内会でも賛否両論となることがあり、合意を得るのに苦労するケースも。例えば、利用者の少ないトイレを廃止する場合です。公園で夏祭りなどの地域イベントを行うのにトイレがなくては困るという声を受けて、撤去から10年間は、必要に応じて無料で仮設トイレを貸し出す取り組みを実施しています」。
▲“安らぎの場”として整備された機能特化公園
地域住民の交流の場として、これからも存続するために。
「再整備の実績としては、令和2年度から令和4年度までの3カ年で遊具の数が約2割減ったという調査結果が出ています。“遊具が減ると利用も減るのでは”と危惧していましたが、小さな広場として色々な形で使われていることもアンケートで分かりました」と吉野さん。インフラ整備の中でも、道路などと比較すると、公園は法的な縛りが少ないことから、ある程度自由に取り組むことができるのが利点だという。各公園へのニーズを丁寧に把握しながら、適切な整備を進めていくことで、今後も広く住民に利用される公園として存続させたいと考えているそうだ。子どもから高齢者まで多世代の人が同時に使うからこそ、住民の交流が生まれ、そしてその絆が強まるような場所にしていきたいと将来への展望も語る。
「方針の策定はあくまでもスタートラインです。これからも適切な再整備を継続していくには、当初の思いをしっかりと引き継いでいくことが重要と考えています。異動で担当者が代わっても方針に沿って実施できるよう、職員間で意図を共有しながら運用していく必要があるでしょう。定例会議や新たに配属された職員への業務説明を行う際には、整備の進め方の前提となる考え方を意識して伝えるようにしています」。自治体と住民、現場の職員同士の情報共有と連携がスムーズな“選択と集中”の一歩になるだろう。