今回(令和6年)で4回目を迎える「Digi田(デジでん)甲子園(以下、「デジ田甲子園」)」。デジタル技術を活用して、地域課題の解決や地方創生に挑戦する自治体・企業を表彰するもので、これまで数々の個性的な取り組み事例が応募されてきた。
令和6年も8月30日から募集が始まっているが、このデジ田甲子園で受賞した取り組みとはどのようなものなのか。そして、エントリーの際には何を準備して、受賞によって何が得られたのか。「Digi田(デジでん)甲子園2023」の審査委員会選考枠、地方公共団体部門で優勝した宇和島市に聞いた。
[PR]内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
Interviewee
宇和島市 高齢者福祉課 地域包括支援センター
左:所長 岩村 正裕(いわむら まさひろ)さん
中:所長補佐 大江 仁志(おおえ ひとし)さん
右:デジタル推進課 長山 雄一(ながやま ゆういち)さん
事業者の提案から生まれた
デジタルツールでの高齢者サポート。
同市がデジ田甲子園へのエントリーを決めたのは、令和5年の募集開始直後だった。
岩村さんは、「デジタル推進課からの案内を聞き、即答しました。」と振り返る。さらに、「2年前のデジ田甲子園にも応募したのですが、残念ながら地区予選で落選したため、雪辱という気持ちもありました」と続けた。
令和5年のエントリーで選んだ取り組みは「スマートスピーカーを活用した『高齢者見守り・オンライン診療(デジ田甲子園2023 結果発表)』」というものだ。
事業のきっかけは、令和2年に締結した包括連携協定にさかのぼる。
高齢化率が40%を超える同市では、後期高齢者の安心・安全を守るための医療や介護、見守りといったケアが、市が単体で取り組むのは難しくなりつつあった。そうした中、日本郵便から包括連携協定に関する提案があった。内容は、産業振興や地産地消、災害対策など地域おこしに関する幅広い活動を推進するというもので、この方向性に共鳴した同市は令和2年8月に協定を締結。
「その活動の中で、日本郵便からスマートスピーカーを使った見守りサービスについての提案があり、課題解決につながると感じたのです」。
このサービスは、高齢者などの自宅にスマートスピーカーを設置し、AIが「食事はとりましたか」「薬は飲みましたか」などの質問を1日数回投げかけ、利用者がそれに答えると遠方の家族に通知が届くというもの。さらに、日本郵便の職員が月に1回訪問して生活状況を聞き取り、その内容も家族のもとへ届く。しかし、この時点での導入は一旦見送ったという。「理由は主にコスト面です。費用対効果が見込めるのか、といった点で難しいと判断しました」
他方この頃、同市には新たな課題が発生していた。離島診療所の医師が退職し、地域医療に穴が開いてしまったのだ。さらに、在宅診療を担う医師の数が不足しているという問題も大きくなりつつあった。
「そこで、スマートスピーカーを活用したオンライン診療ができるのではないかと思いついたのです」と岩村さんは振り返る。
このアイデアをもとに、同市の取り組みは実現に向けて急加速していった。
クオリティよりも現場感を重視した
手づくり動画でデジ田甲子園に応募。
まずオンライン診療については、在宅医療を行う医師が市内に少ないこと、さらに診療報酬が対面診療に比べて若干低いことから、本事業に同意してくれる医師の確保が最重要であった。そこで平時から医療介護連携の分野で、地域包括支援センターと顔の見える関係が構築されている医師を訪問し、宇和島市の課題と、協働により解決できる事業プランを説明したところ、了承を得た。
また、薬剤師会にも足を運び、オンライン服薬指導ができないか打診したところ、こちらも快諾。大江さんは「日本郵便を含め、こうした地域のプレーヤーからの協力が背中を押してくれました」と話す。
日頃から、地域の関係者とは密にコミュ二ケーションを取っていたことで取り組みに対する理解も得やすく、推進力を得る大きな要因となったという。
▲ 高齢者見守り・オンライン診療の概要(出典:広報うわじま May.2024より)
機器の運用方法については懸念点もあったが、問題が浮上したら都度関係者で話し合い、工夫を重ねてクリア。諸条件が整い、まずは希望があった世帯を対象に令和5年1月からサービスが開始された。利用者からはとても好評で、夕食時に高齢者と遠方の家族がスマートスピーカーをつなぎっぱなしにして、会話を楽しみながら食事するといった使い方もされているという。令和6年9月時点では、約20世帯が利用中だ。
そして運用開始から1年以上が経過した頃、デジ田甲子園の話が岩村さんの耳に入った。
「私たちの取り組みが、全国でどのように評価されるのか知りたいと思いました」。また、この施策を全国に広めたいという思いもあったという。「まずは足元を固めるのが先決ですが、いずれは広く展開していきたい。その発信の場として、デジ田甲子園がぴったりだと思ったのです」と振り返った。
早速、同市はエントリーに向けた準備にとりかかった。
結成したチームは、岩村さん、大江さんと、デジタル推進課の長山さんの合計3名。
資料の準備などに手間はかからなかったが、懸念していたのは“動画”のことだったという。
「デジ田甲子園では、取り組み事例の紹介動画を提出する必要があります。デジタル推進課の長山さんは撮影や動画編集の経験が少しあったのですがもちろん本業ではありません。持っているスキルでどうつくるかを考えました」
そこで3人はアイデアを出し合い、PowerPointのスライドショーを活用し、利用者や医師、薬剤師の談話をとりまぜた動画を作成することに決めたという。
「PowerPointなら業務で使い慣れているし、撮影対象の関係者も頼めば喜んで協力してくれます。プロがつくるようなクオリティは出せませんが、動画を通して生の声を届けることが大切だと考えました」と岩村さん。
その後、無事に撮影と編集作業を終え、デジ田甲子園へのエントリーを終了。数カ月後に届いたのは、「審査委員会選考枠・優勝」といううれしい連絡だった。
▲ 令和6年3月6日、首相官邸での表彰式の様子
受賞の喜びをエネルギーにして
取り組みは新たなフェーズへ!
令和6年3月6日、首相官邸で表彰式が行われ、岩村さんが岸田首相から直接表彰状を授与された。
後日、取り組みに参加した医師や薬剤師などの関係者を市長室に招待し、市からの感謝状を贈呈。表彰式の動画を市長と一緒に観賞したという。「全員で楽しく歓談しながら、特別な時間を過ごしました。また、協力いただいた医師の診療所では、待合室に賞状が飾られています。それを見るたびに、みんなで喜びを共有している実感が湧きます」と岩村さんは喜びを語った。
▲ 関わってくれた誰が欠けても成し得なかったという、地域の連携が生んだプロジェクト
その後、同市の公式ホームページや広報紙に“受賞のお知らせ”を掲載し、広く周知したところ、地域のケアマネジャーから「見守りのスマートスピーカーを見てみたい。」といった問い合わせが入りはじめたそうだ。「県からの視察や講演の依頼などもありました。認知が広まっていることを実感しています」
地域と連携したデジタルを活用した取り組みで、デジ田甲子園の優勝を手にした同市。岩村さんは、「これを機に、取り組みに弾みをつけていきたい」と意気込みを語る。「今はサービスを無料で提供していますが、もっと活用を広げて収益化も考えていかなければならない。また、医師や薬剤師は片道1時間の山間部でも患者がいれば足を運んでくれますが、オンラインの診療や服薬指導が広まれば負担を軽減できるかもしれません。そのためにも利用者の拡大は必須です」そして、今後の展開について、「将来的には全国へ拡大したい、という目標もあります。まだまだやるべきことは山積みです」と付け加える。
同市にとって今回の優勝は、取り組みを加速させる役割を果たしているようだ。ともすれば地域に埋もれてしまう取り組みにスポットを当て、全国にその知見を共有するデジ田甲子園。身近なところにエントリーできる素材がないか、一度探してみてはいかがだろうか。
受賞事例には地方創生のヒントが満載!
~内閣府 担当者より~
「Digi田(デジでん)甲子園」は、地域の課題解決を実現している取り組みを表彰し、社会に周知することで、広く関心を持ってもらうことを狙いとして実施しています。これまで自治体と民間企業を合わせて36団体が表彰されており、一過性の表彰行事で終わることなく、我が国を代表するデジタルイノベーションの総合点であるCEATECや自治体・公共Weekなど様々な場所での情報発信に努めています。
選考におけるポイントは、地域の課題解決・魅力向上(デジタル田園都市国家構想の実現)に貢献する取り組みであることに加え、独自性と先進性、持続性と発展性、そして他地域への横展開が期待できるという点です。
宇和島市の取り組みは、デジタルの活用が進みにくいといわれている高齢者にフィットしたサービスを届けることで、利用者やその家族の安心につながるものとなっています。同時に、地域の医療格差解消に貢献している点も評価されました。
こうした様々な工夫や挑戦を、ほかの地域でもぜひヒントにしていただきたいと考えています。今後も“全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指す”というデジタル田園都市国家構想の実現に向け、デジ田甲子園を盛り上げていきたいと思います。皆様からの積極的な応募を心よりお待ちしています。
募集要項
募集期間
令和6年8月30日(金)~10月27日(日)
■インターネット投票・審査委員会評価:2025年1~2月
■表彰式:2025年3月
【募集部門】
●地方公共団体部門 ●民間企業・団体部門
(地方公共団体と民間企業・団体が協働して実施する取り組みも応募可能です)
募集取り組み
※既に実装が行われ、成果が上がっているものを対象とします。
デジタルの活用により、地域の個別課題を実際に解決し、住民の暮らしの利便性と豊かさの向上や、地域の産業振興につながっている取り組み
応募方法
第4回Digi田(デジでん)甲子園専用サイトの応募フォームに必要事項を入力し、
「取り組みを紹介する動画・サムネイル」とともに応募してください。
また、取り組み内容に関する補足資料があれば、併せてご提出ください。
表彰について
地方公共団体部門、民間企業・団体部門、審査委員会選考枠<地方公共団体部門、民間企業・団体部門>の各部門で内閣総理大臣賞(各部門1点 計4点)等を決定します。
また、他の地域での導入が期待される優良事例について、取り組みの横展開を促進するため、デジタル田園都市国家構想ウェブサイトに「メニューブック」として掲載し、広く発信する予定です。
評価ポイント
1. 地域の課題解決・魅力向上(デジタル田園都市国家構想の実現)に貢献する取り組みであること
デジタルの活用により、人口減少や産業空洞化などの課題を解決し、利便性・豊かさや生産性の向上、関係人口の創出等による人の流れづくりに貢献する取り組みであるか。
2. 独自性・先進性のある取り組みであること
従来の思考にとらわれない取り組みや、新しい技術・仕組みを活用した取り組みであるなど、デジタルを活用した創意工夫あふれる独自の取り組みであるか。
3. 持続性・発展性のある取り組みであること
一過性のものではなく持続的な発展が見込まれる取り組みとして、取り組みの費用対効果や利用主体の継続的なサービス利用が見込まれる取り組みであるか。
4. 他地域への横展開が期待される取り組みであること
多くの利用者に活用されている取り組みであり、他の地域や分野、業種等にも展開が期待される取り組みであるか。
お問い合わせ
内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
『第4回Digi田(デジでん)甲子園』 担当 : 髙木、神原、坂本
TEL(03)5253-2111(代表) 内線 37198
Email : k.digiden.x4t@cas.go.jp