地域の防災力強化に応用できる脱炭素ソリューション
蒲郡市では、脱炭素社会の実現に向けた大型プロジェクトが進行中だ。創エネ・蓄エネのための設備を災害時の電力供給源としても想定し、庁内の各部署で連携。多方面から地域の回復力強化を図る同市の取り組みを追う。
※下記はジチタイワークスVol.33(2024年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[PR]株式会社アイネック
左から
愛知県蒲郡市
市民生活部 環境清掃課
ゼロカーボンシティ推進室
室長 西浦 孝幸(にしうら たかゆき)さん
主査 森 謙太(もり けんた)さん
再エネ設備を導入する脱炭素の事業で、災害時の電力供給の課題にも対応。
令和3年度に“ゼロカーボンシティ”を宣言した同市。公共施設の照明LED化に着手し、2年弱で市内全施設の工事が完了した。次のステップとして“公共施設への太陽光パネルの設置”を掲げ、脱炭素の観点から幅広いアイデアを募るため、民間提案制度で事業者を募集。その結果、照明LED化の事業に引き続き「アイネック(旧・アイネクション)」が採用された。同社の提案するプロジェクトには、太陽光パネルの設置に加えて、公用車のEV化も含まれていた。さらにはレジリエンス強化も見据え、避難所となる体育館への空調設備や、蓄電池の導入も盛り込まれていたという。「自家消費目的の太陽光パネルやEVは、有事の電力供給源としても活用する想定です。避難所となる小・中学校の体育館への空調設備などの導入は、プロジェクトを機に優先的に進めています」と、ゼロカーボンシティ推進室の森さん。
複数の課題解決を同時に図る提案は、同市が目指す未来像とも重なるという。「大まかにはこうした考えをもっていたものの、担当者もバラバラで具体策が決まらない状態でした。脱炭素を目的とした事業に防災の視点が加われば、市民に求められている“安全安心なまちづくり”にもつなげられる。各担当部署にとってメリットのある取り組みです」。こうして令和6年度から、脱炭素と地域レジリエンス強化を目指すプロジェクトが動き出した。
災害時でも稼働が必要な施設から、リースを活用して各設備を導入する。
大規模なプロジェクトとなるため、完了までは約6年を想定し、財源には複数の国庫補助金を活用する。そこで同社は、市内の対象施設を“避難所・BCP施設”“個別大型施設”“その他”の3グループに分類。BCP施設は、災害時でも稼働が必要な建物を指す。同市では、より優先度の高い“避難所・BCP施設”から取りかかった。「迅速に進められるよう、全てリースで導入予定です。小・中学校の体育館には、ガスヒートポンプ式の空調を採用。日頃の快適性だけでなく、万が一インフラ供給が止まった場合にも自立稼働が可能になることを優先しています」。
導入の順序は、CO2や光熱費の削減見込み量、利便性向上などの費用対効果を同社とともに算出して総合的に判断。議会で予算の承認を得た施設から進める計画だ。「体育館への空調導入は、日頃の熱さ対策のためにも来年度中の完了を目指しています。同社が地元の各業者と連携して迅速に動いてくれているので、当市側は教育委員会や防災部門との円滑な連携が欠かせません」。
手間を惜しまない情報共有が、事業を越えた連携のカギ。
このプロジェクトで庁内の旗振り役となる同室では“小まめな情報共有”を心がけているという。「事業を進めるにあたり、一時的に業務負担は増えます。複数部門で協力するには“互いのための事業”という意識が重要。担当ごとに庁舎も異なりますが、情報共有や説明のひと手間は惜しまないように心がけています。当たり前のようですが、その積み重ねで自分たちの仕事が進めやすくなると実感しています」と、森さんは強調する。
同市では、これまでも複数部門が連携して事業を行った実績がある。令和5年には同室と健康部門とが共同で、外出時の熱中症予防と各家庭の省エネを図る“クールシェアスポット”を開設。そのほか、環境部門と企画部門が全国で初めてフリマアプリと提携し、リユース事業を行ったことも。「同社からの提案でも、“縦割りの考えをなくすことで、各部門が円滑に課題解決を目指せる”ことが示されました。過去の経験を活かし、同社の動きから学びつつ、目標達成に向けて進めたいです」と、西浦さん。
人口減少が進み、職員数も限られる中、部門を越えた連携や民間企業との協働は重要になっている。大規模なプロジェクトだが、優先順位を付けて着実に取り組む動きは、他自治体の参考になるのではないだろうか。