まちが借り上げた空き家を改修して格安家賃で貸し出し
面積の約9割が森林で、山間部に位置する梼原町では、空き家を改修して“すぐ住める家”を用意。全戸が埋まり、空き待ちの人もいるという。
まちづくり産業推進課の2人に、移住者から選ばれるポイントを聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.33(2024年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
梼原町 まちづくり産業推進課 地域振興係
左:移住定住コーディネーター 長田 加苗(おさだ かなえ)さん
右:主事 兵頭 眞弥(ひょうどう しんや)さん
水まわりを中心に改修を行い自治体負担分は家賃から回収。
高齢者が人口の半数近くにのぼる同町では、年々空き家が増加。「高知市内から車で2時間近くかかる山間部のまちで、不動産業者がいないため、行政主導で動く必要性を感じています」と同課の兵頭さん。建物の老朽化も深刻だと話すのは、同課で移住定住コーディネーターを務める長田さん。「子どもが戻ってくる予定のない高齢者世帯が大半なので、修理せず、ぎりぎりの状態で住んでいる家が多いですね。そのため空き家になってもまずは改修が必要で、すぐに住めません」。
そこで、平成25年から始めたのが「空き家活用促進事業」だ。まちが空き家を10年間あるいは12年間所有者から借り上げ、水まわりを中心に最低限の改修をした上で、移住者に貸し出す仕組み。改修費用は845万円を上限として、国・県の補助金と、まちの予算から支出。まち負担分は家賃から回収する。制度開始から約10年、令和6年5月現在では53棟が全て入居中であり、空き待ちの人もいるそうだ。「ホームページに空き物件がなくても連絡をくれる方もいます」と話す長田さん。人気の理由をこう分析する。「去年までは家賃が1万5,000円※でした。しかも改修済みなので、すぐに住めます。この2つは大きいのではないでしょうか」。
※令和5年9月以降の入居者から2万5,000円
移住者視点のサポートにより定住したくなるまちづくりを。
コーディネーターによる生活サポートも魅力の一つだ。水漏れや照明の不具合などの連絡が入るとすぐに駆け付け、対応を決定。故意の破損でない場合、基本的にまちが修繕費用を負担する。自らも移住者の長田さんは、経験を活かした情報発信も心がけているという。
「移住して初めて水道管の凍結を経験しました。具体的な予防策をチラシにまとめ、11月頃に配布しています」。地域になじんでもらうために、人と人をつなぐことにも注力しているそうだ。「移住前に地区代表者との面談の場を設け、子どもがいれば学校との面談も実施します。イベント時には参加を呼びかけ、地域の人たちにも見かけたら声をかけるようお願いしています」。
この積み重ねにより、約10年で411人が移住、令和6年5月現在も236人が暮らしているという。「数軒しかなかった飲食店が移住者による開業で徐々に増え、地域が活性化しているのを感じます」と長田さん。兵頭さんも「これまでに約70人の子どもが移住してくれたおかげで、学校も1クラスに20人ほどいて、地域の維持ができていると感じます。進学や就職で地元を離れても、親世代になってまた戻ってきたくなる、そんなまちづくりを目指しています」と抱負を語ってくれた。