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法改正による新しい規制はふるさと納税のあるべき姿を創造できるのか

ふるさと納税の新しい規制は、自治体・事業者に総じて良い影響をもたらし、同時に寄附者が地方へ目を向けるきっかけにもなるだろう。

地方税法等の一部を改正する法律の成立により、ふるさと納税に新しい規制が加えられた。特に注目されているのが、返礼品に関する「返礼割合3割以下」、「地場産品に限る」の2点だ。

今回の改正によって自治体や事業者はどのような影響を受けるのか、また、ふるさと納税の制度はどこへ向かおうとしているのか、この分野に詳しい神戸大学大学院准教授・保田隆明さんに話を聞いた。※資料提供:神戸大学 経営学研究科 事業創造&地方創生センター

※下記はふるさと納税特別号(2019年7月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 [提供] 神戸大学

新制度から各方面が受ける影響は?

ふるさと納税の返礼品のあり方に関する通知はこれまでも再三総務省より出されていたが、拘束力がなかったため足並が揃わなかった。今回の法改正は、そうした状況に国が業を煮やした形だ。この新しい規制によって、各現場が何らかの影響を受けるのは間違いない。具体的にどのような動きが考えられるか、保田さんは以下のように分析する。

<自治体>

良い影響がある。今までは、返礼率が高い返礼品や、換金性のある返礼品を出している“逸脱者”が集中的に得をするといういびつな状態が続いていた。今回の改正で、お得度合戦のような状態にようやく終止符が打たれる。今後は、まちづくりのビジョンやストーリーを寄附者に訴求することに注力して、関係人口を増やし、地域を強くしていくことができるようになる。

<寄附者>

今まで金銭的な価値だけをメリットだと考えていた人たちにとっては、「新規制=お得度が減る」と捉えられるだろう。しかし、ふるさと納税がメリットのある制度であるという点は今後も変わらない。従って、急激な寄附者離れが起きることも考えづらい。寄附者にとっても、単にお得かどうかではなく、地域での寄附金の使途などに注視し「何に対して寄附を行うのか」を改めて考える機会になる。

<事業者>

一部で問題化していた、地域と無関係な高額商品を大量に提供していたような事業者にとっては冷水を浴びせられるような規制かもしれないが、全体の中ではひと握りの話。ふるさと納税の制度を理解し、自治体と力をあわせてきちんと取り組んできた事業者には、新しい規制の影響もほとんどないと考えられる。

つまり今回の法改正は、ふるさと納税が本来あるべき姿に立ち返り、自治体がフェアな競争を展開していくという意味でも良い機会であるといえそうだ。

返礼品提供事業者の基本属性

ふるさと納税の返礼品提供事業者は、地域の中小企業がメインである。年間売上高は6千万円~1億円程度、従業員数6~8名程度の典型的な地方中小企業者がメインだと言える。

上位地域:平成28年度のふるさと納税調達金額での上位20自治体で調査に協力いただけた15自治体
任意地域:上位地域以外の任意抽出の10自治体
注: *は上位地域と任意地域で5%水準の有意差が存在した項目。観測数は上位地域で163、任意地域で147。なお、県外比率、ネット比率、法人比率は、それぞれ売上高のうち県外での売上が占める割合、ネットでの売上が占める割合、対法人売上(B2B)が占める割合。

出典:保田・久保(2019)を参考に作成

ふるさと納税の“本来あるべき姿”とは?

では、ふるさと納税の本来あるべき姿とは、具体的にどういったものだろうか。保田さんは、寄附金の使い道がポイントだと話す。「寄附金を地域の基金として積み立てているところも多くあります。そういったところがプールしたお金を使うにあたって、現場や地元の意思を反映させようとすると、意義の薄い使途になってしまいかねません。自治体内で『どう使うべきか』と意見を徴収すると、大抵は部署ごとに『ここの予算が不足している』といったリストが出てきます。それに対して決定する側は『ならば不満が出ないように平等分配を』といった考え方に陥りがちです。一時的な赤字解消策にはなるかもしれませんが、地域には何も残らず、寄附者へのフィードバックもできなくなってしまいます」(保田さん)。

こういった雲散霧消を避け、寄附金を有意義に使うために必要なのは「未来への投資」という考え方だ。目前の不足に対する穴埋めではなく、50年後、100年後、と地域の将来を見据えた上で資金を投入する―たとえば地域に必要だと考えられる産業の育成をすることなどが大切になる。即効性はなくても、時間をかけて地域を潤すことで土地も人も長期間にわたって活性化するからだ。具体例でいうと、長崎県平戸市の事例が参考になるだろう。平戸市では、ふるさと納税の寄附金を活用し、市の主催・後援で「平戸起業塾」を立ち上げた。平戸で創業したいと志す人達への支援を打ち出すことで、受講生が集まり、その中から実に起業する人が出て、地域経済が活性化、人の定住や人口流出の防止に貢献している。一度は都会に出た後、故郷の元気な様子を知って平戸に戻ってくる人もいるという。

まさに「未来への投資」の好例だ。地方の自治体は、地域住民へのサービスを重視するあまり、目に見えるものに走ってしまうことが多いが、たとえば「○○センター」、「○○交流館」などの施設を作っても、維持費で赤字になることがある。いわゆる「箱物行政」と化してしまい、地域にどう還元されたかという面も曖昧になりがちだ。地域の未来を考える自治体であれば、そういった落とし穴も考慮しておきたい。

ただし、「未来への投資」を進めるには企画財政などの部署主導では難しい面もある。あくまでも調整役なので、大胆な提案とその実行には向いていないからだ。首長など自治体のリーダーが確固たる決意でビジョンを語り、それを自治体の内外に広め、積極的に旗振り役を務めることが大切だ。

返礼品による売上高が返礼品提供事業者の全社売上高に占める割合

返礼品による売上高が各事業者の売上高全体に占める割合は1割程度である。全体の依存度は高くないが、中には5割を超える企業も1割程度存在する。

出典:保田・久保(2019)を参考に作成
 

~返礼品は非日常から日常へ~

令和元(2019)年5月現在、ふるさと納税を利用している納税者は全体の2割程度で、高額納税者が多くを占める状況だ。未経験者の多くは低所得者層で、手間をかけてもメリットが少ないなどの理由で消極的な姿勢を保っている。しかし今回の法改正で高返礼率の品が消えていくと、今までは高額商品に埋もれていた日用品などにも注目度が高まっていく可能性がある。ふるさと納税を活用して、たとえば野菜などを定期的に受け取り、家計の出費を削減しようといったニーズも出てくるかもしれない。

自治体の現場ではどう考えて、どう動くべきか?

「未来への投資」という本質をふまえ、自治体現場は何をするべきだろうか。寄附を集めるためのマーケティングと、集まった寄附金の使い方について保田さんに聞いた。

(1)マーケティングのやり方

「あらゆる人に訴求しようと総花的に攻めても、特徴のないものになってしまいます。寄附者も、特徴がない地域には足を運んでくれません。ピンポイントにやりたいことを示して、ターゲットを明らかにするような、エッジを利かせたマーケティングが重要です。例えば、元住民に的を絞って攻めるというような手法も考えられます。転出者の郷土愛に訴求するような打ち出しでコアなファンを増やしていくのです」(保田さん)。現場の判断で進めると総花的な考えに陥りがちだが、それでは1700超の自治体との競争に負けてしまう。「できるだけ多くの商材を使わなければならない」といったしがらみがある地域には難しい面もあるが、事業者を戦略的に絞り込む施策ならできるはずだ。ふるさと納税ではそんな挑戦も許されている。
 

(2)お金の使い道

「寄附金が集まったとしても、その使途を誤っては後が続きません。まず目を向けるべきは、『まちの総合政策』です。総合政策には地域づくりのビジョンが語られているはず。その中で何に力を入れるのかをピンポイントで考え、大胆に投資を行なうことが必要です。例えば、愛媛県今治市が実施したガバメントクラウドファンディングも秀逸な事例と言えます」(保田さん)。今治市には、イノシシの獣害に悩んでいた地域があった。そこに着目し、イノシシの肉や骨を活用したラーメン屋を開きたいという起業家がいた。自治体は、この地域課題解決を目指すアイデアに共感し、起業を応援するためにプロジェクトを設け、ふるさと納税を活用したクラウドファンディングを実施。平成30(2018)年に「猪骨ラーメン」の専門店が開業した。この一連の流れは、ふるさと納税の活用方法として非常に創造的だ。

ただし、ふるさと納税の関連業務は、自治体で全てやろうとしても無理が生じる。しかも3年に1回程度の人事異動があるためノウハウの蓄積が難しい。だからこそ思い切って外部に任せる、つまり地域商社と連携するのが賢明だと保田さんは強調する。「地域商社との連携では、足の引っ張り合いが起きることもあります。しかし民間の経営力やプロモーション力を活かさない手はない。例えば平戸市の例では4つの地域商社に委託先を分けて、競争を生みつつ妬みもなくすという対策をとっています。地域で複数の中間事業者が活用できる状況であればこういった工夫で解決ができるはずです」(保田さん)。

ふるさと納税制度は従来の補助金政策と何が違うのか?

 

出典:保田・保井(2017)を参考に作成

~子育て支援への寄附金充当は“諸刃の剣”~

寄附金を子ども医療費や給食費に充当している自治体もある。こういった使い方は良し悪しの両面があると保田さんは指摘する。地方では議会の存在が大きく、議員は多くの高齢者に支えられている。そのため高齢者の要望に応えなくてはならず、子育て世帯への予算配分は難しくなる。そんな中で児童福祉に寄附金を充当するのには意義がある。

反面、ある自治体がこういった施策を行なうと、周辺は追随せざるを得なくなり、住民もより手厚いサービスを求めて勤務地はそのまま家だけ引っ越す…といったいびつな動きに繋がることもある。地域で育てた子どもたちは、成長して行く大学がなければまちを出る。そして故郷に産業がなければ戻ってこない。この課題をクリアするためにも定住に向けた施策が重要だ。

法改正を経て見えてきたもの

様々な可能性を持ちつつ、課題も内包するふるさと納税。保田さんは、「ふるさと納税は国の施策として良い制度です。実効性に一部疑問は残るものの、注意・注目を地方に向けるという意味でも、生産者と消費者を直で結ぶという意味でも有意義」という前提のもと、この制度の波に乗り切れていない自治体に警鐘を鳴らす。住民税の8割は、自治体の財源とし保証されている。残りの2割については1700超の自治体でアピール合戦を行ない、競争に勝ったところが未来を掴める、というのがふるさと納税の本質だ。競争をするからには勝たなくてはならない。しかも、平成の大合併を経た今でも未来に不安がある自治体―いわゆる消滅可能性都市は半数も残っている。特に財政基盤が不安定な自治体は、財源の確保と人口維持対策が待ったなしの状況だ。

保田さんによると、こういった自治体がまずやるべきことは人口の流出防止で、移住政策よりも定住政策が大切だとい。今はITを使えばリモートワークもリモートエデュケーションも地方で可能であり、以前よりは定住政策がとりやすくなっている時代だ。地域の魅力を強く発信して郷土愛を育み、人口減を食い止める、そのためにふるさと納税をフル活用するという切り替えを行うべき時期がすでにきている。最後に、保田さんから自治体職員の方々に向けたメッセージを紹介したい。

自治体職員の皆さんへ

「本来、自治体に勤務する方々は地域でも優秀な人材です。志も高く持ち、地域貢献の夢を持って入庁したことでしょう。その反面、自治体の業務は多忙なため、日々の仕事に追われて夢が埋没するという現場状況もあるかもしれません。しかし、このふるさと納税は、地域再生の最初で最後のチャンス。何もしなければ、住民税の残り2割の取り分がなくなり、統廃合という結末が口を開けて待っているのです。ふるさと納税の新規制がスタートしましたが、ルールの範囲内でできることは多々あります。例えば、近隣の自治体と手を組むというのも面白いかもしれません。他にも様々なアイデアがあるでしょう。地域のアピールで都市部に住んでいる人から寄附金を獲得するという革新的なこの制度をどう活用するか、自治体の積極的な姿勢が試されています」(保田さん)。

保田 隆明さん

昭和49(1974)年生まれ。神戸大学 大学院・准教授外資系投資銀行に勤務後、平成16(2004)年にSNS運営会社を起業。翌年同社を売却し、ベンチャーキャピタル業務に従事。その後、金融庁金融研究センター専門研究員、小樽商科大学准教授などを経て現職。研究領域はベンチャービジネス、ふるさと納税、クラウドファンディング、地域通貨など。全国50以上の地域を訪問し、ふるさと納税や地域通貨について研究。主な論文に「ふるさと納税をきっかけとした地域金融機関の機能強化の可能性」、「ふるさと納税における返礼品提供事業者の属性分析」、主な著書に「ふるさと納税の理論と実践」(宣伝会議)。博士(商学)早稲田大学。
 

さらに詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。

論文『ふるさと納税における返礼品提供事業者の属性分析』(2019)/保田 隆明・久保 雄一郎

書籍『ふるさと納税の理論と実践』(2017)/保田 隆明・保井 俊之 [事業構想大学院大学出版部・刊]

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