教育DXとは、データやデジタル技術の活用によって、学校教育の現場をよりよく変革することを意味する用語だ。様々な分野でDXの導入が進められており、一般企業でも業務効率化や新たなビジネスモデルの創出などに役立てられている。
GIGAスクール構想によって全国の小・中学校にデジタル端末が普及したことで、教育現場でもDXを導入する準備が整った。今後、学校教育の充実や教職員の働き方改革を実現させるためにも、教育DXへの理解を深めておきたい。本記事では、教育DXの概要や、教育DX推進の背景、メリット、先進事例を詳しく解説する。
【目次】
• 教育DXは今後の教育政策の基本的方針の1つ
• 教育DXが求められる背景とは
• 教育DXのメリット
• 教育DXは実際、どのように採り入れられている?
• 教育DXはまだ始まったばかり。教職員の働き方改革にも期待
※掲載情報は公開日時点のものです。
教育DXは今後の教育政策の基本的方針の1つ
DXはデジタル・トランスフォーメーションを略した用語で、データやデジタル技術を活用してビジネスや暮らしをよりよく変革することを意味する。ビジネス分野のみならず、多くの分野でDXの導入が進められ、業務効率化やペーパーレス化に役立てられている。
同様に、教育現場でもデータやデジタル技術を活用して、よりよい学校教育の実現や労働環境の変革を目指す取り組みが「教育DX」だ。
令和5年6月に文部科学省が示した「第4期教育振興基本計画」(※1)では、今後の教育政策に関する基本的な方針の1つに教育DXが掲げられた。 文部科学省が主導する「GIGA スクール構想」により、小・中学校へのデジタル端末の導入や通信環境の整備がおおむね完了したため、次なるフェーズとしてそれらを活用した教育DXの推進が求められている。
※1出典:文部科学省「教育振興基本計画」
「GIGAスクール構想」とは何だろう
「GIGAスクール構想」とは、文部科学省が令和元年より始めた学校ICT環境整備のための取り組みだ。1人1台の情報端末と高速大容量の通信ネットワークを全国の小・中学校に配備して、新しい学びのスタイルを実現することを目的に推進されてきた。
GIGA スクール構想の「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字を取った言葉で、「全ての子どものために、世界につながる革新的な扉を提供する」ことを意味している。
文部科学省の調査によると、令和4年度末時点で全自治体の小・中学校のうち99.9%に1人1台の情報端末が整備された。 公立高校では令和6年度内の完全導入を目指して整備が進められている。
ただ、GIGAスクール構想の目的はICT教育を含めた新しい学びのスタイルを実現することであって、情報端末の導入はその下準備に過ぎない。GIGAスクール構想の次のフェーズとなる「アフターGIGAスクール」では、情報端末と通信ネットワークを適切に運用し、教育DXを具体的に実行していくことが重要になる。
「アフターGIGAスクール」でどんなことが実現できる?
「アフターGIGAスクール」は、教育DXを実践していくフェーズである。情報端末と通信環境を活用することで、自宅にいながら授業に参加できたり、遠隔地の外部講師がリモート授業を行ったりといったオンライン授業も全小・中学校で可能になる。
また、姉妹校とオンラインでつなぐ合同授業も、場所の移動をせずに実施することが可能だ。授業だけではなく、オンラインで保護者会や三者面談を行うこともできるため、移動や会場の確保などに要する教職員の負担軽減にもつながることが期待されている。
「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」がミッション
アフターGIGAスクールで取り組む教育DXについては、デジタル庁、総務省、文部科学省、経済産業省が連携して取り組んでいる。令和4年1月には、これらの関係省庁により「教育データ利活用ロードマップ」(※2)が策定され、教育DXのミッションを「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」と定めた。
※2出典:デジタル庁・総務省・文部科学省・経済産業省「教育データ利活用ロードマップ」
ICTの活用によって場所や時間といった制約が減り、目的に応じて、行政データと学習データや、学校内外の学びといった様々なリソースの組み合わせが可能になる“学習者主体の教育”の実現がゴールとなる。
教育DXが求められる背景とは
ここからは、教育DXが求められる背景について解説していこう。
【背景1】リモート教育に対するニーズが高まっている
病気療養中や、不登校の児童生徒でも教育を受けられることから、リモート教育に対するニーズが高まっていることが背景の1つだ。オンラインで複数の学校をつなぐ合同授業の実施や、外部人材を講師として招く授業が容易に実現できることもメリットとして挙げられる。リモート教育は、コロナ禍で臨時休校中の教育手段としても注目された。
【背景2】世代に合わせた教育が求められている
現在の児童生徒は、生まれたときからインターネットやパソコンなどが身近にある“デジタルネイティブ世代”である。IT技術やデジタル機器の存在にも慣れ親しんでいるため、最新技術を使いこなし、将来のデジタル社会を担っていく存在としても期待されている。
そうした新しい世代の子どもたちに必要な学びに対応し、デジタル技術との付き合い方や、使い方を教育するためにも教育DXが重要な役割を担うといわれる。
【背景3】日本の教育に変化が求められている
現在の9年間の義務教育は、昭和22年に制定された学校教育法によってスタートした。この法律は、戦後の日本の社会復興と教育の普及に大きな役割を果たし、昭和30年代後半には小学校の就学率が90%以上に達し、日本の教育水準は大きく向上した。
しかし時代の変化に伴い、日本の教育にも変化が求められている。教職員の負担の大きさも問題となっている。
令和2年12月に文部科学省が示した「文部科学省におけるデジタル化推進プラン」では、「教育におけるデジタル化の推進」「デジタル社会の早期実現に向けた研究開発」「『新たな日常』における文化芸術・スポーツ・行政DX」の3つの柱が掲げられている。そのうち、特に「教育におけるデジタル化の推進」では次の4点が示された。
1.GIGAスクール構想による一人一台端末の活用をはじめとした学校教育の充実
2.大学におけるデジタル活用の推進
3.生涯学習・社会教育におけるデジタル化の推進
4.教育データの利活用によるEBPMの推進
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文部科学省では、子どもを対象とする学校教育にとどまらず、大学や生涯学習など教育分野全体でデジタル技術を活用していく方針だ。また、教育データを効果的に活用することで、個人の学習をサポートし、教師の指導・支援を充実させるほか、教育政策にも反映する社会システムの構築を目指している。
教育DXのメリット
教育DXには様々なメリットがある。以下で具体的に見ていこう。
【メリット1】児童生徒一人ひとりの学習状況を把握できる
デジタルツールとデータ分析を併せて活用することで、児童生徒の学習の進み具合や理解度を個別に把握できる。個人の学習状況に応じて苦手分野の練習問題を追加したり、得意分野の学習レベルを上げたりなど、児童生徒一人ひとりに合った個別教育を行うことができる。
【メリット2】教職員の業務負担を軽減できる
事務作業にデジタルツールを活用することで、教職員の業務負担を軽減できるのも大きなメリットだ。教材の作成や授業計画が簡素化され、作業にかかる時間を短縮できる。また、児童生徒の課題や練習問題をデジタル化することで、自動採点や即時フィードバックも可能になり、採点や児童生徒への個別のフィードバックに関する業務を省力化することも可能だ。
【メリット3】児童生徒に平等な学習機会を提供できる
オンライン授業やオンデマンド授業の実施が容易になることで、授業に参加するための地理的・時間的な制約がなくなり、遠方に住んでいる児童生徒や登校が難しい児童生徒にも学習機会を提供できる。コロナ禍のように児童生徒の登校が制限される状況でも、リモートで学習を続けることが可能になる。
教育DXは実際、どのように採り入れられている?
教育DXを採り入れた全国の事例を見ていこう。
【茨城県つくば市】コロナ禍でロボットコンテストが中止になり、オンラインで開催
▲令和2年度のオンラインロボコンで最優秀賞を獲得したつくば市立並木中学校のチーム、カシウスが作成したロボット
茨城県つくば市では、令和2年に中学生を対象とした「オンラインロボコン」を開催。この年度は新型コロナ感染予防のため、「中学生創造アイデアロボットコンテスト」が中止となったが、大会以外での生徒同士の交流を図ろうと、つくば市を中心とした8校の約30チームをオンラインで結び、2週間に1度ZOOMを用いたオンラインロボコンを実施した。
ZOOMでは参加チーム同士での会話以外にも、製作途中のロボットの動きや工夫についてプレゼンを行うなど、それぞれのチームでアイデアを出し合いながら共通の技術を開発していく内容になっている。さらに、互いのロボットの動きを共有し、競い合う場としてWordPressを用いた交流サイトも開設した。参加生徒は自由に閲覧や投稿ができ、各自のアイデアを出し合いながら交流を深めた。
その後、オンラインロボコンは全国から参加可能となり、こちらの「ロボコン報告書」というサイトで毎年優れたチームを審査し、表彰している。つくば市内の学校を中心に生徒たちがロボコンに取り組んだ成果が、ここに掲載されている。
▲令和2年のオンラインロボコンのオープニング映像。個性にあふれた手作りロボットを見ることができる
画像・映像提供:お家でロボコン@オンライン
【長野県伊那市】iPadのカメラ機能などを使用し、立体的な学びを実現
長野県伊那市では、小学校3年生の算数の授業で「円と球」の理解を深める学習にiPadを活用した。身近な「まるいもの」を様々な角度からiPadのカメラで撮影し、「どこから見ても円に見えるものを球という」ことを学んでもらうというものだ。
児童はiPadのマークアップ機能やエアドロップの機能を活用して、友だちと情報共有しながら「円と球」についての学びを追求した。
【大阪府枚方市】楽しみながら全国の地理や特産品を学べるゲームに挑戦
大阪府枚方市教育委員会は令和5年1月、全国に先駆けて「桃太郎電鉄教育版〜日本っておもしろい!〜」のアカウントを全小・中学校分取得した。
「桃太郎鉄道」はコナミデジタルエンタテインメントの人気ボードゲームで、プレーヤーが鉄道会社の駅長となり、日本全国を巡って物件を買い集め、最初に決めた年次を終えた時点で最も多い資産を持つプレーヤーが勝利するというルールだ。子どもたちが楽しみながら地理や特産品を学ぶことを目的にゲームが導入された。教職員が主体となって結成した研究グループを結成し、効果的な活用方法を話し合いながら運用している。
▶ 「教育DX」に関する、民間サービスを確認する。
「ジチタイワークスHA×SH」では、サービス資料の確認とダウンロードが可能です。
教育DXはまだ始まったばかり。教職員の働き方改革にも期待
1人1台の情報端末を普及させるGIGAスクールの構想がおおむね完了し、現在は「アフターGIGA」と呼ばれる段階に入った。今後は、全国の小・中学校に行き渡った端末を実際に活用して教育DXを実現する必要がある。
デジタルツールは児童生徒の学びに活用できることはもちろん、事務作業の省力化や効率化など教職員の働き方改革にもつなげることができる心強いツールだ。それぞれの学校の状況に合わせて、より効果的な活用方法を検討し、教育現場にも積極的に採り入れていきたい。