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スマート農業とは?生産性向上や労働力不足解消のためにできることを考えよう

高齢化に伴う労働人口減少もあり、農業分野での労働力・後継者不足が大きな問題となっている。また、少ない労働力で生産性の向上を図っていくことも今後の課題だ。これらの問題を解決するために今注目されているのが、ICTを活用した「スマート農業」だ。

スマート農業とはどのようなものかを確認し、海外やすでに導入している地方自治体の事例を見ていきながら、今後、自分たちの自治体でできることを探っていこう。
 

【目次】
 • スマート農業とは?

 • スマート農業の具体例
 • スマート農業を採り入れた海外の事例を紹介
 • スマート農業を採り入れた日本の事例を紹介
 • スマート農業は現在の農業が抱える課題を解決するための効率的なソリューション

※掲載情報は公開日時点のものです。

スマート農業とは?

まずはスマート農業とは何か、そして、スマート農業が必要とされる背景を確認しておこう。

スマート農業とはそもそも何か

スマート農業とは、農業で情報通信技術(以下、ICT)やロボットなどの最新技術を活用し、作業効率化と生産性の向上を目指す農業のことだ。

また従来、農業は熟練者が長年培ってきた技術やノウハウをともに作業をしながら教えていくという方法で次の世代に継承されてきた。しかしスマート農業では、熟練の技術や知識をデータ化・可視化するという方法で継承できるため、農業従事者の後継者不足問題の解決にも役立つと考えられている。

スマート農業が必要とされる背景とは

スマート農業が必要になった大きな理由に農業従事者の高齢化がある。農林水産省が令和6年4月に発表した資料(※1)によると、基幹的農業従事者(※2)の平均年齢は68.4歳(令和4年時点)となっており、70歳以上が58.7%を占めている。さらに、50代以下の割合が20%と非常に少ないのも特徴だ。

基幹的農業従事者の年齢階層の推移

▲画像クリックで拡大します

※1出典 農林水産省「スマート農業をめぐる情勢について」
※2 基幹的農業従事者:15歳以上の世帯構成員で、普段仕事として農業(自営)に従事している人

 

さらに、高齢化や少子化等による後継者不足だけでなく、熟練した技術が必要になるため、農業未経験者の新規参入ハードルが非常に高い点も問題となっている。

スマート農業を導入することで、個人の力に頼らず技術の蓄積と継承を行えるようになることが期待されている。さらにロボット技術を活用するため、労働力不足の解消や労力の削減も見込める。

スマート農業の具体例

それでは、スマート農業とは具体的にどのようなものだろうか。実際の事例を見ていこう。

ロボット技術の活用

スマート農業の具体例
1台で刈取・脱穀・選別の機能をもった「コンバイン機」や苗を均等に植える「田植え機」は無人自動運転できる機種がすでに販売されており、労力の省力化に役立っている。

これら以外にも、草取りロボット害獣対策ロボットが商品化され、省力化の一助となっている。

ドローンの活用

スマート農業の具体例

農薬や肥料の散布にドローンを活用することで、作業時間の短縮、効率化、省力化が図れる。また、ほ場(農作物を栽培するための場所)の規模が大きい場所や重機が通れない場所での作業、夜間作業も比較的容易になる。農業へのドローン活用は安全性の面からもメリットが大きいといえるだろう。ヘリコプター散布よりコストが削減できる点も見逃せない。

ほ場管理・生産管理システム

例えば今までは人の手で管理していた栽培履歴などを、タブレットやクラウド技術を使って管理できる。農作業の内容や作業時間、農薬の使用頻度の記録、肥料などの在庫管理を行った結果をクラウド上で確認できるため、作業の属人化防止にも役立つだろう。

生産管理もコンピューターを使って行えるため、収穫量や販売価格の推移の確認も容易だ。

アシストスーツ

スマート農業の具体例
重い物を運ぶ際や立ち仕事、中腰作業の負担軽減のため、アシストスーツを利用するという方法がある。例えば、重い物を持ち上げる場合、アシストスーツを使えば10~20%程度の力が補助される。

人体にかかる負担が軽減され、作業時間の短縮や効率化が可能になる。また、女性や高齢者など体力に自信がない人でも農作業に従事しやすくなる点も利点といえるだろう。

スマートセンシング

スマートセンシングとは、センサーでほ場の管理を行うというものだ。具体的には、AI(人工知能)やビッグデータ、IoT(モノのインターネット)などのICTを活用し、温度や湿度、照度などを感知して数値化し分析。農作業に活かすことができる。

ほ場に行かずとも、パソコンやスマートフォンから現地の温度・湿度、水田の水位などを確認できるというメリットがある。

スマート農業を採り入れた海外の事例を紹介

広大な土地を持つ諸外国の中にもスマート農業を採り入れている国は多い。ここでは、オランダとアメリカの事例を確認してみよう。

【オランダ】LEDやセンサー技術、自動制御システムを活用

スマート農業を採り入れた海外の事例を紹介

▲オランダ、ハルメレンのトマトを栽培しているビニールハウス

オランダの国土は日本の50分の1ほどだが、農作物輸出量が世界第2位となっている。オランダが世界有数の農業大国となったのは、利益が出る作物に栽培品目を絞り、集中して大量生産を行ったことだけでなく、スマート農業を積極的に採り入れたことも理由であると考えられている。

現在、約8割の一般農家がスマート農業を実施しており、LEDやセンサー技術、自動制御システムなどを活用している。作物に与える肥料や水の量や頻度の管理、ビニールハウス内の環境管理もコンピューターを使うことで、生産量の向上や、害虫や病気の防止にも役立っている。

【アメリカ】農薬散布にドローンを使用

スマート農業を採り入れた海外の事例を紹介

▲アメリカ、ウィスコンシン州の農場

大規模農場が多いアメリカでは、ドローンを使ったスマート農業が行われている。上空から近赤外線を使って生育状況や土壌の状態の確認をするほか、農薬散布の範囲の設定と散布作業にもドローンを活用している。

また、ドローンで調査したデータや作業の履歴をデータ分析し、生産量向上に役立てている。

スマート農業を採り入れた日本の事例を紹介

日本の自治体でもスマート農業を活用するところが増えている。北海道新十津川町、秋田県にかほ市、山梨県の事例を見ていこう。

【北海道新十津川町】農薬散布ドローンの使用で空いた時間を利用しトマト栽培も

動画提供 農林水産省

北海道新十津川町のこちらの農家では水田の農薬散布にドローンを使い、従来と同じ時間で2倍の面積の作業ができるようになったという実績がある。作業効率化で労働時間が削減されたため、トマト栽培の時間が確保できるようになったという。

さらに、ドローンのリモートセンシングデータを活用することで、作物の品質が均一化され、販売額アップが実現できたという報告もある。

【秋田県にかほ市】田んぼの自動除草ロボット「アイガモロボ」を使用して環境保全型農業を目指す

スマート農業を採り入れた日本の事例を紹介

▲現在全国で実証実験中の安価版アイガモロボ。令和5年より販売中の現行版から操作の簡易化と機能向上および低価格化を目指している

画像提供:NEWGREEN

秋田県にかほ市では、水田の除草を行うロボット「アイガモロボ」を活用し、作業の省力化を行っている。

ロボットは太陽光発電で得られる電力によって自律航行する。水中を撹拌し泥を巻き上げることによって光を遮り、水面下にある雑草の生長を抑制する。人手を除草作業にとられることがなくなった上、除草剤や農薬散布も不要となり、環境保全につながっている。

農薬を使わずに米が栽培できるため、商品価値の高い有機栽培米の生産増につながることも期待されている。

【山梨県】スマートグラスを活用したブドウ栽培における熟練農業者技術の「見える化」

山梨県では、山梨大学工学部協力のもと、スマート農業の実証実験を行っている。実験では、房づくり、摘粒、収穫時期の判断といった熟練農業者の匠の技をAIに学習させ、スマートグラスにて可視化できるようになった。

スマートグラスを装着すると、AIが不要と認識した粒が赤色で表示されるため、摘粒作業が容易になる。収穫の際も、成長過程の房と出荷タイミングになった房をAIで見分けられる。この技術の実現により、農作業に慣れない人でも熟練者と同じレベルで作業ができるようになると予想されている。

スマート農業は現在の農業が抱える課題を解決するための効率的なソリューション

農業従事者の高齢化、労働人口の減少、後継者不足など、現状では農業を取り巻く環境は明るいとはいえない。しかし、スマート農業は農作業の効率化や省力化、そして生産量増加の可能性として大いに期待できる存在である。

現在のところ、日本ではスマート農業は広く普及しているとは言い難いが、現在、多くの地域で実証実験が進められている。そして、大学等の研究機関はもちろん、農機具メーカーでもスマート農業のためのロボットや機械の開発が進められているため、将来的には全国で普及する可能性が非常に高いといえるだろう。

これからの農業のためにも、AIやICTを利用したスマート農業の技術は必須であるといえる。自治体にある農業関連の課題を洗い出し、自分たちの自治体に必要な技術は何か、どこから手を付けていけばいいかを考えてみてはいかがだろうか。
 

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