ジチタイワークス

北海道石狩市

地域の強みに着目し“再エネの地産地活”で企業誘致に挑む!

再生可能エネルギーを付加価値とした企業誘致活動

企業誘致において、差別化ポイントが少ないことが課題だった石狩市。そんな中、再エネ発電所が集積する地域特性に着目し、“再エネ100%供給エリア”をつくり、新たな産業の誘致に成功しているという。その経緯を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.32(2024年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

石狩市にしかない優位性を模索する中、集積する“再エネ”産業に着目。

同市では、昭和47年から工業団地として「石狩湾新港地域」の開発が進められてきた。隣接する札幌市から車で約30分という地の利や、国際貿易港を擁する特徴を活かして、物流関連の企業を誘致していたそうだ。しかし、それ以外の業種に対しては独自の優位性を示せないことが長年悩みの種だったと、企業連携推進課の加藤さんは語る。「企業は進出先選定の際に、なぜそこなのかという明確な理由が必要になります。ところが、当市には分かりやすい特徴があまりありませんでした。そのため、検討する企業担当者も進出を判断する経営陣への説明に苦慮し、結果につながりにくいという課題があったのです」。

そんな中、地域を特徴づけるポイントはないかと模索し、浮かび上がったのが、“再エネ”だったという。工業団地内には偶然にも、太陽光発電所、風力発電所、木質バイオマス発電所が集積していた。きっかけは、平成24年に固定価格買取制度が開始され、再エネ発電に取り組む企業が増えたこと。年間を通して強風が吹く気候特性や、燃料の輸入に適した地理的特性などの諸条件から、誘致活動は行わずとも、自然と集まってきたのだそう。

そして平成29年、工業団地の一部を再エネ100%の電力供給を目指すエリアとしてゾーニングし、「REゾーン」と命名。地域の再エネが活用できることを売りとして、企業への誘致活動を始めたという。脱炭素の世界的な潮流が味方して、再エネの価値が認められるように。

取り組みの当初は、現在ほど脱炭素の意識が社会に浸透していなかった。それにも関わらず、同市が再エネを付加価値として、企業へPRを行おうとした背景には、データセンターを誘致した経験があったという。当時、北海道全体の取り組みとして、冷涼な気候を強みに、冷却に膨大な消費電力を要するデータセンターの誘致を行っていた。「活動の中で、データセンター業界は、電力消費を抑えると同時に、クリーンエネルギーに変えようとする意識が他業界に比べて強いことに気づきました。そこで、REゾーンとデータセンターは親和性が高いのではないかという仮説を立て、誘致活動の戦略を練ることにしたのです」。

しかし、REゾーンの計画を始めた当初は、「向かい風しかなかった」と加藤さんは振り返る。庁内外からは“再エネを使いたい企業しか誘致できないのか” “そもそもREゾーンが必要なのか” “電気代が安くなるのか”といった声が寄せられた。それでも、周囲からの懸念や疑問に対して粘り強く説明を続けながら、エネルギー関連の展示会へ積極的に出展して企業へのPRに努めた。

そのうち、脱炭素の世界的潮流が加藤さんたちに味方した。国のカーボンニュートラル宣言や、100%再エネで事業を行うことを目指す国際的な取り組みに参加する企業の増加などによって、脱炭素への動きが世界的に加速したのだ。それに伴い、REゾーンの価値が認められはじめ、徐々に好意的な反応が寄せられるようになったそうだ。「企業誘致は一朝一夕に決まるものではありません。まず、取り組む私たちが地域特性と課題を理解すること。その上で、この手段なら課題解決につながると、明確に周囲へ説明できることが大事です。時間をかけてでも諦めず地道に続けてきて、今があります」。

※Renewable Energy Zoneの略称

石狩湾新港地域内の敷地約100haを「REゾーン」として整備を進める。

商業施設やホテルも誘致し、新しい“石狩の顔”をつくる。

現在、REゾーンでは2社目のデータセンター建設が進んでいる。太陽光による自家発電設備と工業団地の再エネを活用し、令和6年度中の開業を目指す計画だそうだ。「取り組みを通じ、自治体側が枠にとらわれず、柔軟な発想で提案しつづけていくことが求められると感じました」。

ほかにも、総務省の補助金を活用したテナント型データセンターの計画も進んでいる。「誘致はまだ道半ばです。データセンターが集積すればするほど、電力や通信のインフラ整備が進みます。それを呼び水に一帯の再エネ活用をさらに推進していくつもりです」。また、データセンターだけでなく、商業施設やホテルの誘致にも成功しているという。これまでにはなかった、にぎわいのある工業団地が新しい石狩の顔になれば、と加藤さんは語ってくれた。

着実に成果を上げつつある同市の取り組み。他自治体からの視察は、年間数十件にのぼるそうだ。“同様の工業団地を建設したい”と視察に訪れるケースが多いそうだが、学生のフィールドワークの場として、また教育旅行の目的地として、可能性を感じての視察もあるという。「当市では産業振興に脱炭素を取り入れましたが、環境部門以外で脱炭素が課題解決の手段になる場面は、これからもっと出てくるのではないでしょうか」。REゾーンのポテンシャルに全国が注目しているようだ。

北海道石狩市
企画政策部
企業連携推進課
課長 加藤 純(かとう じゅん)さん



このページをシェアする
  1. TOP
  2. 地域の強みに着目し“再エネの地産地活”で企業誘致に挑む!