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高知県

公開日:2024-06-17

農家の栽培環境をデータ化し“勘と経験”の農業から脱却。

情報政策
読了まで:4分
農家の栽培環境をデータ化し“勘と経験”の農業から脱却。

長年の技術やコツを“見える化”して伝える営農支援

高知県では、農業における人手不足の課題解決に向けて、もっと“もうかる”農業を目指したプロジェクトを実施している。データ活用をいち早く導入し、生産効率の向上を実現した、その取り組みについて話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.32(2024年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

生産効率アップを目指して、データ駆動型農業を導入した。

同県は山間地が多く、平地が少ないという地理的な特徴から、限られた農地で最大限に収益を上げるべく、古くから施設園芸が盛んとなった。齊藤さんは「単位面積あたりの生産量では、全国でトップの当県ですが、少ない面積からいかに収量を上げるかが最大の課題だと考えています。生産効率を上げるために、ハウス内環境の最適化や作物の仕立て方法の改善など、多くの工夫をしながら取り組んできました」と話す。一方で、農家の高齢化が年々進み、人手不足が深刻に。働き手が減っていく中で、生産効率をさらに上げていく必要があると考えたものの、国内には参考となるノウハウがなかったという。

そこで手本としたのが、施設園芸先進国のオランダが取り組む、“データ駆動型農業”だ。平成21年からの技術交流を通じ、オランダでは、高軒高(こうのきだか)ハウス内の栽培環境データを管理することにより、高い生産性を誇っていることが分かったそうだ。「当県が行っていた当時の施設園芸は、温度管理を中心に、各農家の勘と経験を頼りにしたものでした。しかしオランダでは、温度だけでなく、二酸化炭素濃度や日射量などの情報も徹底して収集し、ハウス内を栽培に最適な条件に整える環境制御技術によって、収穫量を拡大していたのです」。こうしてオランダから学んだ技術や手法を参考に、高知版の環境制御技術の構築に向けて動きはじめた。

営農に必要な情報を集約し、現場に行かずとも確認可能に。

平成25年には、県内の公設試験場や施設園芸農家の協力を得て、環境制御技術を用いた実証研究を実施。同県の環境においても、生産効率の向上を目指す環境制御技術を活用したデータ駆動型農業の有効性は証明された。その結果を受けて開始したのが、農業データ連携基盤「IoP(Internet of Plants)クラウド」の推進プロジェクトだ。

「農家が設置している環境測定装置から、温度や湿度、二酸化炭素濃度などのハウス内の環境が自動的にクラウドへ収集されます。加えて、JAへの出荷量、局地的な気象情報や農産物の市況なども集約。利用登録をした農家が、スマホやパソコンからログインすると、いつでもどこでもこれらの情報をリアルタイムで閲覧できます。県内で営農する農家なら、誰でも利用申し込みができるようにしました」と仙石さん。

出先機関である農業振興センターが、データ提供の同意確認や、環境測定装置の設置とデータ連携の推進を行ったという。令和2年からテスト運用を始め、令和4年9月から本格運用をスタートさせた。すでに環境制御技術を活用したデータ駆動型農業の有用性が広まっていたことから、データ連携に対する農家側の連携意識は、築かれていたという。

▲ハウス内の状況が確認できるIoPクラウド。リアルタイムの数値が分かるので、栽培に最適な条件に環境を整えることができる。

勘と経験の“見える化”で、日々の営農を強力にサポート。

このプロジェクトにより、これまで明文化が難しかった技術やコツの一部が、“見える化”されたと仙石さんは続ける。「例えば、温度調整のためにボイラーを稼働させた場合、その履歴自体がノウハウになるのです。長年の勘と経験による行動が、データとして時系列で追えるので、“何をきっかけに動かしたのか”ということが分かります」。新規就農者にとっては、先輩農家のノウハウをまねできるので、大きな失敗をしたり収穫量が少ない状況が続いたりすることが起こりにくくなるはずだという。“営農改善の指標”として役立てているという声もあるそうだ。

▲指導員も技術改良の提案にデータを活用している。


また、営農に役立つ情報がクラウド上で毎日配信されている。「近年はコロナ禍の影響もあり、部会活動に参加する農家が減り、対面で情報を伝達する機会が減っていました。そんな中、クラウドで届く情報が指導代わりとなって助かっているという話も聞いています」と鈴木さん。

IoPクラウドの利用状況は、令和6年3月末時点で601戸の施設園芸農家がデータ連携をしているという。また、露地栽培を含めた1,177人の県内農家が利用登録をしているそうだ。齊藤さんは「今後は、IoPクラウドを活用した、データ駆動型農業の実践事例を積み重ねていくステップに入ったと思っています」と意気込みを語ってくれた。

左から
高知県 農業振興部 農業イノベーション推進課
IoP推進室長 齊藤 格久(さいとう ただひさ)さん
仙石 健介(せんごく けんすけ)さん
鈴木 健太郎(すずき けんたろう)さん


 

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