ジチタイワークス

福井県若狭町

地域に根ざした農業研修で、卒業生の半数以上が就農定住。

若者の就農定住を促進する長期滞在型の農業研修

若狭町では農業課題の解決に向け、自治体と集落、企業が共同出資して農業法人を設立。都市部から来た若者が自力で就農できるよう支援し、地域をつなぐことで、活力ある農業人を育成しているという。

※下記はジチタイワークスVol.32(2024年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

自治体・集落・企業が協働して、都市部の若者を農業の担い手に。

福井県の南西部に位置する同町は、農業を基幹産業として稲作や果樹の栽培を中心に発展してきた。多くの農村と同じように、地域の過疎化・高齢化による後継者不足や、遊休農地増加などの課題を抱えていたという。そうした課題を解決すべく、主に若者への農業研修などを行う「かみなか農楽舎」を平成13年に設立。まちが5割、集落が3割、企業が2割を出資している。都市からの若者の就農・定住を促進し、集落を活性化することを大きな目標としているという。

「後継者不足などの問題は切実で、当時の町長が農村再生に向けて積極的に動いたと聞いています。20年後を見据えたときに必要なのは“担い手づくり”として、民間企業のサポートを受けながら就農定住構想をつくり上げました」と、渡邊さん。しかし、研修の候補地に選ばれた集落は、すんなりと受け入れてはくれなかったという。「町長自ら足を運んで住民に説明し、協力を依頼したそうです。その熱意が伝わり、集落の中から協力者があらわれ、実現に至りました」。

同法人では、農業研修である「就農支援事業」を柱に、農業体験希望者やインターンシップの受け入れ、農作物の販売などを行っている。まちは就農者の定住に向けた支援を、集落は農地の貸し出しや認定農業者として研修生の受け入れを、企業はコンサルティング業務を担当。それぞれが役割を担いながら事業をサポートしているそうだ。

地域の一員になることを目指し研修として地域行事にも参加。

就農支援事業では、稲作を中心に2年間の農業・農村生活研修を行っており、自立して新規就農を目指すコースと、町内の農業法人に就職するコースが用意されている。

「1年目は農業の基本をマスターする期間です。農村での生活に慣れるため、地域行事へ参加したり、当町や県職員を講師として、地域の施策や歴史を学んだりすることも研修の一環としています。2年目は、現場責任者として栽培から販売までを担い、就農準備を行う期間。販路開拓のため飛び込み営業などにも出かけ、自分がどういう農業をしていくかを考えてもらいます」。研修期間中は共同生活となるが個室が用意され、研修手当も支払われるなど、基本的な生活は保障されるようになっている。

研修生の募集は通年行っているというが、受け入れるのは年に2~3人程度で、全く採用しない年もあるそうだ。「初めに1週間ほど研修施設で共同生活をしてもらうのですが、農村での生活が合わない人もいます。人となりを観察しつつ、まちと施設側それぞれの面談を経て、選ばれた人だけを研修生として受け入れています」。これは定住を見据えた対策でもあるという。「農業をするには地域との関わりが大切です。農地を借りるにしても、農作業でも、各所との連携が欠かせません。研修中に地域行事への参加を促すのも、地元の人たちとの交流を深めるために大事なことなのです」。

かみなか農楽舎の研修生と農家の皆さん。集落では、若者が入ってきたことによって運動会が盛り上がったなどのエピソードも。

卒業生が重ねてきた信頼が研修生の就農定住にも貢献。

令和6年度で事業開始から23年目となり、これまで52人の卒業生を送り出してきたという。そのうち町内で就農したのは29人で、その家族と合わせて83人が定住しているそうだ。町内で1,800haほどある農地のうち、卒業生が約215ha、同法人が約45haと、合わせて約15%にあたる農地を耕している。また、設立当初の年間売上目標3,000万円は5年で到達し、令和4年度は7,300万円を売り上げるまでに成長。

「これらは全て研修生・卒業生の頑張りによるものです。町内での信頼も厚く、『農楽舎の卒業生なら来てほしい』という農家も増えました。また、卒業生が戻って運営を手伝ったり、農業法人を設立して卒業生の受け皿になってくれたりと、いい流れができています」。

順調に結果を出す一方で、新規就農者に紹介できる町内の遊休農地が減ってきたという新たな課題も。加えて、果樹栽培を中心とする集落で、担い手不足が深刻化しているという。「そこで、稲作での経験を果樹にも広げようと、令和5年度から新しく“梅栽培コース”を設立しました。卒業生で果樹栽培に従事したのは2人だけで、農家との人脈やつながりが薄い中ではあるのですが、彼らやほかの卒業生もサポートしてくれています」。

農業を始める上で、一番ハードルが高いのは地域に溶け込むことだと渡邊さんは言う。同法人や卒業生の存在が地域とのつなぎになり、移住者の暮らしをサポートする、そんな気風もこの20年でまちに根付いたのではないだろうか。

若狭町 産業振興課
渡邊 龍樹(わたなべ たつき)さん


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