給付事業は住民も職員も作業が多く、支給までに2～3週間かかっていた。

物価高騰が続く中、18歳以下の子どもを育てる住民を対象とした「子育てまるっと応援給付金」の独自支給を決めた同市。給付対象のうち、児童手当を受給していない世帯は口座情報が所管課にないため、新たに申請手続きが必要となった。

しかし、従来のような書類申請による口座振込だと手作業が多く、支給までに2～3週間かかる。「返送された申請書類の確認やデータ入力、交付決定通知書の郵送作業のほか、直接窓口に来られる方の対応などに時間と手間がかかっていました」と斎藤さん。同給付金は対象世帯数も多く大量の処理が見込まれることから、改善策を探ることになったという。

折しも同市ではDX推進室が中心となり、公式LINEを活用した行政手続きのオンライン化を推進していた。「LINE申請も可能にして手続きを簡素化し、せっかくなら給付方法も住民にとって便利な方法にしたいと考えました。ギフト券や電子マネーなど、複数案が出た中で注目したのが“ATM受取”です」。

同サービスは、セブン銀行ATMに番号を入力するだけで現金を受け取れるというもの。自治体・住民ともに同行の口座開設は不要で、原則24時間365日受け取りができるのもポイントだ。「そんな方法があるのかと驚きましたが、大都市だけではなく近隣自治体でも導入実績があり、活用を決めました」。

口座情報なしで送金できるため、“最短1日”での支給が可能に。

“オンライン申請＋ATM受取”という新たな選択肢も加え、令和6年2月1日に申請受付を開始。オンライン申請は職員のデータ入力作業が不要で、ATM受取なら口座情報の確認も要らない。そのためスムーズな運用につながり、住民は最短で申請翌日には給付金を受け取れたという。「職員の事務処理や窓口対応の時間も減り、従来の約8分の1に。送金のお知らせもLINEに送ったので、交付決定通知書の郵送コストも不要になりました」。

また、データ入力が不要であることはミス防止にもつながると話す。「実は以前、口座情報の不備で振込ができず、住民の方からお叱りを受けたことが。でもATM受取は口座情報が不要なので、そうした心配もありません」。

初めての試みだったが、想定以上の住民がATM受取を選択したのだそう。「全体で3割ぐらいいけばと考えていましたが、約6割にのぼりました。コンビニだと買い物ついでに受け取れるので、負担感がないのかなと思います」。利用者アンケートでは、98％以上の住民が“便利だった”と回答し、“夜や土日も手続きできるという安心感と余裕が生まれてありがたかった”“湯沢市で子育てしてよかった”といった声が寄せられているそうだ。

職員が使ってみて利便性を実感し、他課でもDXへの関心が高まった。

利用率の高さについて、斎藤さんは次のように分析する。「初めての方法なので、住民が混乱しないよう極力シンプルな設計を心がけました。オンライン申請の場合はATM受取のみ、書類申請の場合は口座振込のみとしたんです。説明がしやすかったですし、住民も理解しやすかったのではないでしょうか」。

今後の給付事業でも同サービスを活用したいと語るが、庁内全体にそうした動きが広がっているそうだ。「給付対象となる市内在住の職員もいますが、公務員は管轄省庁から児童手当が支給されるため、当課に口座情報がありません。そのためオンライン申請とATM受取を使ってもらったところ、便利さを実感してくれたようです。普段の業務で口座振込をしている多くの課から問い合わせがありました。庁内でDXが進むきっかけになったのならうれしいですね」と顔をほころばせる。

「近年は地域の店なども減り、様々な場面で住民の選択肢が減っていると感じます。デジタルを活用し、まちを豊かにする取り組みに注力したいです」と抱負を語ってくれた。

湯沢市
福祉保健部 子ども未来課
主任 斎藤 岳さん

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