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バリアフリーにはどんな例がある?ユニバーサルデザインとの違いや自治体が意識するポイントを徹底解説

バリアフリーは障害のある人が社会生活を送る上で、障壁(バリア)となるものを取り除くという意味を持つ。もともと建築用語として登場したため、歩行空間の段差をなくすなど物理的な障壁の除去を指すことも多いが、現在ではより広い領域でバリアフリーの考え方が取り入れられている。

障害や属性を問わず、全ての住民を対象に公共サービスを行う自治体として、バリアフリーがどのようなものかを改めて理解しておきたい。本記事では、バリアフリーの例やユニバーサルデザインとの違い、自治体が意識するポイントを解説する。
 

【目次】
 • バリアフリーとは何か

 • バリアフリーとユニバーサルデザイン、どう違う?
 • 自治体が意識すべきバリアフリーの例とは
 • 障害の種類と必要とされるバリアフリーの例を確認しよう
 • バリアフリーは全ての人々が安心して暮らせる地域社会を実現させるために必要な考え方

※掲載情報は公開日時点のものです。

バリアフリーとは何か

バリアフリーの「バリア」とは、英語で障壁を意味する。バリアフリーとは障害がある人の社会生活上、障壁(バリア)となるものをなくす(フリーにする)ことを指す用語だ。

建築用語として用いられはじめ、建物内の段差をなくしたり、歩道に誘導ブロックを設置したりなど、物理的な障壁の除去に使われることが多いが、現在ではより広い意味で、障害者の社会参加を困難にしている事象全般を取り除くことにも使われるようになった。

日本では昭和40年代半ばから、福祉のまちづくりとして建築物の障壁をなくす取り組みが行われてきた。平成5年には「障害者対策に関する新長期計画」(※1)が策定され、その中でバリアフリー社会の構築を目指すことが明記されている。

さらに、平成12年3月21日に、政府は内閣に「バリアフリーに関する関係閣僚会議」を設置。この関係閣僚会議は、真のバリアフリー社会を築くために、関係各省庁の大臣が集まり、幅広く議論する場として設けられた。

※1出典 内閣府「障害者対策に関する新長期計画の概要」

4つのバリアとは?

バリアフリーとは何か

障害がある人が社会生活の中で直面するバリアは、次の4つのバリアに分類されている。

1.物理面のバリア|建物内や移動時の不便

公共交通機関や道路、建物などでの移動の妨げになるものが物理面でのバリアだ。例えば、路上の放置自転車、狭い通路、ホームと電車の隙間や段差、建物に入るまでにある段差、滑りやすい床、座ったままでは届かない位置にあるものなどが挙げられる。

2.制度面のバリア|ルールや制度による制限

社会のルールや制度によって、障害のある人が能力以前の段階で機会の均等を奪われていることを制度面のバリアという。例えば、学校の入試、就職、資格試験などで、障害があることを理由に受験や免許の付与を制限されることなどが該当する。

3.文化や情報面のバリア|文化活動や情報の共有方法の不足

情報の伝え方が障害がある人にとって不十分なために、必要な情報が得られないことが文化や情報面のバリアだ。例えば、視覚に頼ったタッチパネル式のみの操作盤、音声のみによるアナウンス、点字・手話通訳のない講演会、分かりにくい案内や難しい言葉などが挙げられる。

4.意識面のバリア|偏見や差別、無関心などからくる理解不足

周囲の人による心無いことばや、障害者への偏見や差別、無関心など、障害のある人を受け入れないことが意識面のバリアにあたる。例えば、精神障害のある人は何をするか分からないから怖いといった偏見、障害がある人に対する無理解、奇異の目で見たりかわいそうな存在だと決めつけたりすることなどが挙げられる。

バリアフリーとユニバーサルデザイン、どう違う?

バリアフリーは、障害によりもたらされるバリア(障壁)に対処するといった考え方だ。それに対して、ユニバーサルデザインは障害の有無、年齢、性別、人種に関係なく多様な人たちが利用しやすいように、都市や生活環境をデザインするという考え方だ。バリアフリーとユニバーサルデザイン、それぞれの例を見ていこう。

バリアフリーの例は点字ブロックや音声案内など

バリアフリーの例は点字ブロックや音声案内など

点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)は、視覚に障害のある人が安全に歩行するための道案内を担う設備で、バリアフリーの代表例ともいえる。

ユニバーサルデザインの例は自動ドア、センサー式蛇口など

ユニバーサルデザインの例は自動ドア、センサー式蛇口など

自動ドアは一部の人だけではなく、社会で暮らす人全員が恩恵を受けられる設備として、ユニバーサルデザインに分類できる。

自治体が意識すべきバリアフリーの例とは

ここからは、自治体が意識すべきバリアフリーの例をそれぞれ具体的に見ていこう。

【エレベーター】ボタンの位置や使いやすさへの工夫

自治体が意識すべきバリアフリーの例とは

車いすを使用している人が利用しやすいよう、ボタンの位置を低くしたり、エレベーター内で方向を変えずに出入口を確認できるよう鏡をつけたりと、使いやすさへの工夫が必要だ。また、出口と入口が別々についている「スルー型」のエレベーターは、車いすの人やベビーカーを押す人が転回する必要がない。

【エスカレーター】音声案内や段差が始まる位置の工夫

ステップに乗ってすぐに段差があらわれるのではなく、最初のステップ3段分が平らになることで、小さな子どもや歩行障害がある人でも、落ち着いて乗れるよう工夫されているエスカレーターがある。また、視覚障害がある人のために、エスカレーターの進行方面や上り・下りを音声案内で知らせるものもある。

【多目的トイレ】広さや段差に配慮し、便座の近くに手すりを設置

自治体が意識すべきバリアフリーの例とは

多目的トイレは車いすの人でも使えるよう、個室の中を広く段差のない設計にするほかにも、便座の近くに手すりを配置することで、車いすから便座への移動をスムーズにできる。また、人工肛門・人工ぼうこうをつけた人(オストメイト)のための洗い場や、ベビーベッド・ベビーチェアなど機能を充実させ、多くの人が利用できる設備にすることも大切だ。

【手すり】使用者のことを考えた位置やカラーリングが大事

自治体が意識すべきバリアフリーの例とは

握りやすい形状にすることや、取り付ける位置を工夫することで、誰もがつかまりやすい手すりの設置を目指したい。また、目立ちやすいカラーリングは利用者の目にとどまりやすくなり、優先スペースの範囲を色で示すこともできる。

【自動券売機・精算機】車いすでの利用を想定したデザイン、音声ガイド

設置する高さを調整し、機械の下にくぼみをつけることで、車いすの人も利用しやすくなる。また、音声ガイドが機能として搭載されているものは、視覚障害のある人でも利用しやすい、

【ピクトグラムを用いた案内サイン】小さな子どもや外国人などでも理解できる

自治体が意識すべきバリアフリーの例とは

ピクトグラムとは絵文字や絵単語とも呼ばれる案内記号のことだ。文字の代わりに視覚的な図記号での表現を使い、小さな子どもや外国人、文字の理解が難しい人にも情報を伝えたり、注意を促したりできる。

【駐車場】車いす使用者用の駐車場を設置する

平成18年に施行された「バリアフリー法」により、官公庁など公共施設への車いす使用者用駐車施設の設置が義務付けられた。国土交通省のガイドラインでは、施設の歩行者用出入口までの距離を短くすること、幅を3.5m以上にすること、身体障害者用の駐車場であることを見やすく表示することを定めている。また、駐車場の規模により設置数も異なり、50台までの駐車場では1台以上が必要数とされている。

【段差の解消】車いすやベビーカー使用者でも移動に困難を感じないように

移動に車いすが必要な人や、ベビーカーで子どもを連れて移動する人のために、建物内や歩道の段差を解消して、歩行空間をフラットに整備することが必要だ。

【点字ブロック】視覚障害がある人に路上の情報を伝える

視覚障害がある人の情報収集の手段の1つが触覚情報だ。点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)を通して路上の注意を伝えたり、経路を案内したりなどの役割がある。

【音声案内】青信号やトイレの位置を知らせるものや、ホームページの読み上げ機能も

自治体が意識すべきバリアフリーの例とは

音声案内は視覚障害のある人に情報を伝える手段の1つだ。例えば、建物内でトイレの位置を知らせる音声案内のほか、横断用の青信号を音で伝える信号機などもある。また、近年ではホームページの内容を読み上げる機能も登場している。

【広い通路】車いすが通りやすい幅を確保

車いすが通りやすいように配慮した幅の広い通路もバリアフリーの例の1つだ。車いすの寸法はJIS規格で定められており、手動車いすの幅は630mm以下、電動車いすの幅は700mm以下となっている。(※2)

※2出典 福島県「人にやさしいまちづくり条例施設整備マニュアル」

設備の充実により、ハード面でのバリアフリーは社会の中でも徐々に浸透してきた。しかし現在では、バリアフリーの考え方は制度面、情報面、意識面にも広がっており、より幅広い領域でバリアフリーを進めていく必要がある。困っている人がいたら話しかけるなどの配慮も含め、自治体が率先してソフト面でのバリアフリーを充実させていくことも大切だ。

障害の種類と必要とされるバリアフリーの例を確認しよう

心身機能の障害は、その種類と程度によって異なり、社会生活を送る上で必要なバリアフリーもそれぞれ違う。どのような人が、どのようなことに困っているのかを知ることが、バリアフリーへの第一歩だ。ここからは、主な心身機能Fの障害の種類と、必要とされるバリアフリーの例を見ていこう。

視覚に障害のある人

障害の種類と必要とされるバリアフリーの例を確認しよう

全く見えない人(全盲)、見えないが光を感じられる人(光覚)、眼鏡などで矯正しても視力が弱い人(弱視)、見える範囲が狭い人(視野狭さく)、色の見え方が異なる人(色覚障害)など、人によって見え方は様々だ。視覚からの情報収集が難しいため、音声案内などの音声情報や、点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)、点字などの触覚情報で伝える必要がある。また、弱視や色覚障害の人には、文字を大きくしたり、色の対比を明確にしたりして伝えることが大切だ。

聴覚に障害のある人

全く聞こえない人(ろう者)、聞こえにくい人(難聴者)など、音の聞こえ方には個人差があり、声を出して話すことが難しい人もいる。音による情報収集が難しいため、筆談や手話のほか、文字情報、ピクトグラムを用いた案内サインなどを使って伝える必要がある。

肢体に障害のある人

まひなどで手足や身体のどこかが動かない、あるいは動かしにくいなど、さまざまな状態の人がいる。義肢などの補助具や車いす、つえなどを使って日常生活を送る人もいるため、階段を使わず移動できるスロープや、スペースに余裕がある多目的トイレなどが必要だ。

身体の内部に障害のある人

病気などにより、身体の内部に障害がある人がいる。障害のある臓器は心臓や腎臓、呼吸器、腸やぼうこう、肝臓、免疫機能など、人によって異なり、外見からは分かりづらいことが多い。内部障害により、疲れやすい、長時間立っていることが難しいといった困り事を抱える人もいるため、エレベーターやエスカレーターを設置することで、外出時の負担を軽減できる。また、頻繁にトイレに行く必要があるなど、日常生活上の制約にも配慮したい。

知的障害のある人

生活や学習面での知的な働きや発達がゆっくりとしている人がいる。軽度の知的障害からダウン症や自閉症などほかの障害もある人まで、一人ひとりの障害の状況は大きく異なる。読み書きや計算のほか、抽象的な概念や、複雑なことの理解・判断が難しいため、シンプルな言葉で話すなど、分かりやすく伝える工夫が必要だ。

精神障害・発達障害のある人

精神障害は統合失調症やうつ病、てんかんなどの精神疾患のために、社会生活や日常生活がしづらくなる障害だ。また、発達障害には自閉症などの広汎性発達障害(PDD)、注意欠如多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などがあり、感覚が過敏、落ち着きがない、読み書きや計算が苦手など人によって障害の状況は異なる。いずれも外見からは分かりにくいが、温かい目で見守る必要がある。

そのほかにも、見ること、聞くこと、動くこと、伝えることが困難になりがちな高齢者や、妊娠中の女性、ベビーカーで小さな子どもを連れて外出する人の困りごとにも配慮したい。

バリアフリーは全ての人々が安心して暮らせる地域社会を実現させるために必要な考え方

地域で暮らす人たちの中には、さまざまな事情や困難を抱える人も存在する。バリアフリーは日常生活上の障壁を取り除き、より暮らしやすい社会を目指す考え方だ。全ての人々が安心して暮らせる社会を実現させるためにも、自治体が積極的に地域の特性に合わせたバリアフリーを取り入れていきたい。

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