ジチタイワークス

鳥取県日南町

森を守るために人材育成に向き合う“町立”アカデミーの熱意。

林業従事者の人手不足解消を目指し自治体が学校を設立

日南町が運営する「にちなん中国山地林業アカデミー」には、平成31年4月の開校以降、林業で活躍したい人が全国から集まっている。特定産業の人材育成にまちが取り組む、その理由について話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.31(2024年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

経験者の募集では解消できない人手不足の根本解決に向けて。

林業を基幹産業としている同町は、木を切って使い、また植えて育てるという循環型林業が確立している。しかし、人手不足から切り手が足りず、伐採など循環の一部が滞る現状があるという。「当町は、県内でも高齢化率の高いまちです。林業従事者の高齢化も顕著で、人手の確保は喫緊の課題となっていました。そのためには、経験者を広く集めることも有効ですが、全国的に林業従事者が減っている中、ほかの地域から募集をすると、その地域で活躍する経験者が減ってしまうことになります。それでは、従事者減少の根本的な解決にはつながりません。であれば、新たな担い手を生み出す学校を設立しようと、動きはじめたのが平成28年頃のことでした」と小川さん。

その後、文部科学省などへの学校設置の手続きと並行し、教員の確保やカリキュラム構築などを行っていったという。特にポイントとなったのは、入学希望者を集める仕組みづくりだった。県内だけでなく、県外からも入学希望者を集めることを目指し、資格取得費用を含めた授業料の設定や、一定の条件を満たせば国からの給付金が受け取れる制度など、町内での生活を成り立たせながら学べる環境づくりにも取り組んだという。そうして平成31年4月、同校が開校した。

アカデミーの様子。在校生は、林業講座の座学や特殊機械を扱う実習など、実践重視のカリキュラムを受講。また、教育機関と連携し、幼児から大学生までを対象に森林教育を実施している。

現場の即戦力を全国へ輩出する日本初の“町立”林業学校。

講師に着任したのは、林業の研究者と従事者、両方の経歴をもつ小菅さん。大学院で培った知識と、現場での経験を活かし、設立当初より授業のカリキュラムは全て小菅さんがつくっている。同校は1年制で、まちが管理する演習林や施設を活用し、林業に必要な13の資格を取得できるよう、カリキュラムが組まれているという。1年という短期間で、即戦力としての技術と知識を身に付けられる内容を目指しているそうだ。

アカデミーの設立により、まちに新たな潮流が生まれたと小菅さんは話す。「当校の大きな特徴は、卒業後の就職先を町内に限定していないことです。これは前・町長の英断なのですが、町立の学校で、就職先を町内や県内に限らないというのは、なかなか決断できることではありません。しかし、そのおかげで“林業をしたい人は日南町に”という流れが生まれました」。初年度はほとんどが町外からの入学だったが、今は町内外から入学希望者が集まり、定員10人を超える年度もあるという。「地元の高校生から元国家公務員まで、集まる学生は様々です。都会で高収入を得ていたが、林業に引かれて入学した人もいます。卒業生は必ずしも町内で就職するわけではないので、町内の人手不足の課題はありますが、大切なことは“より多くの林業従事者を育てること”にあると考えています」。

幼少期からの教育で、森を育む豊かなまちの未来につなげる。

同校は、幼児から大学生までを対象にした森林教育も実施している。幼少期から森に触れ合うことで、より林業を身近に感じてもらいたいというねらいで、まちが教育機関へ呼びかけて連携しているという。同校の在校生が先生となり、植林や間伐など対象学年に合わせた体験が行われている。森林教育に参加した子どもからは、「将来はアカデミーに入りたい」という声が届いているそうで、「これからも林業の面白さや楽しさを、授業を通じて感じてもらえたらうれしいですね」と小川さんは笑顔で話してくれた。

新たな担い手を創出したい。その思いからスタートした同校の卒業生は、すでに全国で活躍しはじめている。「国土の約7割を森林に覆われていながら、日本の林業従事者は4万5,000人程度しかおらず、全国で必要とされています。豊かな景色を眺めつつ、汗をかき仕事をする。日々充実感と達成感を得られるこの仕事は、とても魅力的だと思います。林業のよい面だけでなく、リスクやその対策方法も身に付けて、林業に携わる人が増えていくことを願っています」と小菅さん。

業界全体の課題である人手不足にまちが向き合い、育成することで解決を目指す。業界の事業継続を支える動きに今後も注目したい。

鳥取県日南町
左:農林課 主事 小川 斗希哉(おがわ ときや)さん
右:にちなん中国山地林業アカデミー 教育運営科長 小菅 良豪(こすが よしたけ)さん



 

 

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