地域商社と連携して新たな魅力を生む事業承継を支援
高原町では多くの事業者が後継者不足に悩み、廃業の危機に直面していた。そこで事業承継支援に注力すべく、同町が設立した地域商社に業務を委託。二者が協力して、まちや産業の魅力を発信し、承継につなげているという。
※下記はジチタイワークスVol.31(2024年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
事業者支援を充実させるため地域商社に主担当を委託した。
少子高齢化や若者の都市部への流出で、地域産業の担い手不足が深刻化し、商店の廃業や町外への移転が続いていた同町。小規模なまちでは、一つでも事業が撤退すると人々の暮らしに大きな影響を与えるため、事業存続に向けた支援は欠かせない。そこで、令和2年度から、事業の魅力やストーリーをWEBで発信し、承継者を募るプラットフォーム「relay(リレイ)」の活用を始めた。これまで事業承継の支援は商工会が担っていたが、どうしても地域内での募集になってしまう。そのため、全国から承継者を募れるよう、行政としても取り組むことになったという。「しかし、事業承継の支援に充てる人手が足りない状況でした。重要な課題に腰を据えて取り組むため、外部の力も借りて進めることになったのです」と、たかはるPR係の江南さん。
同町では、令和4年3月に奥霧島地域商社「ツナガルたかはる」を設立。ふるさと納税や事業承継支援に注力するため、町が100%出資した組織で、地域おこし協力隊を含む9人※の社員が在籍している。「事業承継はデリケートな側面もあります。事業者と日頃から顔を合わせている担当者がいない状況では、話をもちかけても“うちがつぶれると言いたいのか”とマイナスに受け取られがちです。気軽に相談を受けたり提案をしたりできる関係性を築き、よりスピード感をもって進めるためにも、商社に主担当を任せることになりました」。
※令和6年1月時点
部分的に承継できる仕組みで新たな事業が地域を活性化。
事業承継の支援で同社が主に行うのは、地域の事業者とのやりとり。困り事や要望を聞くなど、日頃からコミュニケーションを重ねている。承継者募集を掲載するページの取材に同行し、PRしたいストーリーや事業主の魅力を伝えたり、記事の校正をしたりと、情報発信のサポートにも携わる。ページ掲載と、地域商社との連携で、令和6年1月までに町内のベーカリー・書店・中華料理店の3件が承継に成功。ベーカリーは地域おこし協力隊が技術と機材を引き継ぎ、カフェへと生まれ変わった。書店は“町で唯一の書店を残したい”という思いから町内在住者が承継。カフェスペースと併設して本や文房具を販売するコーナーや、子どもの学習スペースもある。中華料理店は同町の出身者が、もともと経営していた青果店とミックスさせて引き継いだ。
「場所も事業内容もそのまま承継するのは、ハードルが高いです。しかし技術や機材などを部分的に活用し、新たな事業に挑戦する形なら、承継の幅も広がる。実際にそれぞれの特技を活かして発展させてくれているので、受け入れ側の柔軟さも大切ですね」と同社で事業承継を担当する川合さん。「私自身も地域おこし協力隊として移住してきました。その土地の魅力も、移住や事業承継を考える人にとって重要な情報です。外から来た者としての視点をもちながらも、地元の歴史や伝統などもインプットできるように、地域の皆さんと密にコミュニケーションを取っています」。
▲承継者は事業をアレンジし、新たな魅力を生み出している。(写真左:事業承継マッチングプラットフォーム「relay(リレイ)」提供)
行政と商社が強みを活かし地域愛をもってPRする。
令和5年度に新設された同係は、地域商社との連携や移住・関係人口の拡大など、同町のPR全般を担う。初年度は前身の部署で付いた予算を使い、既存の業務に充てていたが、2年目となる令和6年度は新しく事業を行うそうだ。
「商社にはできて役場にできないこと、またはその逆が少しずつ見えてきました。商社には自走して主体的に事業を引っ張っていってほしいので、互いの強みを活かしながら、当町の目指す未来像と擦り合わせていきます」と江南さん。商社も設立3年目で、地元の事業者と関係性が築けてきている。これからは、高齢の事業者を含めてもっと多くの人に商社が事業承継支援を担っていることを伝えるのが課題だという。「広報紙などで紹介したり、商社のメンバーを地域のイベントに呼んで町民と接点をつくったりと、身近になるように周知していきます」。
さらに今後は、事業承継から派生した起業や移住を同係が支援するなど、連携の幅を広げていくつもりだという。「人数は限られていますが、それぞれの長所を活かしてサポートします。質の高いPRとコミュニケーションができれば、高原町に魅力を感じ、熱意をもった人が来てくれるはず。町外の人にも共感してもらえるように地域愛を伝えていきます」。同町出身でまちのことをよく知る江南さんと、移住者の川合さん。両者の視点が融合した発信に、注目したい。
左:宮崎県高原町 産業創生課 たかはるPR係 係長
江南 智玄(こうなん ともはる)さん
右:ツナガルたかはる 地域おこし協力隊
川合 一生(かわい いっせい)さん
柔軟な事業承継の形
ベーカリーからカフェへ
承継の形
技術と機材を引き継ぎ、空き倉庫を活用してリニューアル。
リニューアル後
屋外カフェなどのイベントを開き、町外からも来店者が多い。▲同町が事業承継の支援を始めてから初成約の事例。元事業主や町長らも集まってオープンを祝った。