ジチタイワークス

≪そうだったのか!デジタル行財政改革≫利用者起点の行政DXは“つながる”ことで加速する!

そうだったのか!デジタル行財政改革

令和5年、政府に「デジタル行財政改革会議」が設置された。デジタルの力を最大限に活用し、公共サービスの維持・強化を図る目的だという。しかし、これまでもDX推進には取り組んできたはず。従来とは何が違うのだろうか。

今回は行財政改革チームの一員であり、DXの最前線に身を置く畑中さんを取材。目指していく行政DXのビジョンと、現時点の課題とは何かを教えてもらった。

※下記はジチタイワークスVol.31(2024年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

教えてくれるのは……

畑中 洋亮(はたなか ようすけ)さん
内閣官房 デジタル行財政改革会議事務局 政策参与・子育て分野担当
一般財団法人GovTech東京 業務執行理事 兼 最高戦略責任者

コロナ禍において、緊急医療体制「神奈川モデル」を構築
 厚生労働省医療機関等情報支援システム「G-MIS」の構築を主導
 現在はデジタル行財政改革会議事務局にて、子育て分野の政策を担当

 


 

 

これまでのDX推進において何が課題だったのかを振り返る。

―デジタル行財政改革会議が新たに設置された経緯を教えてください。

私たちはこれまでも、DX推進という旗印のもと、行政のデジタル化を進めてきました。しかし現状を見ると、システムやデータは自治体ごと、分野ごとにバラバラです。そこで本会議を組織し、事務局を内閣官房に設置。各府省庁へ迅速に指示が出せる司令塔の役割を果たします。法規制がデジタル活用を阻害している場合は規制改革を行うなど、これまでとは異なる組織体系で、推進力をもって取り組んでいきます。

TOPIC
令和5年秋に新設された“デジタル行財政改革会議”って一体何!?

●デジタル改革の司令塔として内閣総理大臣を議長に設置
●各府省庁の大臣や有識者などで構成される組織


特に知っておいてほしいのは、デジタル行財政改革は“利用者起点”の改革だということ。行政サービスの利用者である住民の生活が便利になり、自治体の業務がラクになることに重点を置いて、議論を進めています。まずは、改革に取り組む重点的な分野を7つ挙げ(下記図参照)、現場の課題をヒアリングしながら取り組んでいるところです。


―自治体の業務には、どのように関わってくるのでしょうか。

自治体には、全国共通で行われている業務がありますよね。ところが今は、各自でDXを進めているため、非効率な状況です。だから、システムの統一・標準化に取り組もうとしているのです。これは、共同化ともいえて、同じ業務はどの自治体でも同じ仕組みで取り組めると効率的ですし、教育コストなども省けます。そうした仕組みづくりを、国が一元的に進めていこうとしています。そうすれば、自治体が個々でシステムを調達する手間もなくなるはずです。

コロナ禍を通して見えてきた自治体が本当に解決すべき課題。

―DXを目指す中での現状と、取り組むべき課題は何だと考えますか。

行政の現場には、アナログを前提とした業務がまだまだ多く残っています。コミュニケーションも対面や電話、紙ベースで行われることが多く、迅速な情報連携が難しい状況にあります。今後、職員数は減る一方で、行政課題は多様化する。今のままだと、通常の行政サービスの維持すら困難になり、災害時などはもちこたえられません。それが表面化したのが、コロナ禍でした。

私は神奈川県のコロナ対応で、医療危機対策統括官を務めたのですが、住民・自治体・保健所・医療機関・国を結ぶ情報連携の仕組みがなく、感染者情報の収集が困難でした。最初は、ファックスで情報を集約し、保健所がパンクしたことは記憶に新しいかと思います。リアルタイムに情報収集ができなければ、今何が問題なのか、何が不足しているのか、現状の把握すらできない。だからこそ当時は、情報を集約できるシステムを構築したのです。

自然災害が起きた場合は、真っ先に被災地の状況を把握しようとしますよね。しかし情報が連携されていなければ、避難所がどこに何カ所あるのか、何人避難しているのかが分からず、初動に手間取ってしまう。また、通常業務でも、異なるシステムのデータ連携ができておらず、職員が何度も手入力をしている。人が介在すれば、負担もコストもかかります。行政は縦割り組織だといわれますが、実は縦にもつながれていない状態なのです。だからこそ、デジタル技術を有効に活用し、連携できる基盤をつくる。行政サービスの受け手の住民から、自治体、国までが縦につながることがファーストステップです。

デジタルの力で、未完成の縦連携をつくり上げていく。

―“縦につながる”というのはどのような状態を指すのでしょうか。

イメージとしては、報告業務がなくなって、必要な情報が機械的に集まっている状態です。例えば、医療における保険診療分野では、全国でデータが統一されているため、受診をした情報は国のシステムに集まってきます。そのように、定型的な情報が機械的に集約できる仕組みをつくることが必要です。同時に、非定型的な情報、例えば“ 現場にアンケートを実施したい”という場合にも、情報がラクにやりとりできる状況が理想ですね。今は、調査報告などをその都度、人の手で行っていますが、仕組み化して情報基盤上でそれを可能にすれば、”縦につながりきった”状態だといえるのではないでしょうか。

そうすれば、何か事業を実施する場合、きちんと情報が揃っているので、どこに問題があるのか把握でき、どんな対策が必要なのか判断がつきます。さらに、成果も定量的に検証できるため、事業評価も正確に行える。これでようやく経営基盤が整った状態だと思います。同じ動きを手作業でやった場合を考えると、そのスピードの差は歴然です。

官民の見えない壁を壊して大切なデータを共有財産に。

―縦軸が適切につながったら、次にすべきことは何でしょうか。

次は“横”の連携です。住民は引っ越しなどで、自治体間を移動しますよね。そんな場面でも、自治体同士が同じ情報基盤でつながっていれば、切れ目のない行政サービスを届けることができます。転出した自治体から転入先が情報を受け、その住民に必要な情報をプッシュ型で送ることも可能になる。住民が面倒なことをしなくてもいい社会になるのが理想です。

また、“横”の中には民間企業との連携も含まれます。オープンデータが分かりやすい例ですが、行政のもつ情報を民間企業が活用すれば、新たなサービスをつくり出せます。ただむやみにオープンデータ化するのではなく、何の目的で何が必要なのかを精査して、ルールを整備することも必要だと思います。


―その実現に向けて、どんな取り組みを進めていますか。

まずは子育て分野から着手しています。サービス対象者となる住民のほとんどが、デジタルネイティブ世代で、スムーズに進めやすいからです。取りかかりやすいところから始めて、成果を上げる。それをモデルケースとすれば、ほかの分野への展開が容易になります。具体的には、自治体によって異なる子育て支援制度の情報を国が集め、オープンデータ化する「子育て支援レジストリ事業」。子育てアプリなどを開発する民間企業が情報を活用することで、対象者だけにプッシュ通知で支援制度を届けられる仕組みを目指しています。

また、医療分野においては「PMH事業」というものがあります(詳細はこちら)。マイナンバーカードを活用した取り組みで、住民・自治体・医療現場での情報連携をデジタル上で行い、医療費助成・予防接種・母子保健での手続きに関わる手間の軽減を目指しています。今は医療分野からスタートしていますが、今後は様々な分野でも展開できる一つの事例になるものだと考えています。

“利用者起点”を合言葉に、誰一人取り残されない社会へ。

―縦と横の連携を実現できたら、どんなメリットが得られるのですか。

逆に、実現しなかったらどんなデメリットが生じるのかを考えてみましょう。今後、職員は減っていきますが、超高齢化などによって、対応すべき困難のバリエーションは爆発的に増えます。皆さんは、コロナ禍で過酷な状況を体験しました。対応に駆り出された人、残された少ない人数で通常業務にあたらなければならなかった人、それぞれが“リソースが限界だ”という無力感を抱き、二度と繰り返したくないと感じたのではないでしょうか。それこそが、行政DXを目指す“原体験”になると思います。あの事態をみんなで乗り越えられた。そのときの景色こそが、これから目指す“ビジョン”なのです。

デジタルの力でつながれば、住民は申請の手間が減り、サービスを受け損ねることがなくなる。自治体も負担が減り、求められるサービスを提供できるようになる。だから改革が必要なのです。

―最後に、自治体職員の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

今回のデジタル行財政改革は、国が用意する基盤で業務の標準化を図ります。自治体がゼロから準備する手間を省いて、本来注力すべき業務へのリソースをつくることが大きな命題です。

今回の改革に伴って、現場にいる皆さんの業務にも、様々な変化が生じるかもしれません。しかし、同じ業務を共同化していくと、仕事の分担や手伝いがしやすくなります。独自性は減るかもしれないけれど、継続性は上がる。将来のために必要なことだと思って、前向きに捉えていただきたいのです。

私たちの目的は、住民サービスの向上で、自治体職員の皆さんと目指す先は同じなのです。それに貢献できることであれば、国もサポートを惜しみません。一緒に未来をつくっていきましょう。

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