2025年問題が目前に迫る中、日本の介護問題はますます切実なものとなっています。経済産業省によれば、超高齢社会の日本において、2030年までに家族を介護する人は833万人にのぼると推計されていますが、働きながら家族などの介護を行う「ビジネスケアラー」の数は318万人と、全体の4割を占めるとみられています。介護問題がますます深刻化する中、その対策や準備が必要となっていますが、家族間で誰が、どのように対応するかを巡り、問題を抱える自治体職員も多いようです。そこで、今回の企画では、今から未来の介護に備えるためのヒントをお届けします。
解説するのはこの方
吉川 貴代(よしかわ きよ)さん
プロフィール 大阪府 八尾市 こども若者部長。1989年入庁。人権文化ふれあい部次長、政策企画部長などを経て現職。日本福祉大学社会福祉学部非常勤講師、大阪公立大学大学院都市経営研究科博士後期課程在学中。
私の場合、最後まで在宅で看ようとしたものの、ある日、訪問介護のために訪れたヘルパーさんが倒れていた父を発見、救急搬送。大したことはなく、その日のうちに自宅に帰れましたが、意思疎通が難しくなっていて、倒れたことも分からない父の姿をみて、在宅介護を終える決意をしました。父はサービス付き高齢者住宅(※1)で穏やかに最期を迎え、親子共倒れをしなくてよかったと今でも思っています。
※1)「サ高住」と呼ばれることが多く、賃貸借方式の住宅。
介護に限界を感じたら?
人には寿命があり、不老不死などはありえません。
高齢の親介護の場合、速度と程度の差はありますが、要介護者の心身の状況は悪化します。在宅で介護していて、ついこの間までできていたことができなくなる。例えば、トイレに行こうとして転倒したので、目が離せない。真夜中に何度も起こされ、介護者が慢性的な睡眠不足に陥る。オムツを使ってほしいが、嫌がる。こういった変化に、どこまで対応できるか。仕事をしながらでは厳しいというのが現実でしょう。
自宅以外の選択肢は案外多い。
施設といえば、特養(特別養護老人ホーム)。でも、「特養って待機者が多くてなかなかは入れないのでは?」と思うでしょう。確かに、申し込みをしたが、入所していない人は、令和4年4月1日現在で27.5万人(※2)。しかしながら、入所者の入院や死亡などで空きが出るのも現実ですし、地域差もあるといわれています。
また、特養以外にも選択肢はあります。介護保険では、老人保健施設、介護医療院、認知症対応型生活介護(グループホーム)などもあります。これ以外に、有料老人ホーム、サ高住、シニア向け分譲マンションなど、多様な「住まい」があり、そこで介護サービスを利用するという方法もあります。
自宅から住まいを移すと考え、罪悪感をバッサリと捨てて、「親子共倒れ=介護離職」防止と割り切ります。限界まで頑張って、結果的に介護離職、最悪の場合は虐待といった事態を回避しましょう。介護が終わってからの人生がありますから!
※2)厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度)に関する調査結果」(2022年12月23日公表)、要介護1~5の合計の人数。
プロフェッショナルを頼り、介護離職しなくてよい方法を決める。
すでに在宅で介護サービスを使っているのであれば、まずは、ケアマネジャーに相談することをオススメします。要介護者の状態、介護者・要介護者の事情を分かってくれていますし、在宅から施設やサ高住等に移る利用者は少なくないので、様々な事例を経験しているからです。要介護者の事情を分かっているプロフェッショナルに頼るのは、問題解決の近道です。
いくつかの選択肢、例えば、「特養に入所申し込みをして、入所できるまでの間はショートステイを活用しながら、介護者の負担軽減をする」、「サ高住に住まいを移して、訪問介護等を利用しながら生活する」などがあります。いずれにしても、親が住み慣れた自宅から離れるという大きな節目になりますし、生活環境が変わることへの不安や抵抗などもあるでしょう。何を優先するのかといえば、介護者・要介護者の双方の命と安全を守り、介護離職を回避する方法を決めることです。
自分で確かめ、親を説得する。
特養、サ高住などは、場所や費用、施設や住まいの様子など、チェックポイントがいくつもありますので、必ず、自分やほかの介護者とともに確かめましょう。ここから、まだ長い介護生活が続く可能性がありますから、「費用を払い続けることができるか」「介護者からみた物理的な距離は妥当か」などは重要です。
また、実際に、その施設や住まいに行って、責任者から説明を聞くのはもちろんのこと、入居者の表情や清潔感、スタッフの態度・動き・表情、施設内のにおいや安全対策などがチェックポイントです。見せたがらないような施設や住まいであれば、要注意です。
そして、親を説得する。親自身の希望であれば、ここを省略できますが、安全上の理由など、介護者が主導できめざるを得ない場合は、自宅から住まいが変わることを告げて、理由を分かるように説明して、納得してもらう必要があります。
看取るとともに、自分を労わる。
必ずやってくるのが、看取り。
長く続く介護も、いつかは終わります。それが看取りです。病状急変で急に亡くなる場合もありますし、医師から「あと1週間程度です」と告げられる場合もありますし、様々です。そばにいることができるかどうかも分かりません。また、長い家族の歴史のなかで、関係性が悪い場合もあります。去っていく親に感謝の気持ちを伝えたいのであれば、返事ができない状態であったとしても、語りかけることで、介護者としての気持ちの整理がつくこともあります。
一方で、介護離職をせずにここまできた自分を労わりましょう。亡くなってからは、葬儀、死亡後の諸手続き、相続、遺品整理、住居の始末など、意外と月日がかかり、気力も体力も必要です。
介護は十人十色。それぞれの事情があり、人にはいえないこともあると思います。しかし、いつかは終わる介護をどう乗り切るか。自分や家族だけでは解決できないこともあるので、さまざまな制度やサービス、人に頼れるところは頼るというのが得策です。参考になれば幸いです。