2025年問題が目前に迫る中、日本の介護問題はますます切実なものとなっています。経済産業省によれば、超高齢社会の日本において、2030年までに家族を介護する人は833万人にのぼると推計されていますが、働きながら家族などの介護を行う「ビジネスケアラー」の数は318万人と、全体の4割を占めるとみられています。介護問題がますます深刻化する中、その対策や準備が必要となっていますが、家族間で誰が、どのように対応するかを巡り、問題を抱える自治体職員も多いようです。そこで、今回の企画では、今から未来の介護に備えるためのヒントをお届けします。
解説するのはこの方
吉川 貴代(よしかわ きよ)さん
プロフィール 大阪府 八尾市 こども若者部長。1989年入庁。人権文化ふれあい部次長、政策企画部長などを経て現職。日本福祉大学社会福祉学部非常勤講師、大阪公立大学大学院都市経営研究科博士後期課程在学中。
介護休暇は慎重に!
公務員の場合は、民間企業の介護休業93日と違って、通算6カ月以内の介護休暇という制度があります。期間が長いとはいえ、6カ月です。いよいよ看取りの時期が近づいたという局面では、使うのも一つの選択肢です。「思い残すことなく看取りをしたい」という方には適しています。それでも、看取りに至るまでの末期も案外長い場合もあり、半年で済むのかという見極めが難しい。介護休暇を使い切ってもなお、介護に全力で取り組むような状況であれば、身動きできず離職のおそれがあります。
総務省資料※によれば、令和4年度に介護休暇を取得した地方公務員は全国でわずか2,696人!一方、介護時間は3年かつ2時間以内という制度で、ほとんどの地方自治体で制度化されていますが、同資料によれば取得者はわずか835人!介護者と要介護者の事情によっては有効活用すればよいので、制度を調べ、いざというときに備えておくに限ります。
※総務省(2023)「地方公務員における働き方改革に係る状況―令和4年度地方公共団体の勤務条件等に関する調査結果の概要―」より
自分でしなければならないという思い込みをやめる
「親が介護サービスを使いたがらない」、「他人様を自宅に入れたがらない」といった話はよくあることです。平成12年4月の介護保険制度導入は、家族だけで介護をするのは無理だから「介護の社会化」のために導入されたものです。このサービスを使わないで、働きながら介護しようというのは無謀です。外注できるものはすればよいのです。
普段の食事を考えてみてください。全部手作りという人もいるかもしれませんが、冷凍食品や加工食品、ときにはデパ地下のお惣菜を買う、外食もします。それと同じだと思ってください。
使いたがらない、入れたがらないは、老親でなく、介護者自身の「自分でしなければならない」という無意識の思い込みかもしれません。重要なのは、自分の生活を守ることであり、老親へのアプローチも含めて、ケアマネージャーに相談するとよいでしょう。
通院には必ず同行しなければならないのか
ところで、前述の通院の同行が厄介です。「私が同行しなければ!」と思いがちですが、これも思い込みです。「家族さんと一緒にお越しください」と医師は平気で言います。しかも、多くは平日の昼間です。「仕事をやめろというのか」と私自身も文句たらたらの時期があり、医師が当然の如く冷淡に言うので、カチンときて揉めたこともあります。老親は子どもが同行してくれたら、心強く思います。ところが、半年、1年、それ以上に続くと負担です。家族のなかで交代要員を確保できる、近くの医療機関だから可能といった好条件の方は別として、無理があるなら、通院介助というサービスも介護保険で利用できる場合がありますから、ケアマネージャーに相談しましょう。
介護者だとカミングアウトするほうがよい
また、介護は通院同行などの世話だけでなく、介護サービスの段取りや調整などもあり、仕事を休まざるを得ない日がどうしても出てきます。介護で苦労しているのは自分だけではなく、上司や同僚、部下も同じような事情を抱えているのは珍しくありません。「おたがいさま」の関係を築いておけば、突発的に休まざるを得ない日に助け合える可能性があります。たとえば、勤務中に、デイサービス利用中の老親の体調が悪くなり救急搬送という連絡が入り、病院に駆けつけるという場面です。子どもが幼いときに保育所から「高熱があるのですぐにお迎えに来てください」という呼び出しと同じです。また、職場でカミングアウトすれば、同じ苦労をしている人が、「こんな方法もある」と経験を披露してくれることもありますから、まさに助け合いです。
議会対応も回りと協力して先読みすればできる
介護をしている限り、上司、同僚、部下の誰かに、仕事を変わってもらうという場面は少なからず出てきますから、頼みやすいように立ち回るほうが快適です。仕事は常に整理しておき、代理の人がみてもわかるようにしておくなどの工夫が大切です。特に、管理職の場合、議会対応をどうするかという問題もあります。自治体管理職は50歳代が多く、まさに介護世代。本会議や常任委員会はあらかじめ日時がわかっていますから、ケアマネージャーを通じて、訪問介護やデイサービスなどを活用して、その日は万全にしておけば安心です。また、答弁調整や質問取りなどの調整は自治体によって方法が異なりますが、可能であれば、部下か上司ともに対応して共有すれば、もしもの場合の代理出席にも備えができます。また、予算や決算、条例改正等の審議があるときは、持ち込む資料の整理は早めにやっておきましょう!