自治体を強力に牽引するデジタルマーケティングの急先鋒
ソーシャルメディアの利用者数が世界で35億を超えた※現在、デジタルマーケティングはインバウンド誘致に欠かせない。国の観光施策にもデジタル戦略が組み込まれ、各自治体も対応に奔走する中、インバウンド誘致のプロモーションやマーケティングに取り組む日本政府観光局(JNTO)は、平成29(2017)年10月に「デジタルマーケティング室」を設置した。同室室長・吉田 憲司さんに、自治体は今何を考え、何をするべきかを聞いた。
※下記はジチタイワークス観光・インバウンド号Vol.3(2019年12月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供] 日本政府観光局
「難しい」というイメージが取り組みを妨げている
JNTOのデジタルマーケティング室(通称・デジマケ室)は、海外への情報発信やインバウンド誘致を強化するため、JNTOが設置したデジタルプロモーションの専任部署だ。主にWebサイト・SNS・スマホアプリを活用した情報発信や、ビッグデータの分析・活用などを行っており、集約した知見や手法を自治体に還元している。自治体がデジタルマーケティングを行う意義について、吉田さんは「デジタルが全てではない」という前提で、こう語る。「SNSなど、インターネットで情報を得るのは今や世界の日常で、ITなしではコミュニケーションにも不便が生じます。マーケティングも同様で、ここに情報を取りに行かない手はありません。デジタルの選択は、いわば必然といえます」。
しかし、同室の職員は、全国の自治体から相談を受ける際に、「デジタルマーケティングは難しい、とっつきにくいと感じたり、何をやればいいのか迷ったりする人が多い」と感じている。
この主な原因は、デジタルマーケティングの範囲が広く、かつ日々変化するものだからだ。取り扱うには相応のリテラシーが求められるため、それに対する不安から動けなくなったり、「とりあえず」で始めた施策が停滞してしまったりすることがある。外部に委託する際も同様で、委託事業者の専門が印刷業やイベント業でデジタルマーケティングのノウハウがなければ、デジタル戦略で効果を生むのは困難だ。
「全体設計」と「数値化」が可能性を広げる
こうしたつまずきの結果「デジタルマーケティングは難しい」という思考に陥ることを避けるためにも、自治体は何から始めれば良いのか。吉田さんは「デジタルマーケティングはあくまでも手法の一つだということを理解した上で、全体設計をすることが大切です」と力を込める。
日本政府観光局 企画総室 デジタルマーケティング室 室長 吉田憲司さん
この全体設計においては、まず自治体組織内の合意形成が重要だ。首長などの意思決定者がデジタルマーケティングを理解し、ターゲットやコンセプト設定を行い、優先順位をつける。その上で職員が同じゴールを目指し、自分たちがやりたいことと、デジタルマーケティングが実現できることを結び付け、整理して考える。すると、おのずと方向性が見えてくるのだ。場合によっては、「この案件はパンフレットやポスターの方が十分な効果が出せる」といった、違う方向でのアプローチが見えてくることもある。
これらを行った上で、どのチャネルで、誰に向けて、何を情報発信するかを洗い出し、個々がバラバラに動かないよう役割分担を決めた上でスケジューリングを行う。こうした全体設計を経て、デジタルマーケティングは初めて十分に機能できるのだ。
また、数字やデータによる管理も重要だ。職員の経験や勘も大切だが、フィーリングだけに依存したマーケティングは継続させるのが難しい。デジタルマーケティングにおいては数字やデータを元にした舵取りが基本で、「今回投稿した画像では『いいね!』が○○%増えた」「○月にはこの国からのPV(ページビュー)数が多い」などの客観的な材料を次の動きへの指標にする。
この数字やデータによる管理は、他者への共有がしやすく、すぐに実行できるという強みがある。例えば、自治体でポスターを作るような場合、職員同士で空気を読みながら決めるのではなく、案をインスタグラムにアップして、「いいね!」の数で決めるといったことをやれば、これも身近なデジタルマーケティングだといえる。
当事者目線こそがデジタルマーケの基本
全体設計や数字やデータによる管理といった土台を固めた上で、忘れてはならないのが“外国人旅行者視点での情報発信”だ。吉田さんは「日本人が発信したいものをそのまま翻訳しただけでは響かない。ターゲットとする外国人の目線が必要だ」と強調する。
例えば、写真で地域の魅力を訴求したいのであれば、「アニメのワンシーンのようだ」と思わせるような風景をアップし、補完するコメントをつければ注目度も高まる。また、現地に足を運びやすい情報も必要だ。地域のキラーコンテンツが「桜」であれば「一番美しい場所と時期」をアップすると旅行者は的を絞りやすくなり、「現地までのアクセス方法」があれば旅ナカの安心感に繋がる。情報を提供するタイミングも重要で、夏のバカンスやイースター、タイのソンクラーン(旧正月)休暇など、国によって旅行に行きやすい時期にも違いがある。こうした情報は現地ネイティブでないと分からないことも多いため、できるだけ外国人のアドバイスを取り入れるのが賢明だ。
ちなみに、JNTOグローバルウェブサイトで外国人から検索されているキーワードは「okinawa」、「osaka」といった地名や、「japan visa」など訪日旅行に必要な基礎情報、「japan in september」のような季節の情報などが多い。こうした傾向を捉え、例えばSNSでハッシュタグを付けてリーチされやすい投稿をすれば、WebページのPV数などにかかわらず注目を集めることもできる。
地域の魅力を増やし訪日客4,000万を実現する
ここまでに紹介したのはデジマケ室による自治体へのアドバイスの一部。同室は他にも様々なコンサルをはじめ、炎上対策や、SNSコメントのコツなど現場で即活用できる知識も伝えており、簡単な相談から総合的な有料コンサルティングまで幅広く対応している。また、デジマケ室が作成したガイドラインはJNTO主催のフォーラムや研修会などで配布されており、Webからもダウンロード可能だ。ガイドラインには具体的な例が豊富に盛り込まれ、「こういうものが欲しかった」と喜ばれているという。
観光立国日本を実現するために、日々試行錯誤を重ねつつ知見を蓄積しているJNTOデジタルマーケティング室。吉田さんは今後のビジョンについてこう語ってくれた。「直近の目標であるインバウンド4,000万人の達成には、地域の魅力を増やすことなくしては成り立ちません。この目標実現に向けて、国内各地をプロモーションするのが私たちのミッションです。各自治体にも、デジタルマーケティングを活用したPRを行い、外国人観光客をもてなす態勢を整えて、旅行者の満足度を高めていただければと思います。デジタルマーケティングに100%正解はないので、私たちと一緒に悩みながら、失敗を恐れずに挑戦していきましょう」。
How To
01 全体設計を考える
プロジェクトが場当たり的にならないよう、首長以下、決定権を持つ人がデジタルマーケティングを理解して骨子を決める。その方向性・優先順位などに基づいた全体設計を行い、自治体内での合意形成・役割分担・スケジューリングから始める。
02 デジタルマーケティングの適用範囲を決める
観光マーケティングでは、旅行博出展や、アンケート調査など「人対人」が有効な場合もある。案件の特性や予算も踏まえ、何をしたいか、デジタルで何ができるのかをすりあわせ、デジタルマーケティングを適用する範囲を絞り込む。
03 数字とデータによる管理を徹底する
PV数、ユーザー数、「いいね!」の数などをデータとして管理し、ユーザーや市場のニーズを把握する。これらの可視化された情報はプロモーションへの反映だけでなく、他部署への共有や、異動による引き継ぎの際などにも役立つ。
デジタルマーケティングで押さえておきたいポイント
■デジタルマーケは“一手法”という視点
デジタルマーケティングの守備範囲は広いが、決して万能ではない。一気に全てをデジタルに移行するのではなく、例えば案件単位で適用範囲を決め、アナログとの共存で攻めることが大切。
■旅行者目線を忘れない
プロモーションをより効果的にするために、外国人旅行者は何に心を動かされ、行動するのかを理解する。ターゲットに設定する国や地域によって特性は異なるので、外国人の意見を聞き、積極的に取り入れる。
お問い合わせ
サービス提供元企業:日本政府観光局(JNTO)
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Email:digital@jnto.go.jp
担当:デジタルマーケティング室
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■JNTOデジタルマーケティング ガイドライン集