様々な行政課題の解決を目指し、民間の技術やノウハウを活用する官民連携の取り組みが各地で行われている。実際に官民連携を進める行政職員は民間事業者とどのようにつながって連携してきたのか……。ジチタイワークスVol.30では、「官民連携推進特集」として様々な連携事業に取り組み、実践経験を積んだ“つなぐ”達人3人にインタビュー。
そのうちの一人、神奈川県小田原市の白井 直士さんには、連携の意義や地域・庁内外とのつながり方など、官民連携に取り組む上での基本となる心構えを伺ったが、本記事では、ジチタイワークス本誌に掲載できなかった貴重なこぼれ話をお届けする。
ジチタイワークスVol.30「官民連携推進特集」本編はコチラ
【白井 直士さん】つなぐ”達人たちに聞く!官民連携に踏み出すヒント。
お答えいただく方
神奈川県小田原市(おだわらし)経済部 産業政策課
白井 直士(しらい ただし)さん
(撮影場所:WeWork オーシャンゲートみなとみらい)
▼プロフィール
2021年に産業政策課へ異動し、任命を受けて渋谷区のフレキシブルオフィス「WeWork」へ単独入居。同居する企業との接点から、わずか2年半で7社の企業誘致、24の事業連携という成果を生み出す。
Q:WeWorkに入居した背景は?
A:都心で企業誘致、公民連携の足掛かりを作るため。
経済部産業政策課の企業誘致係という部署に所属していて、一番の目的は企業誘致です。現在の市長が2030年をゴールとして作成したロードマップに地域経済の好循環を具現化するという目標があり、企業誘致にしっかり力を入れていこうとしていることに加えて、人口減少や少子高齢化、SDGs、ダイバーシティなど行政が取り組むべき課題が多様化している状況において、民間企業の力を借りて一緒にまちを盛り上げる、“公民連携”を推進する足掛かりをつくる必要がありました。
最先端の情報を得るためには、小田原市から外に出なくてはなりません。イメージとしては、ベンチャー企業やスタートアップ企業がひしめき合うところに飛び込んで情報をキャッチするべきということになり、渋谷のWeWorkに入居することになりました。
実は私自身は小田原市から出たことがないし、都会も電車も苦手。もともと農業振興の部署で農地を駆け回るような仕事をしていたので真逆の世界に行くようなものです。農業しか知らないのに小田原市を代表する人間としてどんな話題にも対応しなきゃいけないんじゃないかと、最初はとにかくプレッシャーでした。何とかしようと都市セールスを担当していた上司に相談してみたりしましたが、その上司からは「そんな広くて薄っぺらな知識じゃなくて、お前の思いをぶつけてこい」と励まされました。とにかく飛び込んで頑張ってこいと、色んな方に背中を押され、「どんなに壁にぶつかっても、最後に前を見て立ってさえいれば何とかなるか」と腹が決まりました。
新たな取り組みでしたし、どのような成果につながるか未知数だったので、直属の上司も心配されていたと思いますが、「白井に任せた」と信頼してくれました。前例踏襲ではなく、新しいことに積極的にトライしようという市長の考えがあったからこそ、私のような未経験の人間に任せてくれたのだと思います。
思い出話ですが、初めてWeWorkに入居した日。当時の部長、副部長が緊張気味の私をWeWorkの入口まで見送ってくれて、別れ際に「これから白井をよろしくお願いします。」とWeWorkスタッフにあいさつしてくれるというシーンがありました。それがすごい印象に残っていて、そのときの2人がお父さん、お母さんのように感じたのをよく覚えています(笑)。このような形で多くの方に支えられ、当市のWeWorkでの活動が始まりました。
(撮影場所:WeWorkギンザシックス)
Q:事業連携につなげるために意識したことは?
A:興味を持ったところから、もう一歩踏み込む施策を。
まず、都市セールス的なイベントを開催するところからスタートしています。
例えば、WeWorkみなとみらいや神田で、小田原のご当地サイダーを配りながら小田急電鉄と共催で「小田原ワーケーション」のPRイベントを開催。また、渋谷では市内在住の脳性まひと闘うヴァイオリニスト「式町水晶」さんのコンサートも開催しました。銀座シックスでは都市セールスや企業誘致の話をしましたし、WeWorkの拠点に小田原提灯(ちょうちん)を配布したりもしました。
交流イベントを実施していると「最近よく小田原市の名前を見聞きする」という方が増えて、WeWorkで出合った企業が小田原市に興味を持ってくれることが増えます。ここがゴールではなく、さらに連携を深めるアクションを取ることが大切だと考えています。
みなとみらいにあるクックパッドの本社と日本酒の1合缶事業を展開する株式会社Agnaviとは、日本酒に合う小田原市特産品のペアリング会を共催しました。テントサウナがはやっているという話から、WeWorkのサウナ部に入っている事業者をテントサウナ実証モニターとして小田原市に招いて交流したこともあります。人の声から精神状況を可視化するセンシング技術を持つ事業者に対しては、小田原市の福祉事業所や消防で実証実験を受け入れました。
交流で興味を持ってくれたことに満足せず、さらに一歩踏み込んだ関係を構築して事業連携や企業誘致につなげることを意識しています。
このシリーズの記事
▶ 1人目の達人:兵庫県神戸市 長井 伸晃さん/官民連携の意義について聞きました!
▶ 長井さんSideStory/課題発見は役所の外で!身に付いたスキルは「取材力&妄想力」
▶ 2人目の達人:神奈川県川崎市 上仲 俊輔さん/地域とのつながり方について聞きました!