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【セミナーレポート】デジタル活用した中高生の未来創造プロジェクト ~デジタルネイティブ世代が発信する地域の魅力とは~

令和5年8月、大分県中津市で、グローバルに活躍できる人材育成を目的とした3日間のプログラム「CREATIVE CAMP 2023 in Nakatsu」が開催されました。高校生をターゲットに、郷土愛の醸成やビジネススキル習得までも視野に入れ、大成功のうちに幕を閉じたこのイベント。

本セミナーでは同市職員による振り返りを中心に、プログラムを提供したソフトバンクの担当者も登壇。新しい地方創生の形について語っていただきました。

概要

□タイトル:デジタル活用した中高生の未来創造プロジェクト ~デジタルネイティブ世代が発信する地域の魅力とは~ 
□実施日:2023年11月13日(月)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:42人
□プログラム:
 第1部:ソフトバンクと自治体の協業プロジェクト「CREATIVE CAMP」のご紹介
 第2部:若者×テクノロジーが地域社会の未来を創る
 第3部:対談 中津市×ソフトバンク株式会社
 第4部:質疑応答


ソフトバンクと自治体の協業プロジェクト
「CREATIVE CAMP」のご紹介

第1部では、プログラムを提供するソフトバンクの担当者が登壇。CREATIVE CAMPが誕生したきっかけや、初開催を成功させることができた要因などについて、企業側の視点から語ってもらった。

<講師>

芥川 直也氏
ソフトバンク株式会社
モバイル事業推進本部 GTMデザイン推進室長

プロフィール

販売代理店営業、企画推進、法人企画推進を経て、2015年よりスマートフォンメーカーの特別パートナークループログラムの立ち上げを担当。2020年より全スマートフォンメーカーのGTM(GO TO MARKET)販売企画推進を担当。本年度よりモバイル事業推進本部内のGTMを横串にて担当。

何万人ものスタッフを育てた研修のカリキュラムを通して培われたポイントとは。

私からは、サービス提供企業の立場から、今回の取り組みについてお伝えします。

自治体は現在、様々な課題を抱えています。中津市も例外ではありませんが、そうした課題の中で我々は今回、「人口減少、観光、若者の育成」といった面にフォーカスしました。

同市では現在、1万円札の肖像交代をきっかけとした「不滅の福澤プロジェクト」というグローバル人材育成企画を立ち上げており、同時に中津流DXという旗印のもと市全体でDXを推進しています。これらを両輪として施策を動かしているのですが、そこに対してソフトバンクが何を提供できるのか、ということをまず議論しました。

当社の組織には“クルー”と呼ばれるショップの店員が多数いて、そのクルーに対する教育のノウハウが蓄積されています。何万人ものクルー育成研修で培ったのは、勉強する際にも楽しんでもらい、商品を好きになってもらわないとお客さまにも良さが伝わらない、ということです。そこで、まずは体験を楽しみ、自分の中で腹落ちして、それを人に伝えたくなる、といった研修を我々は築き上げてきました。こうした教育ノウハウを中心に協力ができるのではないかという視点で、中津市と議論を進めました。

もちろん当社には、スマートフォンなどのデバイスを持っているという点をはじめ、ほかにも様々な強みがあるのですが、IT企業なので基本的にはプラットフォームを提供します。そして自治体がそれを運営し、最終的なゴールに結びつける。この流れの中で、今回の取り組みでは「Chromebook(クロームブック)」と、「Google Pixel(グーグルピクセル)」という2種類の端末をピックアップしました。また、通信環境も提供し、アプリには「Googleレンズ」などを選んで高校生に体験してもらいました。

そうした環境を整えた上で、「CREATIVE CAMP」というプログラムを本気で楽しんで、好きになってもらうということを前提に、研修プログラムのアイデア・ノウハウを提供しました。

自治体と事業者の“本気”が反応し価値ある取り組みが誕生する。

ここで結論を言うと、イベントは成功したと考えています。参加した高校生へのアンケートでは満足度が99%で、実際に誰もが楽しそうな顔をしていました。こうした結果を残せたのも、中津市がこの取り組みに本気で臨んでいたからこそで、それが高校生にも伝わったのではないかと思っています。

CREATIVE CAMPの現場では、高校生たちの“やる気スイッチ”が目の前で入っていくのを目の当たりにしました。そしてさらに、みんながお互いのスイッチを押し合い、それが伝播していくという現象が起きるのです。私たちも「こんなことが起きるのか」という貴重な体験をさせていただきました。

このCREATIVE CAMPでは、中津市の市長はじめ職員の皆さんに様々な形で調整していただき、実施に向けて全力で取り組んでもらえたので、我々もそれに応えました。本気の自治体には本気で応えます。ここからは、中津市の中尾さんにバトンタッチし、CREATIVE CAMP担当者の生の声を聞いていただければと思います。

若者×テクノロジーが地域社会の未来を創る

CREATIVE CAMPとはどんな内容で、参加した高校生にはどのような変化が起きるのか、そして地域にもたらされるものは何か。このパートでは、企画の立ち上げから全ての流れを見つめてきた中津市の中尾氏が取り組みの全体をなぞりつつ、現場で感じたポジティブな変化について紹介する。

<講師>

中尾 修大氏
中津市役所
情報デジタル推進課 DX推進係 主任

プロフィール

平成30年入庁。子育て支援部門にて就学前教育・保育行政に従事したのち、令和3年度より自治体DX推進や行政改革に従事し、令和5年度より現職。

“楽しく学ぶ”をキーワードに、3日間に凝縮されたプログラムの内容。

ここからは、中津市で実施したCREATIVE CAMPの概要をはじめ、私自身が自治体職員として向き合った課題、そしてそれをどう突破したのかについて、CREATIVE CAMPの魅力や成果も含めて伝えたいと思います。

CREATIVE CAMPは3日間のワークショップ形式のプログラムで、中津市在住の高校生、または中津市に通学している高校生が対象です。今回は70人を超える高校生が参加しました。

プログラムを通し、当市の魅力や課題に向き合って、自分たちの感性で、スマートフォンやモバイルPCを駆使した動画をつくってアウトプットする、という内容を3日間で経験するプログラムです。

DAY1のコンセプトは「“楽しく”インプット」。最初は恥ずかしさや緊張感が漂っているので、アイスブレイクとして謎解きゲームを行いました。午後からは人気ユーチューバ―による講演で、バズる動画の作り方や、相手の立場に立って発信する意味などを解説してもらいました。

DAY2は動画の編集です。生徒たちには動画の知識がないので、プロの講師を招きスキルをインプットしました。そして午後は中津のまちに出てフィールドワークを行い、動画編集までを経験します。

最終日のDAY3は、プレゼンテーションを実施します。動画を見てもらうだけでなく、どのような企画なのか、誰に届けたいのかといったことを、大舞台で審査員や聴衆にプレゼンテーションしました。その結果、全15チームから2チームが選ばれ、夏にソフトバンク本社への見学ツアーを実施した、というのが全体の流れです。

高校生の学びをサポートすることで自治体職員も自ら成長できる。

高校生は、生活するまちを選べません。大人が選んだ土地に生まれて育ち、そこが故郷だと認識します。そんな中でも、心地よさや心のよりどころなどがあり、一方で「こんなまちになったらいい」といった思いもある。こうした気持ちを自分の感性や表現方法で出していく。

その結果、まちをもっと好きになるとか、中津市外に出たとしてもこのまちを想うなど、郷土愛が育まれるのではないかというのが、この企画のポイントです。

また、初めて会った仲間たちと3日間の共同作業をすると、意見も食い違います。そうした中でもコミュニケーションをとって、今の時代に合ったツールを使ってアウトプットをつくっていく。それは社会に出たときにもビジネススキルとして役立つのでは、と考えています。

ここで、実際に開催するにあたって、職員として向き合った課題について説明します。

1つ目が、承認の対応です。この取り組みには前例がなく、比較対象もないので「賛否ができない」という声が庁内でも出ました。そうした中で、我々はまず若者とテクノロジーがどうつながっていくのかを丁寧に説明し、分かりやすい言葉でかみ砕きながら対話していきました。

2つ目は、端末の購入があったので、その端末をイベント後にどう活用するかという点です。これはDX推進部門でしっかり考えて、丁寧に説明していくということで、なんとか突破しました。

3つ目は1番難しかった課題で、行政からの発信が高校生に届きにくいという現実です。そこで我々は、各校にチラシを配るだけでなく、実際に高校生に説明する先生方に価値を認識してもらう行動をとりました。そして高校生に説明する機会ももらえたので、そこで取り組みの内容や価値を直接メッセージしました。

4つ目は、調整です。庁内の調整はもちろんですが、ソフトバンクの方々、運営関係者、市内の会場の方々など登場人物が多かったので、それぞれの都合を考慮して調整することに苦労しました。しかし、スピード感を持って話を進め、最適解を見出していくことができ、そういう面で我々も成長できたと感じています。

若者の未来に自治体が投資することでポジティブな変化が連鎖していく。

この取り組みの成果として一番驚いたのは、参加した若者が自ら考えて行動し、たった3日間で成長していく過程です。今まで何となく過ごしていたまちと本気で向き合い、課題を捉えるだけでなくそれを魅力に変えて、決められた期限までに動画に落とし込む。この経験を経て、参加した高校生の多くが「将来を考える上でいい影響をもらえた」と語っています。

この高校生たちは、これから世界に出ていくのか、あるいは中津で暮らすのか、それは誰にも分かりませんが、未来への選択肢を増やすのは我々大人の責任です。効果はすぐには出ませんが、大人が子どもたちの未来に投資するという姿勢を示すことは、都市のブランディングとしても非常にポジティブなものだと考えています。

このような形で、当市はCREATIVE CAMPを全国で最初に取り入れました。まちづくりの1つとして、高校生という大事なキーマンに対して投資をするというのは重要な意義があると、今回のCREATIVE CAMPを通して再認識できました。子どもたちからも「中津市のことが好きになった」「魅力を再発見した」といったリアクションが返ってきています。関係者も含めてポジティブな変化を起こす、非常に良い取り組みでした。

対談 中津市×ソフトバンク株式会社

第3部はトークセッション。CREATIVE CAMPを見つめてきた2人がテーマに沿い、このプログラムに注いだ熱意も含めて、それぞれの視点で自由に語ってくれた。

テーマ1:CREATIVE CAMPを実施して驚いたこと、得られた成果。

芥川氏:このプロジェクトは、「生きていく上で重要なことがあった」と思えるような設計にしています。知らない人同士でアイデアを出し合い、ディスカッションをすると色々な意見が出てきますが、そうした議論の結果を高校生は「みんなで新しい意見をつくった」と表現していました。これこそが生きていく上で重要なことだと思うのです。

そうした中で私が一番驚いたのは、その日のプログラムが終わった後でグループでの議論が始まったり、「Chromebookを持ち帰って動画の編集をしたい」という申し出があって急きょ貸し出しをしたり、あるいは朝の集合時間の1時間前にはほとんどのグループが集まって、みんなで話し合いを始めているといった風景でした。やる気スイッチが伝播していく様が見て取れるのです。私たちも初めての試みなので「どうなるのかな」と思っていましたが、本当に刺激的な体験となりました。

中尾氏:ある高校生は、普段自分から発信したり、人前で話したりするのが苦手だと言っていました。しかし、今回の経験を通して、「むしろ自分は人前で話すのが得意なのではないかと気づいた」と言っていました。きっかけさえあれば、誰もが成長できるんだということが分かります。

また、今回の取り組みは職員の気づきにもつながっています。「子どもたちは、こういう視点でまちを見ているんだと再発見できた」というものです。自分たちの主観に頼ってまちを見るのではなく、高校生やもっと小さな子どもたち、あるいは高齢者など、「色々な人の視点で仕事をしないといけない」という職員の言葉に、我々も成長させてもらっていることを感じました。

芥川氏:保護者からの反応も大きかったですね。イベント後にインタビューをしましたが、今まで進学や就職を漠然と考えていた子が急に何かを調べ始めたとか、別の方は子どもが急に未来予想図を描き始めたとか。この取り組みを通して、子どもたちがさらに輝くためのお手伝いができたかなと思っています。

テーマ2:CREATIVE CAMP実施にあたっての、庁内の反応

中尾氏:このプロジェクトに関しては、反対はありませんでした。取り組みに反対するにはその根拠が必要ですが、今回の取り組みは前例がなく、比較対象がなかったのです。また、中津市の良い特徴として、新しいことにはチャレンジしようという風土があります。ただ、集客が課題としてあったので、これには自分たちも悩み、不安を抱えていました。

芥川氏:高校で集客のための説明会を行ったのが一番有効だったと思います。高校生は堅苦しい研修をイメージしている様子だったので、校長先生・教頭先生の許可を得て、我々も一緒に説明させていただきました。そのときに、楽しんで学べるものだと強調したかったので、実際に当社クルーが楽しく学んでいる映像を見せて、講師のユーチューバ―からも「バズる動画とかをつくるんだよ。難しいものではないから気軽に参加してね」とメッセージを出してもらいました。

このようにきちんと伝えると、高校生も「これ面白そう」とテンションが上がり、参加が一気に増えたのかなと分析しています。

質疑応答

Q:参加した高校生の郷土愛や、Uターン意識の醸成はできましたか?

中尾氏:郷土愛の醸成については、アンケートの結果で99%がポジティブな回答になっており、中津の魅力を再発見してもらえたのではと考えています。また、Uターンを希望するかどうかというのは、高校生の時点でそこまでの将来設計は難しいかと思いますが、爪痕は残すことができたと思っています。中津市でこういったことをしたという記憶は刻まれるでしょうし、成人式のときに同じメンバーが集まるといったこともあるかもしれません。そんなつながりの中で、「また中津で何かしてみようよ」といったアクションにつながる可能性は生まれたのではないかと思っています。
 

Q:デジタルスキルを身につけた高校生の、地元就職に関するスキームはありますか?

中尾氏:CREATIVE CAMPから地元就職へ、というスキームは特段準備していません。ただ、中津市は中小企業が非常に多く、そうした企業の中では、デジタルツールを使って情報発信することや、SNSなどで求人や企業PRを行うといったことに対して課題感があります。そんな中、ここでデジタルスキルを身につけるきっかけを与えられた生徒たちは、地元で就職する際に自分の強みを活かすことができます。これは地元就職に限らず、ほかのまちで活躍するときにも武器になると考えています。
 

Q:中津市が全国初の取り組みを推進できたのは、トップダウンの力でしょうか?

中尾氏:トップというのが市長の認識で回答します。トップの判断というのは今回重要でした。もともと令和3年から“デジタル元年”ということで、市長の大号令のもと、DXを進めるという熱い思いで我々は動いています。それに加えて「不滅の福澤プロジェクト」において、教育や学びの文脈で何かできないかと考えていたときに、CREATIVE CAMPの話があったので、そこは柔軟に判断いただきました。

芥川氏:確かに、トップの認識は大きく影響したと思いますが、我々が感じるのは、職員発の動きも多くあったので、トップダウンとボトムアップの両軸がうまくかみ合ったのかなということです。市長も、熱い思いを持って説明いただいたりディスカッションさせていただいたりと“本気”が伝わってきたので、当社としてもご一緒できて良かったと思っています。
 

Q:今後の展開について、公開できる範囲内でいいので知りたいです。

中尾氏:中津市としては継続して実施したい、という共通認識があります。なので、どうやったら実現できるのかというのを前向きに考えています。

実際、高校生たちからも、「またやってください」という声がとても多いんです。私だけでなく、色々な人がリクエストを受けているようです。印象的だったのは、ソフトバンク本社へオフィスツアーに行った際、中津駅に帰ってきたときに、全生徒から「来年も実施してください」と頭を下げて嘆願されたことですね。

芥川氏:楽しかったとか、勉強になったとか、自分の役に立ったなど、好きになったら人に伝えたくなるのと同じで、自分の体験が本当にキラキラしたものになったから、友達や保護者にも伝えたくなったのではないかと思います。色々なところで、高校生から「来年もやりますよね」というプレッシャーをかけてもらえている。本当にありがたいです。

お問い合わせ

ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works

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