【セミナーレポート】人手不足を乗り越えるための「実践例」-Day1 フロントヤード改革

社会全体で深刻化する“人手不足”の問題。2040年問題も控えている中、自治体の現場においても「年々業務がハードになっている」と感じている方は多いのではないでしょうか。
こうした課題の解決にDXを、と分かってはいるものの、取り組みが簡単ではないのも事実。今回は人手不足解消の実践例を自治体・事業者の両視点から2Daysでご紹介。1日目は「フロントヤード」編です。
概要
■タイトル:人手不足を乗り越えるための「実践例」
■実施日:2025年1月14日(火)
■参加対象:自治体職員
■開催形式:オンライン(Zoom)
■申込者数:231人
■プログラム:
第1部:窓口DXSaaS導入から1年経過した今。
第2部:誰一人取り残されない社会を目指す「メタバース役所」の実現~フロントヤードからバックヤードまで一貫した住民サービス向上と業務負荷の軽減~
第3部:小規模自治体の「書かない窓口」の取り組み
第4部:自治体職員不足を乗り越えるための官民連携~TOPPANが取り組むフロントヤード改革/バックヤード改革~
第5部:自治体業務のDXや標準化を支援するノーコードによるデータ連携基盤構築手法
窓口DXSaaS導入から1年経過した今。
講演のトップバッターは、茅ヶ崎市の職員。同市で進めた“窓口DXSaaS”導入の経緯やスムーズに進めるためのポイントなどについて、取り組みをリードした松野さんが具体的な情報を共有する。
【講師】茅ヶ崎市役所 企画政策部デジタル推進課
副主査
松野 友貴 氏
プロジェクトチームの結成と取り組みを進める際の工夫。
当市では、令和6年1月に窓口DXSaaSの稼働を開始しました。それから1年経過し、様々な効果や課題も見えてきています。
まず、書かない窓口の導入に先んじて、令和5年2月にプロジェクトチームを設置しました。6課12名、若手職員を中心に発足しています。
このプロジェクトチームは、「市民にやさしい、職員にもやさしい、コンパクト」な新しい窓口を目指す、およびコンビニ交付の利用促進など、「行かなくてもよい窓口」の推進、という2つの目的を達成するために活動を始めました。
現在は、6課に加え資産経営課も入っています。これは初年度の活動の中で、庁内の案内サインや掲示物に関する見直しが出てきたので、これらを迅速に改善できるようにするというのが目的です。
この各課が並列な関係で協力しながら、それぞれの役割を果たしていくということに重きを置きました。そうすることによって、どの課の職員も“自分事”としてとらえてもらえるという側面もあります。
また、メンバーには広報シティプロモーション課も入っています。取り組みにおいては内外への周知が必要になるため、広報部門が一緒にいることで効果的な周知ができたと考えています。
このプロジェクトチームでの取り組みを通常業務と並行して進めるとなると様々な制約もあるので、限られた時間の中で効果を出すために、庁内チャットツールを積極的に活用して効率化を図りました。
また、取り組みについて多くの自治体から視察の要望も頂くので、質問の受付や依頼手続きなど共通部分もデジタル化。ノーコードツールを使って、定型のテンプレートに必要項目を入力していただくアプリを作成するなどの工夫をしています。
3部署からスモールスタートし他課への展開に着手。
次は、実際の進め方について。特徴はスモールスタートです。窓口課の中から市民課、保険年金課、こども政策課の3課を先行部署として、導入状況を見定め、最終的には全庁での導入を検討していきます。今年度は前述の3課以外に、学務課、こども育成相談課、障がい福祉課が導入に着手しています。
また、窓口DXSaaSの導入にあたっては、デジ庁の窓口BPRアドバイザーにサポートいただきながら窓口体験調査を行い、ベストな形を模索しました。
現在の導入状況は、まだ全課ではなく部分的です。コンビニ交付の促進や電子申請も同時進行で土台を固めていきつつ、窓口の形を模索している段階です。
令和5年度の活動を振り返ると、以下のような足取りになっています。
令和6年度には、窓口DXSaaSが稼動している状況の中で、窓口利用体験調査を改めて実施しています。システムを導入して終わりではなく、継続的に体験調査を行って、日々チューニングを行っていく必要があると考えているからです。
これ以外にも、庁内の横展開を図る説明会の開催を実施しつつ、視察の受け入れ、セミナーでの講演なども行い、他自治体に少しでも情報を届けようと活動しています。
住民からの手応えを得て次のステップを目指す。
ここからは、具体的な変化についてお伝えします。
令和6年1月から書かない窓口を導入し、記載台での申請書の記入はなくなりました。窓口で職員が市民からヒアリングしながら一緒に手続きを進め、最終的にできあがった申請書を市民に確認してもらい署名をいただくことで手続きが完了します。
当市の場合は、ワンストップで手続きを受けている訳ではないので、引き続き連携先の窓口に行く形を取っています。その連携先も、書かない窓口が導入されている課もあれば、まだ導入されていない課もある、というのが現状です。
実際にどんな効果があったかというと、複数あった申請書が1枚になり、自分で選び取る必要もなくなって、最後に署名をすれば手続きが済む形になっています。
また、記載台が必要なくなったので、フロアの見直しを実施。必要な情報を目に入りやすくする、通路を確保する、という点を意識して、下記のようなビフォーアフターになっています。
処理時間については、純粋に処理する時間で比較すると、住民票発行も住民異動も、6分30秒削減することができています。昨年の2月には満足度アンケートを実施しました。結果は、5段階評価で平均4.87という評価をいただいています。今年度も、12月から1月にかけてアンケートを行っており、4.9という評価でした。利用者、および職員の声は以下のような内容です。
こうした取り組みを行う場合、従来はデジタル推進課が機器を調達してシステムを構築する時間が必要だったのですが、SaaS利用でその時間を圧縮。プロジェクト管理などの時間に充てることができました。短期間での導入も窓口DXSaaSでなければできなかったと考えています。
当市で導入するにあたって、窓口BPRアドバイザーをはじめ、先進自治体の方にもアドバイスをいただきながら進めることができました。当市の取り組みも、これから導入される自治体の方々にとって、少しでも参考になればと思っています。
誰一人取り残されない社会を目指す「メタバース役所」の実現~フロントヤードからバックヤードまで一貫した住民サービス向上と業務負荷の軽減~
第2部は“メタバース”がテーマ。仮想世界と現実をミックスした行政サービスとは何か。そこで住民・自治体が得られるメリットとは。先行自治体の事例も交えて大日本印刷の担当者が解説した。
【講師】大日本印刷株式会社 コンテンツ・XRコミュニケーション本部
XRコミュニケーション事業開発ユニット ビジネス推進部
小西 春菜 氏
XRコミュニケーションと「メタバース役所」について。
当社は、プリントとインフォメーションの技術体系という強みを持ち、独自の多様なP&Iを掛け合わせて新しい価値を創出しています。
メタバースなどの仮想世界と現実世界を融合する“XR”にも注力しており、多様な人々が、互いに分け隔てられることなく、リアルとバーチャルの双方を行き来できる場を構築。こうした活動において、当社は「XRコミュニケーション」を未来のインフラとして社会実装し、新たな経済圏を創出したいという理念のもと進めています。
このXRコミュニケーションというのは、人と社会をつなぎ、快適で安心安全なコミュニケーションにより、地域課題の解決と、企業マーケティングの新たな体験価値を創出し、豊かでより良い社会の実現を目指すものです。
今回はメタバース役所という文脈で、地域連動XRサービス(PARALLEL CITY)の説明を中心に進めたいと思います。
地域連動XRサービスでは、様々な物理的・時間的・心理的な障壁によって既存の環境や制度、サービスなどの恩恵を享受しづらい人たちに寄り添い、誰一人取り残されないデジタル社会とより良い未来の実現を目指すものです。
その取り組みの中で「メタバース役所」というものがあり、本日のテーマであるフロントヤードの部分に関わっています。
メタバース役所では、住民サービスの向上と共に、BPRおよびBPOを掛け合わせていくことで、職員の負荷軽減も目指しています。
メタバース役所を導入した自治体の好事例を紹介。
メタバース役所は、自治体業務の中でも住民との接点である各種相談、市民交流の場、電子申請などのサポートを中心に提供しています。
このメタバース役所が求められる背景として、例えば三重県桑名市では、「子育てに忙しい世代や日中働いている方々は、役所を利用したくても開庁時間に行けず取り残されてしまう」といった声がありました。
また、新潟県三条市では、「時代の変化に応じた行政サービスを提供していく必要がある、例えばZ世代への対応など、自治体も変わっていかなければ」という課題感があり、江戸川区では「自宅から相談や申請ができるのは究極のバリアフリー」という考え方です。いずれもフロントヤード、住民との接点におけるニーズとマッチしています。
こうしたニーズに応え、各地で実証結果を行っています。
桑名市の実証実験では、「高齢者が利用上困るのでは」という懸念がありましたが、メタバース役所を実際に訪問した住民の約2割は60代以上でした。同時に、市民参加への意欲が高まっているという評価が出ています。
また、江戸川区ではメタバース役所の先行運用を行っています。江戸川区役所を再現した空間をメタバース上につくり、ここで相談や案内を行うといったことを実施。さらに、三条市と桑名市では、メタバース役所を個別につくるのではなく、共同利用しようというモデル実証も行いました。結果として以下のような実績が上がっています。
アンケートの結果、総じて満足度は高いと判明。特に対面やWEB会議ツールに比べると、ファーストコンタクトとして非常に話しやすいという評価を頂いています。
バックヤードとの連携でXRのメリットを高める。
当社では自治体DX支援も行っており、例えばフロント部分としては「行かない窓口」や、対話支援システム、オンラインサポート、AI電話自動応答など、極力自治体の負担がなく、かつ住民も助かるといった部分を中心に取り組んでいます。
バックヤード部分では、業務集約やペーパーレス、データ活用などのサービスを取り揃えています。これらを自治体特有の課題に合わせて組み合わせて提供する仕組みです。
メタバース役所は、新しい行政の入口です。オンライン手続きや相談など、住民のポータルとして大きく機能します。この入口部分が共通化されることで、データの共通化・標準化も可能になり、電子申請や、データ連携などもスムーズかつ迅速になります。
これにより、自治体においては住民への応対が最小限、あるいはBPOによってゼロ化され、自治体職員でしかできないコア業務に集中できるようになるでしょう。また、住民は“寄り添うサービス”が享受できるようになります。
このメタバース役所を実現することで、24時間365日、相談ができる、手続きが出せる、そして出した手続きはバックヤードで電子処理され、一元管理していくことを目指しています。
小規模自治体の「書かない窓口」の取り組み
全国で広がりを見せる“書かない窓口”の取り組み。必要なのは理解していても、自治体によってはコストが大きな障壁になる。小規模自治体ならではの工夫について、芽室町の職員が現場目線で伝えてくれた。
【講師】芽室町役場 住民税務課住民窓口係
齋藤 錦 氏
小規模自治体ならではの悩みから「楽らく窓口」が生まれた。
芽室町の齋藤と申します。当町では、書かない窓口の取り組みを進めています。これについて、小規模自治体の事例としてお伝えします。
芽室町は2022年に町長公約として、「自治体DX」の推進を掲げ、書かない窓口を目指すことが明記されました。令和6年3月には「DX推進ビジョン」を策定。住民との新しいフロントヤードや、芽室町版の書かない窓口サービスを実行することをミッションとして掲げています。
一方、現場の負担は年々大きくなっています。今後も、保険証の新規発行廃止、戸籍の振り仮名などがあります。当町の住民税務課には4つの係があり、住民窓口係は正職員3名。会計年度任用職員2名です。小規模自治体なので、住基、戸籍、マイナンバーと扱う範囲がかなり広くなっているのです。
しかし、窓口の利用状況を鑑みると、窓口DXSaaSの導入に対し費用対効果が見極められないため、まずはスモールスタートしようという考え方になります。
こうした背景を踏まえ、以下のような経過でDXを推進していきました。
我々の方向としては、「DよりもX」ということで、トランスフォーメーションを重視していく考えです。アナログも含めた改革を進め、来庁者と職員の双方が楽になることが重要。この芽室町書かない窓口を「楽らく窓口」と名付けて進めています。
窓口体験調査で見えてきた住民対応における様々な課題。
楽らく窓口の実現に向けて、窓口体験調査を実施しました。
調査では、職員が窓口で一連の手続きを体験します。まず転入手続きのペルソナを設定。5人家族が転入してきたという想定で体験調査を実施しました。すると、氏名を書いた数が55回もあった。全体の所要時間は2時間18分でした。他にも、おくやみの手続き、証明書発行などの体験も実施しています。この体験調査の後にワークショップやヒアリングなどを行い、気づき・課題として上がってきたものが以下です。
個々の係では1、2枚の記入で終わっているが、通して考えると住民負担は大きい。この結果を町長に報告し、全庁的にも共有しました。
この取り組みによって職員の意識にも変化がみられました。調査は続けていこうということになり、令和6年度は隣町との共同開催という形に発展しています。
これらの非効率的な部分について、各担当者には「ムダなことをしている」という意識がなく、前例踏襲ゆえの思い込みがある。ここを洗い出すことが重要です。その上で効率化の手法を想定して、デジタル化や断捨離などに進みます。スモールスタートならやり直しも可能ということで、試案をつくり、調整をかけていきました。
考え方として、予算が絡まなければ進みが早い。“今あるものでできることを考える”、というスタンスで、Excelの関数を使って重複を省くとか、VBAを追加して簡略化することもできる。あるいは使用頻度の少ない機器を窓口で活用する、ということに可能性が見えてきました。
そして、あれこれ考えるよりもつくりながら考える、ということ。私自身、プログラミングはできないので、生成AIを使いながらプログラムをつくっています。同時に、デジ庁が提供している「共創プラットフォーム」というWEBコミュニティで先進自治体の知恵を拝借しながら進めています。
こうした取り組みの末、以下のような成果が得られています。
楽らく窓口における今後の課題と将来に向けた展望について。
現時点の課題として、日中は窓口業務に追われているので、他部署との調整に時間が割けないという点があります。また、部署間の温度差も課題です。総論としては賛成なのですが、個別具体の話になると停滞する。そこを強行的に進めるよりも、少しずつ進めて、小さな成功体験を積み上げていくことが必要だと考えています。
また、今後の取り組みとしては、DXSaaSの導入も検討中です。同時に、現場でスーパー職員を育てるよりも、引き継ぎ書の作成・更新を充実化したいと考えています。
また、楽らく窓口の推進については、今はまだ限定的なので、今後は住民の移動届や、その入力をRPA化する。あるいは手続きの見える化、庁舎のレイアウト変更など、アナログとデジタルを含めて推進していこうと考えています。
ワンストップの拡大という点では、現在10種類程度の手続きで実現できていますが、他にも広げられる余地があるので、現場レベルで協議中です。そして、書かないだけではなく、行かなくていい窓口をつくっていこうと考えています。
これらの普及とともに、郵便請求のオンライン化、火葬予約のオンライン化なども進めていきたい。それに伴ってホームページも充実させていかなければと考えています。
自治体職員不足を乗り越えるための官民連携~TOPPANが取り組むフロントヤード改革/バックヤード改革~
このパートは、リソース不足の中でもDX推進に挑戦し、独自のフロントヤード改革モデルを構築している指宿市と、それをサポートするTOPPANのバックヤード領域も含めた取り組みを紹介。両者それぞれの目線から、2部構成でお届けする。
<前半>指宿市におけるフロントヤード改革にむけた取り組み
指宿市の前田と申します。当市では令和4年にデジタル戦略課が発足し、令和5年1月に市長がデジタル活用宣言を行いました。
我々もデジタル活用に向けて先進事例を勉強し、計画やビジョンでDX推進の方向性を示した上で推進体制を構築しました。しかし、DXを推進していく上で色々な課題が見えてきました。何をするにしても財源不足というコストの問題があり、職員の人的リソースもありませんでした。
短期的・局所的なものしか取り組めずどうしようかと思った時に、まずはできることから始めようと考えたのが「指宿モデル」です。
「指宿モデル」は、コストをかけずに職員が自走して中長期的に推進することを目指したモデルです。
コストをかけないという点で目を付けたのが、国が用意している「ぴったりサービス」です。オンライン申請ではこれを活用するという方向性を示し、TOPPANのサポートを受けながら全職員対象の勉強会などを実施。複雑な登録代行と使いやすいフォームの設計も同社に依頼しながら、職員の負荷を減らしつつお金をかけずに進めることにしました。
加えて思いついたのが、TOPPANの「窓口タブレット申請システム」を活用し、ぴったりサービスを使ってコストを抑えながら、窓口でのオンライン申請をおこなうことです。さらに、出生・転入ワンストップまでタブレットで申請できるよう構築したので、今後これが進んでいけば、住民対応もスムーズになるのではと思います。
これらは統一されたシステムなので、職員が複数のシステムを触らなくて済み、バックヤードもスムーズになると考えて取り組みを進めています。
従来は別々のものだと考えていたオンライン申請と窓口タブレット申請システムを、指宿モデルではつなぎ合わせてスムーズにすることで、住民サービスの質を上げてゆこうと考えています。
我々は取り組みを進める上でのプロセスを外に発信していきながら、住民や他地域の人々に「指宿市って変わっていっているんだな」と感じていただきたいと思っています。これらの取り組みは「デジサポ指宿」というYoutubeのチャンネルで発信していますので、ぜひご視聴ください。
<後半>自治体職員が不足する未来に、官民が連携して行政改革に取り組むためには
ここからはTOPPANの土方より、職員の改革意識醸成を伴った自治体工数削減のためのバックヤード改革について説明します。
現在、自治体では多様化する住民ニーズへの対応が求められており、今後も業務量が増えてゆくと考えられていますが、DX化や業務改善には人的リソースが不足しているという課題があります。
このような課題を解決するため、TOPPANでは業務の徹底的なマニュアル化や抜本的な業務改善を目的とする業務委託モデル「領域横断型委託モデル」を提供しています。
このモデルの特徴は、BPOでの業務理解向上とBPRによる改善対象の見える化を実施した上で、その先のDX化やBPO業務の改善を繰り返すという点です。
また、業務を領域横断的に委託いただくことで、繫閑調整や改善施策の共有などが可能となり、単一での委託を超える改善効果が狙えます。
このモデルは令和3年より札幌市で先行実施し、令和6年には世田谷区、福岡市などでも展開されています。また職員向けの人事、給与、福利業務を委託する「総務事務センター」でもこの仕組みを活用し、世田谷区で令和6年度から開始しています。
札幌市の事例では、オペレーターのミス防止やスキル標準化のため、判定システムを導入しました。加えて帳票レイアウトの見直しを図ったことにより、年間5.9万時間の工数削減に貢献しました。より効果を上げていくためには業務プロセス全体で改善を図ることが必要だと考え、全体最適へのBPR手法に踏み込めないか検討中です。
また、過去自治体で実施させていただいた業務委託経験から、抜本的な業務改善を行うためには部分的なデジタル化だけではなく、全体最適の視点が不可欠ということがわかりました。これを具体的に取り組んだ事例が、世田谷区における保育園入園事業です。上記スライドのとおり、電子申請だけを導入しても、その後が紙のフローではかえって業務負荷が上がります。本来目指すべきフローは、申請から電子通知、保管までをデジタルで完結できることです。弊社はこうした全体最適の視点でBPRを進めています。電子化した後の申請率アップについても注力しており、同区での実証実験では一部の申請手続きにおいて、電子申請率を30%から45%まで上げることができました。
これらの取組みには、要綱改正や帳票改善が不可欠であり、職員との連携がキーとなったことから、再現性を高めるためには職員が主体となることが重要であると見えてきました。
しかし、主体性と言われても、どう主体的に動けばいいのか、そもそもBPRとは?と悩む方も多いかと思います。それに対し、TOPPANではプロジェクトマネジメントやBPRナレッジに関する職員向け研修を実施しています。これにより自治体職員による受託企業のディレクションが可能となり、官民連携でのより活発な意見交換が可能になると考えています。
このように、リソースを投入して新たな仕組みを構築することで、長期的に業務量を減らし、職員が本来の業務に注力する時間を生み出していきます。この仕組みで生み出した工数を活用して、住民がより幸せになれる自治体が増えたらと願っています。
自治体業務のDXや標準化を支援するノーコードによるデータ連携基盤構築手法
本セミナーの最後は、ノーコードツールを手がける「アステリア」の担当者が登壇。DXの完成に向けて必要な連携基盤の解説と、それを低コスト・短工期で構築する方法について、実例も交えて説明してくれた。
【講師】アステリア株式会社 マーケティング本部
プロダクトマーケティング部・ASTERIA Warpプロダクトマネージャー
東海林 賢史 氏
DXを完成させる3つのフェーズと“連携基盤”の重要性について。
私からは、自治体のDXや業務標準化の課題をノーコードのデータ連携という考え方で解決を図る手法についてお話しします。
まず、DXには下図の通り3つのフェーズがあります。
ゴールのデジタルトランスフォーメーションは、住民サービス向上のために業務プロセスを変革する段階です。これはITを使って複数の業務を連携した自動化を図ることにより達成することが可能。ポイントは「連携」です。
第2フェーズのデジタライゼーションは、ITを使って個別の業務を自動化できた段階です。ただし、業務と業務の間をつなぐ場面で職員の手作業も残されている。これがデジタルトランスフォーメーションに進化すると、ITで複数業務を連携した自動化ができている。職員がやっていた作業が“連携基盤”に置き換わり、全体として職員の負担を軽減することが可能です。さらに業務もスピーディに進み、それによって住民への対応速度が上がるといった改善が図れます。
ただ、この連携基盤を構築する際にも課題があります。誰がつくるか、どのような方法でつくるかという点です。選択肢の中には“職員の内製”もありますが、あまり現実的とはいえません。仮にプログラミングができる人がいたとしても、数年後に異動するかもしれない。IT人材は全国的に不足しています。この課題を解決するのがノーコードです。
ノーコードは、プログラムを書かずにシステムを開発できる技術。プログラミング知識がない人でも、パーツを選んで設定するだけで、自分たちに合ったシステムを短期間で開発することができます。これにより、システム化のハードルが一気に下がるのです。
ノーコード開発で効率化を果たした自治体の導入事例を紹介。
ここからは、当社が提供しているノーコードのデータ連携ツール「ASTERIA Warp(アステリア ワープ)」の自治体導入事例を紹介します。
埼玉県では、電子申請システムをリプレースするタイミングで、データ連携基盤を構築することになりました。その際に、開発工数がかさまないパッケージ製品であり、かつ連携先の追加変更が容易である、という要件を掲げ、アステリア ワープが採用されています。ここでは、住民や事業者からの申請データを、LGWANの電子申請システムを経由してアステリア ワープに取り込み、そこから複数のシステムに対してデータを変換、自動連携するという仕組みを実現しています。
また、別のある広域自治体ではExcelを使った庁内情報の管理・集計業務があったのですが、それを職員による内製化で自動化し、作業時間を約40%削減しています。まさにデジタイゼーションからDXに進化させた事例です。開発は、パートナーのベンダーによる伴走型支援を受けながら、10日で完成しています。
他にも目黒区をはじめ、政令指定都市、複数の官公庁でも導入事例があります。民間を含めると1万社以上が導入済です。
アステリア ワープの最大の特徴は、100種類以上のシステムやクラウドなどのサービスと連携できること。またノーコードなので、シンプルな操作で開発が可能。画面上にアイコンを並べて矢印でつなぐイメージで、直感的に設定できます。
初期費用がゼロのサブスクリプションモデルも提供しているので、試験的に利用を開始することも可能になっています。
自治体業務標準化に対するアステリア ワープの活用について。
自治体業務標準化では、データ連携も必須要件とされていますが、ここでもアステリア ワープを活用できます。以下ポイントを4つ挙げていますが、インストール型のパッケージソフトなので、マイナンバー利用事務系の中にあるサーバーにインストールすれば活用することが可能です。
ファイル連携とREST APIの連携についても、標準機能で対応しています。また、気になるポイントである「行政事務標準文字にも対応が必要」という部分ですが、アステリア ワープはMJ+を使ったファイルの処理などにも標準で対応しています。
最後に、文字コードの変換です。今後も標準化対象以外のシステムも残っていくでしょう。その連携では、文字コードの変換が発生します。アステリア ワープは文字コードの変換機能も標準搭載なので基本的に対応可能です。ただし一部制限事項があるので、詳細についてはお問い合わせいただければと思います。
アステリア ワープを活用すると、庁内業務のDXを推進することが可能です。さらに、自治体業務標準化においてもアステリア ワープの機能で様々な課題がクリアできます。
無償の体験版も用意しています。「Warp 体験版」の検索で申し込みフォームが出てくるので、ぜひお試しください。
お問い合わせ
ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works