歴史的資源を活用した観光まちづくり推進
歴史ある建物がありながら観光施策につなげられず、管理に困る自治体も少なくないだろう。武家屋敷群「出水麓(いずみふもと)」を有する出水市では、宿泊施設に改修して運用し、地域活性化の成果が出ているという。担当者に話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.28(2023年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]株式会社つぎと九州
早く朽ちて景観も悪化する空き家を新たな価値をもつ施設に変えていく。
出水麓は江戸時代、薩摩藩最大級の外城として栄えたまちだ。東京ドーム約9個分もの広大なエリア内には、風情ある武家屋敷や美しい石垣、生け垣などが残っている。平成7年には、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。
同市ではこれまでも保全に努めていたが、高齢化や人口減少による空き家増加に悩まされていたという。「天井に穴が空いたり、柱が腐って傾いたりといった建物が増えました。敷地内の草木は伸び放題となり、景観悪化も問題になっていました」と商工観光課の松下さん。その状況は、平成29年に宮路邸が寄附されたことで、変わりはじめた。
「空き家の対策を住民と協議したところ、古い景観を大事にしつつも新たなものとして活用することが必要だという声が上がりました。そこで令和2年に都市計画を見直して、300㎡以下であれば店舗やホテル、旅館などに改修できるように規制緩和を実施したんです」。そんな中、事業をスムーズに進めるためのパートナーとして選んだのが、観光まちづくりの支援を行う「つぎと九州」だった。
▲江戸時代の面影が残る出水麓のまち並みを、観光牛車で散策できる。
地域に息づく文化を守りながら官民一体で建造物を収益化する。
保全を目的に伝統的建造物を有料公開している事例はよくある。しかし入館料のわずかな収益では、維持管理費を捻出することは難しい。そこで同社は自らも出資して、歴史的資源を活用した店舗・ホテル開発などを実施。経営責任をもちながら運営に関わることで、自治体と一緒に“地域らしさ”を活かした収益事業をつくり、育てている。
プロジェクトではまず、同市が所有する築120年の武家屋敷「旧宮路邸」を宿泊施設に改修することが決定。同市の補助金※と、同社が銀行から受けた融資を合わせて、改修を進めた。そして令和4年6月に「RITA出水麓宮路邸」が開業した。
▲古い建物を扱うノウハウを活かし、当時の面影をなるべく残して改修を行う。
「土間や井戸、五右衛門風呂もあり、昔ながらの生活に思いをはせられる空間です。天井が低いので入口で身をかがめなくてはいけないという、良い意味での不便さや、当時の落書きがそのまま残る遊び心も、アクセントとなっていていいなと思っています」と松下さん。運営を行うまちづくり会社「いづる」の小野さんも、「古民家が姿を消せば、原風景やそこに息づく生活文化、手仕事の消失にもつながり、地方の衰退を加速させかねません。母屋と蔵、畑が全部残っている貴重な宮路邸を活用できるのは、伝統を残す上で価値があることだと感じています」と語る。
※出水市武家屋敷宮路邸利活用事業補助金
▲旧宮路邸の風情ある客室間。これまで少なかった20代の観光客が増え、週末は6カ月先まで予約が入っているという。
住民との合意形成を図りながら手を携えて地域の未来をつくる。
開業から約1年経ち、同じように伝統的建造物を所有し、活用方法を模索する自治体からの見学希望もあるという。“武家屋敷のまち”としての知名度が上がり、市のPRにつながっていることを実感しているそうだ。「近隣にカフェやレストラン、美術館もこの1年で開業しました。宮路邸が呼び水となり、事業を始める後押しになったのかなと思います」と小野さん。「店ができると人が増え、回遊性も高まります。今後も店を始める人が増えれば、新たなステージに入りそうです」と松下さんも次なる展開に期待を寄せる。
観光まちづくりを進める上でのポイントは、“地域の理解”だと2人は力を込める。「事業を不安視する声もあったため、住民と対話を重ね、事業の意義を説明しました。今では雇用も生まれ、宿泊客が工芸品を購入するなど地域経済が活性化し、住民の意識も変わってきたように感じます」。今も毎月、「出水麓街なみ保存会」「出水市観光特産品協会」、いづる、市の4者で定例会を開き、イベントなどを企画から一緒に進めているという。
令和5年6月には「加藤邸」「土持邸」も開業。「古いものをそのままに新しい形へ変えていく“不易流行”の考え方を大切に、これからも出水麓の未来をつくっていけたらと思います」と意気込みを語ってくれた。
出水市
商工観光部 商工観光課
観光振興係長 松下 誠(まつした まこと)さん
いづる
取締役 小野 由貴(おの ゆき)さん
導入実績
福岡県大川市、福岡県うきは市、長崎県雲仙市、鹿児島県志布志市、鹿児島県出水市の5自治体
※令和5年7月時点
つぎと九州と連携協定を結び文化財を収益事業に
文化財の保存・活用の総合計画は、今は自治体が策定できる時代。連携協定を通じて文化財の収益事業化と、地域経済の活性化が期待できる。
お問い合わせ
サービス提供元企業:株式会社つぎと九州
TEL:092-292-5441(担当:小田切)
E-mail:t.odagiri@tsugito.co.jp
福岡県福岡市博多区博多駅前4-18-17
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