“GPT”技術搭載のAI音声文字起こしツール
自治体における生成AIの活用に注目が集まっている。ただ、情報漏えいなどセキュリティ面の懸念もあり、足踏み状態の自治体も少なくはない。その中で、長野県は実証実験を通じ、業務効率化につながるAI活用法を模索中だという。
※下記はジチタイワークスVol.28(2023年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]株式会社時空テクノロジーズ
議事録作成の業務効率化のために文字起こしツールの実証実験を行う。
自治体の中で議事録作成が必要な場面は多く存在し、そのたびに文字起こし作業を行うと、業務時間を圧迫してしまう。長野県では、令和3年に実施した業務量調査の結果、約8,000人の職員が、文字起こし作業を含む議事録作成に年間で延べ3万時間ほど費やしている実態が明らかになった。専門の業者に委託する場合もあったが、繁忙期には納期が1カ月以上先になるなど時間を要することもあり、どうにか解消できないかと考えていたそうだ。
そこで、AI音声文字起こしツールの導入検討を進め、まずは県内の塩尻市が先行して導入していた「ログミーツ」を用いた実証実験を開始した。「会議室の広さ、参加人数の違いなど、条件を変えながら様々な使用用途で実証をしてみました。結果的に、手作業での文字起こしと比較して約4割の業務時間削減につながりました。費用やスペックも納得がいき、令和4年3月に本導入を行いました」と相田さん。
導入の際には、県内全77市町村で構成される長野県市町村自治振興組合がまとめて調達し、導入を希望する各市町村に請求する共同調達の方式を採用したという。
導入後は、庁内でツール活用が順調な広がりを見せ、分野を問わず様々な部局で利用されている。導入から1年が経過した頃には、その利便性からリピート利用も増えており、浸透を感じているそうだ。「より効果的な活用方法を職員同士でアドバイスし合うなど、自発的な活用が進んでいます」と北岡さん。
知事の方針発表に合わせてGPT機能の試用開始を決定。
令和5年5月、ログミーツの新機能として、高度な生成AIとして注目を集めている「ChatGPT※1」の技術を搭載した「ログミーツGPT」が正式にリリースされた。従来のテキスト編集画面に追加されたボタンをクリックするだけで、文字起こしテキストがAIによって要約されたり、要点が箇条書きで整理されたり、様々な文章加工が可能になる機能だ。文章加工以外にも、チャットボットのような形で、AIに対して質問や要望を指示するといった使い方もできる。業務に活用すれば大幅な効率化につながる可能性を秘めているという。
※1 OpenAI社によって開発されたAIチャットボット
「当県の場合は、早い段階から知事がChatGPTに強い関心をもっていて、知事会見で、行政におけるAI利用に関する談話を発表していました。私たちも4月頃から生成AIについて、何か良い方法はないかと情報収集を開始したのです。ただ、庁内からインターネットサービスを直接利用する危険性が課題として指摘されていました。何らかのツールとAPI連携でつないでいる自治体の情報も耳にしたのですが、ランニングコストやセキュリティ面の不安は払拭できませんでした」と相田さん。
その点、ログミーツGPTなら、GPT機能使用時の入力データが、第三者に利用されることはない設計だという。「しかも、当面は追加費用なしで試せるということだったので、知事の了承を得てすぐに試用の方針を決めました」。業務効率化につながる用途の検証、庁内での知見の蓄積などを目的に、5月15日から試験的な導入が決定。「時空テクノロジーズ」の橋本さんは、「新機能リリースの連絡をしてから、あまりにもスピーディな返答だったため、驚きもありましたが、まず試してもらえるのならと急いで準備を整えました」と振り返る。
業務でのGPT機能活用方法
長野県では…
上記以外にも、知りたい情報の検索・調査や、仕事のやり方について相談するなどの活用も。
長野県利用者アンケート
利用開始から約2カ月が経過した時点で、利用状況の把握を目的とした庁内アンケートを同県にて実施。回答者の多くが、活用の効果を実感しているようだ。
時期 令和5年7月4日~21日
人数 ログミーツGPT利用者89人
Q:仕事の効率は向上するか?
■大幅に上がると思う
■上がると思う
■変わらないと思う
■その他
Q:今後も生成AIを利用したいか?
■はい
■いいえ
■決めかねる
■その他
生成AIの活用を広めるために一定の利用ルールを定めた。
総務省は同じく5月に、全国の自治体に向けて生成AIの業務での活用について、原則は要機密情報を取り扱わないこと、利用可能な業務の範囲を特定することなどの注意点を通知した。「私たちも生成AIについて、これから理解していくというフェーズだったので、まずは当課が中心となってルールを設けることにしました」と居鶴さん。“機密性の高い情報は取り扱わない”“ファクトチェックを実施する”“著作権、商標権侵害には注意する”など、職員が順守すべきルールを定めた。同機能のアカウントは所属単位で使用申請を行い、庁内での活用が進むように工夫したという。
同機能を活用する大きなメリットとして、生成AIの知識がない職員でも、すぐに使いはじめられる点が挙げられる。通常、生成AIに何らかの処理を行わせるには、一定レベルのプロンプト※2作成スキルが必要とされる。そのスキルによって、AIの回答精度が左右されるため、AI活用において最初のハードルになりやすいという。しかし同機能には、あらかじめAIへのプロンプトがテンプレート化されたボタンが表示されている。そのため、ボタンをクリックするだけで文字起こししたテキストの要約や校正、ワード抽出などの様々な処理が実行される仕組みだ。さらに、ボタンの種類もニーズに合わせて随時アップデートされ、より簡単に生成AIが活用できるようになるという。
※2 生成AIに指示を出す命令文
実際にGPT機能を活用した議事録要約
ログミーツの基本機能で文字起こしされたテキストが、ワンクリックで要約・要点整理されるようになった。実際にどのように変わるのかを紹介する。
POINT
●短め・長めの要約、重要ワードの抽出などの文章加工が自由にできる
●AIテンプレートボタンはユーザー側でカスタマイズ可能
アンケートでは約9割が今後も利用したいと回答。
庁内での活用が広がったきっかけは、職員向けオンライン講習会だったそうだ。同社主催でGPT機能を使った実践型の講習会を実施し、生成AIに初めて触れる職員もまずは“試せる”環境づくりを目指した。講習会には、県庁職員と県内市町村職員を含め、計100人以上が参加。当日参加できなかった職員のために、録画した動画も200回ほど再生され、関心が集まっていると感じたという。さらに、利用した職員の声を庁内の掲示板に投稿するなど活用促進を図ったことで、専用端末の貸出回数が急増。それに伴い、導入端末を60台まで増やし、7月の時点でアカウント数は約300まで増えた。
「利用開始から2カ月が経過した7月に中間アンケートを実施しました。その中で、回答者の約90%が業務効率化の効果を実感し、約80%が今後も利用したいという結果になりました」と反響の大きさを語る相田さん。橋本さんは「活用法のサポートや機能拡充に関する情報提供を行うことで、GPT機能の使い方を具体的にイメージでき、もっと使ってみたいと感じてもらえるのではないかと思います」と予測する。職員の間では、議事録の要約や箇条書きなどの、文章を加工する活用法が一番多かったそう。それ以外にも、キャッチコピー案の作成、アイデア出し、Excelのコード作成など、活用法の幅が徐々に広がっているという。
市町村との勉強会を通じて県全体でのAI活用を促進。
「世の中の流れとして、自治体業務において生成AIを活用する場面は確実に増え、重要性が増してくるのではないかと考えています。だからこそ、早めに使いはじめて慣れておくことが大切です。最初はうまくいかなかったとしても、早めに着手して1つでも多くの種をまいていれば、次につながっていくと思います」と相田さん。庁内でのさらなる普及を図るため、DX推進課では今後も庁内に向けたPRを展開するほか、同社に協力を依頼してハンズオン研修の機会も増やす計画だ。橋本さんは、「これからも市町村を含めた勉強会を行うことで、活用の浸透をさらに促すことができると考えています」とサポートの姿勢を見せる。
相田さんは「生成AIに触る機会を得ることで、デジタルツールそのものを理解するきっかけにもなると思います。当県は全体的に進取の気風があり、取り組みにもスピード感があります。実際に他自治体からも、かなり多くの問い合わせをいただいているので、誰かが最初に始めることは必要なのだと感じているところです。今後も、市町村を含め県全体で活用促進を図る計画です」と未来について語ってくれた。
長野県
企画振興部 DX推進課
左:担当係長 相田 貞晃(あいだ さだあき)さん
中:北岡 朋也(きたおか ともや)さん
右:居鶴 吾郎(いづる ごろう)さん
時空テクノロジーズ
代表取締役CEO 兼 開発責任者
橋本 善久(はしもと よしひさ)さん
自治体からの“よくある質問”に担当者が答えます。
導入を検討中の自治体にとっては、ほかのツールとどう違うのか気になる点も少なくないだろう。寄せられることの多い質問に、担当者から回答してもらった。
時空テクノロジーズ
都築 真夕美(つづき まゆみ)さん
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