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【特集】“防災・減災、国土強靱化新時代”に向け 、自治体はデータをどう活用すべきなのか。

発災時、人命救助におけるタイムリミットとされる“72時間”。72時間以内に救える命の最大化を目指す観点から、内閣府では現在、令和6年度の運用開始を目指す「次期総合防災情報システム」の構築を進めている。新システムは国の関係省庁だけでなく、地方自治体などでも利用可能となる予定で、発災時の自治体業務を支援するものとして期待されている。こうした「防災DX」の動きを、各自治体はどのように活用して住民の安全を守るべきなのか、内閣府の塚さん、植原さんに意見を聞いた。

 Chapter01 - 関東大震災を振り返る。“100年前”に学ぶ教訓とは? ≫
 Chapter02 - 国や自治体等の災害情報共有はどう変化する?  ≫
 Chapter03 - 進化するDXサービス、これからの情報入手法とは? ≫ 
 Chapter04 - 災害対応を高度化する防災IoTの活用例とは? ≫ 
 Chapter05 - 3D都市モデルは住民の防災意識をどう高める? ≫ 
 Chapter06 - 地域や立場を越えたつながりで防災力を高める。 ≫

 

Interview
内閣府 政策統括官(防災担当)付
参事官(防災デジタル・物資支援担当)付 
参事官補佐
左:塚 偉(つか いさむ)さん
右:植原 健太郎(うえはら けんたろう)さん

全国の自治体が災害情報を共有できる「次期総合防災情報システム」とは。

激甚化、頻発化する自然災害。「地球沸騰化の時代」とさえいわれる現在、台風や竜巻、豪雨、高潮などによる災害の規模は、今後ますます大きくなるだろう。さらにわが国の場合、南海トラフ地震や首都直下地震などの巨大災害も切迫している。

そうした中で、72時間以内に救える命の最大化を目指し、国も自治体も様々な対策に取り組んでいる。特に、災害情報の迅速な把握と的確に意思決定し行動するため、デジタル技術活用による「防災DX」の推進は喫緊の課題の一つだ。

ただ、中小規模の自治体では、DX人材の確保が難しいこと、システムの導入および維持管理費の捻出が難しいことなどから、災害情報の収集・伝達の主な手段が、現在も電話やFAXであることが珍しくないようだ。

ある程度まで防災DXが進んでいる自治体であっても、情報システムの標準化ができていないため、自治体の境界線をまたいで災害が発生した場合、自治体同士の情報共有が図りにくいケースも少なくはないという。

「防災システムを導入できない自治体があることは承知しており、“防災情報の共有”に関しては、全国均一に提供することが内閣府に求められていると捉えています。そこで、既存の総合防災情報システムを大幅に更新し、全国の自治体が同じ情報を入手できるように急いでいるところです」と、次期総合防災情報システム(以下、次期システム)について語る植原さん。

既存の総合防災情報システムは、中央省庁内のみで活用するものであり、各地の被災状況を政府が早期把握し、迅速・的確な意思決定を支援するためのものだった。それに対し、令和6年4月から稼働予定の次期システムは、国と自治体等とが共有可能な情報を同じように見られるようになるのが最大のポイントだという。

「迅速な災害対応を実現するためには、国だけでなく自治体や各地の災害対応機関が、正確な情報を把握した上で意志統一を図り、行動することが重要なのです」と塚さん。

情報収集に割かれていたマンパワーを実際の災害対応にまわすことが可能に。

現在の総合防災情報システムだが、情報集約作業の3分の1ほどが手入力だったり、地図情報の更新も手動だったりと、情報集約・管理のためのシステムとしては、いくつかの弱点があった。

そうした中で令和3年5月、内閣府が「デジタル・防災技術」をはじめとする3つのワーキンググループによる提言を公表し、「防災・減災、国土強靱化新時代」を宣言。それに続いて同年12月、デジタル庁からの提出で閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」にもとづき、内閣府でも防災分野におけるデータ連携のためのプラットフォーム整備に向けた検討を開始。

これを機に、その中核をなす総合防災情報システムは、急ピッチで刷新を図ることとなった。
 

防災デジタル 情報・データ フロー図

図1 防災デジタル 情報・データフロー図「防災・減災、国土強靭化新時代の実現のための提言」(令和3年5月25日)
 

植原さんは「次期システムは、今年4月に共有ニーズの高い項目を有識者や関係省庁等へのヒアリングをもとに策定しました。これらの情報を準備できたものから、自治体ごとの状況に応じた情報が表示される地図を提供できる点、

さらに、システム接続によってデータ連携を行うことで、自前の防災システムに保有する情報と重ね合わせて使える点が大きな特徴」とポイントを語る。

その特徴の一つであるインターネット経由の地図機能(SOBO-WEB ※仮称)は、各自治体や指定公共機関の職員が、WEB上の地図に災害情報などを選んで表示できる仕組み。

もう一つの特徴である、システム接続機能は、災害情報を次期システムからデータ提供することで、自前の防災システムなどのデータと重ね合わせて使える仕組みだという。
 

次期総合防災情報システムの概要図

図2 次期総合防災情報システムの概要図
 

次期総合防災情報システムで取得する情報
(ほかにも多種多様な情報を取り扱う予定。一例を抜粋)

※上記は現行システムでの区分であり、次期システムでは可能な限り情報を省庁等から取得、また手動入力に関しては自動収集するよう改善予定

図3 次期総合防災情報システムで取得する情報(ほかにも多種多様な情報を取り扱う予定。一例を抜粋)
 

「例えば、○○市△△地区で停電発生、国道○○号線の□□地点で崩落が発生して通行止め…など、各関係機関から入ってくる情報を、地図システム上に重ね合わせることで、これまでは断片的に散在していた情報を1つの画面で把握できるようになります」と塚さん。「その分、災害対策本部や各機関等への問い合わせを待ったりせずに、次の動きを考えられるわけです」。

自治体職員数が減少傾向にある中で、発災時の情報収集に十分なマンパワーを割けないケースも少なくない。その点、次期システムは、国が集めた膨大な量の情報が自治体でも共有でき、自前で集めた情報があれば、それを追加したりデータを重ね合わせて活用したりもできる。

電話やFAXを使って情報収集している自治体にとっては、かなりの省力化につながるはずだ。「情報収集のために割かれていた労力と時間を、被災現場での対応に回せるようになれば、救助・救援活動の迅速化にもつながると考えています」。
 

図4 次期総合防災情報システムの活用イメージ①

つくって終わりではなく、年々発展する“成長型システム”として運用する計画。

緊急安全確保や避難指示など、緊急情報を発出するタイミングが遅れることで、人的被害が拡大するケースも少なくはない。そこで、次期システムの運用開始後は、住民向け緊急情報の発出漏れを防ぐ機能の追加も検討中だという。

「例えば、土砂災害警戒情報が発令されているのに避難指示が出ていない市町村があった場合、自動的にアラートを出したり、システム上で地図の色を変えたりできる仕組みを入れることで有効になるはずです」と植原さん。

道路交通情報や避難所、物資拠点情報をもとに、より早く安全に物資を運搬できるルートの検討を支援したり、過去の災害関連情報を検索し、避難訓練などに活用できる機能なども検討中だという。

図5 次期総合防災情報システムの活用イメージ②
 

塚さんも「次期システムは、“つくって終わり”といった種類のものではありません。実際に運用が始まると、新たな活用法の提案や改善してほしい部分の要望などが、自治体側からも出てくると思います。

もちろん、内閣府内部や他省庁からも新たなアイデアが出るでしょう。それに合わせ、年々発展していくシステムとして運用する考えです」。なお、次期システムの運用開始前には、システム活用に関するマニュアルを整備するほか、自治体向け研修会や説明会の機会を設けて、システムの周知を図る予定だという。

あらゆる情報を1つの基盤上に集約させ防災・減災の取組をさらに強化する。

「これまでご紹介してきた次期システム以外にも、防災DXの取り組みがある。」と植原さん。自治体の被災者支援に関するデジタル化を目的に、罹災証明書のコンビニ交付等を実現できる「クラウド型被災者支援システム」を構築。令和4年度から、運用主体であるJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)が申し込みの受付を開始している。

「次期システムの構築・運用も含め、発展的・総合的な施策を進めることになります。次期システムは、情報収集・共有のためのものですが、その先には、収集した情報をもとに、住民1人ひとりの命を守るため、将来的にはAIやデジタルツインを活用したりといった従来なかった防災情報も取り込むような発展が必要だと考えています」と植原さん。

その1つが、「防災IoT」の取り組みだ。現在、各地の消防本部や災害対応機関が実施しているドローンによる被災状況確認画像を次期システム上にアップロードしたり、官民で共有を図ったりする仕組みづくりを、次期システムと並行して推進中だという。(大和市消防本部事例で詳しく紹介

塚さんも「防災・減災に関わるあらゆる情報を1つの基盤上に集約し、国と自治体とが共有する。そのことによって“72時間以内に救える命の最大化”が実現に向かうはずです。また、発災時のみならず、復旧復興期の意思決定や過去の災害時の情報振り返り、防災訓練時の情報付与なども支援していくシステムとして活用いただけます」と期待を込めて語ってくれた。

 

 QUESTION 
停電などネットワーク遮断時における対応はどうしているの?
内閣府では、大規模災害時でも業務継続性確保のため、非常用電源を設置しています。また、政府も地方自治体も一緒に使えるクラウド基盤「ガバメントクラウド」利用もその一つです。ほかにも、電気通信事業用の回線利用が困難な事態に陥った場合でも、各機関との間で災害情報の収集・伝達が行えるよう「中央防災無線網」も整備しています。


ー編集部よりー
おそらく、自治体ごとに非常用電源を設置しているところが多いと思います。
消防庁資料「消防防災施設・設備の整備のための財政措置活用の手引き」(令和5年4月)によると、非常用電源の新設・更新にかかる財政措置があるとのこと。詳細については各県の地方債担当部署までご確認ください。


 

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