ヤングケアラーの実態と自治体の支援体制をご紹介
ヤングケアラーとは、家族の介護や家事などを大人に代わり日常的に担っている子どもや若者のことだ。本人の年齢や成長度合いに見合わない重責や負担を負うため、学業や人間関係に影響が出ることもある。ヤングケアラーへの適切な支援のあり方を探ろうと、近年では自治体や政府による調査が進められており、社会問題としても注目され始めた。今回はヤングケアラーの実態や、自治体の支援体制について紹介する。
ヤングケアラーとは
ヤングケアラーとは、本来は大人の役割と想定される家事や介護などを、日常的に担う子どものことである。病気や障害のある家族・親族の世話、祖父母の介護、幼いきょうだいの世話などのケア労働、買い物や料理、洗濯や掃除など家事労働を家族に代わって行っている。
ほかにも、日本語が第一言語ではない家族のための通訳や、アルコールや薬物、ギャンブルの問題を抱える家族の世話、感情面のケアなどを行うヤングケアラーも存在する。多くの子どもたちが行う通常の「お手伝い」の範囲を超え、本人の学業や交友関係に支障が出るほど重い負担を抱えていること、さらに本人が自覚していないケースも多いため、表面化しづらく周囲からの支援の手が届きにくいことも大きな課題だ。
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一般的にヤングケアラーは18歳未満の子どもを指すことが多いが、現在の日本ではヤングケアラーを明確に定義づける法令は存在していない。国によっても支援対象となる年齢に幅があり、イギリスやアメリカでは18歳未満、オーストラリアでは25歳未満の若者も支援の対象となっている。
日本でもヤングケアラーへの支援を強化していこうと、厚生労働省が令和4年度より「ヤングケアラー支援体制強化事業」を創設した。この事業はヤングケアラーの実態調査・支援研修などに取り組む自治体へ、国の予算から財政支援を行うものだ。令和5年度より厚生労働省から子ども家庭省に事業が引き継がれ、支援の拡充が図られている。
ヤングケアラーの実態調査や研修等を行うための費用のうち、従来は国が1/2、自治体が1/2を負担していた。令和5年度予算より国の負担割合が2/3へと増額され、一方で自治体の負担割合は1/3へと減額、自治体の負担を軽減するための措置が講じられている。
子ども家庭庁はヤングケアラーを早期発見し、支援につなげるため、各自治体でのヤングケアラーの実態の把握、そしてヤングケアラー支援への知識を持つ職員の育成を財政面でバックアップしていく方針だ。
日本のヤングケアラーの実態
ヤングケアラーの実態を探ろうと、国内では現在様々な調査や研究が進められている段階だ。令和2年に厚生労働省と文部科学省が連携し、中学生、高校生の子ども本人を対象とした全国調査が初めて行われた。世話をしている家族が「いる」と回答したのは中学2年生5.7%、全日制高校2年生4.1%など、その実態が少しずつ明らかになってきている。令和4年に実施された小学生、大学生を対象にした全国調査の結果から、日本のヤングケアラーの現状を探ってみよう。
調査結果
・小学生
世話をしている家族が「いる」と答えた小学生は6.5%だった。世話を必要としている家族として最も多いのはきょうだいが71.0%と最も多く、そのうち73.9%が幼いことが理由として挙げられた。きょうだいの次に挙げられたのは母親で、19.8%となっている。
小学生のヤングケアラーが日常的に行っているのは、家族の「見守り」が40.4%と最も多く、次いで35.2%が「家事(食事の準備、掃除、洗濯)」を担っている。家族の世話を始めた年齢は10~12歳(小学校高学年)が40.4%と半数近くを占め、その頻度も「ほぼ毎日」が52.9%と半数以上を占めていた。
・大学生
世話をしている家族が「現在いる」と回答した大学生は6.2%、「現在はいないが、過去にいた」と答えた大学生は4.0%となり、合わせて10.2%の大学生がケアラーの経験を持つことが分かった。世話を必要としている家族については「母親」の割合が最も高く 35.4%、次いで「祖母」32.8%、「きょうだい」26.5%と続いた。
母親の状況については、「精神疾患(疑い含む)」の割合が最も高く 28.7%、次いで「その他」23.5%、「精神疾患、依存症(アルコール依存症、ギャンブル依存症など)以外の病気(疑い含む)」14.9%、「日本語を第一言語としない」14.9%と、病気や言語の問題が目立っている。
母親へどのような世話を行っているかの設問には、「家事(食事の準備や掃除、洗濯)」と回答した大学生が最も多く69.9%にのぼった。ほかにも42.7%が「感情面のサポート(愚痴を聞く、話し相手になるなど)」を行っていると回答した。
家族の世話の頻度については、大学生ヤングケアラーの半数近くにのぼる45.9%が「ほぼ毎日」と答えており、世話を始めた時期は「大学入学以降」の割合が最も高く 35.9%だった。
ヤングケアラーであることで受ける影響
小学生が日常的に家族の世話を行うことで、健康状態や学校生活にも影響を及ぼすことがアンケート調査で明らかになった。ヤングケアラーの小学生は、そうでない小学生に比べて健康状態が「よくない・あまりよくない」、遅刻や早退を「たまにする・よくする」と回答した割合が2倍前後となっている。
健康状態や学業への影響が見られるのは大学生も同様で、さらに6割の大学生ケアラーが家族の世話をしていた影響で「やりたかったができなかったこと」があると回答している。また、家族の世話をしている大学生の約50%が就職への不安を抱えているとの結果も見られた。
長期にわたって家族の世話を行っている大学生では、経済面や進学への影響も目立つ。大学入学前から家族の世話を続けている大学生の半数以上が大学進学の際に苦労した、あるいは影響があったと回答しており、学費の制約や経済不安、受験勉強のための時間確保、実家から通える範囲に進学先が限られる、といった悩みが寄せられている。
支援の実例(北海道)
北海道は令和4月1日に「ケアラー支援条例」を施行し、ヤングケアラーの支援への取り組みを始めた自治体だ。条例には「基本的施策」が定められ、普及啓発の促進、早期発見および相談の場の確保、ケアラーを支援するための地域づくり、以上3つの柱がある。ここからは北海道での取り組みを見てみよう。
令和4年度の取り組み
普及啓発の促進のため、北海道内でヤングケアラーに関する広報・啓発活動が行われた。道内大手コンビニ等と連携し、ヤングケアラー啓発のためのポスターやステッカーを店内に掲示する啓発活動を行う。さらに、コンビニの店内放送によるヤングケアラーの周知も実施。ほかにも、道内全ての小・中・高等学校を対象に、ヤングケアラー専用相談窓口を記載したステッカーを約40万枚配布した。
ヤングケアラーの早期発見および相談の場の確保として、ヤングケアラー向けの専用相談窓口「北海道ヤングケアラーサポートセンター」を設置した。条例が施行される前からヤングケアラー支援に取り組んできた民間団体に委託し、電話やメール等で相談に応じている。
道内8カ所の児童支援センターに「ヤングケアラーコーディネーター」を配置している。ヤングケアラーの存在に気づくのは学校の担任教師など教育関係者が多いため、ヤングケアラーコーディネーターが学校と市町村福祉部門をつなぐ調整役を担う。
ヤングケアラーに携わる職員たちの理解を深めようと、全道8カ所での職員研修も実施した。児童家庭センターに委託し、ヤングケアラー支援の理解促進と支援のポイントを学ぶ内容だ。この研修には市町村教育委員会や学校の教職員、スクールソーシャルワーカー、児童福祉施設の職員等が参加している。さらに、全ての教職員が研修を受講できるよう、オンデマンドで講習動画を提供し、集団研修と併せてヤングケアラー支援を学ぶよう、教育委員会から各学校への指示も出している。
ヤングケアラーを支援する地域づくりとして、令和4年7月からオンラインサロンも開設している。ヤングケアラー支援に取り組んできた民間団体へ委託し、毎週土日の午前10時から1時間ヤングケアラー同士が気軽に交流できる居場所をオンライン上に整備した。
令和5年度の取り組み(予定)
令和5年度からは、前年度の取り組みをさらに強化していく方針だ。普及啓発の促進として、11月を「ケアラー推進月間」に定め、集中的に広報活動を行っていく。また、ヤングケアラー支援の研修を修了した職員を「ケアラーサポーター」として認定し、道からの認定証を手交する。当事者世代にもヤングケアラーを知ってもらおうと、中学生・高校生が参画した児童・生徒向けの広報資材の作成も予定している。
早期発見および相談の場の確保では、ヤングケアラー向け相談窓口のLINE対応などのDX化を進めていく。若者世代により身近なツールの活用で、より気軽に相談できるよう入口を広げるねらいがある。さらに、令和5年度には道内8カ所に配置されているヤングケアラーコーディネーターの活動内容や役割等を明確化し、体制強化にも取り組む。
ヤングケアラー支援のための地域づくりとして、振興局単位での説明会を実施するほか、市町村に向けたチェックリストを配布しヤングケアラーの早期発見を目指す。こうした地域ごとの支援体制整備をバックアップするため、研修を受けた「地域アドバイザー」約40名を道内各地に派遣する。
支援の実例(千葉県)
千葉県では、ヤングケアラー支援の連携体制を構築するため、複数課にまたがって研修や実態調査、対応策の検討等を行い連携の準備を進めている。健康福祉指導科、児童家庭課など合わせて8つの福祉系の課、さらに教育庁が参画する方針だ。
現在の千葉県における相談窓口もヤングケアラー支援に特化したものはなく、保健所や児童相談所、市福祉事務所など各事業所が個別に応じている状況だ。行政や支援組織に縦割りが生じていることから、今後は新たに横断的な連携体制を構築することを目指している。
また、支援組織や相談窓口が県や市町村などに分散しており、それぞれの連携が不明確な状況も実態調査によって明らかとなり、今後は「県」と「市町村」の役割を明確化し、整理を進めることで効率的な連携体制構築を目指す。
県の役割として、ヤングケアラーに関するワンストップ相談窓口の整備、ピアサポート・オンラインサロンの整備、ヤングケアラーコーディネーターを中心とした会議の開催など、自治体の中核としての機能を強化する方針だ。
複数の課の連携や、子どもへの呼びかけが大切
ヤングケアラーの支援はまだ多くの自治体で手探りの段階というのが現状だ。背景には多様な問題が隠れているケースも多く、支援には複数の担当課が協力体制を築く必要がある。また、ヤングケアラーにとって家族の世話が日常の一部となっているために本人が「自分はヤングケアラー」だと自覚することも難しい。社会から見えづらい存在であるヤングケアラーを早期発見して支援につなぐため、支援側からのアクションや呼びかけを積極的に行うことが大切だ。