日本社会は少子高齢化や生産年齢人口の減少等による労働力不足が深刻であり、地方自治体においても大きな課題となっている。
そこで注目されているのが女性労働者だ。政府は「女性が輝く社会」を目指して「女性活躍推進法」を平成28年に施行し、女性労働者の多様な働き方を支援。女性が安心して働ける環境を整えられるように国を挙げて取り組みを行っている。各自治体でも女性職員に向けて様々な施策を打ち出しているが、思うように女性のキャリアプランを後押しできていないのが現状だ。
本記事では地方自治体における女性活躍推進の現状と課題、取り組み事例を紹介する。
女性活躍推進の現状
日本社会は人口減少による人手不足が深刻な問題となっており、女性労働者の活躍に期待が高まっている。しかし女性は結婚や出産等を機に仕事を辞めざるを得ない状況になることが多く、特に30代・40代での離職率が高くなっている。働き盛りのタイミングでの離職となり、キャリアアップが十分に進まず、社会復帰もしづらい現状があると考えられる。
このような状況を受けて、平成28年に「女性活躍推進法」が施行された。女性活躍推進法は令和7年度までに達成すべき目標を掲げた時限立法であり、各企業・地方公共団体では目標値を定めた行動計画を策定して女性が活躍できる職場環境の整備に取り組んでいる。しかし、まだまだ目標とする数値の達成に至っていないのが現状だ。
女性が活躍できる社会を実現するためには、どのような課題があるのか見ていこう。
女性職員の活躍を推進する上での課題
日本では女性の家事育児、介護などの負担が多く、昇任などのキャリアアップを希望できない社会的な雰囲気がある。家事育児と両立しながら、公務員としてのキャリアをあきらめず、経験を積み上げていくためには周囲の理解が不可欠だ。特に職場の意識改革は重要といえる。「男性でなければ長時間労働に従事できない」「女性に役職は務まらない」という意識を改めていく必要がある。
次の章でさらに詳しく解説する。
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女性職員の活躍を推進する上での課題
女性職員の活躍推進は、政府としても最重要課題と位置付けており、様々な制度の見直しや取り組みを行ってきた。しかし多くの女性にとって、キャリアを後押ししてもらっている実感を得られないのが実情ではないだろうか。
令和4年度に実施した「地方公共団体における女性職員の活躍に関する取り組み状況調査」によると、女性職員の活躍を推進する上で、以下のような課題が想定されている。
● 女性の応募者数が少ない
● 女性職員の配置に偏りがある
● 出産・育児・介護と仕事の両立が難しい
● 管理職を希望する女性職員が少ない
それぞれについて、詳しく見ていこう。
●女性の応募者数が少ない
女性活躍推進法が制定される以前は、そもそも女性の応募者数が少ないという実状があった。採用告知や女性公務員の働き方を事例として紹介するなどの取り組みを進めた結果、女性職員の数は平成28年度と令和3年度と比較すると、都道府県で36.5%から41.3%、市区町村で42.8%から45.5%へと増加している。
しかし人事担当者や現場職員は依然として「女性の応募者が少ない」と認識しており、今後も継続した取り組みが必要である。
●女性職員の配置に偏りがある
慣例的に女性の配置が少ない部署が存在することも課題の一つである。いわゆる土木、労働、農林水産などの部署だ。議会に関わる部署も、女性職員の配置は少ない。「この部署での管理職は女性には務まらない」という思い込みがあると想定される。
反対に、女性職員が多く配置される部署や業務もある。民生、税務などの部署には女性職員の割合が高くなっている。
時間外労働の多さから女性職員の配置が避けられているのかもしれないが、女性がワークライフバランスを実現するためには、男性職員のワークライフバランスも考えていかなければならない。女性だけでなく、全ての職員が働きやすい環境づくりに取り組む必要があるだろう。
●出産・育児・介護と仕事の両立が難しい
出産・育児・介護の担い手に女性が多い現状では、仕事との両立が大きな課題となる。女性職員が安心して子どもを産み育て、出産・育児・介護の問題に向き合うためには、柔軟な働き方をサポートする制度の充実が求められる。
共働き世帯の男性の育児・介護も支援する必要があるだろう。男性の育休取得率は依然として低く、職場全体で意識を改める働きかけが必要だ。
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●管理職を希望する女性職員が少ない
女性職員のキャリアを推進する上で大きな弊害となるのは、女性職員自身がそもそも管理職へのキャリアアップを希望していないという現状がある。長時間労働への不安や、育児休暇を取得したことでのブランクで自信を失うなど、さまざまな事情があるのだろう。
女性職員で育児や介護と両立をしながらキャリアアップを実現したモデルケースが少なくイメージがしにくいことも、管理職を希望しない理由の一つと考えられる。
モデルとなる事例を紹介し、キャリア育成のための研修を実施するなど、女性の不安を解消する取り組みが期待されている。
事例紹介(小田原市)
ここからは、神奈川県小田原市の事例を紹介する。
<取り組みの背景>
小田原市では、女性職員の活躍の推進に関する特定事業主行動計画第一次計画(平成28年4月1日から令和3年3月31日までの5年間)として以下のような数値目標を定めた。
● 令和2年度までに、女性の主査級職員の昇任希望率を70%以上、女性の副課長級職員の昇任希望率を30%以上にする。
● 令和2年度までに、男性職員の配偶者出産休暇取得率を75%以上、男性職員の育児参加のための休暇取得率を20%以上にする。
しかし計画期間終了時に未達の項目があり、令和3年度からの第二次計画では課題を見直し、さまざまな施策を実行している。
<取り組みの内容>
もともと小田原市では「公民連携」を市として取り組んでいた背景があり、民間より専門家を登用して、内部・外部からの意識改革に力を入れた。「女性活躍推進プロデューサー」として登用された専門家は民間企業で長年ダイバーシティ推進に取り組んできた実績のある人物だ。庁内では「女性活躍推進チーム」を公募で結成し、週に一度の企画会議を実施している。企画会議では女性活躍推進プロデューサーのアドバイスを受ける機会を設けており、積極的に意見を交わしている。
令和2年度からは「クロスメンター制度」を導入し、職場の上司以外の先輩と月に一度の交流の場を設定した。業務面やキャリア面で相談できるように体制を整え、キャリアアップへの不安を取り除き、仕事に対するモチベーションを維持できるよう取り組みを続けている。
<職員の声>
女性活躍推進法が制定された当時は、女性職員から「昇任に対して職場のフォロー体制が不足している」との声が多く寄せられていた。
クロスメンター制度の導入で「仕事の悩みだけでなく、家庭での悩みを相談することができた」「気持ちが前向きになり、業務への取り組み方にも余裕が生まれた」との回答が得られた。
しかし、女性職員から「管理職になりたくない」との声は根強く残っている。女性活躍推進プロデューサーの登用や、庁内での「女性活躍推進チーム」による啓発活動により、女性活躍推進の問題が職員全体の課題として認識されるように引き続き意識を変えていく必要があるだろう。
事例紹介(豊岡市)
ここからは兵庫県豊岡市の事例を紹介する。
<取り組みの背景>
豊岡市の若者は、大学進学とともに豊岡市を離れ、都市部での就職を選択する傾向があった。特に女性に顕著であり、若い女性が豊岡市へ帰ってこない理由として、豊岡市が男性中心の社会であることが考えられた。
豊岡市役所の職員の男女比は、令和2年4月1日の時点で男性68.6%、女性31.4%となっている。年齢構成では40代以上の男性職員数が極端に多く、男女比・年齢構成ともにバランスを欠く状態だ。
女性職員の配置にも課題がある。40代の女性職員の多くが庶務や窓口などに配置され、無意識のうちに性別による職務配分を行ってきた可能性もある。
女性の応募を増やし、職務配分を平等にするために、豊岡市では市民を巻き込んだ施策を行った。
<取り組みの内容>
平成30年10月、豊岡市は「ワークイノベーション推進会議」を設立した。市内の事業所に呼びかけて、女性が働きやすい労働環境となるよう変革を進め、女性の採用増加に向けて取り組みを進めてきた。発足時は16の事業所だった会員は令和5年7月現在で103事業所に増え、課題を共有しながら人材不足の解消を目指している。
さらに豊岡市は令和3年3月に「ジェンダーギャップ解消戦略」を策定。企業や事業所に向けて女性活躍の事例を紹介し、ジェンダーギャップについて考えるワークショップや研修会を積極的に行った。豊岡市でも女性管理職の割合が平成30年度の7.7%から令和2年度には10.3%に増加し、確実に成果があらわれている。
<職員の声>
ワークショップや研修会を通して、豊岡市職員だけでなく、地域住民の意識も変わってきた。ある女性は「政治や社会へ女性が関わることの大切さを学び、私も挑戦することを恐れずにやっていきたいと思うようになった」と語る。地域コミュニティ組織では男性役員に偏りがあるため、「役員選出方法を見直したい」「自治会の事業見直しに男女の意見を反映したい」との声が寄せられた。
中高生に向けたワークショップでも「性別にとらわれず、一人一人の能力に合わせた役割や仕事をしたい」との意見が寄せられ、次世代を担う子どもたちに豊岡市を魅力に感じてもらえるよう、取り組みが進められている。
自治体と地域の連携で、ジェンダーギャップの解消へ
女性活躍推進への取り組みは、地方団体や民間企業で少しずつ成果があらわれている。小田原市や豊岡市の事例のように、内部・外部を巻き込んでの取り組みは、意識改革を進めやすくなるだろう。さらに女性活躍推進を進めるためには、女性自身もキャリアプランをイメージし、諦めないことが大切だ。各自治体の取り組み事例を参考にしながら、さらなる女性活躍推進に期待する。