スタートアップと自治体の連携における課題と支援策とは
スタートアップというワードは近年、ビジネスの世界で頻繁に耳にするものとなった。スタートアップは革新的な技術やサービスで市場に新たな風を送り、同時に地域の活性化や社会課題解決の可能性も秘めている。
最近では自治体とスタートアップ企業が手を組んで、事業やプロジェクトを連携して進める事例も増えてきている。ここでは、自治体としてスタートアップとの連携を進める際の具体的なステップや注意点などを紹介していく。
自治体がスタートアップと連携するメリット
スタートアップとは、その柔軟な組織構造と革新的なアイデアで、急成長をする企業のことを指す。経済産業省の定義によれば、以下の3つの要素を含む企業をスタートアップと呼ぶ。
【スタートアップの定義】
1.新しい技術の活用、斬新なサービスなど新規性がある
2.加速度的に事業を拡大することを目指す
3.創業から間もない、比較的に創業年数の若い企業
スタートアップは一般的に、組織が小さいために大企業よりもスピーディかつ柔軟に問題や課題に対応できる。また、新たな市場やサービスへの関心が高く、PDCAのサイクルが短いため成長スピードが速いという点もスタートアップの特徴として挙げられるだろう。
最近ではスタートアップの誘致や連携を通じて、地域活性化をする自治体も増えている。スタートアップや起業家は地域に新しい風を呼び込み、行政サービスの改善や住民満足度の向上、雇用の増加などの効果をもたらす可能性を秘めている。
他方、スタートアップ側の視点から考えれば、将来的な成長をしていくうえで自治体と連携することのメリットは決して小さくない。資金面の援助だけでなく、自治体と協働することで社会的信用の向上にもつながる。
スタートアップ連携をうまく進められれば、自治体・企業の双方がメリットを享受できる。連携の実績が積みあがれば「スタートアップにやさしい自治体」というイメージ醸成にもつながり、そうなれば爆発的な地域活性化の効果が期待できるはずだ。
スタートアップと連携するまでの流れ
スタートアップは柔軟かつ迅速な動きができるのが特徴である一方、信用や経営資源にやや不安が残る企業もある。
やみくもにスタートアップと協働すればいいというものではなく、しっかりとした目的を持ち計画的に連携を進めることが大切である。ここではスタートアップとの連携の一般的な流れを紹介する。
①ニーズ・目的の特定
最初のステップでは、自治体として何を目的としてスタートアップと連携をするのか、どんなニーズや課題を解決するのか、ということを明確にする。
②情報収集
スタートアップの情報は、インターネットやセミナー、イベントなどで得ることができる。それらの情報源をもとに、目的に合ったスタートアップを探す。特定のテーマに絞らずに企業から自由に提案をもらうという方法を実施している自治体も存在する。
③初期接触と打ち合わせ
適切なスタートアップを見つけたら、直接連絡をとり、具体的な提案や打ち合わせを行う。この際、双方のビジョンや期待する成果をしっかりと共有することが重要である。
④入札手続き
自治体が民間に発注を行う際には一般競争入札が原則である。そのため、スタートアップ連携においても入札を必要とする場合があり、内容に応じて入札参加資格を設ける。なお、入札を行うことで目的を達成できなくなるなどの弊害が生じる場合は、随意契約も例外的に認められるだろう。いずれにしても公共性の観点から、地域に便益が還元されるような調達方法を検討することが肝要である。
⑤契約とプロジェクトの開始
具体的な内容や条件に合意した後、正式な契約を結ぶ。受注実績が少ないスタートアップと契約を行う際には、「トライアル発注制度」を活用するのも方法の1つだ。優れた製品や技術を試験的に発注することで、企業にとっては実績作りにつながり、自治体にとっては商品やサービスの有用性を確認できる。
⑥評価とフィードバック
プロジェクトが一定経過したらその成果を評価し、軌道修正を行う。プロジェクト終了時にも双方でフィードバックを行い、さらなる改善を目指す。
地方自治体におけるスタートアップ連携に対する支援策
地方自治体とスタートアップが協力し、地域課題の解決や新しい価値の創出を目指す動きが活発になっている。しかし、予算や人的資本に限りがあるためになかなか取り組めないという自治体も多い。その場合は、国からのスタートアップ連携の支援を活用すると、選択肢の幅が広がるかもしれない。ここでは2つの制度を紹介する。
●デジタル田園都市国家構想交付金
この制度は地方都市のデジタル化を推進することを目的としており、スタートアップの技術やサービスを活用して地域のデジタル化を進めるための資金を支援してくれる。支援内容はいくつかのタイプに分かれているが、例えば「デジタル実装タイプ TYPE1」なら他地域の優良モデルを活用した実装の取り組み経費に対して補助金が出る。
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●ローカル10,000プロジェクト
このプロジェクトは地方創生を目的として、地方におけるスタートアップの初期費用を支援する。具体的には、自治体と地域金融機関が協調して、民間の事業者に対して初期投資費用を出資。費用の半額以上を金融機関が融資・出資し、残りは自治体による助成となる。そして、自治体の助成は原則国費・特別交付税の支援が受けられるため、実質の自治体負担は支援額の1/4(初期投資費用全額の1/8)となる。
スタートアップとの連携ではこれらの支援策をうまく活用しながら、自治体・企業・住民の三方にとってメリットのあるものにすることが大切だ。次項からは全国各地で行われているスタートアップ連携の事例を見ていこう。
Case1:STARTUP YAMANASHI(山梨県)
⼭梨県は、スタートアップの誘致や育成、創出に力を入れている自治体の1つだ。県内には、⽔素や燃料電池の新エネルギーセクター、医療機器、半導体・ロボット産業など、先端技術を持つ企業や研究機関が数多く集結している。県ではこれらの企業群への支援や企業同士のマッチングなどを行い、スタートアップにとって最適な環境を形成している。
スタートアップが集積している理由の1つは、その地理的特性にある。山梨県は本州の中央に位置し、中央⾃動⾞道や東富⼠五湖道路など交通インフラが充実している。さらに、リニア中央新幹線の整備も進行中で、国内外へのアクセスがさらに容易になる見込みだ。そのため、物流や生産拠点として注目が集まっているのだ。
また、スタートアップへのサポートが手厚いのも特筆すべき点だ。「⼭梨県ワンストップ窓口」を設置し、スタートアップが抱えるニーズや悩みに対応できる体制を整えている。アイデアの初期段階から製品やサービスの実証実験、量産製造に至るまで、県ではスタートアップの全てのフェーズでの挑戦を後押しし、新たな産業育成に力を入れている。
Case2:Innovation for New Normal from Shibuya(渋谷区)
渋谷区では令和2年に「Innovation for New Normal from Shibuya」をスタートさせ、様々な実証実験につながる取り組みをしている。このプロジェクトでは、テーマを絞らずに交通・福祉・環境など多様な分野の技術を広く募集している。実際に300社以上のスタートアップからの応募があり、実装段階に至っているケースも出てきている。また、新しい時代の変化や多様化するニーズに応えるため、「スタートアップモニター」という制度を設けているのも特徴である。新たなサービスやアイデアの試験・体験をしてくれる区民を募り、その実用性や効果をリアルタイムで検証できる仕組みを設けている。
Case3:さいたまSTEAMS TIME(さいたま市)
さいたま市は「学ぶなら さいたま市!」をスローガンに掲げ、日本一の教育都市を目指している。その一環として「さいたまSTEAMS TIME」という新しい授業時間を設け、STEAMS教育を強化。これはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとったもので、複合的な学びを通じて論理的思考力や問題解決力を育むことを目的としている。
さいたま市では、この取り組みの中でライフイズテック株式会社の「LIfe is Tech!Lesson」を導入した。すでに市内の全中学校で活用されており、テキストコーディング教材が豊富な点、教員や生徒へのサポートが充実している点などが、このプログラミング教材を導入した決め手になったそうだ。
今後は技術科の授業を他教科とも連携させ、発展的なSTEAMS教育を開発することを目指している。また、実際に教材を使ったアンケート調査を行い、効果的な教育方法を模索していく構えだ。
「デジタル田園都市国家構想交付金」などの活用で三方よしの成果が期待される
スタートアップは革新的な技術やサービスで市場を変革しており、自治体と連携した取り組みも進んでいる。スタートアップの柔軟性やスピード感は、地域活性化や行政サービスの向上の一因となり、協働することのメリットは大きいだろう。
政府としてもスタートアップの育成・成長に力を入れており、スタートアップ関連の支援策は数多く用意されている。スタートアップ連携を検討するのであれば、「デジタル田園都市国家構想交付金」や「ローカル10,000プロジェクト」などを活用しない手はない。うまく連携できれば、自治体・スタートアップ・住民、三方よしの取り組みができるはずだ。
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