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生活保護制度におけるケースワーカーの役割や重要性を解説!

日本において、生活保護制度は住民が安心して生活を送ることができる社会のセーフティーネットとなっている。しかし、その背後で日々努力を続けているケースワーカーについて深く知る人は少ないだろう。本記事では、ケースワーカーの重要性を理解し、その役割について深く理解するための情報を提供する。

 

【目次】
 • ケースワーカーとは?

 • ケースワーカーの主な業務
 • ケースワーカーとして働くメリット
 • ケースワーカーQ&A
 • 生活保護受給者がやってはいけないことは? 
 • ケースワーカーAさんの事例
 • ケースワーカーの適性があるのはこんな人

※掲載情報は公開日時点のものです。
※2025年2月27日に最新情報を反映しました(初回公開:2023年6月6日)

ケースワーカーとは?

ケースワーカーとは、何かしらの理由によって生活に困窮している人を支援する専門職である。

もともとアメリカで体系化された職業で、それが近代になり日本でも発展した。支援対象者は、高齢者や身体障害者、ひとり親家庭など様々。ここでは、生活保護受給者を支援するケースワーカーについて解説する。

ケースワーカーの役割と責任

生活保護受給者を主に支援するケースワーカーは、「福祉事務所」を勤務先としている。

福祉事務所は都道府県および市には設置が義務付けられている行政機関だ。つまり福祉事務所で働くケースワーカーは、地方公務員として働くこととなる。

ケースワーカーは支援を必要とする人の相談を受け、その人が抱える問題の把握、支援策の検討、援助計画の立案などを行い、支援対象者の自立を促す役割を担う。

具体的には、家庭訪問や面接を通じて世帯構成や収入、住宅などの具体的な生活状況を把握する。そして、生活保護や施設入所など具体的な支援の方針を立てる。支援が開始された後も、ケースワーカーは定期的に家庭訪問を行い、提供されている支援がうまく進行しているかを確認する。

ケースワーカー

なお、生活保護受給者とひと口にいっても、その理由や支援の内容は様々だ。そもそも生活保護制度は憲法が定める最低限の生活を保障する仕組みである。保護の種類は「生活扶助」や「住宅扶助」「教育扶助」など全部で8つに分かれており、日常生活から教育、医療、介護など幅広い。

そのため事例によって求められる支援や対応は異なる。近年では社会福祉のニーズが多様化する中で、関係する各種機関との連携が求められるようにもなっている。そのためケースワーカーには、幅広い分野にまたがるネットワークをうまくコーディネーターする役割も期待される。ときには医療関係者や児童相談所、精神保健福祉センターなどとも緊密に連携しながら、相談者の問題の解決に取り組むのだ。

ケースワーカーとして働くために必要なスキルと経験

ケースワーカーとして働くためには、大きく2つの要件が求められる。

ケースワーカーとして働くために必要なスキルと経験

地方公務員試験に合格する

まず1つ目が、地方公務員試験に合格すること。公務員試験に合格し、各自治体に入職後、福祉事務所に配属されればケースワーカーとして働くことができる。

「社会福祉主事」を取得

そして要件の2つ目が「社会福祉主事」の任用資格を取得すること。

社会福祉主事は福祉事務所で働くために必要な資格で、取得方法には2つの方法がある。

1.大学や専門学校などで、厚生労働大臣が指定する社会福祉についての科目を修めて卒業する

2.指定養成機関または講習会の課程を修了する

後者であれば、福祉事務所配属後に講習会に参加するなどして資格を取得可能だ。

ソーシャルワーカーとの違い

ケースワーカーと似た言葉に「ソーシャルワーカー」というものもある。ソーシャルワーカーは一般的に、社会福祉事業に携わる人の総称を意味する。

一方、ケースワーカーは前述の通り、社会福祉主事の資格を取得し、地方公務員として福祉事務所で相談援助業務をする職業を指す。つまり、ケースワーカーはソーシャルワーカーの一種ともいえる。

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【ソーシャルワーカーの一例】

ケースワーカーの主な業務

ケースワーカーの主な業務についても押さえておこう。

生活保護の申請対応 

ケースワーカーの重要な業務に「生活保護の申請対応」がある。福祉事務所の窓口で申請者の対応を行うというものだ。

具体的には、面談で申請者の現状確認と必要な調査を行い、申請を受け付けるという業務である。また、調査の結果、生活保護の条件を満たしていない場合は、利用できる社会福祉制度を提案する。

困っている人の話を聞き、利用できる援助を提案する必要があるため、社会福祉や各種制度についての幅広い知識が求められる仕事といえるだろう。

年に2~4回の家庭訪問

家庭訪問

厚生労働省により 「生活保護受給者への家庭訪問は少なくとも年2回以上行うこと」が義務付けられており、ケースワーカーがその業務にあたっている(※1)。訪問頻度は受給者により異なるが、年に2~4回程度が多いようだ。

※1出典:厚生労働省「『今後の福祉事務所における生活保護業務の業務負担軽減に関する調査研究』を踏まえた対応について」 

家庭訪問を行う意義は主に「受給者側から申し出のない問題が発生していないかを確認できる」「受給者が話しやすい環境で面接ができる」という2点である。これら以外にも、「生活環境の確認」「不正受給防止」という目的もある。
 

障害者・高齢者への介護指導

生活保護受給者の中に障害者、高齢者がいる場合、必要な介護サービスにつなげることもケースワーカーの仕事である。介護サービスを受ける際は「要介護認定」なども関連してくるため、自治体の介護認定調査員やケアマネージャーとの連携も重要になる。

なお、生活保護関連ではないが、医療機関に勤務し、患者から医療や介護に関する相談、退院後の生活の不安や医療関連費用についての悩みの相談を受けるケースワーカーも存在する。

希望者への就労支援

就労に関する問題がなく、働く意欲が高い生活保護受給者に対し、就労を阻害している要因を把握し、就労支援を行うという業務がある。さらに、福祉事務所の就労支援員やハローワークと連携して就労支援プログラムの策定を行い、就労希望者に方針の説明と同意の取り付けも行う。

また、福祉事務所に就労支援員がいない場合は、ケースワーカーが就労希望者のハローワーク同行や就労指導、支援状況の確認を行うこともある。

病院や施設との連携

病院や施設との連携

生活保護受給者は医療扶助が支給されるため、国民健康保険の支払いが免除となる。そして、保険適用範囲であれば、医療費の自己負担分の支払いもない。ただし、自己負担なく病院を受診するためには「医療券」を受け取ること、およびケースワーカーへの事前連絡が必要である。ケースワーカーには受給者からの連絡を受け、医療券が使える指定医療機関を伝えるという業務がある。

そして、ケースワーカーは医療機関と連携し、受給者が適切な医療サービスを受けているか、頻回受診や過剰投薬がないかをチェックする必要もある。
 

ケースワーカーとして働くメリット

コロナ禍もあいまって近年、生活保護利用者は増加傾向にある。ケースワーカーとして働くことは決してラクではないが、そのぶん社会的なニーズは大きく、専門職として果たす役割は小さくない。ここではケースワーカーとして働くことのメリットについて見ていく。

自己成長の機会

ケースワーカーとして働く最大のメリットの1つは、自身の成長の機会が豊富にあることである。広範囲な福祉サービスの知識を必要とし、多岐にわたる業務に取り組むため、知識と経験が日々深まる。また、問題解決のためのスキルも身につけられ、自身の成長を実感できる機会も多い。

社会貢献と達成感

ケースワーカーの仕事は、直接的に人々の生活を支援し、地域社会に貢献するものである。人々が自立し、よりよい生活を送ることができるよう支援することは、大きな達成感と貢献感を得られる。

人々との深い関わり

ケースワーカーとして働くと、利用者やその家族、地域の人々と深く関わる機会が多くなる。それらの人々との関係を築くことで、人々の生活に対する深い理解を得ることにつながり、それは自身の人間性を深める助けとなる。

多様な経験と知識

ケースワーカーとして働くと、多様な背景を持つ人々や、様々な社会問題に直面する。それらの経験は、広い視野を持ち多様性を理解する能力を育む。また、多岐にわたる知識が身に付くことで、社会福祉のプロとしての専門性を深めることにもつながる。

ケースワーカーQ&A

ケースワーカーという仕事についてよくある質問とその回答をまとめている。仕事をより深く理解するために確認しておこう。

ケースワーカーの仕事は忙しい?

社会福祉法では 、都市部において生活保護世帯80に対し、ケースワーカー1人の配置を標準と定めている(※2)。しかし、ケースワーカーが足りず、1人で100世帯ほどを担当する自治体も多い。人手が足りない場合、非常勤・嘱託職員を採用し対応するが、それでも忙しさは変わらない、というケースも多い。

※2出典:厚生労働省「支援を担う体制づくり及び人材育成等について」

また、コロナ禍以降、業績が回復していない業種・企業も多いことや、物価高騰の追い打ちもあって、失業者や生活困窮者が増加している。生活保護の申請件数も令和2年から4年連続で増加しており(※3)、ケースワーカーの仕事の忙しさは、しばらく変わらないと考えられる。

※3出典:厚生労働省「生活保護の被保護者調査(令和6年4月分概数)の結果を公表します」 

ずっと同じ人を担当する?

自治体にもよるが、ケースワーカーの担当は2年ほどで変更になることが多いそうだ。定期的に変更がある理由は、受給者とのなれ合いが生じる可能性があるからだ。親しい受給者とその他の受給者との対応に差が出る可能性や、不正な金銭等の授受を防止するためである。

なお「そりが合わない」「同性の人にしてほしい」など、生活保護受給者側の希望で担当者が変更になる制度は存在しない。

生活保護受給者がやってはいけないことは?

生活保護受給者がしてはならないことは以下の通りである。

生活保護受給者がやってはいけないことは?

・自動車やバイクの購入
・自動車やバイクの保有(一定の要件を満たせば保有が認められることもある)
・家の購入
・家の保有(一般的な居住用不動産であれば保有が認められることもある)
・時計、アクセサリーなど高価な装飾品の購入
・生活保護費での借金返済(住宅ローン返済も含む)
・生命保険への加入
・ケースワーカーに会わない、指導を無視する

ちなみに、借金がある場合でも生活保護を受けることができるが、借金の完済は難しいため、任意整理や自己破産をすすめるケースもある。

ケースワーカーAさんの事例

続いてケースワーカーAさんの事例を紹介しよう。
Aさんは現在、30代前半の地方公務員である。地方大学の文系学部を卒業後、地元の自治体に入職。最初は一般事務職として数年間勤務した後、ケースワーカーとして福祉事務所への配属が決まった。

ケースワーカーとしての経験と意識

ケースワーカーとしての日常業務は、生活保護の申請対応や家庭訪問、介護指導など、多岐にわたる。利用者の自宅を訪れて話を聞くことで、その人たちの生活状況を深く理解し、適切な支援を提供するための情報を収集するのだ。

そのほかにも、医療機関や福祉施設と連携して、利用者の必要とするサービスを確保するための仕事も欠かさない。仕事は決してラクなものではないが、Aさんは「支援を必要としている人々の役に立てることにやりがいを感じている」と話す。

ケースワーカーのやりがいと困難

Aさんにとって、ケースワーカーとして働くことの一番の喜びは、「人々が自立した瞬間を目の当たりにするとき」である。それは、生活保護の申請が通ったとき、適切な福祉サービスが受けられるようになったとき、就労が可能になったときなど、様々な形であらわれる。これらは全てが大きな喜びであり、ケースワーカーとしての職務を果たしている証しである。

しかしながら、業務はときに困難を伴うこともある。厳しい生活状況にある人々の支援には、深い知識と経験、そして思いやりが求められる。また、社会の様々な問題と直面することもあり、自分の力のなさを知らされることも少なくない。ただ、そんな中でも自身の知識や経験を最大限に活かし、同僚や上司、関係機関と協力して解決にあたる。

相手の話を聞きながら、必要な情報を適切に引き出すと同時に、相談者と適切な距離を保つことを意識しているという。さらに、相談者の問題が長期にわたって解決しない場合も、粘り強く対処するよう日々心がけているそうだ。そしてそれは、ケースワーカーとしての困難であると同時に、自身のスキルを高める機会でもあるとAさんは語る。

ケースワーカーの適性があるのはこんな人

福祉事務所のケースワーカーは、その地域のセーフティーネットを支える重要な仕事だ。社会参加に困難を抱える人へのサポートは、基本的人権の遵守に直結する。その意味では、ケースワーカーはその社会における最後の福祉を担い、全ての人の「生きる」をサポートする。

ただ、もちろんケースワーカーとしての職務は困難さも伴う。精神疾患を抱える人、体の一部が不自由な人、ギャンブルやお酒など依存症に悩む人、複雑なケースに対応しなければならないシーンも多い。適切な解決策を見つけ出すことは、時間とエネルギーを大いに必要とする。

そのためケースワーカーとして働くには、「困っている人を助けたい」という意志が欠かせない。相手の話を親身に聞ける、冷静な対応ができる、人の役に立ちたいという方はケースワーカーの適性があるといえるだろう。

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