「第26回防災まちづくり大賞」では消防庁長官賞を受賞するなど、防災教育の取り組みにおいて様々な受賞歴をもつ松山市。ポイントは“リーダーの育成”にあるという。担当者に話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.26(2023年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
産官学民が連携して推進する“全世代型防災教育”とは。
甚大な被害を受けた平成30年7月豪雨をきっかけに、“全世代型防災教育”に力を入れている同市。小・中学校から高校、大学、社会人まで、幅広く切れ目のない教育プログラムを実施しているという。
令和元年に、産官学民の関係者で構成される「松山市防災教育推進協議会」を発足。また、地域の防災を支えるリーダー人材を各世代や様々な職域で育成しようと、「松山防災リーダー育成センター」を設置し、活動を始めた。
実は同市では、平成7年から各地区に自主防災組織の結成を進めてきた経緯がある。当時、消防職員として防災部門に所属していた芝さんは、「阪神・淡路大震災の教訓は、自助・共助力の強化です。各地区の会議に参加したり、防災訓練の指導を行ったりと、地域と密接に関わりながら、地道に結成を進めてきました」と話す。
取り組みが拡大したきっかけとなったのは、公費による防災士の養成だという。「もともと災害が少ない地域のため、“自主防災といっても、何をすべきか分からない”という声もありました。そこで着目したのが、防災士の資格です」。
事業として適切に予算をかけて、取り組みを持続可能な形に。
防災士は、防災力向上に必要な知識や技能をもつ人材の育成を目的として、平成15年に開始された民間資格制度だ。「資格取得には複数講座の受講が必要で費用もかかるため、個人で取得するにはハードルが高いのです。そのため平成17年から、全国で初めて公費による資格取得の支援を始めました」。まずは自主防災組織の幹部に対して資格取得の機会提供や費用補助を行い、学校の教員などにも範囲を拡大していった。
平成26年からは愛媛大学の協力を得て、公開講座を開始。大学生や保育士、幼稚園教諭、防災協定を結んでいる企業や団体などにも資格取得を促した。現在同市には8,000人以上の防災士がおり、その数は全自治体でトップだという※1。
全世代型防災教育を支えるのは、こうして生まれた防災士たちだ。「大学生の資格取得者には、市のNPO団体である『防災リーダークラブ』に登録してもらう仕組みです。小・中学校の授業や、地域活動を担ってくれていますが、団体から交通費などを支給しています。ボランティアでも無理なく続けられる環境をつくったことで、毎年100人ほどの大学生が参加してくれています」。
大学生のほか、小学5年生~高校生の中から「ジュニア防災リーダー」、社会人からは「防災エデュケーター」として防災リーダーを育成。リーダーは市民全体への教育機会を支えるのみならず、地区防災計画の作成や訓練などにも関わっているという。
※1 令和5年4月時点
子どもから家族への声かけで、実際の避難行動につなげたい。
令和4年度からは、全ての市立中学校で「マイ・タイムライン※2」を作成する授業を開始。「平成30年7月豪雨では、避難率が非常に低かったのです。その後のアンケートで、避難行動につなげるには“家族からの声かけ”が重要だと分かりました。中学生が授業でつくったマイ・タイムラインを家族間で共有してもらうことで、風水害からの逃げ遅れをゼロにしたいと考えています」。
授業の最後には「命のはがきプロジェクト」も実施。子どもたちが授業で学んだ、自然災害から命を守ることの大切さについて、家族や友人にメッセージを送るもの。家庭や地域で、防災について考える機会をつくっている。「防災の根底には、人への思いやりや、人を助けたいという気持ちがあります。防災教育は、人材教育でもあるのです」。
こうした活動を続けるには、人とつながることが大切だと芝さんは語る。「行政だけでは、アイデアや実行力が限られますよね。地域や大学などに声をかけ、味方を増やすことで、次第に協力し合える関係になってきました。マイ・タイムラインの活用も、高校生からのアイデアなんですよ」。
例えば、命のはがきの寄贈や郵便局での掲示といった取り組みは、企業や団体など、地域の協力で成り立っているという。
「防災を軸にした活動は、地域に様々なプラスの効果をもたらします。世代を越えた交流が高齢化した地域を活性化させ、若者たちが地元への愛着を深めるきっかけにもなっています」。
※2 風水害からの避難に必要な知識を習得しながら、住民一人ひとりが避難行動を時系列的に整理し、あらかじめ決めておくもの
松山市
総合政策部 防災・危機管理課
市民防災担当課長
芝 大輔(しば だいすけ)さん
松山市 防災教育の歩みと今後の活動
自主防災組織の結成を開始
●平成17年~
公費負担の防災士養成を開始
●平成24年
自主防災組織結成率が100%に
●平成26年~
大学で防災士養成講座を開始
▶平成30年7月 豪雨災害
●令和元年
・全世代型防災教育を開始
・松山市防災教育推進協議会の発足と松山防災リーダー育成センターの設置
●令和4年~
全市立中学校の授業でマイ・タイムラインを作成
マイ・タイムラインを核にした松山逃げ遅れゼロプロジェクト
全ての市立中学校で家庭版マイ・タイムラインをつくったほか、学校や福祉施設では、各施設版を作成。講師の養成にも取り組む。また、WEB版とスマホアプリを開発し、令和5年度以降は授業でもWEB版で作成する予定だ。